曲パロのシリーズをまとめたやつ
原曲:バゥムクゥヘン・エンドロゥル
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目次
バゥムクゥヘン・エンドロゥル プロローグ
--- 「バームクーヘン・エンド」 ---
その言葉の響きを初めて耳にしたとき、私はどこか間の抜けた、甘くて優しい終わりを想像した。
お菓子が最後の一口で消えてしまうような、そんな他愛のない寂しさ。
けれど、それは残酷な現実を覆い隠すための、ひどく重い、歪んだベールだった。
バームクーヘンは、幾重にも層を重ねて作られる。時間をかけ、熱に晒され、一枚ずつ、一枚ずつ。まるで、誰かと共に過ごした記憶の積み重ねのように。
しかし、その中心にはぽっかりと、何も存在しない虚無の空洞がある。
どれだけ層を重ねても、その穴が埋まることは決してない。
これから語るのは、終わりの味を知りながら、今日も新しい層を塗り重ねていく私たちの物語。
すべてが灰色に染まる、その前の記録。
(プロローグ・終)
いえええええい!
誰もリクエストくれんから、好きな曲で作ってみた!次は一話投稿するつもり!
ちょっとこっちの都合で、サーバー重くなるから、一話一話分けて書くことにした!みんな読んでくれると嬉しい‼
このお話がいいと感じたら、コメントよろ!
by Alba
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第一話
登場人物紹介
闇宮 光(やみみや ひかる)/ 主人公
学年:高校2年生
外見:地味でさえない外見。黒髪ショートで目つきが悪い。目の下には色濃いクマがある。
特徴:頭に「ハサミ型のリボン」をつけている。
性格:やさぐれている。クラスには馴染めておらず、孤独を抱えている。
光野 羽香(こうの うか)/ 副主人公
学年:高校2年生
外見:ツインテール。ゴムに「羽の髪飾り」がくっついている。
特徴:いつも「上の空」なため、地面から5ミリ浮いているヤベーやつ。
性格:明るく笑顔で、みんなの人気者。相手に怒ることはあっても、誰かを睨んだことは一度もない。
動機:クラスに馴染めず、自分にまったく寄り付かない光のことがなぜか気になっている。
柊 蛇惡(ひいらぎ だお)/ 副副主人公
学年:高校2年生
外見:サイドポニーテール。頭にゴムの代わりに「蛇がとぐろを巻く髪飾り」をつけている。
特徴:どこを見るたびに「睨んでいる」と勘違いされる目つきの悪さ。IT機器を操作する天才(ハッキングも可能)。
性格:優しいふりをして実はクズ。化けの皮をかぶっており、人の不幸が大好きで、「人の不幸は蜜の味」と言ってるヤベーやつ。教室の隅でいつも人間観察している。キラキラネームの自分の名前を気に入っている。
「はぁ……」
私、闇宮光は、机に突っ伏したまま重い溜息を吐き出した。
高校二年生の教室。昼休みの喧騒は、光にとってただの不快な雑音でしかない。
黒髪ショートの隙間から覗く目つきは今日も最悪で、寝不足のせいで目の下のクマはさらに色濃くなっている。頭につけたハサミ型のリボンが、まるで周囲を拒絶するように小さく揺れた。
やさぐれた心を抱え、誰とも交わろうとしない光は、この教室で完全に「孤独」だった。
だが、そんな光の領域に、当然のように踏み込んでくる存在が一人だけいる。
「ひーかるちゃんっ! お昼一緒に食べよ?」
頭の羽の髪飾りをパタパタと揺らしながら、光野羽香が満面の笑顔でやってきた。ツインテールをなびかせる彼女は、クラスの誰もが認める人気者だ。
