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【第二部】第六戦区「覚醒」
「イーサン!?イーサン!!!応答して!!」
フェイが無線の方に叫ぶが、向こうからは何も返ってこない。プツリと音を立てて通信が途絶えたまま、イーサンからの応答がない。
「くそッ、イーサン!!」
フェリックスがいつもの笑顔を消して険しい表情で、イーサンが向かった方向へと追いかけようと一歩踏み出す。だが、フェイはそれを見てすぐに腕を伸ばし、フェリックスの片腕を掴んで引き留めた。
「フェイ!?なぜ止めるんだ!?イーサンが…!!」
「落ち着きな!!冷静になるんだ…!ナディールが来るのを待つんだ!!おそらくこっちに向かってきているはずだ!!」
フェリックスはその言葉に唇を噛み、大人しくその場にとどまった。口ではそう言いながらも、フェイ自身も焦り、動揺していた。
イーサンの無線が急に切れるなど、よほどのことでしか今までなかったからだ。
「─さん、─イさん、フェイさん!!」
遠くから声が聞こえ、ハッとしてその方向を見つめる。ナディールが必死に、汗を流してボロボロの、返り血を浴びた状態で此方へと走ってきていた。
「っ、どうしたの!?」
アースがすぐさま駆け寄って、ナディールの目の前へとしゃがみ込み、声をかける。
「イ、イーサン、っ、イーサン一等兵がッ、!!」
ナディールは迷子になった幼い子供のように泣きじゃくりながら、なんとかした伝えようとするも、嗚咽が混じり、うまく喋ることができない。
初めて人が死ぬという光景を目の当たりにしたのもあるが、それ以上に疲弊したのと混乱で彼女の頭はうまく働くことができなかった。
ナディールは16歳という、帝国軍で最も若い年齢だ。そのため、心も弱く、目の前で人が刺されるという光景や、彼女にとって、あまりにも過度な刺激とショックを与えるものだった。
「チッ、イーサン…!!」
フェイはそれを聞いて、その少ない言葉の意味を察し、悔しそうに舌打ちし、拳を強く握りしめた。フェリックスもその隣でイーサンが行った方向を見つめると、我慢できないとでもいうように、その場から勢いよく地を蹴って踏み出し、走って行った。
「フェリックスさんっ、!!」
アースもそれに気づいて、フェリックスの後を追おうと走り出す。その背後では、残されたナディールを安全な場所へと連れていくように、フェイがナディールの手を引いてサナトリウムへと向かっていた。
数分もかからぬうちに、現場へと二人が到着する。アースとフェリックスの目を引いたのは、信じられない光景だった。
イーサンが胸に深い傷を負い、血をポタポタと流した状態で、直立したままピクリとも動かず静止していた。フェリックスがすぐさま駆け寄り、イーサンの脈を図る。数秒してフェリックスは目を見開くと、アースの方へと顔を向け、首を横に振った。
「…もう生きていない。」
フェリックスは悲しげに目を伏せ、イーサンの死体の方を再度向いた。アースはそれを聞いて呆気にとられた様子で、しばらくその場から動けず、声も出せなかった。
「…(また、僕は何もできないのか?)」
カイの時と同じように、アースは心の中で何もできない自分の無力さに深く嫌悪感を示すが、すぐにその思考は振り払い、フェリックスの横を通り、イーサンの方へと歩み寄り、俯いて下を向いているその顔を覗き込む。
いつも燃えるように輝いていた赤い瞳はハイライトがなくなって虚ろで濁り、彼の命の灯火が消えたことを物語っていた。
「…………。」
アースはそれを見て涙を目に溜め、イーサンのもう二度と動くことがない、冷たくなった体に抱きついた。
揶揄ってくるときもあるし、不器用だけれど、何より仲間を優先し、誰よりも仲間のことを思い、行動していた頼れる先輩。その尊敬する先輩の死を見て、涙を流さずにはいられなかった。
冷たい涙が頬をつたい、ポツリと地面へ落ちていく。その瞬間、心地よい、暖かな魔力がアースを包み込む。
アースは顔をあげ、呆然として自身の手のひらを見つめる。
「アース…君………。」
フェリックスがその横で眉を顰め、信じられないものを見るような顔でアースを凝視した。だが、1番驚いているのはアース本人で、イーサンのような、力強い魔力がアースの体の中へと流れ込んでくる。アースの瞳も青から燃えるような赤へと変化していった。
「…なるほどな。君の能力、発動してるのを見たことがないから分からなかったが…。」
フェリックスが納得したように少し口角を上げて微笑み、頷く。
「君の能力は、"仲間の死を見た時に発動"し、その"仲間の能力を使える"ってわけか。イーサンの火炎を操る能力が、お前に受け継がれたっていうことだ。」
フェリックスが簡単に分かりやすくそう説明する。アースもなんとなくそれは分かっていたが、詳しくは分からなかったため、「なるほど…。」と感心するように頷いた。
「イーサンは死んじまったが…長い間あいつと過ごしてきたからな!あいつの能力は俺も、フェイもよく分かってる。イーサンの能力は攻撃特化だからダメージも高い分、制御が難しいとイーサンも言っていた。」
フェリックスがまたいつもの調子を取り戻したように、片手の人差し指を立ててまるで博識な博士かのようにペラペラと説明する。
「まぁ、君の能力の詳細はこれから戦っていけば分かる。さて、イーサンの遺体を運ぼう。こんなところに置いたままにしておいては、あいつも上でキレているだろうからな。」
茶化すようにフェリックスは「はは、」と笑ってそういうと、イーサンの遺体を背中に背負い、顎で来た道を戻るように、アースを促す。
「…!!はいっ!」
アースは新しく手に入れた、いや、大切な人から受け継いだ能力を大事に持って、フェリックスの前へと立ち、周囲を警戒する。
そのアースの姿は前の弱く逃げ腰だった彼とは違い、頼もしく、成長していた。フェリックスはそれを見て安堵するように微笑むと、歩き出し、アースの後ろをついていく。
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─薄暗い、廃墟のような建物の中。
「…イーサンが死んだか…。」
一人の男が暗闇の中で、聞き覚えのある声のまま無表情でポツリとそう呟く。だがすぐに怪しい歪んだ笑みを浮かべると、糸目のまま、何処か遠くを見つめた。
「…待ってなよ、アースくん。」
(第六戦区:覚醒 終)
【今回の死亡者】
なし
ー【次回予告】ー
第七戦区「再会…?」