中学一年生が趣味で書いている自創作物語の小説です。
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目次
【第一部】第一作戦:陽が照らす中で
※順次更新します。「短編」カフェですが、私の小説の場合余裕で3000文字超えることがあります。
【国・組織紹介】
【ヴァルハイト大帝国】
高度な魔力科学(魔導技術)で急成長した近代的な軍事国家。実力主義で、冷徹なまでに「効率」と「規律」を重視する。街は黒い鉄や蒸気機関、歯車で構成されている国。
【帝国軍 第零特殊異能連隊】
軍のトップが直属で動かす、選りすぐりの異能者(超能力者)だけで結成されたエース部隊。一般の兵士では歯が立たない「人外の猛獣」や「敵国の騎士団」の首を狩るための隠札。
【ルミナス聖教皇国】
神への絶対的な信仰によって統治された、古くから続く歴史ある宗教国家。巨大な大聖堂を中心に、白い石造りの美しい街並みが広がっている。彼らにとってヴァルハイトの「魔力科学」や人外の持つ「異能」は、神を冒涜する「悪魔の力」であり、それを滅ぼすための聖戦を続けている。
【聖十字騎士団】
異能や人外を「悪魔の力」として排除する、冷徹で美しいエリート騎士たち。
神に生涯の忠誠を誓い、過酷な訓練を耐え抜いたエリート中のエリート騎士団。超能力(異能)は使わないが、信仰心によって発動する「神聖魔術」で異能者を圧倒する。
【ガイア領獣王連合】
人間たちに領土を追われた獣人、竜人、エルフなどの「人外」の諸種族が、生き残るために手をつないだ巨大な部族連合。文明的な建物は少なく、巨大な大樹の内部や、切り立った崖の洞窟などを要塞にしています。自然の精霊と意思を通わせる能力を持ち、大自然そのものを味方にして戦う。
【牙狼遊撃大隊】
圧倒的な身体能力と、自然を操る異能でゲリラ戦を仕掛けてくる人外の軍勢。
狼の獣人や豹の獣人など、トップクラスの身体能力と隠密性を持つ種族で構成された、ゲリラ戦専門の野生部隊。音もなく忍び寄り、人間の首を一瞬で刈り取るため、大帝国の兵士たちから最も恐れられている
【アジール自由聖域領】
激しい戦争の被害から逃れてきた難民や孤児、傷ついた脱走兵たちが身を寄せる、国境線上の完全な「非武装聖域」。どの国もこの領土を攻撃することは国際法(軍律)で禁止されている。質素だが、世界中から集まった医療技術と薬草によって、静かで穏やかな時間が流れる唯一の場所。
【 白十字救済会「サナトリウム」】
国籍や種族、人間か人外かを一切問わず、戦場で行き倒れた命を救う国際医療組織。ここには主人公の敵である「聖騎士」も「獣人」も怪我人として等しく収容される。施設内での戦闘は絶対厳禁。
─[一九三八年 四月五日]─
「…今日から第零特殊異能連隊特攻部隊ニ等兵として新しく入りました、アース・フェアローレンと言います。よろしくお願いします。」
一人の男性が、丁寧に会釈をすると同時に軽く自己紹介をする。
男性─アースの髪はここ、戦場とは場違いだった。空で爛々と燃え盛る太陽に照らされ、首筋で結ばれた銀髪がキラキラと光を反射する。まるで、血に汚れた戦場には不釣り合いな、繊細なガラス細工のようだった。
それは、誰のものかもわからない血が飛び散り、土と混ざり合って異臭を放ち、"人と人が殺し合う戦場"とは不釣り合いすぎていた。だが、アースの瞳には、その地獄絵図さえ見慣れた景色として映っていた。
──彼がこの血臭漂う戦場に身を投じることになったのは、数年前の『あの日』があったからだ。
戦場と似た様に、いや、二十四時間、三百六十五日ずっと人々の怒号や銃声、悲鳴が響き渡っているのは少し違うかもしれない。
アースはそんな中で、ボロボロの衣服を纏いながら、路地裏にあるゴミ捨て場に、壁に寄りかかる様にして座り込んでいた。十分に栄養も摂取できない影響で普通の子供より細く小さな体をしていた。
「…痛い…。」