そして羽香は――その言葉通り、文字通りいつも「上の空」だった。彼女のローファーの底は、地面からぴったり五ミリメートル、常に浮いている。
「……あっち行けよ。浮遊霊」
「ひどいなぁ、ちゃんと生きてるよ? はい、これバームクーヘン! 光ちゃん好きでしょ?」
羽香は気にすることなく、光の机にそっとお菓子を置いた。
自分に全く寄り付かない光のことが、羽香はどうしても気になって仕方がないらしい。どれだけ冷たくされても、羽香が光を睨み返すことなんて一度もなかった。
光はフイッと窓の外を向く。
そんな二人の様子を、教室の斜め後ろ、一番隅の席からじっと見つめている視線があった。
(……へえ。今日も仲良しだねぇ、二人とも)
柊蛇惡は、サイドポニーテールに絡みつく蛇の髪飾りを指先で弄びながら、冷たい笑みを浮かべていた。
目つきが悪く、いつも誰かを睨んでいると勘違いされる蛇惡だが、今は「優しいクラスメイト」の化けの皮を被っている。卓上のノートPCの画面には、教室のWi-Fiから吸い上げた、生徒たちの他愛のないチャットログが流れていた。
蛇惡にとって、目の前の光景は最高の「観察対象」だ。
光の孤独も、羽香の無垢な優しさも、すべてはこれから始まる歪んだ劇のプロローグに過ぎない。
「人の不幸は蜜の味、ってね……だおちゃんは楽しみにしてるよ」
小さく呟いた蛇惡の声は、賑やかな教室の音に消えていった。
まだ誰も知らない。重ねられていくお菓子の層のように、三人の関係が少しずつ、破滅へと向かって狂い始めていることを。
(第1話・終)
久しぶりに書いたからか、ちょっとお話がおかしいかもだけれど、許してね!
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第二話
「光ちゃん、本当にバームクーヘン食べないの? 美味しいのに」
光野羽香は、相変わらず地面から五ミリメートル浮いたまま、光の机の横で小首を傾げていた。ツインテールにくっついた羽の髪飾りが、彼女の「上の空」な雰囲気を強調するようにふわふわと揺れている。
「……いらないって言ってるだろ。しつこい」
闇宮光は、目の下のクマを指先でこすりながら、露骨に嫌そうな顔で顔を背けた。頭のハサミ型のリボンがピクリと跳ねる。やさぐれた態度の光だが、胸の奥では少しだけ動揺していた。自分のような陰気で目つきの悪い人間に、なぜ羽香のようなクラスの人気者が毎日構ってくるのか、理解が追いつかないのだ。
「そっかぁ。じゃあ、私が二つとも食べちゃお」
羽香は怒ることもなく、いつもの眩しい笑顔を浮かべた。彼女は光を一度も睨んだことがない。その無条件の優しさが、光にとっては酷く眩しく、同時にどこか怖かった。
二人のやり取りを、教室の特等席――一番後ろの隅から、じっと見つめている目がもう一つ。
(あはっ、今日もやってる。光ちゃん、あんなに冷たくされてるのに羽香ちゃんに付きまとわれて、本当は嬉しそうな顔しちゃってさぁ)
柊蛇惡は、サイドポニーテールの根元でとぐろを巻く蛇の髪飾りをトントンと叩きながら、机の下でスマートフォンを操作していた。
画面には、羽香が普段SNSで友人たちと交わしている、華やかで中身のないチャットのログが映し出されている。天才的なITスキルを持つ蛇惡にとって、他人の秘密をハッキングして覗き見ることなど、朝飯前だった。
蛇惡は教室の隅で、いつも人間観察をしている。目つきが悪くて「いつも睨んでいる」と勘違いされる彼女だが、ひとたび誰かと目が合えば、瞬時に「おとなしくて優しい女の子」の化けの皮を被る。
