これは、彼女が抱える「氷」の裏に秘められた真実と、胸に宿した温かな「残り火」を辿る物語。
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目次
すべてのはじまり
「えっと、今日は…、俺らが巡回だってさ。空寂の回廊付近。」
「え〜?またか?俺いきたくねーよ…」
「仕方ないです。ナドクライを守るのが私たちの仕事なんだからやるしかないでしょう?」
「「……」」
---
「…なにもありませんね。」
「ここの付近にはフリンズさんも住んでるし、任せればいいのにな。」
「あの人はダメだろ!集団行動しようとしないし、神出鬼没だからいつ巡回してるか分からないじゃないか!」
「確かに。報告書書かないですもんねあの人。」
「あぁ、だからこの前イルーガ分隊長が『フリンズさんが報告書書いてくれない』ってプリプリしてたんだな。」
「ははっ、それ私も見たかったです!」
---
「ん…?なんだか妙だな…」
「え?なんだ?オバケか?」
「ちょ、ちょっと!脅かさないでくださいよ!」
「いや、なんだか寒いと思って…。ここの付近がこんなに寒いなんてこと今まであったか?」
「確かにそうですね…、あれ?これは…」
「……氷?」
「スネージナヤにはこんな感じの真氷があるって聞いたことあるが…、なんでここに?」
「あっちに続いてるぞ!…行ってみるか?」
「あぁ…」
---
「…かいるかー!」
…あれ?
「いたら…ろ!」
………人の声がする…?
「あ、あれは…!?」
「氷の中に…人が…!?」
…わたしのこと……?
「ど、どうする」
「とりあえず氷を割らないとな…。」
「でも割って中の人が傷ついたらどうする?」
「うーん…」
「私、いい方法知ってますよ!」
「お、本当か!なんだ?」
「こういうのは…」
ブォンッ
「気にせずとりあえず全力で割ろうとすればいいんですよ!!」
パリーン
「お、お前…。」
「え?ダメでした?」
「いや………はぁ…もういい…。」
「???」
「おい!大丈夫か!怪我はないか!?」
「……えっと…」
「よかった、意識あるぞ!」
「……ここは、どこ…?わたしは……いつからここに…?」
「分からないのか…?記憶喪失か何かだろうか。」
「お前、名前は?」
「名前…?……わからない…。」
「「「……」」」
「じゃあ〜!私が名前をつけますよ!」
「今か!?」
「……私の、名前を?」
「そうですよ!うーん…そうですね〜、雪みたいに白くてきれいで、純粋な心を持ってほしいから〜…」
「「(意外と本気だな…)」」
「決めた!今日からあなたは『カテリーナ』!どうですか?」
「カテリーナ………?」
「そう!カテリーナ!」
「…………うん、いい名前。これから……カテリーナって……なのる。」
「わぁ!やったー!!」
「よし、名前も決まったことだしとりあえず拠点に連れて行くぞ!立てるか?えっと…カテリーナ?」
「……うん、ありがとう………。」
---
「…それで、ここまでこの少女を連れて帰ってきたと?」
「あ、あはは…」
「ま、まだ巡回の範囲をまわれてないのは分かってるんです!でも緊急事態で…!!」
「いや、別に怒ってはない。ただ少し対処に困っているだけなんだ…。」
「ご、ごめんなさい!ニキータ様…!!」
「気にするな。これもライトキーパーとしての責務にあたるからな。」
「「「マスターライトキーパー様〜!!!」」」
「(……なんだか楽しそう…?)」
「…む、すまない。カテリーナを置いていくつもりはなかったんだが…。」
「…え?気にしてないよ、大丈夫……。」
「そうか…」
「「「「(………気まずい!)」」」」
「(だ、誰か来てくれ…!!)」
「あぁ、ニキータ。ここにいましたか。」
「あっ!フリンズさん!ちょうどいい所に!!」
「おや?随分と焦っていますね。何かあったのですか?」
「いや、焦ってるのは置いておいてほしいんですが…。その……あそこにいる子をどうするか相談してて…。」
「………っ!?」
「…フリンズ?どうかしたのか?」
「……あ、い、いえ、大丈夫です。お気になさらず…。」
フリンズ「(あれは……、『あの方』は……!?)」
600年前の我が君よ
「(あれは……、『あの方』は……!?)」
この人…誰……?