ポツリとそう呟く。腕や足には怪我をしたのか、包帯が所々巻かれている。彼の両親は彼に何か食べさせる為、彼に其処で待つよう言い、その場を離れてから一切帰ることは無かった。
死んだのか、生きているのか、アースには分からない。ただ、ひどい空腹感と喪失感を抱え、足を抱えて俯いた。
「……母さん、父さん……何処に、いるのッ……。」
涙を流し、嗚咽混じりにそう言うが、そのアースの声は誰の耳にも届くことなく、冷たい風にかき消される。
だが、突如、彼の周りに影が覆い被さる。アースはハッとして、小さな手の甲で目元の涙を拭きながら見上げた。
「大丈夫かい?あんた。」
見上げた先には、軍服を着た一人の女性が立っていた。軍人なのか、軍服の様なものを着こなし、鞘に収めた刀を背中に背負っている。
だが、その女性には、片腕はなかった。アースは呆然としながら、その女性の顔を見つめる。女性は片目は見えず隻眼で、半円型の黒い眼帯をしていた。だが、その視線は氷の様に鋭く、心の中を全て見透かしているかのように見えた。
「…酷い惨状だね、親は?」
女性は辺りを見渡し、座っているアースと同じ目線になるようにしゃがみ込んでそう問いかけた。
「…母さんと父さんは…いない。俺を残していっちゃった…。」
数秒間を空けてから、再び涙が溢れそうになるのをグッと堪え、女性と目を合わせてそう答えた。
「孤児か…チッ、ねぇあんた、名前は?私はフェイ。フェイ・ティミダ。」
女性はアースの言葉を聞き、小さく舌打ちをした後、自分の名前を言うと同時にそう言った。
「……アース・フェアローレン。」
アースも、それに答える。いつもならこういう時はすぐには名乗ったりなどしない。だが、フェイが其処ら辺のやつとは違い、悪い人ではないと直感で察していた。
「いい名前だね。で、アース。」
フェイは頬杖をつき、口元に少し笑みを浮かべてそう軽く褒めた後、アースと目を合わせた。
「私のいる場所も、ここと同じで血生臭いさ。だがね……ここと決定的に違うのは、背中を任せられる仲間がいる。生き残れば、飯も、寝床も用意してやる。──さぁどうする? ここで惨めに野垂れ死ぬか、私の手を掴むか」
フェイはそう言って手袋をはめた片手をアースへと差し出した。アースはその言葉を聞き、フェイの差し出された片手を見つめた後、決意したような鋭い目を向け、小さな自分の手を、フェイの掌に乗せた。
「良い判断だ。じゃあ行くよ、ついておいで。」
フェイはアースの手を強く、痛みを与えない程度、だが絶対に話さないように握り、自身が立ち上がるのと合わせて腕を上げ、アースを立ち上がらせた。
手を握ったまま、前を向いて歩き出すフェイの背中は頼もしく、アースを絶対に死なせないという力強さがあった。
アースはそれを感じながら、フェイの歩みに遅れをとらないないように走り出す。
その時から、アースは既に軍人への一歩を踏み出していた。
──話は戻って白い大きなテントの前。
「あぁ、君が噂の新人くんか。僕はカイ・クレプシス。第零特殊異能連隊特攻部隊伍長の役を担っている。分からないことは聞いてね。」
アースの目の前に立つ男性─カイは、頼りがいのある年長者のような柔らかい笑みを浮かべた。しかし、背後に血の匂いが漂うこの戦場において、その絶えない笑みは、どこか底知れない不気味さをアースに抱かせた。
アースは何処か、心の中で「不思議な人…。」と呟きながら、「はい」と返事をした。
「…さ、まずは僕たちと同じ部隊の主な仲間を紹介しようか。」
カイはそう言うと、テントの中へと入り、アースにも入るよう促す。
促されるままテントの中に入ると、そこにはカイ以外に5人いた。皆軍服を身に纏い、それぞれ話し合っていたが、アースとカイの気配に気づくと、アースの方へと視線を向ける。
「…二等兵、アース・フェアローレンと言います。よろしくお願いします。」
アースは周囲の視線に少し緊張しながらも、同じように挨拶をする。
「こいつが新人か?細い体をしているな、役に立てんのか?」
壁際に立っていた大柄な男性は腕を組み、威圧的な雰囲気を纏い、鼻で笑いながら鋭い視線をアースに向けた