(羽香ちゃんって本当にいい子。眩しくて、無垢で、上の空で……だからこそ、引きずり落とした時の顔が最高に傑作になりそう)
蛇惡の唇が、歪んだ形に釣り上がる。人の不幸は蜜の味。これほど甘いお菓子は他にない。
放課後、蛇惡は光が一人で下校するのを見計らい、わざとらしく小走りで彼女の後を追った。
「あの……闇宮さんっ、ちょっといいかな?」
声をかけられ、光は|怪訝《けげん》そうに振り返る。黒髪ショートの隙間から、警戒心の強い視線が蛇惡を刺した。
「……何。柊さん、だっけ」
「うん、覚えてくれてて嬉しいな! あのね、いつも光野さんとお話ししてるでしょ? 私、光野さんのことで、ちょっと闇宮さんに相談したいことがあって……」
蛇惡は困ったように眉を下げ、いかにも「友達を心配する優しい少女」の表情を作った。
光のやさぐれた心の隙間に、蛇惡の鋭い蛇の牙が、静かに、そして深く突き立てられようとしていた。
(第二話・終)
第二話行きました―――!第三話は明日かな。んじゃねー。
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第三話
「光野さんってね……実は、闇宮さんのこと『哀れな子』って言ってたんだよ」
夕暮れ時の通学路。柊蛇惡は、いかにも胸を痛めているといった様子で、偽りのため息を吐き出した。サイドポニーテールの蛇の髪飾りが、夕日に照らされて妖しく光る。
「……は?」
闇宮光は、足を止めて蛇惡を睨みつけた。黒髪ショートの隙間から覗く目は、驚きと怒りで激しく揺れている。頭のハサミ型のリボンが、まるで威嚇するように鋭く尖った。
「嘘……だろ。あいつが、そんなこと」
「嘘なんかじゃないよ。ほら、これを見て?」
蛇惡はスマートフォンを光の目の前に差し出した。画面に表示されているのは、羽香が他のクラスメイトと交わしているSNSのチャットログ――蛇惡がハッキングで盗み出し、さらに都合よく偽造した「偽の会話」だ。
そこには、『光ちゃんっていつも一人でかわいそうだから、私が構ってあげてるんだよね』という、羽香の冷酷な言葉が並んでいた。
「光野さん、みんなの前では優しくて『上の空』なフリをしてるけど、本当は他人を下に見て安心したいだけなんだよ。私は、闇宮さんが利用されてるのが耐えられなくて……」
蛇惡は俯き、おとなしくて優しいクラスメイトの化けの皮を完璧に被り直した。その口元が、光から見えない角度で、歪んだ喜びに吊り上がっていることなど知る由もない。
人の不幸は蜜の味。光の表情が絶望に染まっていくのを見るだけで、蛇惡の胸はゾクゾクするような快感で満たされていた。
「あいつ……っ!」
光は拳を強く握りしめた。
元々やさぐれていた光の心に、蛇惡の毒が深く、確実に侵食していく。誰にも心を開かなかった自分が、唯一、羽香の向けてくる眩しい笑顔にだけは救われかけていたのだ。それがすべて「哀れみ」だったと知り、光の心は完全に崩壊した。
翌日の昼休み。
教室の空気は、いつもと完全に違っていた。
「ひーかるちゃん! 今日もバームクーヘン持って――」
地面から五ミリメートル浮きながら、いつものようにツインテールを揺らしてやってきた光野羽香。だが、その言葉は最後まで続かなかった。
「……二度と、私に近づくな。偽善者が」
光は立ち上がり、今までで一番冷酷な、獣のような目で羽香を睨みつけた。
いつも光にどれだけ冷たくされても笑顔を崩さず、一度も睨み返したことのなかった羽香が、その時初めて、顔から完全に表情を消した。
(第三話・終)
いぇぇぇい!第三話まで行ったでーーー!
