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【第二部】第四戦区「ガイア領獣王連合」
「─っ!?」
気づいて振り返った時はもう既に遅かった。敵の刃がセシルの首を確実に取るために向けられている。
冷や汗が頬を伝い、咄嗟に後ろへと飛び退き、腰に携えた刀を抜こうと手をかけるが、それよりも早く、敵の刃先がセシルの首筋を掠める。
「ぐあっ…!?」
鮮血がセシルの首筋から流れ、赤く染めていく。激痛に顔を歪め、その場に膝をついて首筋を片手で押さえる。だが、目の前には敵がいる。そんな無防備な姿を見せてしまっては、完全に逃れられることなどできない。
セシルがハッとして顔をあげた瞬間、セシルの首は一瞬にして飛び、鮮血が吹き出し、辺り一面を赤黒く染めていった。首をなくした胴体は前のめりになってどさりと音を立てて倒れた。副団長であるセシルのあっけない最期であった。
__ミッションコンプリート__
「…聖十字騎士団副団長、セシル・マレフィコの死亡を確認。任務完了」
冷徹な瞳で見下ろしながら、無線の通信を繋ぎ、淡々とした口調で報告する。
─【牙狼遊撃大隊副隊長:ザック・グリムファング】。
セシルと同じ副隊長(副団長)という立場であり、隊長(団長)をサポートする。
セシルと違い、ザックは高い実力と身体能力を持ち、普段は裏で活躍しているが、その高い隠密性と実力を買われ、敵の高官を暗殺する「暗殺者」としても暗躍している。
「聖十字騎士団の副団長とやらがこんなにも脆いとは…隙がありすぎだ。」
片足を上げてセシルの死体を踏みつけ、ふっと鼻で笑って罵倒し、セシルの死体に背を向けて去ろうとした次の瞬間─
カチャリ、と。
ザックの額に、銃口が突きつけられた。その銃を持っているのは、異変を感じて戻ってきたアルヴァレックだった。相変わらず表情筋は死んでおり、無表情のままぴくりとも動かないが、彼から放たれる殺気と威圧感は尋常じゃないほど場の空気を重くし、ザックの方へと圧力をかけていた。
「(なんだ…っ、こいつっ…、まさか!)」
ザックは眉を顰め、内心冷や汗をかきながらも、持っていた剣を目に見えぬ速さで、アルヴァレックの首を切ろうと横へ滑らせるように振るった。
だが、それすらも上回るスピードで、アルヴァレックは銃を突きつけている腕を動かさないまま、空いていた片手で腰に携えた鞘から剣を抜き、ザックの剣を受け止める。
キイイィン!と、刃と刃がぶつかり合う金属擦過音が小さく鳴り響く。
圧倒的な、格の違い。副隊長であるザックの速度を上回るような圧倒的な実力で、アルヴァレックはザックの刃を封じ込めてみせたのだ。
「っ、まじか…っ。」
ザックは自分をも上回る圧倒的な強者との出会いに、興奮を覚えながらも、一方で、何処か恐怖を感じてしまっていた。
「…セシルを、殺したか?」
アルヴァレックは口を開き、低い声でそう問いかける。
地面に転がるセシルの死体と、そのすぐそばに血を浴びた見知らぬ人物(ザック)が立っているのを見れば、ザックがセシルを殺したのは一目瞭然のはずだが、アルヴァレックの容赦のない殺気と威圧感が込められた言葉には、拒否権などないかのように感じられる。
ザックはその圧力に顔を顰め、耐えながらも歪んだ笑みを浮かべたまま、口を開こうとしない。むしろ、今この絶体絶命な状況をどう抜け出すかを頭の中で考えていた。
「…逃げられると、思うなよ。」
そのザックの考えを読み取っているかのように、アルヴァレックは鋭い眼光で見つめながらそう言った。
「なっ…!?」
アルヴァレックの思いもよらぬ発言にザックは唖然とし、開いた口を閉じるのを忘れたまま、アルヴァレックを見つめた。
「貴様のような雑魚が、我が聖十字騎士団の誇る副団長であるセシルを殺すなど…どれほど重い罪かわかっていないようだな。セシルに圧倒的な身体能力が無かったのは事実だが…そんなことは今どうでもいい。セシルへの土産として、お前の命をもらう。」
アルヴァレックは再び口を開き、言葉を紡いでいった。
ザックのプライドを粉々に砕くような容赦のない罵詈雑言を浴びせながら、徐々に、引き金に添えた指に力を込める。
「待てっ!わ、悪かった!俺が悪かったからっ!!」
それを察して、ザックは焦り、何とか少しでも逃げ出せる時間を稼ごうとするが、アルヴァレックは力を込めるのを全くやめず、ゴミを見るような目でザックを見据えた。
「…今まで数えきれないほどその言葉を聞いてきた。俺に帝国軍の奴らのような悪魔の力はないが、お前ら雑魚のその言葉には全く反省や謝罪の感情が一ミリも込められていない。」
「待て!!殺すなッ、助けっ…!!」
「さらばだ。地獄へ堕ちろ。」
アルヴァレックはザックの言葉を遮るように自身の言葉で突き放すと、引き金に添えた指に一気に力を込め、発砲した。
ズガアアァァン!!
ザックの額に丸い風穴が開き、ザックの体は後ろへと倒れ、その場に血の池を作った。
「………。」
ザックの返り血を忌々しそうに拭いながら、興味をなくしたようにザックから視線を外すと、踵を返し、セシルの死体の方へと歩み寄る。
頭と胴体が分かれた無惨な姿で倒れているセシルの冷たくなった体の前に片膝をついてしゃがみ込み、ゆっくりと掬い上げるように両腕で起こし、大事そうにしっかりと横抱き(お姫様抱っこ)の状態で抱え込んで立ち上がった。
「…すまない、セシル。」
セシルの遺体に向かってそう静かに、聞こえるか聞こえないかわからないぐらいの小さな声で謝罪すると、本拠地へと再び歩き出す。
アースたちと戦った時より膨れ上がった冷酷な殺意をその瞳に宿らせたまま、死神は歩みを続ける。
(第四戦区:ガイア領獣王連合 終)
【今回の死亡者】
聖十字騎士団副団長:セシル・マレフィコ
牙狼遊撃大隊副隊長:ザック・グリムファング
ー【次回予告】ー
第五戦区「絶体絶命」