「……この子はカテリーナ。空寂の回廊の奥底にある洞窟に、氷の中に入って眠っていたそうだ。」
「……」
「ふむ…少しここを離れよう。いくぞ。」
「……お気遣い感謝します。ニキータ。」
---
「……あなたは…?」
「…僕のこと、覚えていらっしゃいませんか。…『我が君』。」
……え?
「我が君……?どういうこと…?」
「覚えていらっしゃらないのですね…。」
フリンズが悲しそうな顔をしてしまった。
「えっと……ごめん…なさい…。」
「あなたが謝る必要はありません。…こちらこそ、変な質問をしてしまい申し訳ございませんでした。」
「……あなた、名前は…?」
「僕はキリル・チュードミロヴィッチ・フリンズと申します。フリンズとお呼びください。」
「よろしく、……フリンズ。わたしは……カテリーナ…。助けてもらったライトキーパーの人に……名前をつけてもらったの…。」
「おや、そうなのですね。……とても、いい名前ですね。」
まただ…。なんでそんなに悲しい顔をするの…?
「…また、あなたを困らせてしまいましたね。」
「気にしないで。……わたし、あなたの名前を聞いて……なんとなく、懐かしさを感じたの…。」
「…!」
「だから、そんな悲しい顔をしないで……?」
「……ありがとうございます。……カテリーナさん。」
---
わたしは少し考えてしまった。
この人は…ううん、フリンズは人じゃない…。何者かはわからないけど……人間じゃないのは………直感でわかる……。フリンズは…、わたしのことを『我が君』って言った……。わたしも……きっと人間じゃないんだと…思う…。
---
「それで、カテリーナ」
「……うん」
「これからどうするつもりだ?」
わたしは、自分が何者かすら忘れてしまった。だからまずは、助けてくれたライトキーパーのみんなに恩返しをしたい。
「……ここに、この世界に、入れてほしい………。」
「…そう言ってくれると信じていたよ。今日から君は『ライトキーパーの一員』だ。」
---
「それで〜……ライトキーパーの責務は〜………」
「……フリンズ」
「どうかしましたか?カテリーナさん。」
「……なんであなたもついてきたの?」
「おや、いけませんでしたか?」
「だめとは言ってないけど……。」
話していたら、ニキータおじさんがこちらを見た。
「…聞いているのか?」
「あっ……ご、ごめんなさい……」
「はははっ、君もフリンズと同じように、話じゃなく経験で覚えるタイプのようだな。」
……褒められてるのかな…?
「褒めているのか分からないときは、褒め言葉として受け取ったほうが幸せなのですよ。」
「……なんでわかったの…?」
「ふふっ、勘です。」
「………」
「………」
「二人して…そんなに呆れた目を僕に向けなくてもいいでしょう?」
危険物
早朝からニキータおじさんから呼び出された。
…どうやら、わたしは朝起きるのが苦手みたい。
……起きれなかったわけじゃない。ちょっと眠いだけ…。
「空寂の回廊の奥底でずっと眠っていたのですから、無理もありませんよ。」
……なんでわかったの…?
……というか、なんでいるの…??
カテリーナ「……怖い。」
フリンズ「えっ」
---
「ニキータおじさん、朝からなんの用…?」
「…随分と不機嫌だな。」
「……不機嫌じゃない…。」
「さっきフリンズが廊下の隅でうずくまってたんだが…何かしたか?」
……心当たりがあるけど、わたしのせいじゃないもん。
「わたしのせいじゃない。」
「……まぁいいか…。要件に移るぞ。」
「君が目覚めた空寂の回廊付近にワイルドハントが現れた。」
「君の初任務だ。今回は仲間もたくさんいるから安心してくれ。」
---
初任務。わたしを合わせて5人で向かった。
わたしを氷の中から助けてくれた3人の人と………
「確かに初対面で変な質問をしたり、知らない間にそばに現れるのは不敬だったと反省していますが…。」
「………。」
「…そんな顔をしなくてもいいでしょう?僕だって悲しいときは悲しいですよ。」
確かに、今日のフリンズは本気で落ち込んでいる
気がする…
…流石にやりすぎたかも。
「……………強く当たりすぎた、ごめんなさい……。」
フリンズが目を丸くした。
フリンズの目は黄色いから、丸くするとふたつの満月ができたように見えておもしろい。
フリンズ「ふふ、こちらこそごめんなさい。」
少し遠くで話し声が聞こえた。
「あの二人、いつから仲良くなったんだ…?」
「ニキータ様と部屋を出てそれ以降会ってませんが、なんだかカテリーナちゃんの顔が少しだけ柔らかくなった気がします。」
「しっかり守らないとニキータ様とフリンズに顔向けできないぞ…!!」
---
これが、ワイルドハント?