続きの四話、お楽しみにぃぃぃ‼
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第四話
「……光ちゃん、どうしちゃったの?」
表情を失った光野羽香の声は、いつもより低く、教室の雑音に沈むほど静かだった。
地面から五ミリメートル浮いたままの身体が、かすかに小刻みに震えている。ツインテールの羽の髪飾りも、元気を失ったように力なく垂れ下がっていた。
「白々しいんだよ。お前のその『上の空』な態度も、全部他人をバカにするための演技だったんだろ」
光は、机を強く叩いて立ち上がった。黒髪ショートの隙間から覗く目は、激しい憎悪に染まっている。頭のハサミ型のリボンが、今にも羽香を切り裂きそうなほど鋭く逆立っていた。
「私はお前の暇つぶしの道具じゃない。哀れみの視線なら、他所でやれ!」
光は羽香が差し出していたバームクーヘンを乱暴に払いのけた。コロン、と乾いた音を立てて床に転がるお菓子。
いつもならどれだけ冷たくされても笑顔を崩さなかった羽香だが、この時ばかりは違った。彼女は床に落ちたバームクーヘンをじっと見つめた後、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、光を睨み返すのとは違う、底の知れない深い闇が宿っていた。
「……そっか。光ちゃんは、私のこと、そういう風に見てたんだね」
羽香はそれだけ言うと、ふっと身を|翻《ひるがえ》し、教室から出て行ってしまった。その足元は、いつも通りぴったり五ミリメートル、地面から浮いたままだった。
その様子を、教室の一番後ろの隅から眺めていた柊蛇惡は、耐えきれないといった様子で肩を震わせていた。
(あははっ! 最高、最高の出来栄えだよぉ! 光ちゃんのあの絶望した顔、羽香ちゃんのあの凍りついた顔……!)
サイドポニーテールの蛇の髪飾りを愛おしそうに撫でながら、蛇惡はスマートフォンに保存された「偽造チャットログ」を眺める。自分のハッキング技術一つで、誰かの完璧な日常がこうも簡単に壊れていく。
目つきが悪くていつも誰かを睨んでいると誤解される蛇惡だが、今この瞬間、彼女の顔に浮かんでいるのは、間違いなく純粋な「悪意」の笑顔だった。
(人の不幸は蜜の味……あーあ、早く次の|層《レイヤー》を重ねたいな。次はどうやって、あの浮遊霊ちゃんを追い詰めようかな?)
やさぐれた心の隙間に毒を流し込まれた光。
無条件の優しさを拒絶され、何かが壊れてしまった羽香。
そして、その破滅を特等席から楽しむ蛇惡。
重なり合うお菓子の層のように、三人の関係はもう二度と、元の形には戻れないところまで狂い始めていた。
(第四話・終)
四話まで来た…。
見てくれてる人ありがとう…。
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第五話
あの決定的な決裂から、数日が経った。
光は、完全に心を閉ざしていた。黒髪ショートの隙間から覗く目はかつてないほどやさぐれ、目の下のクマはさらに黒ずんでいる。頭のハサミ型のリボンも、重く垂れ下がったままだ。
羽香が来なくなった机の横は、ぽっかりと穴が空いたように寂しい。だが、光はその寂しさを「憎しみ」という偽りの感情で塗りつぶそうとしていた。
(……これでいいんだ。最初から私は一人だった。あいつの偽物の優しさに、騙されかけてただけだ)
一方、クラスの人気者だった羽香の様子も、明らかに異様だった。
いつも通りツインテールを揺らし、地面から五ミリメートル浮いたままクラスメイトと談笑している。しかし、その笑顔はどこかプラスチックのように無機質で、完全に「上の空」だった。
羽香はあれ以来、一度も光の方を見ようとしない。まるで、そこに光という人間が最初から存在していないかのように。
二人の決定的なディスコミュニケーションを、教室の一番後ろの隅から、柊蛇惡はうっとりと眺めていた。
(あはは、いいよいいよぉ。光ちゃんは孤独の殻に閉じこもって、羽香ちゃんは心を無くした操り人形みたい。私の作ったシナリオ、完璧すぎじゃない?)
サイドポニーテールの蛇の髪飾りを指先で愛おしそうに弾きながら、蛇惡は卓上のノートPCを高速でタイピングしていた。
人の不幸は蜜の味。だが、蛇惡の乾いた欲望は、この程度ではもう満たされなくなっていた。もっと壊したい。もっと深く、この甘い破滅の層を重ねていきたい。
(ねえ、光ちゃん。まだ足りないでしょ? もっとあの子を憎みたいよねぇ……?)
