編集者:電代工房
毒舌な側近と弱い魔王が勇者相手に色々頑張ったりするお話です
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目次
魔王と側近①
ガラガラという音がどんどん今いる部屋に近づいてきている。
普段、普通の魔物は魔王の部屋に近づかないはずなのだが、何かあったのだろうか。
「魔王様!魔王様!魔王様!」
扉が開いて入ってきたのがスケルトンで安心したのもつかの間、
「報告します!魔族三人衆の一人、ウォーターメロンが殺されました!」
「何だと!そんな...」
ウォーターメロンは、魔族三人衆の中でも最弱だが、まさか殺されてしまうほどとは...
「ウォーターメロンは、三傑の中でも一番気が利くやつでしたね。」
隣に立っていた執事が言ってくる。
アイツはいつも定例会議で会議室の予約をしてくれるし、仕出し弁当も注文してくれる、いなくなると魔王城の回りがとたんに悪くなるほど良いやつだった。思わず思っていたことが口から漏れる。
「くそっ!もうアイツが...」
予想では、勇者たちの実力では王都から一番近いウォーターメロンのダンジョンにつくまで最低でも3ヶ月はかかると思っていたのに。
「でもアイツウザかったから良いじゃないですか。」
側近がさっきの発言と顔色を変えずにそう言う。側近がこういう顔で喋るときはだいたい本心から言っている。こんなに言われてしまっては天国のウォーターメロンが可愛そうだ。
「そんなこと言っちゃだめでしょ!」
この側近は出会った時からこんな毒舌だったな。初対面の人をおじさん呼ばわりした時よりかはマシになったから良いのか?
さっき叱られたことなんか忘れたように自分の髪をいじりながら側近が口を開く。
「このまま勇者放置してたらあの雑草も死にますよ。」
なぜ側近は草属性の魔物のことを一貫して雑草と呼ぶのか。ダークエルフも名前は草っぽくないのに。
死んでしまったウォーターメロンを罵倒するのはまだいいが、生きているダークエルフを罵倒するのはどうかと思い、せめて少しは正そうと側近に言った。
「雑草じゃなくてダークエルフね。」
昔から側近は優秀だが、こういう風に口が悪いところがあって困る。前に偉い人をハゲと呼んだときは肝が冷えた。側近は髪をいじるのを止め、壁に貼ってある世界地図を一瞥してから提案をした。
「そろそろ勇者と戦っても良い頃なんじゃないですか?」
側近は簡単に言うが、我にとっては大仕事だ。
それに、話が通じるし、魔物と同じ程度の知能を持っているからなるべく戦いたくはない。それをなるべくオブラートに包んで側近に伝えた。
「勇者とはいえ人間だし殺すのはちょっと罪悪感が...」
勇者に対する対抗策などを会議しているときは、自分が生きているだけで凶暴な魔物が発生するとはいえ、そこまで敵対しなくても良いんじゃないかという考えがいつもよぎってしまう。
少し眉をひそめて側近が話し始める。
「人間に良いやつなんかいませんよ。」
「それに、魔王様結構弱いから今のうちじゃないと勇者潰せませんよ。」
弱いってそのまま言うのはやめてほしい。従者より弱いだけでエリアボスよりかは強いのだが。しぶしぶ我は答える。
「う〜んじゃあ........倒すしかないのか....」
けれどもし平和的に解決できるならそれで良いんじゃないかと思う。
側近は何か呪文を口走り始めた。呪文が止まると従者はこちらを振り向いて、さも当然のような口調で言った。
「じゃあ飛ばしますね。」
「え?いやちょっとまっ───」
側近は即断即決だが、さすがにこれは早い。と考える間もなく視界が白く染まった。
宙に浮いていた足が地面についた感覚がしたので、従者に何か文句を言おうと思ったが、そんなこと言っている暇はないようだ。眼の前に剣を構えた勇者がいる。我に気づいた途端、勇者は凄まじい剣幕で睨みつけてきた。
「なんのようだ!魔王!まだ俺達が弱いうちにこの聖剣を奪いに来たのか!?」
こっちは勝手に飛ばされた被害者なのに、なぜ我が加害者扱いされているんだ。
とりあえずこの誤解を解かなければ、この場で即座に戦うことになってしまう。それは避けたい。
「いやちが「そうです。早いうちにあんたらコバエを潰しにきました。」
