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【第一部】第七作戦:消えてしまった人
「…カハッ…………。」
カイの口から、血が溢れる。
彼の胸を、イーサンの持っていた剣が貫いたのだ。
カイの焦点は段々と合わなくなり、その場に膝をつく。
「カイさんッッッ!!!」
アースは悲痛な声をあげ、手を伸ばして駆け寄ろうとしたが、後ろから羽交い締めにされる。
フェイだった。目を覚まし、白パーカーの少女から事情を聞いてすぐさまこっちへと駆けてきたのだ。
「やめておきな、アース!!」
バタバタと暴れるアースを抑えながらも、フェイ自身も動揺していた。
「…ハァ…ハァ…。」
そして、イーサンはと言うと、剣を持っていた腕をだらりと力無く垂れさせ、剣の切先が地面に当たり、カツンと音を立てた。
引き抜かれた衝撃で、カイの胸元からも血が吹き出し、彼自身の軍服や、イーサンの顔を返り血で汚していく。カイはその場にうつ伏せになるようにして倒れてしまった。
「カイ…!カイ!!」
フェイはアースを抑えていた腕を解き、すぐにカイの方へと駆け寄り、その細身の長身の体を起こす。
「しっかりしな!!こんなところで死ぬな!!」
フェイは涙を目に溜めながら、目を閉じているカイに向けて叫びかける。
だが、カイは一向に目を覚ます気配がない。アースも駆け寄り、カイの額を触る。
──冷たい。
「うそ、でしょ………?」
アースの顔は引き攣り、目を極限まで見開いてカイを凝視する。心音も、聞こえるか聞こえないかわからないぐらいに、弱い。
「ッ、すぐサナトリウムへ向かうぞ!!」
フェイはいち早くカイの状況を察し、アースにそう言って、カイを背中に背負うと、すぐ走り出した。
だが、アースは追えなかった。目の前で起きた現実を、認めたくなかった。
嫌だ、そんなこと
また、目の前で誰かが死ぬなんて
「…ッ、なんですカイ伍長を刺したんですか!!」
アースは膝をついて俯いているイーサンの方に顔を向け、涙を流しながらそう叫びかける。
「お前も、わかって、いただろう…!あいつはもう手遅れだ。昔から体力はそんなにないくせに、能力を何度も使用するから…!!」
「だとしても!!僅かな"可能性"にかけて、なぜ助けようとしなかったんですか!!」
「その"可能性"がないから言っているんだ!!!!」
─静寂。アースの声は、イーサンの怒鳴り声によって掻き消される。アースは涙を流しながら、悲痛な表情で、イーサンを見つめるしかなかった。
「今まで、人外化から人に戻ったと言う事例はない…!助けるという方法も、全くな!!」
イーサンは声量を落とさぬまま続ける。歯を食いしばりながら、イーサンも、十分承知した上でした行動だった。
「そ、んな…なんで、ど、どうして…?」
帝国は技術が他国より劣っているということは必ずないはずだ。だから、何かしらその人外化の対策や特効薬などがあるはず。なのに、なぜ無いんだろう。
「お前は新人だから教えてやるよ。俺たち第零特殊異能連隊は、政府にとってただの捨て駒でしか無い。その異能が民に危害を及ばさぬよう、異能者は全員戦場という平和とはかけ離れた場で殺し合いをさせる。だから、異能者が人外化しようと、奴らにとってはどうでもいいことなのだ。」
イーサンは息を切らしながらもそう言い、アースに現実を突きつける。
第零特殊異能連隊に入ることは、名誉あることだと言われた。
なのに、ただの捨て駒でしかなかった…?
すると、カイをサナトリウムに運び終えたフェイが戻ってきた。
「…話しているところすまない。追い打ちをかけるようで悪いが、カイは……。」
「`死んだ`」
「……嘘、ですよね?」
アースは声を震わせながら、フェイの方を見てそう言う。
「嘘じゃ、無い。現実だ。カイは死んだ。あんたにとっては耐えられないことだろう。だが、ここ、戦場ではそんなことが何十回何百回とある。」
フェイは唇を噛み、涙目になりながらもそう言った。
そんなことが何回もあったとしても、カイとは、古くからの友人。カイのことをよく知っており、一緒にいたからこそ、アースよりフェイやイーサンの方が何よりも心の中でその現実を悲しんでいた。
「だが、奴は最後、ベッドの上で目を覚ました。私はやつに質問したよ。なぜ、こんなことをしたのか。そしたらあいつは笑いながらこう言った。」
「『君に俺の何がわかるって言うんだい?』、とな。」
「その言葉を最期に、奴は息を引き取った。サナトリウムの奴らも、流石にこれだけの傷は全部は治せないといっていた。」
「…そうか…。」
イーサンはフェイの言葉に、声を荒げることなく、静かに頷いて相槌を打った。
「………カイ、さん…。」
時には笑い、時には怒られながらも、自分に優しくしてくれた、カイ伍長。
その姿は、辺りを見渡してもいない。
─死んでしまった。