放課後。蛇惡は再び、一人で帰ろうとする光の前に音もなく現れた。
「闇宮さん……あのね、またちょっと、言いにくいことなんだけど……」
蛇惡は「優しいクラスメイト」の化けの皮を被り、悲しそうに眉をひそめてスマートフォンを差し出した。
そこには、羽香が別の友人宛てに『光ちゃん、最近ストーカーみたいで本当に気味が悪いんだよね。早く転校してくれないかな』と送信している「偽造された」画面が映し出されていた。
「光野さん、裏では他の子たちに闇宮さんの悪口を言いふらして、クラスから孤立させようとしてるみたいで……」
「……っ、あいつ……!!」
光の口から、獣のような、あるいは錆びたハサミが軋むような悲鳴が漏れた。
裏切られた怒りと、大切なものを完全に失った絶望。蛇惡の流し込んだ猛毒が、光の精神を粉々に噛み砕いていく。
その様子を至近距離で見つめる蛇惡の瞳の奥で、邪悪な蛇が、獲物を仕留めた歓喜に狂ったようにとぐろを巻いていた。
(第五話 END)
いえぃ。五話突入ぅ。見っててくれると嬉しぃ。
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第六話
「……光野、羽香……っ!」
翌日の朝。闇宮光は、登校するなり一直線に光野羽香の席へと向かった。
黒髪ショートの隙間から覗く目は血走り、目の下のクマはかつてないほど色濃い。頭のハサミ型のリボンは、まるで今すぐ眼前の敵を切り刻まんとするかのように、凶悪な角度で逆立っていた。
やさぐれた心の限界を超え、絶望と憎悪に支配された光の手には、1本の小さなハサミが握りしめられていた。
「もう我慢できない……お前が裏で私のことをどう言いふらそうが勝手だけど、これ以上、私の心を弄ぶな!」
激昂する光の怒鳴り声に、早朝の教室が静まり返る。
だが、机の前に立つ羽香は、相変わらず地面から五ミリメートル浮いたまま、感情の消えた瞳で光を見つめ返すだけだった。ツインテールの羽の髪飾りも、ピクリとも動かない。
「……光ちゃん。私はただ、あなたと友達になりたかっただけだよ」
羽香の声には、怒りも悲しみもなかった。ただただ、どこまでも「上の空」で、空虚だった。
一度も光を睨んだことのなかった彼女が、今は何も映さないガラス玉のような目で、まっすぐに光を見つめている。そのディスコミュニケーションそのものが、光の心をさらに狂わせた。
「嘘をつくな!!」
光がハサミを突き出した、その瞬間。
「キャッ!? やめて、闇宮さん……!」
鋭い悲鳴と共に、二人の間に割って入った影があった。
柊蛇惡だ。彼女はサイドポニーテールの蛇の髪飾りを激しく揺らしながら、いかにも「クラスメイトの刃傷沙汰を止めに入った勇敢な少女」の顔をして、光の腕を掴み損ねたフリをした。
プッ、と小さな音がして、蛇惡の白い頬に一筋の赤い線が走る。
「あっ……」
光が息を呑む。ハサミの先が、蛇惡の顔をかすめていた。
目つきが悪くていつも誰かを睨んでいると誤解される蛇惡が、今は怯えた瞳で涙を浮かべている。
「う、嘘……柊さん、ごめん、私……」
「ひどいよ、闇宮さん……私はただ、二人に仲良くしてほしくて、相談に乗っていただけなのに……っ」
蛇惡は顔を覆って泣き崩れた。
だが、その手の隙間から覗く口元は、誰も見ていない床に向かって、狂おしいほどの歓喜で歪んでいた。
人の不幸は蜜の味。
自分の仕掛けた完璧な|嘘《レイヤー》の上で、光が勝手に踊り、羽香が壊れ、そして今、自分が「完全な被害者」として舞台の真ん中に立った。これ以上ない、極上の破滅の劇だ。
「……最低」
背後から、氷のように冷たい羽香の声が響いた。
地面から五ミリメートル浮いたまま、羽香は初めて、軽蔑に満ちた目で光をまっすぐに睨みつけた。
第六話 END
見てね。見てくれたら泣き叫んで発狂する(しません)。
六話来た…!