我が否定しようと話し始めた瞬間に従者に被せられてしまった。
我が喋る前に我が思っていることと違うことを言うのはやめてくれ。
「そうくるなら我々も全力で迎え撃つのみだ!」
大きい声で勇者は言い放った。勇者はもう剣を構えている。
従者が被せたせいでなんて勘違いをされてしまったんだ。
「違うって!なんで勝手に言っちゃうの!」
我は勇者たちにバレないようにティーカップを持ったまま小声で従者に耳打ちする。
魔物生史上でこんなに冷や汗がでるのは初めてだ。
「勝負だ!魔王!」
勇者は今にも飛びかかってきそうな位置にいる。
あいてはもうやる気だから、帰りたい。
「今からでも帰らない?」
もう一度従者に耳打ちする。
正直我は今すぐ帰って対策を講じたい。
しかし、その思いとは裏腹に従者は言い放った。
「さっさと構えないと死にますよ。あ、そのカップ邪魔なので預かりますね。」
従者がカップを我の手から奪い去ったのと同時に、勇者の光り輝く剣が振り上げられる。
「ヤダー!!!!!!」
戦闘は一方的なもの...とはいかず、一進一退の攻防だった。
勇者が前で攻撃を避け、切り裂き、
僧侶が従者の魔法にバリアを張る。
魔法使いが勇者が隙を作ったところに魔法を打ち込む。
まだレベルが50にも到達していないのに、完璧なコンビネーションだ。
その完璧なコンビネーションに、我々は押されつつあった。
「くそっ、ちょこまかと...」
さっきまで余裕ぶっていた従者の声にも余裕がなくなってくる。
だが、我はもうかなり疲れてるのに、よく動いている側近の方が疲れていなさそうだ。
従者は敵から離れると、転送呪文を唱えた。
「一時撤退です!魔王様!先にこのポータルをくぐってください!」
従者が大声を張り上げた。
従者は昔から魔法が得意だったが、その魔法の使い道が逃亡用とはなんというか虚しさを感じる。
「わかった!側近も必ず戻ってくるんだぞ!」
我はこういう時に従者が先に入れと言っても入らないので、我が入った後に必ず入るように言っている。
「わかりました!」
魔王と側近②
こういう時はいつも自分がもっと強ければみんなに苦労させないで済むのにとか色々考えてしまう。頑張って毎日走り込みなどの練習をしているが、未だに従者よりも弱い。
悔しがっている我を見て、従者がポツリと言葉をこぼした。
「全快しても勇者には魔王様だけじゃ勝てませんよ。」
ストレートに言われて少し凹む。けれど、だけってどういうことだ?もしかして奥の手とかがあるのだろうか?
「そんなぁ!.......ん?だけってどういう...」
「あ、紅茶ができましたよ。どうぞ。」
従者は聞きたいことがあると紅茶とかで誤魔化されてしまうが、聞き直す勇気もないので紅茶をすすることしかできない。
「ああ...うん.....」
こうやって香り高い紅茶を飲んでいると、紅茶と比べて勇気もない自分が惨めに思えてきてしまう。
それでも、誤魔化したりできるということは、拾ってきたあの頃よりかは元気になったと思う。
あの日は、一夜で地面が雪で覆われた日だった。
教育係からの説教や分厚い戦略の教科書が嫌になって、身一つで赤とんぼ色の空の下の城下町へ逃げていった。
雪で体が冷えてきて、どこかの店で休憩しようと思っても、お金を持ってこなかったし、我の顔は城下町の魔物たちは知っているからどこにも行けなくて、
とにかく人気がない、雪のしのげる場所を探して橋の下にたどり着いた。
その橋の中は外の光が入らなくて、真っ暗だったから教育係から隠れるにはぴったりだと思った。
だから橋の下にしばらく座っていたら、暗闇の中で向こう岸にもう一人座っているのが見えた。
「だれ?」
「子供。」
「名前は?」
「ない。」
「よし、じゃあ君側近ね。」
「なんでだ?」
「上に立つものには優秀な右腕が必要なんだよ。」
「ふーん。」
「嫌いな食べ物何?」
「にんじん」
「なんで?おいしいじゃん」
「なんか甘くするのまずい...」
「甘いのなんてご馳走じゃんか!」
「君は何が嫌い?」
「魚」
「なんのやつが嫌い?刺し身?煮物?」
「生のやつを食べたら腹壊した。」
そんな話をしばらくしていると、橋の下は真っ暗で気づかなかったが、橋の外もすっかり暗くなってしまっていた。