彼は第零特殊異能連隊特攻部隊一等兵、アースの先輩兵士である「レオナルド・イーサン」。
「揶揄うなよ馬鹿イーサン、ここに来たのだから彼も同じさ。」
カイはニコニコしながら間に入り、毒混じりに静止する。イーサンはそれを見て「チッ」と舌打ちをするが、それ以上は言わなかった。カイの方が階級が上である為だ。
「ごめんね、この馬鹿の言うことなんか聞かなくて良いよ。」
アースの方を向き、カイは申し訳なさそうに眉を下げて顔の前で手を合わせてそう言った。二等兵よりも階級が高い伍長がそうする必要はない筈だが、カイのその言葉に突っ込むように「誰が馬鹿だ!」と後ろでイーサンは怒鳴り散らかしていた。
「…あ、は、はい…。」
その様子を見て少し戸惑いながらも、アースは目を見開いて驚いたままそう返事をする。
「さて、君はここ【第零特殊異能連隊特攻部隊】がどういう場所か、知っているかい?」
カイはそのアースの様子を見て満足そうに頷くと、声音を一段落とした。
「世界の理を超越した力……『異能力』を持つ兵士の集まり、とお聞きしています」
「正解。でもね、ここはただの異能連隊じゃない。その中でも最前線を張る【特攻部隊】だ」
カイは細い目をさらに細め、楽しげに笑う。
「ここにいる奴らは全員、敵を殺すことだけに特化した『攻撃型』の能力者さ。治療だの偵察だのといった温い部類は、他の連中に任せておけばいい。僕たちの仕事は、ただ目の前の敵を蹂躙すること。──まぁ、じきに嫌でも拝めるよ」
カイの説明は簡潔だったが、だからこそこの部隊の狂気が伝わってきた。
配属されたアース自身も、確かに異能力を持っている。しかし──彼の持つ能力には、他とは違う特殊な"発動条件"が存在していた。特攻部隊配属といえど、サポートに回ることになるが…。
「ヒューーーー・ボオォォォーーーー!」
突如として束の間の休息は終わりを告げ、法螺貝の音が、高い音から低い音へと引きずるようにして鳴り響く。
アースもその前に説明されたから分かる。
ヴァルハイト大帝国を「悪魔」と呼び、異能者を滅ぼすための聖戦を続ける敵国──【ルミナス聖教皇国】の軍勢が、ついに前線を突破してきたのだ。
(第一作戦:陽が照らす中で 終)
【キャラクターに関する小ネタ】
・アース・フェアローレン…フェアローレンはドイツ語で「救われない者」というような意味
→親を失くした彼にピッタリな言葉。物語後半になると意味がよりわかってくる
・カイ・クレプシス…クレプシスは「偽っている者」という意味のつもり
→不気味な笑みという描写があるように、謎がある存在(後半に影響があるかも…?)
・フェイ・ティミダ…ティミダは「臆病」という意味を持つ
→普段クールで強気な彼女とは真逆(そのうちわかる)
・レオナルド・イーサン…レオナルドやイーサンは「強い」、「勇敢」などの意味を持つ。
→大柄なという描写があるように、強く勇敢なため
【第一部】第二作戦:聖十字騎士団
第一作戦:陽が照らす中で の続きです
「こ、こんなタイミングで…!?」
その法螺貝の音を聞き、アースは眉を顰め、目を見開いて冷や汗を流す。汗が頬を、顎を伝っていく中、一番最初に動いたのは──この男だった。
「とっとと動け馬鹿タレがァ!!!死ぬぞォ!!」
法螺貝の音とはまた違う、低い怒鳴り声。一等兵のイーサンだった。一等兵というだけあって、こういう場面には何回も遭遇し、慣れてきたのだろう。すぐさま剣を取り、並外れた脚力で素早く前線へと向かう。他の兵士も銃や剣を各々持ち、前線へと赴いて敵と対峙していた。金属が、発砲音が、戦場全体に轟いている。
「あ、は、はい…!!」
アースもそのイーサンの声にハッとして、腰にさしている刀剣をスラリと鞘から抜き、イーサンの後を追った。
「…………。」
その様子をカイは目を細めて、"笑顔を消して"無表情で見ていたが、やがて彼も銃を持ち、その場から離れた。
─場面は変わって前線、アース達は敵国【ルミナス聖教皇国】の兵士と対峙していた。暗い、無彩色で構成された軍服である自分たちとは違い、相手は白や、黄金など、自国が「宗教国家」であることを表すような色の軍服を身に纏い、激しい猛攻を仕掛けてくる。