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第七話
「私が……最低……?」
羽香の冷徹な一言が、光の頭の中で爆音となって響いた。
蛇惡の頬から流れる赤い血と、クラスメイトたちの怯え、軽蔑、拒絶の視線が光を取り囲む。
「違う……違う! 私は、私は誰も傷つけるつもりなんて……!」
言い訳をしようとした光の視線が、床に伏せて泣いている蛇惡の顔に向いた。その瞬間、光は見てしまった。蛇惡が髪の隙間から、にやりと、見たこともない邪悪な笑みを浮かべて自分を見下しているのを。
(|嵌《は》められた――ッ!!)
すべてを理解した瞬間、光の中で何かが完全に弾けた。
絶望は一瞬で純粋な「殺意」へと裏返る。
「柊……お前がああああああ!!」
光は絶望の叫びをあげながら、手に持ったハサミを再び振り上げた。今度は脅しではない。狂気に染まった目で、本気で蛇惡の胸元へと突き出す。
「ひっ……!?」
その瞬間、蛇惡の顔から余裕の笑みが消え失せた。
計算ずくだったはずの舞台の上で、光が自分の想像を遥かに超える「本物の怪物」に変貌したのだ。初めて感じる本物の死の恐怖に、蛇惡は蛇の髪飾りをガタガタと震わせ、声を失って這いつくばった。
ハサミの刃が蛇惡の喉元に迫る――。
--- 「――そこまでにしなよ、闇宮さん」 ---
ドス、と鈍い音が響いた。
いつの間にか二人の間に割り込んでいた羽香が、光の手首を容赦なく掴んで止めていた。地面から五ミリメートル浮いたままの羽香の身体は、微動だにしない。
「……離せ、光野! そいつが、そいつが全部仕組んだんだ!!」
「もう見苦しい言い訳はやめて。……柊さんも、もう演技はやめたら?」
「え……?」
羽香の冷え切った言葉に、光だけでなく、床で震えていた蛇惡も凍りついた。
羽香は完全に感情の消えたガラス玉の瞳で、見下ろすように蛇惡を睨みつけていた。
「柊さん。あなたが裏で私と光ちゃんにどんな嘘を吹き込んでいたか、あなたのその醜い顔を見て、今やっと全部繋がったよ」
ツインテールの羽の髪飾りが、禍々しい黒色に変色していく。
心を失い、ただ「上の空」だったはずの羽香が、二人の歪んだ悪意を目の当たりにしたことで、冷徹な復讐者として覚醒しようとしていた。
第七話 END
第七話…。来ちゃったよ…。さあ、上の空だった羽香ちゃんは、この後どうなるのか⁉
自作にご期待くださぁい‼
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第八話
床に倒れたままの柊蛇惡は、引きつった笑みを浮かべて誤魔化そうとした。
しかし、光の手首を掴んだままの光野羽香は、眉ひとつ動かさない。
「白々しいよ、柊さん。光ちゃんが持っていたハサミの角度、あなたの手の動き……あなたがわざと自分を傷つけて、光ちゃんを『犯人』に仕立て上げたのは明白だよ」
羽香の言葉は、恐ろしいほど冷静で、|理路整然《りろせいぜん》としていた。
地面から五ミリメートル浮いた彼女の周囲だけ、空気が凍りついたかのように冷たい。ツインテールの羽の髪飾りは、完全に漆黒に染まりきっていた。
「な、何言ってるのよ! 私の顔を見てよ、血が出てるのよ!?」
「`静かにして`」
羽香の一喝に、蛇惡は息を呑んだ。
いつも「上の空」で何を考えているか分からなかったはずの羽香から放たれる、圧倒的な威圧感。それは、蛇惡が今まで玩具にしてきた「人間の感情」とは一線を画す、絶対的な拒絶だった。
「……光野、お前……」
手首を掴まれたままの光が、呆然と羽香を見つめる。
羽香は光の手からハサミを静かに抜き取ると、それを床にパサリと落とした。
「光ちゃん、あなたは騙されていたんだよ。この人が裏で、私たちが憎み合うように仕向けていた。……だけど」