その黒色の中で、いくつか白い魔石で照らされている所があった。
「魔王様ー!魔王様ー!どこへ参られたのですかー!?」
暗闇から白い光が反射した角の方から声が聞こえる。おそらく教育係たちだろう。
「魔王が脱走なんて前代未聞の騒ぎだな。」
少年の全く笑わなかった口角が、少しだけ上がった気がした。
自分がその逃げた魔王だなんて口が裂けても言えない。
「あっ!いたぞ!魔王様だ!」
運悪く照らされた光が角に反射してバレてしまったのか、すごい勢いで魔石の光がこちらへ近づいてくる。
「は?」
暗闇で見えないが、向こう岸から凄まじく鋭い視線が飛んできている。つらい。
「チッ」
確実に舌打ちされた。厄介事に巻き込まれたとか考えてそうで怖い。
「このゲートをくぐったら逃げられるんじゃないですか?」
「ありがとう!」
「よし!行くよ!」
「え?あなただけじゃあないんですか?」
「ここにはもうすぐ教育係とか来るから、逃げないと面倒なことになるよ?」
「いや、私は別に...」
「あ!もうすぐそこまで来てる!」
「クソが...」
あのゲートをくぐった先は魔王城だったし、二人ですごく逃げ回る羽目になった。けど、二人というかほぼ我を従者が担いで逃げ回っていた。
その後、捕まった我は魔王城から許可なく脱走したことと、今の従者となる羊角の子供を連れて帰ってきたことから父上からこっぴどく叱られたな...
あのときは従者が殺されてしまわないかとかをずっと考えていてさらに父上に怒られたっけ。
しかし、従者が一級冒険者並みの魔力をもっていたから、今でも殺されたり追い返されたりせずに魔王城に務められている。もしかしたら我が土下座して交渉したりしたのはいらない心配だったのかもしれない。
「魔王様、何を考えているんですか?」
「なくしたスリッパなら、壁掛け時計の裏で今朝見つかりましたよ。どうやったらあんな器用な無くし方ができるんですか」
側近が洗い物をしながら我に話しかける。
我のなくしたスリッパ、そこにあったんだ...
「いや、昔のことを考えていて...」
魔王と側近③
「パイヤがついにやられてしまったか....」
そうこぼした我に従者も話し始める。
「あいつは三傑で1番マシなやつでしたね。あんな王都から遠くて、勇者がたどり着きにくい場所いるのも、他の部下たちの希望ですし。」
パイヤは1番人望があって、我が言っても重い腰を上げないトロルもあいつが言えばすぐにやり始めた。だから、何か命令を下したければいつもパイヤを通していた。
「あいつにはいつも世話になっていた....あいつがいたからこそ、頼りない私が魔王を継いでも反乱が起きなかったんだ。」
そう言うと、従者が少し不満げな顔で話し始めた。
「でも私のほうが魔王様の世話してますよ。朝起こしたりゴミ捨てしたり夕飯作ったりたたみ忘れた服畳んだり.....」
確かに生活面では世話を焼かれているが、そういう話ではない。
「生活面の話じゃなくってね。」
話していると、突然従者が何か思い出した顔をした。
「ところで、パイヤのいる場所ってかなりここから近くなかったですか?」
すっかり忘れていた。勇者が三人衆を倒すたび、どんどん魔王城へ近づいてきているのだ。
魔王城の窓から、遠くにうっすらと勇者の物だと思われる松明の光が見える。
「たしかに。どうしよう、そろそろ勇者来るよね....」
そんな我の不安そうな顔を見て、側近は持っていた箒を壁に立てかけた。
「魔王様も手負いだし、隠れ家に一旦身を潜めたらどうですか?」
従者が提案してきたが、使う気がしない。
大昔に父上から譲り受けた隠れ家があるけれど、あれはもう何もなくなってしまったときにだけ使いなさいときつく言い聞かされている。我は優秀な右腕もいるし、まだ、すべて失ったわけではない。それに、
「我々が逃げたらこの魔王城のモンスターたちが殺されてしまうんじゃないか?」
魔王城で働いているモンスターたちはそこそこ高レベルだが、エリアボス以外はほとんど戦闘経験がない。きっと勇者が来れば蹂躙されてしまうだろう。
「しかし、そのまま魔王様が死んでしまっては本末転倒では?」
逃げることを渋っている我に従者がそう告げる。
たしかに事実だが、そんなにバッサリと言ってしまって良いのだろうか?
