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【第二部】第七戦区「再会…?」
「あ、アース!!フェリックス!!」
ナディールをサナトリウムへと運んで戻ってきたフェイが、イーサンを背負って戻ってきたらフェリックスとその前に立つアースの姿を見ると、パッと安心したかのように顔を明るくして駆け寄った。
「っ、イーサン…?」
フェリックスに背負われたイーサンを見て息を呑むが、すぐに察して深く長いため息をついた。フェリックスと同じく長い間一緒に過ごしてきた仲だったため、その分ショックは深い。
「あぁ、そうだ!フェイ、アースの能力が分かったぞ!」
フェリックスが思い出したように、話を切り替え、イーサンを背負ったままそう話しかける。フェイもそれを聞いて目を丸くして驚いた様子だった。
「あっ!アース、あんた目が…!!」
フェイはハッとして気づき、アースの赤くなった瞳を見つめた。アースも少し照れくさそうに頬を赤らめて視線を逸らした。
「そう!!アースはイーサンの能力を受け継いだのさ!その影響でアースの瞳の色が変わるみたいだけどな!!」
フェリックスが自分のことかのように自信満々にいつもの明るい調子で説明するが、すぐにフェイにゲンコツを入れられ沈黙した。
「よかったね、アース。成長できたじゃない。」
フェイは嬉しさでほんの少し涙を浮かべながらも、腕を組んでアースの方をまっすぐ見つめると、手を伸ばして頭をポンポンと優しく撫でた。
「っ…!!」
アースはその言葉を聞いて、改めて自分が成長できたことへの嬉しさに釣られて涙を浮かべ、嬉しさにあまり勢いよくフェイに抱きつく。
「っ!?アース…!?」
フェイも突然の抱擁に驚いてぐらりと体勢を崩し、両腕をアースの背中に回して受け止めながらも、あまりの距離感に顔を赤らめた。いつもはクールで強気なフェイの、乙女らしさが見れる珍しい一面だった。
「…!あ、す、すみません!!」
アースも自分がフェイに抱きついていたことにハッとして耳まで茹でだこのように顔を赤くし、フェイからすぐに離れた。だが、曹長という高いくらいに立つフェイに失礼な態度をとったことにどう謝ればいいのかがわからず困惑していた。
その甘い雰囲気の中で、フェリックスは何を見せつけられているんだと内心思っていたが、余計な口出しはせず、すぐにそんな思考は振り払い、イーサンの遺体を安全な場所へと横たえて、微笑ましそうに眺めていた。
だが、その幸せな空間は一瞬にして残酷に奪われる。
突如として鋭い氷柱が降り注ぎ、アースたちの肩や背中、顔を掠めていった。
「ぐ、あっ…!?」
全員傷を負い、アースは苦痛の声を漏らしてその場に崩れ落ちた。フェリックスはすぐにフェイを庇ったものの代わりに氷柱が頭に直撃し、意識を失って倒れ込んだ。
「─幸せそうなところ邪魔するよ。」
聞いたことのある、掴みどころがない飄々とした口調。だがその声音は冷え切っており、アースが苦痛に顔を顰めながらも、顔を上げた。
太陽の光を背負うようにしているため、逆光で顔に影がかかり、誰かよくわからなかったがシルエットでアースはすぐに分かった。
「カイ……伍長……?」
自分の目の前で死んだはずの人物。それが、今こうして自分たちの前に立っているということに、アースの思考は一瞬止まった。
「俺が死んだと思ったかい?残念だねぇ、俺が簡単に死ぬわけないじゃん。」
カイは片手に氷で作った大鎌を手に持ちながら、ははっと嘲笑してそう言った。カイの体を見れば、血の痕はあるものの、心臓付近にあったはずのあの生々しい深い刺し傷が綺麗さっぱり消えていた。
「いや〜、結構大変だったんだよ?"死んだふり"をしないといけなかったんだからさ。」
糸目の笑顔のまま、ケラケラと子供のように笑いながら残酷な事実をスラリと喋るその姿は、アースにとって酷く悪魔のように見えた。
「カイ…ッ、あんた……!!」