羽香は光の目をまっすぐに見つめた。そこには、かつての温かい「友達」の羽香はもういない。
「……ハサミを人に向けるなんて、やっぱり光ちゃんも壊れちゃったんだね。悲しいな」
「あ……」
救われたと思った瞬間、光の心は再び突き落とされる。
羽香は蛇惡の罪を暴いたが、それは光を許したわけではなかった。
完全に心を閉ざし、冷徹な「裁判官」となった羽香は、哀れみの目で二人を見下ろしている。
「……もう、誰も信じられない」
光は羽香の手を振り払い、教室のベランダへと走り出した。
第八話 END
八話来たよ~。見っててくれるとうれちーなー。
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第九話
「光ちゃん、ダメ……!」
教室のベランダへと走り出した光の背中を、羽香が追いかける。
地面から五ミリメートル浮いたまま、まるで滑るように移動する羽香の姿は、すでに人間離れしていた。
「来ないで!!」
光はベランダのフェンスに手をかけ、一気に乗り越えた。
強い風が光の髪を激しくなびかせる。一歩後ろに下がれば、そこは数階下の硬いアスファルトだった。
「光野も、柊も、クラスの奴らも……みんな大嫌いだ!! 誰も私を信じない、誰も私を見てくれない! だったら、もう全部終わりにしてやる!!」
光の瞳は完全にハイライトを失い、どす黒い絶望だけが渦巻いている。
その時、教室内から這い出してきた蛇惡が、フェンスの陰から声をあげた。
「ひ、光……! やめなさいよ! あなたがそこで死んだら、私が本当に悪者に……!」
「黙れ、柊!!」
光の絶叫に、蛇惡はビクリと身体をこわばらせた。蛇惡の頭の蛇の髪飾りは、恐怖のあまり完全に萎びれ、元気を失っている。自分が撒いた悪意の種が、取り返しのつかない大惨事を引き起こそうとしている事実に、蛇惡は初めて本当の「後悔」と「恐怖」に震えていた。
「……光ちゃん、戻ってきて」
羽香が静かに手を伸ばす。漆黒に染まった羽の髪飾りが、禍々しく、だけどどこか美しく輝いていた。
「あなたが死ぬ必要なんてない。悪いのは全部、そこの柊さんでしょう? 私はもう、正しいことしか信じない。だから……戻ってきて、一緒に柊さんに罰を与えよう?」
羽香の言葉は優しかったが、その声には一切の体温が通っていなかった。正気を失った光、恐怖に怯える蛇惡、そして冷徹な怪物と化した羽香。
「……あはは、アハハハハハ!」
光は狂ったように笑い声をあげた。
「遅いんだよ、羽香……。もう、何もかも……」
光の身体が、ふわりと後ろに傾いた。
第九話 END
これ、ハッピーエンドにしたかったなぁ。九話、読んでくれてありがとう。
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 最終話
「……遅いんだよ、羽香……。もう、何もかも……」
光は歪んだ笑みを浮かべたまま、完全に後ろへと体重をかけた。重力に引かれ、光の身体がふわりとベランダの向こう側、何もない虚空へと投げ出される。
「光ちゃん――ッ!!」
羽香の漆黒の羽飾りが、弾け飛ぶように鋭く逆立った。地面から五ミリメートル浮く彼女の能力が、限界を超えて爆発する。フェンスを飛び越え、凄まじい速度で落下していく光の後を追った。
空中で、羽香の手が光の手首を捉える――はずだった。
しかし、光の瞳に宿る「完全な拒絶」の光を見た瞬間、羽香の指先がわずかに震えた。ほんの数ミリメートル。届かなかった。
ドサッ、と下から鈍い、嫌な音が響いた。
「あ……あぁ……」
フェンスから身を乗り出してそれを見ていた蛇惡は、喉の奥から奇妙な悲鳴をあげた。
校庭のコンクリートの上、ピクリとも動かない光の姿。そして、それを見下ろすように空中に取り残された羽香。羽香は、落下する光を救えなかった。