赤くて、顔が燃えていて、動いてるのに生きていないみたい。
「カテリーナちゃんは下がっててください!」
「わ、わたしも戦えるけど…。」
「いやいや、最初からは危ないぞ!まずはお手本からだ!」
「「「うおおおお!」」」
みんな頑張ってる…。任務だし戦えるから前に出たいんだけど……。
「おや、氷の神の目をお持ちなのですね。」
「…うん、………氷の中から出た時に……、手元にあったの……。」
「…流石ニキータだ。」
「……フリンズ?何か言った………?」
「あぁ、いえ、ただの独り言ですよ。カテリーナさん、この状態が続くなら僕たちは戦わなくても良さそうなので、このまま眺めておきましょう。」
「え、でも……」
「あなたはまだ新人ですので。」
フリンズの目はいつもの半月だった。
「………わかった。」
---
僕は、再会してはじめて我が君と話したあと、ニキータに我が君のことを話した。
「それは……。私たちは随分とすごいもの持ち帰ってしまったみたいだな。…明日、カテリーナに初任務を与える予定だったが、君はカテリーナが戦わないように引き留めてくれないか。」
「それはどうして?」
「……君なら分かるだろう。カテリーナは国家機密レベルの危険物なのだから。」
そう。僕にとって、カテリーナに向ける『我が君』は比喩ではない。
なぜなら彼女は「 」であり、「 」なのだから────
---
「初任務はどうだった?」
「どうって………。みんな、わたしを戦わせようとしなかったから……。」
「ライトキーパーは戦うことが全てではない。ワイルドハントを観察し、学ぶこともまた『任務』だと私は思うぞ。」
「……そっか。わかった。ありがとう……ニキータおじさん。」
一目惚れ
「………ニキータおじさん、報告書……書けたよ。」
「ご苦労。ライトキーパーの仕事にも慣れたようだな。」
ライトキーパーに加入してから数日が経った。
相変わらず氷の神の目の力は使わせてくれないけど、槍で戦うだけなら許してもらえるようになった。
少しずつ、みんなに馴染めている気がした。
---
今日、僕は義父さんに書類を届けることを任されていた。
「えっと…この書類で間違いありませんね。」
タッタッ
「報告書のここの内容、もう少し詳しく教えてもらえないか?」
「わかった………。ここは……」
バァン!
「義父さん!頼まれてた書類持ってきましたよ!」
「あぁ、ありがとう。」
「えっと、こちらの方は…?」
「彼女は最近ライトキーパーに加入したカテリーナだ。噂には聞いているだろう?」
僕は最初にカテリーナさんを一目見た時思ってしまった。
「…こんにちは……。」
「は、初めまして!調査分隊「闇夜の鶯」の分隊長をしています。イルーガと言います!よろしくお願いしますね。」
とても静かで、どこか儚くて、
「……よろしく、イルーガ。おじさん、……扉は大丈夫なの…?」
「あぁ、多分大丈夫だ。ナドクライの扉は硬いからな。」
「え…そうなの……?」
………綺麗な人だな。と。
守ってあげたくなるような人だと。
「…イルーガ?どうかした………?」
「あ、えと、いえ!なんでもありません!大丈夫です!!」
「……そう…?イルーガ、顔赤いよ……?」
「えっ、そのっ、きっ気のせいです!大丈夫です!!ぼ、僕はこれで失礼しますね!!!」
バァン!
「…ニキータおじさん、あの子、大丈夫……?」
「ははっ、イルーガは君のことを気に入ったようだ。これから仲良くしてやってくれ。」
「気に入った?そう…?わかった……仲良くする…。」
カテリーナさんを見て、とっさにそう思ってしまったということは、
一目惚れをしたも同然だった。