編集者:月
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目次
ソレイユ!①6年生は不安でいっぱい
新学期の体育館は、おそろしく賑やかだった。だけど、新クラスの座席表が張り出された大きな模造紙の前にいる私は、まるでそこだけ時間が止まったように動けなくなっていた。「6年1組……」自分の名前を見つけた瞬間、冷たい塊が胃の奥にすとんと落ちたような感覚がする。いつも一緒にいた5年生のときの仲良しグループ――私を入れて7人の大好きなみんなのうち、なんと4人も別のクラスに離れてしまったのだ。不安で押しつぶされそうになりながら、同じ1組のメンバーを探す。(あ、サキちゃんと……心珀ちゃんだ)その2人の名前を見つけたとき、私はホッと胸をなでおろした。7人のうち、1組になれたのは私たち3人だけだった。サキちゃんは私と同じで、目立つのが苦手なおとなしいタイプ。いつも「次も一緒に行こうね」って声をかけ合える安心な友達だけど、お互いに「似た者同士」として、ちょっとだけ意識し合っている「友達のライバル」でもある。サキちゃんが頑張っていると、私も頑張ろうって思える大切な存在だ。そしてもう一人の心珀ちゃんは、私たち2人よりは少し明るくて、人懐っこい笑顔が可愛い女の子。おとなしい私とサキちゃんの間に入って、いつも場をパッと明るくしてくれる、グループのムードメーカーだった。周りを見渡すと、1組のメンバーは学年でもおとなしい子が多めで、全体的にどんよりとした静けさが漂っている。「奈美ちゃん、サキちゃん! やっぱり同じクラスだったね!」不意に後ろから、弾むような声がした。振り返ると、心珀ちゃんがポニーテールを揺らしながら、嬉しそうに駆け寄ってくるところだった。そのすぐ後ろには、いつものはにかんだ笑顔のサキちゃんもいる。「うん! 3人一緒になれて本当に良かった。6年生も、ずっと一緒に行こうね」私がそう言うと、サキちゃんも「うん、よろしくね」と嬉しそうに頷いた。サキちゃんの瞳の奥には、私と同じように「今年もよろしく、負けないよ」という静かな光が少しだけ見えた気がした。仲良しのみんなと離れちゃったのは寂しいし、静かなクラスで不安もあるけれど、この2人がいればきっと大丈夫。窓の外から差し込む春の太陽が、私たちの新しいスタートを温かく照らしていた。
ソレイユ!②担任は…
ガラガラッ、と教室の前のドアが勢いよく開いた。静まり返っていた教室に、一歩、力強い足音が踏み込んでくる。教壇に立ったその人を見た瞬間、クラスのあちこちから「あ……!」と小さく息をのむ音が聞こえた。「みんな、おはよう! 6年1組の担任になった、高橋です! 1年間よろしくな!」トレードマークの爽やかな笑顔で、ホワイトボードに大きく自分の名前を書いたのは高橋先生だった。高橋先生はこの学校で一番人気の先生だ。体育祭の応援団長をやったり、いつも生徒と同じ目線で全力で遊んでくれたりする、とにかくパワフルで熱血な先生。(まさか、高橋先生が私たちの担任になるなんて……!)私は驚きと、それ以上の緊張で心臓がバクバクと音を立て始めた。高橋先生が人気の先生なのは知っている。でも、おとなしくて意見を言うのが苦手な私にとって、あの太陽みたいな圧倒的なパワーは、正直ちょっと眩しすぎるのだ。「よし! せっかくの最高学年だ。このクラスを学校で一番元気で、一番楽しいクラスにしたい! ……んだけど、なんかみんな、ちょっと静かだな?」先生がいたずらっぽく笑いながら、教室全体をぐるりと見渡す。その視線が私の方に向いた気がして、私は思わず目を伏せてしまった。チラッと横を見ると、サキちゃんも少し緊張した顔で背筋をピンと伸ばしている。サキちゃんも高橋先生の勢いに圧倒されているみたいだ。逆に、心珀ちゃんは「わあ、高橋先生だ!」と目を輝かせて、少し嬉しそうにしている。「おとなしいなら、これからいくらでもパワーを注入してやるから安心しろよ! じゃあさっそく、最初のドキドキイベント、席替えをやるぞー!」先生の豪快な声が教室中に響き渡る。一番人気の先生が来た安心感と、「このパワフルさについていけるかな……」という大きな不安。私の胸の中のドキドキは、さらに大きくなっていった。
ソレイユ!③席替えはまさかの班!