その事実が、彼女の覚醒した冷徹な心を一瞬で粉々に打ち砕いた。
「私が……光ちゃんを、殺した……?」
羽香のツインテールの羽飾りから、完全に色が消え、不気味な「死の白」へと変色していく。
彼女の身体を宙に留めていた浮遊の力が、ぷつりと切れた。
羽香は光を救うためではなく、ただ光のいる場所へ行くように、真っ逆さまに落ちていった。二つの動かない身体が、冷たい校庭に並ぶ。
「いやあああああああああああ!!」
ベランダに取り残された蛇惡は、頭を抱えて絶叫した。彼女の頭の蛇の髪飾りは、持ち主の精神崩壊に連動するように、ドロドロとした黒い液体となって溶け落ちていく。
自分が仕掛けた小さな悪意。二人の関係を少しだけ壊して、玩具にするはずだったゲーム。
それが、二人を完全に殺し、自分の未来をも永遠に奪い去った。
「私が殺した、私が、私が、私がぁ!!」
集まってきたクラスメイトたちの悲鳴と騒ぎの中で、蛇惡はただ狂ったように笑い、自分の顔をむしりながら泣き叫び続けた。
彼女の心は、二度と戻らない闇の奥へと墜ちていった。誰も救われず、誰も許されず、3人の世界は最悪の形で幕を閉じた。
バゥムクゥヘン・エンドロゥル バットエンド
ハッピ-ENDも作りたいな…
バゥムクゥヘン・エンドロゥル 最終話 2
「――光ちゃん!!」
光の身体が宙に浮いた瞬間、羽香の漆黒の羽飾りが激しく脈打った。
浮遊能力の限界を超え、羽香は弾かれたようにフェンスを飛び越える。重力を無視した速度で手を伸ばし、落下していく光の細い手首を、間一髪で掴み取った。
「……っ、離して……羽香……!」
「離さない。絶対に離さないから……!」
宙吊りになった光を見下ろす羽香の顔に、ようやく「焦り」という人間らしい感情が戻っていた。
しかし、二人の体重を支えるフェンスが、ギギギ、と鈍い悲鳴をあげる。
「おい、あんたたち……!」
フェンスの隙間から恐る恐る顔を出したのは、蛇惡だった。彼女の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。自分が仕掛けたゲームが、本当に二人の命を奪おうとしている。
その圧倒的な現実の前に、蛇惡のプライドは完全に粉砕されていた。
「死ぬな……死ぬんじゃないわよ! 私が悪かったわよ! 全部私が嘘をついたの! だから……だから落ちないでよおぉ!落ちちゃったら、今度こそ私が、悪者になっちゃうわよぉ!」
蛇惡はなりふり構わずフェンスにしがみつき、羽香の服を、そして光の手を必死に引っ張り上げた。
蛇の髪飾りはすでに恐怖で消え去り、そこにあるのは、ただの泣きじゃくる少女の姿だった。
「……あはは、バカみたい」
二人に引っ張り上げられ、ベランダの床に転がり込んだ光は、天井を見上げて力なく笑った。クラスメイトたちが集まってくる騒がしい音の中で、3人はただ床に座り込んでいた。
光の瞳からは狂気が抜け、ただ深い疲労感だけが残っている。
蛇惡は声をあげて泣き続けており、もう誰も彼女を恐れる者はいなかった。そして羽香の髪飾りは、漆黒から、元の濁った灰色へと戻っていた。
「……私たちは、もう元には戻れないね」
羽香がぽつりと呟いた。暴かれた嘘、向けられたハサミ、そして飛び降り。
刻まれた傷跡はあまりにも深く、かつての歪んだ「3人だけの世界」は完全に崩壊した。
だけど、光はそっと自分の手首を見た。羽香が赤くなるほど強く掴んでくれた痕。そして、蛇惡の涙で濡れた袖口。
「……うん。でも、これで良かったのかもね」
光は小さく微笑んだ。壊れてしまったけれど、すべてを吐き出した彼女たちの空は、どこまでも白く、どこまでも冷たく広がっていた。
バゥムクゥヘン・エンドロゥル ハッピーエンド?
ハッピーエンド、作ってみちゃあ!
見っててねぇ‼