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#6 陰キャなモテ男
「今日も推しが尊い!!」
いつもの放課後、誰もいなくなったタイミングで親友に話しかける。
親友は読んでいた本をしまい、鬱陶しそうに顔を上げた。
《《そしてチラリと教室のドア辺りに目を向ける》》。
「それで?今日は誰の話?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「あーはいはい。もう早く話せ。」
何やら投げやりな態度の親友。
けど、きちんとこちらを向く真面目さはやっぱり尊い。
「今日は新島朔くんだ!」
「あー。あのカースト底辺男子」
新島朔。誰とも話そうとしないボッチで長い前髪、瓶底眼鏡と今どきそんな人いる?といった風貌の男子生徒。しかしその実体はなんと中学校でモテにモテた超絶美少年なのだ。
俺は今日起きたことを振り返った。
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朝、靴箱へ向かうと我が推しが手に持った何かを見て顔を真っ青にしていた。
我が推しにこんな顔をさせるのは何奴だ!
と、怒りつつ、しれっとそれを見ると、ラブレターだった。
「新島くんへ♡
ずっと、ず〜〜〜〜〜っと好きでした♡
告白の返事が聞きたいので放課後体育館裏で待ってます♡」
なんて中身のないラブレターだろうか。
俺ならもっと愛のこもったファンレターを送ってやれるのに。
それはそうと我が推し。固まったまま動かない。
「新島くん。おはよう。どうかした?」
ピクリと体を震わせて俺の方を見る。
そして何かを考え込んだあと、グシャグシャっと名前の部分を切り取ってラブレターを俺に渡してくる。
え、推しからの又貸しラブレター!?⋯又貸しラブレターってなんだ?
「高峰くんへのラブレターが僕の所に入ってたみたい。それじゃあ。」
「え、あ。」
俺にズイッとラブレターを押しつけた我が推しはスタスタとその場を去っていった。
俺はというと、普段あまり喋らない推しが俺のために話してくれたのが嬉しすぎてちょっと涙ぐんでた。
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「ちょっと待て」
話していたところで急に親友からストップがかかる。
「なんだい我が親友?」
「いや止めるだろ。何?ラブレター押し付けられたの?お前。」
「うん。」
「で、さっきまでいなかった理由って⋯」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「お前まさか行ったのか!?新島くんの代わりに!」
「あぁ。その報告をしなければな」
(絶対ヤバいことになってるな、これ。)
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そして放課後。
なにやら我が推しを見てニヤニヤしていた女子グループがいたが、なんだったのだろうか?
もしかして我が推しの尊さを知ってしまったのか?
そんなことを考えながら推しの代わりに体育館裏へ行く。
ちなみに我が推しが後ろをつけてきていたので手を降っておく。
驚いた顔でサッと木陰に隠れてしまった。
可愛いなぁ、我が推し。
しばらく待っていると、先程ニヤニヤしていた女子グループの一人がこっちに来て⋯固まった。
「え、へ!?高峰くん!?ど、どうしてここに。」
「あぁ、新島くんがどうしても来られないみたいだから、俺に頼んできたんだ。」
我が推しは全力で首を横に降っている。
必死で尊い。
「え、あの。ご、ごめんなさい!」
すると、急に女子生徒が謝ってきた。
ん?なぜ謝る?
「じ、実はこれ、嘘告で⋯」
「嘘、告?」
コクリと頷く女子生徒。
嘘告。へぇ?我が推しに。
「ねぇ。ちょっと他にこの嘘告企てた女子生徒たち、呼んできてくれる?」
「え、はい。」
俺は全員が集まったところでみんなの目を見る。
「ねぇ、嘘告って何?」
「え、っと。嘘の告白をして、」
「で?そんなことして何するの?」
「その、面白いかなって。」
しどろもどろな女子たちの態度にだんだんイライラしてくる。
そんなことのために我が推しの貴重な時間を無駄にしたのか?
コイツら。俺は低い声を出す。
「なぁ?それ全然おもしろくないからやめろよ」
「⋯ごめんなさい。」
女子生徒たちがひどく怯えた様子で謝る。
「いや、俺じゃなくて、そっちに謝れ。」
「え?」
見ると我が推しがアワアワしている。
え、何その動き。てぇてぇ。
ほんの少しばかりイライラが下がり、女子生徒たちが我が推しに謝る。
そうしてその場がお開きになったところで、我が推しが高峰くん、と呼びかけた。
「どうしたのかな?」
「その、知ってたんだね。ラブレター。僕宛だったって。」
「そりゃ、あんなに大きく広げてたら目に入るって。」
「⋯なのに、僕のために行ってくれて、ありがとう」
「いいよ。推しのためだしね。」
「え?」
キョトンとしている我が推しに耳打ちする。
「それに、ラブレター。苦手だもんね?」と。
驚いた様子で固まる我が推しをおいて俺は親友の待っている教室へ帰った。
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「その時の我が推しの表情と言ったら⋯!」
「あー。はいはい。」
それで?と親友がこちらを見てくる。
「尾行は気付いたのに、こっちは気づいてないの?」
「?何の話?」
親友はハァっとため息を吐いてテクテクと教室のドアへ近づき、開ける。
「そんなところで聞いてないで入ってきたら?《《新島くん》》」
俺がギョッとしていると、真っ赤な顔をした我が推し―――新島朔が入ってくる。
「あー。その。ごめん。全部聞いてた。」
「いや、全然いい。むしろもっと聞いてくれ」
「いや!これ以上はちょっと、いたたまれないというか⋯!」
「いや、聞いてくれ。」
(こいつに恥の感情はないのか?ないんだろうな。)
親友にそんなことを思われているとはつゆ知らず、その日の放課後、下校時間ギリギリまで俺は我が親友と我が推しに我が推しのいいところを聞かせ続けた。