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バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第九話
「光ちゃん、ダメ……!」
教室のベランダへと走り出した光の背中を、羽香が追いかける。
地面から五ミリメートル浮いたまま、まるで滑るように移動する羽香の姿は、すでに人間離れしていた。
「来ないで!!」
光はベランダのフェンスに手をかけ、一気に乗り越えた。
強い風が光の髪を激しくなびかせる。一歩後ろに下がれば、そこは数階下の硬いアスファルトだった。
「光野も、柊も、クラスの奴らも……みんな大嫌いだ!! 誰も私を信じない、誰も私を見てくれない! だったら、もう全部終わりにしてやる!!」
光の瞳は完全にハイライトを失い、どす黒い絶望だけが渦巻いている。
その時、教室内から這い出してきた蛇惡が、フェンスの陰から声をあげた。
「ひ、光……! やめなさいよ! あなたがそこで死んだら、私が本当に悪者に……!」
「黙れ、柊!!」
光の絶叫に、蛇惡はビクリと身体をこわばらせた。蛇惡の頭の蛇の髪飾りは、恐怖のあまり完全に萎びれ、元気を失っている。自分が撒いた悪意の種が、取り返しのつかない大惨事を引き起こそうとしている事実に、蛇惡は初めて本当の「後悔」と「恐怖」に震えていた。
「……光ちゃん、戻ってきて」
羽香が静かに手を伸ばす。漆黒に染まった羽の髪飾りが、禍々しく、だけどどこか美しく輝いていた。
「あなたが死ぬ必要なんてない。悪いのは全部、そこの柊さんでしょう? 私はもう、正しいことしか信じない。だから……戻ってきて、一緒に柊さんに罰を与えよう?」
羽香の言葉は優しかったが、その声には一切の体温が通っていなかった。正気を失った光、恐怖に怯える蛇惡、そして冷徹な怪物と化した羽香。
「……あはは、アハハハハハ!」
光は狂ったように笑い声をあげた。
「遅いんだよ、羽香……。もう、何もかも……」
光の身体が、ふわりと後ろに傾いた。
第九話 END
これ、ハッピーエンドにしたかったなぁ。九話、読んでくれてありがとう。