フェリックスが庇ったおかげで軽傷であるフェイが怒りを込めた低い声でそう言って立ち上がり、背中に背負った鞘から刀を抜き、カイの方へと構えた。
「あの時の君らの顔は本当に最高だったよ。やっぱ絶望って大切な人が死んだ時の方が1番綺麗に輝くんだから!!」
カイはそのフェイの様子がまるで視界に入っていないかのように、アースの方を向いたまま得意げに語り続ける。糸目の笑顔を全く崩さないまま語っているのが、彼の不気味さをより一層際立てていた。
「でもさ、こうやって死んだはずの俺に出会えて、嬉しいと思わない?…思うよな?」
カイはニコニコしたままアースに近づき、しゃがんでずいっと顔を近づけたかと思えば、強要するかのようにいつものヘラヘラとした口調を崩し、一段階下がった声でアースの耳元でそう囁いた。
「っ、!!誰が嬉しいんだよッ!!」
アースは恐怖と怒りのあまり敬語をなくして怒声をカイに浴びせると、勢いよくカイの方へと腕を横に振り、カイのこめかみあたりを強く殴りつけた。
「…っ、はッ…!?」
予想外の動きにカイは目を見開き、その場から勢いよく跳躍して後ろへとバックステップで後退する。こめかみを抑え、信じられないものを見るかのように笑みを消してアースを凝視していたが、すぐに糸目の笑顔を取り戻し、興奮したように頬を赤らめ、口を歪めた。
「ハハハッ、最高だよアース君!!まさか死人の能力を奪うことでしか力を得られない君みたいな雑魚が俺に一撃入れるとはねぇ!」
笑いながらも、アースを罵倒、侮辱するような言葉を混ぜて言っている時点で、カイに怒りの感情が湧いているということは明確だった。
「誰がっ、雑魚だって…!?俺は成長したんだ!!!」
アースはそれに対して怒鳴り、イーサンの炎を宿した瞳で、一切諦めていない様子でカイの方をまっすぐに見つめた。
「っ、そうか…イーサンの能力をとったんだっけぇ?ははっ、扱い方もわからない奴が、能力を使っても無意味なんだよなぁ。」
それを見てカイは嘲笑うことは忘れぬ一方で、心の奥底で静かにアースに対する警戒心を強めた。氷の大鎌を軽く一振りすると、アースの方へと歩き出し、約4メートルの距離でぴたりと止まった。
「成長したというなら俺に見せてみなよ、審査してあげるからさァ!!」
カイはそう言うと鎌を勢いよく横に一閃し、強烈な風圧がアースを襲う。だがアースは地を力強く踏み締め、その場から離れまいと必死にとどまる。
カイはそれを見て楽しげに笑いながら、容赦ない斬撃をアースに浴びせていく。それを見ていたフェイは気絶しているフェリックスの体を引っ張り、安全な場所へと追いやると、すぐさま応援へ駆けつけ、自分の顔の前で刀を横にしてカイの大鎌を受け止める。
「おっと、邪魔者が入ったねぇ。」
気にせずカイは大鎌を握る手に力を込め、フェイの刀を真っ二つに叩き割ろうとそのまま押し続ける。
「っぐッ…!」
フェイはカイの細身の体にこんな馬鹿力が宿っていたのかと内心思いながら、自身も腕に力を込め、背後にいるアースを守ろうとその場から離れない
それを間近で見ていたアースは、過去の自分の無力な姿が脳裏に思い浮かぶが、自分は成長したと自分自身に言い聞かせ、刀剣を鞘から抜いてカイの首筋…急所となる頸動脈を切ろうと横に振るった。
「…っ!」
カイもそれに気づき、大鎌を動かして受け止めようとするが何故か腕が動かない。
「っ、はッ…!?」
気づいた時にはフェイが勝ち誇ったように、片手でカイの腕を掴んでいた。カイの腕を掴んでいるフェイの手の甲には奇妙な、時計のような模様が浮かび上がり、怪しく光っていた。
「お前ッ、そうか…!!」
驚愕のあまり素の口調で、カイはフェイの能力について思い出し、自身の誤った判断を後悔した。
「クロック・ゼロ!!」
フェイがそう詠唱した瞬間、カイの時がほんの数秒間だけ止められた。その短い数秒間は、カイを無力化するのに十分な時間だった。
「ッらあぁぁぁ!!!」
アースは叫び、カイの頸動脈へと容赦なく刃を突き出した。それと同時にカイの止まっていた時間が動き出し、カイの体に激痛が走る。
