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#5 クールな関西人
「今日も推しが尊い!」
俺は親友との通話を繋げて開口一番そういう。
「うるさいよ。何時だと思ってるの?」
「十一時!」
「あのね、通話するには些か非常識な時間だと思うんだよね。」
「すまない。どうしても今日起こったことを今日のうちに話したくて」
「だとしても、もしもしって言う前に叫ばれたら鼓膜破れちゃうでしょ?」
少し眠そうな親友の声にほんの少し心が洗われる。
が、その程度で今日の興奮が収まる俺じゃない。
「で?今日は誰の話なの?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「うん。このやりとりずっとやってるからね」
「今日は新井璃子ちゃんだ!」
「あー。あのクールな一軍女子」
新井璃子。長い艶々した黒髪に切れ長の目。それに似合うクールな態度。
そう、誰が言ったか、学園の女王。
そんな彼女、実は関西出身で、おもしろ関西弁ねぇちゃんなのを知ってるのは多分俺だけだろう。
そんな彼女と今日、話してしまったのだ。
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あれはそう。俺の両親が久しぶりに揃ったので、みんなでお好み焼きでも食べに行きましょう。
と言われたところから全てが始まった。
正直、なんでお好み焼き?とは思ったが、もしかしたら神のお導きだったのかもしれない。
店内に入ると、我が推しがいたのだ。
え、バイト?そんな情報入ってきてない。
俺の混乱をよそに、彼女が笑顔で接客してくる。
「いらっしゃーせ!何名様でしょうかー?」
若干関西訛りな声でこちらに話しかけてくる。
が、なぜか俺に気づかない。俺、推しに認知されてないのか。ショックで倒れそう。
だが、あまり人前で見せない関西弁の推しを見てプラマイゼロどころかプラスである。
案内された席に着き、注文を決めた俺達が店員さんを呼ぶと、我が推しが来た。
「ここオススメ何かありますか?」
とのんびり聞く父にやめろ困らせるな、と殺気を放つが、推しは笑顔で答える。
「実はうち、今日入ったばっかりであんまようわからないんです。店長!オススメなんかあります?」
店長さんのオススメと他の2つほど頼んだ俺達。
食べ終わった頃、推しが何やら困った顔で寄ってきた。
「ほんま間違ってたらすいません。高峰くんやんな?」
まさかの推しに認知されてた。嬉しい。好き。
そうだよ、と頷くと、ちょっと面かしてもらってええ?とヤンキー口調で言われた。
とりあえず、両親には会計をしてもらい、席を外す。
「どうしたの?新井さん」
「あーやっぱ気づいとったか!うちも高峰くん見てうわって思ったからお互い様やけど」
悲報、推しにうわって思われてた。辛。
すると、我が推しがパンッと両手を合わせる。
「お願い!うちがバイトやってることあんま言わんといてくれる?」
「いいよ」
「無理な話なんはわかって⋯ってええん?」
こくりと頷く。そもそも無理な話じゃない⋯あ、これ話のノリってやつか。
すると推しはニコニコ笑って高峰くんっておもろいな、と言った。
ごめん。そこまで面白い人間じゃないんだ。俺。
「まぁ学校でも仲良うしてな?」
「うん。もちろん」
「ありがとうな。ほな」
そう言って推しは上機嫌に去っていった。
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「あー。あの容姿で軽快に笑う我が推し尊い!」
「関西弁については隠してくれとは言われなかったの?」
親友の不思議そうな声に、あぁ、そのこと、と呟く。
「実は我が推し。別に関西弁隠してないんだよ。」
「え?そうなの?」
「うん。普段関西弁喋らないのは『ファンサや』とのことです。」
それにしても。今日もなんやかんやこんな遅くまで通話に付き合ってくれる親友が尊い。
そう思っていると、親友の声がだんだん弱々しくなる。
「親友?」
「スー、スー」
可愛らしい寝息がきこえてきたので、おやすみ、我が推し、と言って通話を切る。
空で月明かりが柔らかくあたりを包んでいた。