まあ、我より従者のほうが強いし、我が死んでも魔王の座を継いでくれるだろうから、
いざというときは従者が逃げて我が魔王城で魔物たちが逃げる時間を稼いだほうが良いだろう。
「きっと大丈夫だよ。君ならどこでもうまくやっていけるだろう? 」
「だから、もしもの時に君は、どこか遠くへ逃げていいんだよ。」
「そうですか.........」
なぜか従者は目線を下にむけて複雑な表情をしている。
魔王と側近④
あれから30分後、勢いよく魔王の部屋の扉が開かれた。
私は玉座から立ち上がり、
「よくきたな勇者よ!」
と、勇気を振り絞って魔王らしいセリフを言っておいた。
正直言って帰りたい。
「魔王!ここでこの戦いに終止符を打つ!」
勇者は魔王の前で今までにないほど光り輝いている聖剣を構えて決意を固めている。
「床を汚すと掃除が大変なので、できれば一撃で死んでくれると助かります。」
従者は魔法を構えた。
最初は明らかに側近のおかげで我々が優勢だったが、だんだん勇者たちの猛攻に押され、
我々がかなりの劣勢になってしまった。
「勇者様、剣筋が乱れていますよ。昨夜は夜更かしでもされましたか?」
さっきまで勇者を煽っていた側近が、無言になるほど追い詰められている。
それに、我を守るために防御魔法をどんどん使うから、ガンガン魔力が減っていく。
目の前で、我のために攻撃を食らって弱っていく従者。 私がもっと強ければ。私が「逃げろ」と言った時に、彼が頷けるような魔王であれば。いや、いっそのこと、あの日に我が魔王城から出なければよかったのかもしれない。
このままでは、我も側近も倒されてしまう。
「魔王様!ポータルを作りました!逃げてください!」
勇者と戦い続けて、きれいにアイロンがけされたシャツまで赤色に染まってしまった側近が、
まるで最後の力を振り絞ったようなかすれた声を上げた。
「しかし、今の魔力では一人しか逃げることが.....」
「あなただけでも逃げてください!」
側近が、顔から血を垂らしながら我の方を向いた。
きっと、側近にとっては我が逃げたほうが良いのだろう。
「側近!君が先に逃げろ!」
側近がこの命令を聞かないとわかっていても、せめてもの可能性にすがりたかった。
「余裕があったら私も逃げます!だからまずはあなたが逃げてください!」
やはり聞いてくれなかった。一回拒否したら、側近は永遠にその命令を聞かない。
「..わかった!だが、君も絶対に逃げるんだ!いいな!」
「魔王は優秀な部下がついてこそだからな!」
余裕があったら逃げると言っていたが、見ている限り余裕なんて無さそうだ。
側近は、我を逃がすために、我に初めて嘘をついたのだ。
それでも、側近には絶対に逃げて、生き残ってほしい。
「わかってますよ!」
そう聞いた瞬間、我の視界は白色に染まった。
側近の作ったポータルをくぐったのは良いが、一体どこに飛ばされたんだ?
側近のことだから安全な場所だと思うが、魔力が少ない状態で転送魔術を使ったからランダムな場所に転送されたとかではないと願いたい。
もしランダムな場所だったら、側近との合流が難しくなる。
とりあえず、魔王城の近くで側近が逃げてくるのを待とう。
きっと側近なら勇者を倒せなくとも、逃げることはギリギリ可能なはずだ。
そうして重い腰を上げた時に、遠くに黒いなにかが見えた。
「ん?」
どんどん近くに来るので、目を凝らして見てみると、村の方向から農具を持った人間が近づいてきている。
ぼーっと見ている間に、我は人間に囲まれてしまった。
「あの.....なぜクワを持って囲んでくるんです?」
無害なことを伝えれば見逃してくれるだろうか。
「我はただ迷子になった一般魔物で決して敵では.....」
側近が言っていた言葉が、呪いのように脳裏をよぎる。
──「人間に良いやつなんかいませんよ。」
そう考えている間に、我の頭には鈍く光るクワが振り下ろされていた。