公開中
7話「英雄 ナツキ・スバル」
「ナツキくんも商売分かってきたんやない?」
「アナスタシアさんほどではないけど…なんとなくなら」
「うん、商売ができる騎士もええと思うで」
「よし、本題に入ろう」
「切り替えが早いなぁ。商人としての素質大アリや」
「いい加減、スバルも自覚を持ったらどうだ?」
「なんの?」
「スバルは魔女教を4・5人倒した。側から見れば…英雄だよ。君は」
「俺が…英雄?」
「こいつが英雄?笑わせてくれますね。ただの英雄気取りの小物ですよ?」
「レム嬢、少し慎むように」
「…はい」
「……ただの、英雄気取りの小物、か」
レムの冷ややかな一言が、部屋の空気を一瞬で凍りつかせる。詰られた当の本人の口から漏れたのは、怒りでも弁明でもなく、自嘲の混じった乾いた笑いだった。
「手厳しいなぁ、レムさん。けど、ウチもユリウスから話は聞いとるよ。魔女教の幹部を立て続けに打ち倒した男を、ただの『小物』で片付けるのは、さすがに商売人としても見立てが甘いと言わざるを得んわ」
アナスタシアは扇子でトントンと机を叩きながら、値踏みするような視線をスバルに注ぐ。
「周りがどう言おうと関係ありません。この男は__」
「……いや、いいんだ、アナスタシアさん、ユリウス。レムの言う通りだよ」
スバルは静かに手を挙げ、レムの言葉を遮った。その瞳には、かつてあったような熱い光はなく、ただ底の知れない暗い諦観だけが宿っている。
「俺は、自分が一番よく分かってる。俺は英雄なんかじゃない。……ただの、死に損ないだ」
<どうして、どちらか一つを選ぶ必要があるんですか?__立ちなさい!立ちなさい!立ちなさい!立ちなさい!立って…立って…立って…立つんです!立ちなさい!ナツキ・スバル!立ちなさい!レムの英雄!>
「俺は…俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は!!!!」
<レムは知っています。 スバルくんがどんなに先の見えない暗闇の中でも、手を伸ばしてくれる勇気がある人だってことを。スバルくんに頭をなでられるのが好きです。手のひらと髪の毛を通して、スバルくんと通じあっている気がするんです。スバルくんの声が好きです。言葉一つ聴くたびに、心が温かくなるのを感じるんです。スバルくんの目が好きです。普段は鋭いんですけど、誰かに優しくしようとしているとき、柔らかくなるその目が好きです。スバルくんの指が好きです。男の子なのに綺麗な指をしていて、でも握るとやっぱり男の子なんだって思わせてくれる、強くて細い指なんです。スバルくんの歩き方が好きです。一緒に隣を歩いていると、たまにちゃんとついてきているか確かめるみたいに振り向いてくれる、そんな歩き方が好きです。>
「やめろ...」
<スバルくんの寝顔が好きです。赤ん坊みたいに無防備で、まつげなんかちょっと長くて、頬に触れると穏やかになって、いたずらで唇に触れても気づかなくって、すごく胸が痛くなって。好きです。>
「どうして…」
<スバルくんが自分のことを嫌いだってそう言うのなら、スバルくんのいいところがこんなにあるって、レムが知っていることを知って欲しくなったんです。>
「そんなものはまやかしだ。お前は分かってないだけだ。自分のことは自分がいちばんよく分かってる!」
<スバルくんは自分のことしか知らない。レムが見ているスバルくんのことを、スバルくんがどれだけ知っているんですか?>
「どうして…そんなに…俺を…俺は弱くてちっぽけで、逃げて、前の時も同じで逃げて、それでもどうして…」
