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魔王と側近④
電代工房
あれから30分後、勢いよく魔王の部屋の扉が開かれた。
私は玉座から立ち上がり、
「よくきたな勇者よ!」
と、勇気を振り絞って魔王らしいセリフを言っておいた。
正直言って帰りたい。
「魔王!ここでこの戦いに終止符を打つ!」
勇者は魔王の前で今までにないほど光り輝いている聖剣を構えて決意を固めている。
「床を汚すと掃除が大変なので、できれば一撃で死んでくれると助かります。」
従者は魔法を構えた。
最初は明らかに側近のおかげで我々が優勢だったが、だんだん勇者たちの猛攻に押され、
我々がかなりの劣勢になってしまった。
「勇者様、剣筋が乱れていますよ。昨夜は夜更かしでもされましたか?」
さっきまで勇者を煽っていた側近が、無言になるほど追い詰められている。
それに、我を守るために防御魔法をどんどん使うから、ガンガン魔力が減っていく。
目の前で、我のために攻撃を食らって弱っていく従者。 私がもっと強ければ。私が「逃げろ」と言った時に、彼が頷けるような魔王であれば。いや、いっそのこと、あの日に我が魔王城から出なければよかったのかもしれない。
このままでは、我も側近も倒されてしまう。
「魔王様!ポータルを作りました!逃げてください!」
勇者と戦い続けて、きれいにアイロンがけされたシャツまで赤色に染まってしまった側近が、
まるで最後の力を振り絞ったようなかすれた声を上げた。
「しかし、今の魔力では一人しか逃げることが.....」
「あなただけでも逃げてください!」
側近が、顔から血を垂らしながら我の方を向いた。
きっと、側近にとっては我が逃げたほうが良いのだろう。
「側近!君が先に逃げろ!」
側近がこの命令を聞かないとわかっていても、せめてもの可能性にすがりたかった。
「余裕があったら私も逃げます!だからまずはあなたが逃げてください!」
やはり聞いてくれなかった。一回拒否したら、側近は永遠にその命令を聞かない。
「..わかった!だが、君も絶対に逃げるんだ!いいな!」
「魔王は優秀な部下がついてこそだからな!」
余裕があったら逃げると言っていたが、見ている限り余裕なんて無さそうだ。
側近は、我を逃がすために、我に初めて嘘をついたのだ。
それでも、側近には絶対に逃げて、生き残ってほしい。
「わかってますよ!」
そう聞いた瞬間、我の視界は白色に染まった。
側近の作ったポータルをくぐったのは良いが、一体どこに飛ばされたんだ?
側近のことだから安全な場所だと思うが、魔力が少ない状態で転送魔術を使ったからランダムな場所に転送されたとかではないと願いたい。
もしランダムな場所だったら、側近との合流が難しくなる。
とりあえず、魔王城の近くで側近が逃げてくるのを待とう。
きっと側近なら勇者を倒せなくとも、逃げることはギリギリ可能なはずだ。
そうして重い腰を上げた時に、遠くに黒いなにかが見えた。
「ん?」
どんどん近くに来るので、目を凝らして見てみると、村の方向から農具を持った人間が近づいてきている。
ぼーっと見ている間に、我は人間に囲まれてしまった。
「あの.....なぜクワを持って囲んでくるんです?」
無害なことを伝えれば見逃してくれるだろうか。
「我はただ迷子になった一般魔物で決して敵では.....」
側近が言っていた言葉が、呪いのように脳裏をよぎる。
──「人間に良いやつなんかいませんよ。」
そう考えている間に、我の頭には鈍く光るクワが振り下ろされていた。