「あぁっ、あああ、あぁぁぁ!!」
カイは首筋を白手袋を嵌めた手で抑え、汗をかきながらその場に膝をついて倒れ込んだ。睨みつけるようにアースを見るも、出血のせいで視界が白く濁り、焦点もだんだんと合わなくなってきた。
フェイも能力を行使した彼女の能力特有の代償によって神経が一時的に麻痺し、アースの背後で倒れた。
「…僕らの勝ちです、カイ伍長。」
カイの姿を見て確信したようにそう言うも、アースはまだ警戒を緩めてはいなかった。カイの喉元数ミリのところで刀剣の切っ先を突き出し、ピタリと止めたまま動かさない。
カイが何かをしようとした瞬間に、いつでもトドメをさせるようにしていた。だが、頸動脈は人間の急所であるため、そのまま続けて手を下さなくともカイはいずれ出血性ショックで死んでしまう。
アースは自分たちを騙し、傷を負わせてきたカイのことを憎んでいるが、何処か心の奥底で「もうやめてほしい、あの優しいカイ伍長に戻って欲しい」と願い続けていた。
「は、はっ…完敗だねぇ、いやぁ…まさか、こんな無様に追い詰められるとは思わなかったよ…。」
息を荒く吐きながら、自嘲気味に、だが食えない様子で笑ってそう言って見せた。能力で止血しようにも疲労によって能力は発動せず、カイは迫り来る死をただ待つだけだった。
「………全く、最期がこれとはねぇ………。」
すぐそばにあった岩にもたれかかり、焦点が合わない中でなんとかアースやフェイを見ようとするも、視界が霞んで見ることができない。
「…あの世でイーサンに怒られちゃうなぁ……まぁ、俺にはそれがお似合いか…。」
青空の広がる空を見上げ、糸目を開けて微笑む。アースはそれを見て、刀剣を下ろそうとするが、カイの手がそれを制止した。
「だめだよ…俺みたいなやつ…何をするかわからないんだから…。」
それを聞いたアースは、弱々しいカイの姿を見て、今すぐ助けたいと涙が溢れてくるが、体はカイの言うとおりに、刀剣を下ろそうとしていたのを止め、カイの喉元へと再び突き出す。
「カイ、伍長…ッ!!」
「…じゃあね、アース君…。」
カイは掠れた小さい声で力なく別れを告げると、目を固く閉じ、動かなくなった。呼吸によって微かに上下に動いていた胸もピタリと動かなくなり、呼吸も途切れた。
「っ、あ、あぁぁぁぁぁあぁ!!!」
アースは刀剣を放り出し、カランと刀剣が音を立てて地面に落ちる中、カイの体にすぐ駆け寄り、抱きしめた。だがカイの体は彼の能力のように冷たくなり、完全に死んでいた。
イーサンの時とは違う、自分自身の手で仲間を殺したという事実に、アースは心に深い傷を負い、カイの体を抱きしめたまま、泣き続けることしかできなかった。
「アース……。」
神経が麻痺して動けなかったはずのフェイも顔を上げ、重い体を引きずるようにしてアースの近くにくると、アースの体とカイの死体を優しく抱きしめた。
イーサンに続けてカイも、命を落としてしまった。アースは泣き続けていたが、ふと、いつも前髪で隠れて見えなかったカイの眼帯が目に留まった。
それに描かれた模様を見て、アースは息を呑んだ。アルヴァレックが被っていた軍帽の帽章の十字架の模様と一緒だったからだ。
「これはっ…!?」
アースが驚いてカイの前髪を横に流し、目を見開いてフェイの方に顔を向けた。
「…なるほどね…毎回私は曹長として、ある程度新しく入ってきた二等兵や、軍のみんなの情報を知ってるんだけどさ。」
「カイだけ、出身国がわからないままだった。だけど、今気づいたよ…。」
フェイは冷や汗を流し、顎に手を当てて、カイの顔を見つめた。
「カイは`ルミナス聖教皇国出身`だ。その証拠が今までずっと近くにあったのに、気づかなかったとは…。」
アースもその言葉を聞いて、一瞬嫌な考えが思い浮かぶ。カイがスパイだとしたら…?
「…結構、ヤバいですね……。」
(第七戦区:再会…? 終)
【今回の死亡者】
帝国軍 第零特殊異能連隊伍長:カイ・クレプシス
ー【次回予告】ー
第八戦区「行かないで」