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魔王と側近②
電代工房
こういう時はいつも自分がもっと強ければみんなに苦労させないで済むのにとか色々考えてしまう。頑張って毎日走り込みなどの練習をしているが、未だに従者よりも弱い。
悔しがっている我を見て、従者がポツリと言葉をこぼした。
「全快しても勇者には魔王様だけじゃ勝てませんよ。」
ストレートに言われて少し凹む。けれど、だけってどういうことだ?もしかして奥の手とかがあるのだろうか?
「そんなぁ!.......ん?だけってどういう...」
「あ、紅茶ができましたよ。どうぞ。」
従者は聞きたいことがあると紅茶とかで誤魔化されてしまうが、聞き直す勇気もないので紅茶をすすることしかできない。
「ああ...うん.....」
こうやって香り高い紅茶を飲んでいると、紅茶と比べて勇気もない自分が惨めに思えてきてしまう。
それでも、誤魔化したりできるということは、拾ってきたあの頃よりかは元気になったと思う。
あの日は、一夜で地面が雪で覆われた日だった。
教育係からの説教や分厚い戦略の教科書が嫌になって、身一つで赤とんぼ色の空の下の城下町へ逃げていった。
雪で体が冷えてきて、どこかの店で休憩しようと思っても、お金を持ってこなかったし、我の顔は城下町の魔物たちは知っているからどこにも行けなくて、
とにかく人気がない、雪のしのげる場所を探して橋の下にたどり着いた。
その橋の中は外の光が入らなくて、真っ暗だったから教育係から隠れるにはぴったりだと思った。
だから橋の下にしばらく座っていたら、暗闇の中で向こう岸にもう一人座っているのが見えた。
「だれ?」
「子供。」
「名前は?」
「ない。」
「よし、じゃあ君側近ね。」
「なんでだ?」
「上に立つものには優秀な右腕が必要なんだよ。」
「ふーん。」
「嫌いな食べ物何?」
「にんじん」
「なんで?おいしいじゃん」
「なんか甘くするのまずい...」
「甘いのなんてご馳走じゃんか!」
「君は何が嫌い?」
「魚」
「なんのやつが嫌い?刺し身?煮物?」
「生のやつを食べたら腹壊した。」
そんな話をしばらくしていると、橋の下は真っ暗で気づかなかったが、橋の外もすっかり暗くなってしまっていた。
その黒色の中で、いくつか白い魔石で照らされている所があった。
「魔王様ー!魔王様ー!どこへ参られたのですかー!?」
暗闇から白い光が反射した角の方から声が聞こえる。おそらく教育係たちだろう。
「魔王が脱走なんて前代未聞の騒ぎだな。」
少年の全く笑わなかった口角が、少しだけ上がった気がした。
自分がその逃げた魔王だなんて口が裂けても言えない。
「あっ!いたぞ!魔王様だ!」
運悪く照らされた光が角に反射してバレてしまったのか、すごい勢いで魔石の光がこちらへ近づいてくる。
「は?」
暗闇で見えないが、向こう岸から凄まじく鋭い視線が飛んできている。つらい。
「チッ」
確実に舌打ちされた。厄介事に巻き込まれたとか考えてそうで怖い。
「このゲートをくぐったら逃げられるんじゃないですか?」
「ありがとう!」
「よし!行くよ!」
「え?あなただけじゃあないんですか?」
「ここにはもうすぐ教育係とか来るから、逃げないと面倒なことになるよ?」
「いや、私は別に...」
「あ!もうすぐそこまで来てる!」
「クソが...」
あのゲートをくぐった先は魔王城だったし、二人ですごく逃げ回る羽目になった。けど、二人というかほぼ我を従者が担いで逃げ回っていた。
その後、捕まった我は魔王城から許可なく脱走したことと、今の従者となる羊角の子供を連れて帰ってきたことから父上からこっぴどく叱られたな...
あのときは従者が殺されてしまわないかとかをずっと考えていてさらに父上に怒られたっけ。
しかし、従者が一級冒険者並みの魔力をもっていたから、今でも殺されたり追い返されたりせずに魔王城に務められている。もしかしたら我が土下座して交渉したりしたのはいらない心配だったのかもしれない。
「魔王様、何を考えているんですか?」
「なくしたスリッパなら、壁掛け時計の裏で今朝見つかりましたよ。どうやったらあんな器用な無くし方ができるんですか」
側近が洗い物をしながら我に話しかける。
我のなくしたスリッパ、そこにあったんだ...
「いや、昔のことを考えていて...」