「席替えの方法だけどな、今までの真っすぐ並ぶ席はナシだ! これからは4人ずつの『班』の形で毎日を過ごしてもらう!」先生の言葉に、教室のあちこちから「ええっ!?」と驚く声が上がった。今まで、席といえば黒板に向かって真っすぐ並ぶのが当たり前だった。なのに、初日からいきなり班の形にするなんて、さすがパワフルな高橋先生のやり方だ。「じゃあ、このクジを引いた順番に席を決めていくぞー!」先生が持っている箱の前に、みんなが並び始める。私は祈るような気持ちでクジを引き、そこに書かれた番号の席へと移動した。机を4つ合わせて作られた、小さな四角い島。自分の席に座って周りを見渡した瞬間、私は頭が真っ白になった。(嘘……誰もいない……)同じ班の他の3人は、みんな前のクラスが別だった、あんまり話したことがない人ばかり。慌てて教室内を探すと、サキちゃんも心珀ちゃんも、それぞれ全然違う場所の班に座っていた。仲良しの3人が、見事に全員バラバラの班になってしまったのだ。チラッとサキちゃんの方を見ると、サキちゃんも不安そうにこっちを見ていた。でも、すぐに自分の班の人たちに向き直って、少し緊張した顔でペコリとお辞儀をしている。おとなしいサキちゃんが、新しい班でさっそく馴染もうと頑張っているのが分かった。(サキちゃん、もう頑張ってる……。私も、ちゃんとしなきゃ)友達としての静かなライバル心が、不安な胸の奥で小さくチクリと疼く。だけど、私の班のメンバーはみんな静かに下を向いたままで、誰も喋ろうとしない。「よし、班になれたな! じゃあ最初のミッションだ。その4人で協力して、今日の給食の準備をしてもらうからな!」高橋先生の楽しそうな声が追い打ちをかける。居心地のいい真っ直ぐな席はもうない。大好きな友達も近くにいない。シーンと静まり返った4人班の真ん中で、私はただ、激しくなる心臓の音を聞いていた。
ソレイユ!④私だけ…
次の時間は、算数の授業だった。「よし、このプリントの解答を、班のみんなでもくもくと解いてみろ!」高橋先生に言われて、私たちは一斉に鉛筆を動かし始めた。教室には、カリカリという鉛筆の音だけが響いている。すごく、静かだ。すると突然、高橋先生が「ストーーップ!」と大きな声を上げた。手には、いつの間にか自分のスマートフォンを持っている。「今から、さっき俺が撮ったみんなの様子を大型モニターに映す。これを見て、今の自分たちをどう思うか教えてくれ」画面に映し出されたのは、シーンと静まり返って、ひたすら下を向いてプリントを解いている私たちの姿だった。「うわ、なんか暗い……」「みんな姿勢が悪いかも」クラスのあちこちから、そんな声が上がる。高橋先生は腕を組んで、真剣な顔でみんなを見つめた。「姿勢もそうだけど、一番の問題はそこじゃない。おまえらはせっかく『班』になっているのに、誰一人として協力していない! 分からないところを教え合ったり、答え合わせをしたり、もっと喋って協力しろ!」先生の熱い言葉に、クラスの空気がガラリと変わった。「じゃあ、ここ答え何になった?」「あ、私は3番になったよ!」他の班は、少しずつ声を掛け合って協力し始め、教室が一気に賑やかになっていく。だけど……私の班は違った。私の班には、クラスを引っ張ってくれるような元気な人が一人もいない。みんなおとなしい子ばかり。「……」「……」誰か喋って、と心の中で祈るけれど、誰も口を開かない。気まずい沈黙が、私たちの班だけを包み込んでいく。そこへ、高橋先生がドスドスと足音を立てて近づいてきた。「おいおい、1班! 周りを見てみろ。おまえらの班だけ、さっきの動画と何も変わってないぞ。もっと自分から声を出していかないと、6年生のスタートから置いていかれちゃうぞ?」先生の軽いお説教のような言葉が、胸にぐさりと突き刺さる。悪いことをしたわけじゃないのに、恥ずかしさと情けなさで、顔がカッと熱くなった。(どうしよう……何か喋らなきゃ……。でも、なんて言えばいいの?)チラッと横の列を見ると、サキちゃんの班は、サキちゃんが一生懸命にプリントを指差して周りと喋ろうとしていた。心珀ちゃんの班にいたっては、すでに楽しそうに笑い声が上がっている。2人はもう、一歩を踏み出している。なのに、私は。頭の中が真っ白になって、心臓が壊れそうなほどバクバクと暴れだす。高橋先生のパワフルなエネルギーと、置いていかれる焦りの中で、私は完全にどうしていいか分からなくなってしまっていた。