<だって、、 スバルくんはレムの英雄なんです。あの薄暗い森で、自分のこともわからなった世界で、ただ暴れまわることしか考えられなかったレムを助けに来てくれたこと。目を覚まして動けないレムを、魔法を使いすぎて疲れきった姉様を、逃がすために囮になって魔獣に立ち向かっていってくれたこと。勝ち目なんてなくて。命だって本当に危なくて。それでも生きのこって。温かいまま、レムの腕の中に戻ってきてくれたこと。目覚めて。微笑んで。レムが一番欲しかった言葉を。一番言って欲しかった時に。一番言って欲しかった人が言ってくれたこと。 ずっと、レムの時間は止まっていたんです。あの炎の夜に、姉様以外の全てを失ったあの夜から、レムの時間はずっと止まっていたんです。止まっていた時間を、凍りついていた心を、スバルくんが甘やかに溶かして、優しく動かしてくれたんです。あの瞬間に、あの朝に、レムがどれだけ救われたのか、レムがどんなに嬉しかったのか、きっとスバルくんにだってわかりません。だから、レムは信じています。どんなに辛く苦しいことがあって、スバルくんが負けそうになってしまっても。世界中の誰もスバルくんを信じなくなって、スバルくん自信も自分のことを信じられなくなったとしても。レムは信じています。レムを救ってくれたスバルくんが、本物の英雄なんだって。>
「どれだけ頑張っても、誰も救えなかった」
<レムがいます。スバルくんが救ってくれたレムが、いまここにいます。>
「何もしてこなかった空っぽの俺だ、誰も耳を貸してなんかくれない」
<レムがいます。スバルくんの言葉ならなんだって聞きます。聞きたいんです。>
「誰にも期待されちゃいない。誰も俺を信じちゃいない。俺は俺が大嫌いだ」
<レムは、スバルくんを、愛しています。>
「俺なんかが、良いのか…」
<スバルくんが良いんです。スバルくんじゃなきゃ、嫌なんです。空っぽで、何もなくて、そんな自分が許せないなら、いまここから初めましょう。レムの止まっていた時間をスバルくんが動かしてくれたみたいに、スバルくんが止まっていると思っていた時間を、いま動かすんです。ここからはじめましょう。1から。いいえ。ゼロから!!>
「俺は……」
「スバル?」
「誰と…話してるの?」
「は?レムと__」
「レムと…ですか?あなたが?何を__」
「暴飲ッ!暴食ッ!ちょっとそこの少年にねェ〜記憶を流し込んであげたんだァ〜だってつまらないんだァ。自己否定。自己否定。自己否定。そんなの俺たちを倒してくれる英雄じゃないんだよォ〜」
「その青髪の子にも少し、分けてあげるよォ〜」
「何を__がぁ!?!?」
「レム!?」
「スバル…くん?」
「立ち直ってくれよォ?英雄」
「待て__」
ロイは風のように消えていった。何事もなかったかのように。
「レム…」
「レムは…またスバルくんに助けられたみたいですね」
「…記憶が__」
「まず、今までの無礼の数々。すべてお謝りいたします」
「レム…」
「そしてこれから二度とそのようなことがないように精進いたします」
「レム…なのか?」
「はい!スバルくんのレムです」
「レム…ぁ…レムぅ…レム…ぐす…俺……っ!がんば……っ… がんば、った……っ、俺……がんばったんだよ……っ」
「はい。スバルくんは頑張ってきました」
「俺は……っお前を……っ!……とりもど……っ…!」
「スバルくんが望んだレムが…今、ここにいます」
「俺……っレムのために……っ!」
「はい、スバルくんがレムのためにしてくれたこと、頑張ってくれたこと…全部、覚えてます」
「ぅ…あぁ…レ…ム…お前が……っ…俺の……っえ、英雄……!」
「はい、スバルくんの英雄になれて、嬉しいです。英雄同士ですね」
「俺は…………!!」
「お前の……っ!お前は……っ!」
「スバルくんの」
「「英雄!!!!」」
2人の声が、重なった
「レム?本当に…レムなの?覚えてる?あの、屋敷のことも…」
「エミリア様。申し訳ありませんが…スバルくんに関する記憶のみ…戻っています」
「__あ。うん。いいわ。いいじゃない。スバルとレム…仲良しで……っ」
「エミリアたん…」
8話次回予告
「セッシー、気になる第1位は?」
「セッシー、ですか?スバルくん」
「あいつ逃げたな!?」
「どういうので第1位なんですか?」
「__俺のかっこいいとこ……で…」
「…もちろん。全てです」
「ですよねー。レムに聞いた俺が馬鹿だった…」
「次回、8話「悪意」お楽しみにしてください」
「…9話次回予告は引っ張り出すぞ…あんにゃろー」
「あんにゃろー…ですか?」
「…あんにゃろーってきょうび聞かねえなぁって!俺が言った単語だわ!なんつって」
「スバルくんはギャグのセンスも一流ですね!」
「なんか悲しいからやめて!?」