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#2 爽やかな可愛いもの好き
昼休み、とある空き教室にて。
いつものように親友とお弁当を食べていた。
「今日も推しが尊いっ!」
俺の叫びに親友がまたか、と言いたげな顔をした。
「で?今日は誰の話なの?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「聞かなかったらずっと騒がれるんだもん。」
ムスッとした親友の言葉はスルーして俺は今日あったことを思い返しながら話す。
「今日は佐野陸くんだ!」
「あー。あの一軍爽やかイケメン。」
そう。彼は男女分け隔てなく優しく、性格もいいし、何より顔が優しい。
もう優しいの権化だと言われても信じてしまうほど優しい彼。ただ、それだけでは推しにならない。
「今日もこっそり可愛いものを愛でていたのだ!」
「はぁ」
あれはそう、昼休みの一つ前の休み時間のことだ。
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それは俺がトイレから帰ってきたときだった。
なにやら階段の方から声が聞こえてきたのだ。
こ、この声は⋯!
俺は急いでそちらを見ると、そう。我が推しの佐野陸くんがいたのだ!
「ふふ、今日も可愛いね。」
そして彼の手には小さい猫のキャラクターのキーホルダーが!
そう。彼はこのキーホルダーに話しかけていたのだ。
あぁ、今日も推しが尊いっ!可愛いのは君だよ!
そうしてしばらくそれを眺めていたのだが、急に廊下の方からこっちへ歩いてくる生徒が⋯!
このままだと推しがキーホルダーを愛でているところが見つかってしまう。
だが、推しは気づいていない。
仕方ない。一肌脱ぐかぁ!
俺はその生徒に見つかるより速く推しの方へ近づく。
「あれ?佐野さん。こんなところで何してるの?」
「え、あ。高峰。えっと。いや、別に。何か用?」
あー。推しに話しかけちゃった。
キョドってる推し尊っ。
ただ、別に用なんて、ない。
強いて言うならこれを誰かに見られたら推しが困ってしまうかもと思っただけだ。
うーん。何かないか。あ、そうだ。
「佐野さんってお姉さんいたよね」
「へぇぁ!?うん!」
我が推しは自分が可愛いものを持っている時の言い訳として姉がいると言っている。
しかし、本当は姉がいないのは確認済み。だが、それをわざわざ指摘はしない。
俺はポケットからとあるものを取り出した。
「じゃあ、こういうのって好きかな?」
そう言って取り出したのは可愛い丸いよくわからないキャラクターの小さいぬいぐるみ。
断じて俺が好きなのではない。
ただ、これをカバンに付けたら推しの視線がこちらに向かないかな〜?という淡い期待をしたから持っていたのだ。
「!うん!すごく嬉しい⋯ってお姉ちゃんなら言うと思う!!」
「⋯っ!そっか。よかった。どうぞ。」
「え!?ありがとう!」
推しの幸せそうな顔と、お姉ちゃん発言にもうそろそろ限界化してしまいそうだ。
鼻血出そう。ってか鼻血出てないよね?
あー。しんどい。推しが可愛すぎてしんどい。
とても軽やかな足取りで教室に向かう推しを見守る。
叫びたい。推しが尊いと今すぐにでも叫びたい。
その後、このデカすぎる感情を必死に抑え込んだ俺はスタスタと教室へ戻るのだった。
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「いつも大人な感じの我が推しの『お姉ちゃん』はしんどい。マジで尊い。」
「あーはいはい。」
俺の早口に、親友は頬杖をつきつつ適当に相槌を打つ。
そして話が終わるともぐもぐとお弁当を食べる。
そんな親友も尊いな、と思う。
(コイツまた暗躍してたのか。というか、佐野くんの視線を集めるためだけにぬいぐるみ持ってくるとかコイツやべぇな。)
親友の蔑みなんて露知らず、俺は今日のことを振り返り、によによした。
親友の白い目が俺に突き刺さった。