「(やばいっ、このままじゃ死ぬ……!!)」
刀剣を持っている腕をなんとか動かし、歯を食いしばって相手からの攻撃を防いでいるが、それすらアースにとっては必死だった。相手の一撃一撃が重く、アースの体力を削り取っていく。周りにも敵兵が応援に来ているが、それに意識を向ける暇すらない。
『異能を使い、醜く生き、争うしか脳がないバカが。さっさと死ね。』
アースと対峙している敵兵からの罵詈雑言。アースはそれに憤りを感じるも、相手が悪すぎる。アースが必死な一方で、相手はその動きを冷めた目で見つめていた。表情も全く変えず、機械的にさえ感じられる動きでアースの体に傷を負わせていく。アースの軍服や顔は自身の血や地面の土まみれで、その端正な顔を汚していく。
体力が持たない。そろそろ限界を感じていたその時─
「うちの可愛い後輩に何してんだァァァァァッ!!!!」
耳をつんざくような高い声の怒号。敵兵の後ろから人が跳躍して現れる。太陽を背にしている為、顔が影で隠れて分からなかったが、アースにはその声ですぐ誰かわかった。
「フェイ曹長!?」
アースは驚いて閉じかけていた目を見開き、敵兵の意識もフェイの方へと向けられた。
ーーーキイイイイィィィンッッ!!!
フェイの持つ刀と相手が持つ剣がぶつかり、甲高い金属擦過音が、両者の刃から響き渡る。
「ここは私に任せてお前は後ろで治療してもらっとけ!!!」
敵の刃を回避し、受け止めながらフェイは後ろも見ずに、アースの方へとそう叫んだ。
「…!すみません!!すぐ戻ります!!」
フェイのその頼もしすぎる言葉と、片腕片目で戦うフェイの圧倒的強者の姿を見ながら、何もできない自分の無力さに悔しさを感じ、唇を噛みながらアースは踵を返して、地面を蹴ってフェイに背中を向けて後ろへと走り去っていった。
「(なんとかアースを逃がせたはいいものの、どうするか…。こいつの噂は聞いている…アルヴァレック・スピエタート…ルミナス聖教皇国の聖十字騎士団団長…こりゃあとんだ大物が来たもんだ。)」
フェイはそのアースが去っていく足音を聞きながら、敵兵─アルヴァレックの方へと向ける。曹長であるフェイも十分に強いのだが、相手の力量は計り知れない。なぜなら、"汗ひとつ流すことなくフェイの攻撃を防いでいる"からだ。
『…自分を犠牲にし、何もできない無能を逃すか。そんな情は、戦場にとって邪魔でしかない。』
アルヴァレックは去っていくアースの背中を見て、それからフェイの方へと視線を戻した。底冷えするような言葉。
ルミナス教皇国がヴァルハイト大帝国を【悪魔】と見ているのと似たように、アルヴァレックはフェイのことをなんとも思っていないようだった。彼の口元にはなんの表情も浮かんでいない一方で、瞳だけは海のように冷たく、見られているだけで自分の芯が冷えるような青い海の色をしており、輝いていた。
「ハッ、あんたからは無能に見えるかもだけど、私にはあの子が将来、とんでもない大物になる未来が、見えているぜ?」
フェイはその言葉を鼻で笑い、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。だが、余裕そうに見えているが、フェイは結構体力を失っていた。なぜなら、フェイはここから離れた別の前線にいたからだ。だが、アルヴァレックとアースが対峙しているのを聞き、すぐさま其方へと長い距離を移動した為、体力も削られている。そして聖十字騎士団団長という名を持つアルヴァレックの異様な攻撃の重さも原因だった。アルヴァレックが五体満足なのに対し、フェイは片目と片腕を失っている。ハァハァと息を切らしながら、アルヴァレックの持つ剣を弾き返していく。
『…そうか。なら、そうなる前に、叩き潰すまでだ。お前も同じでな。』
アルヴァレックはフェイの言葉を聞いてそういうと、片手を剣の柄から離し、腰の方へとかけ、何かを抜いて銃を取り出した。
「…っ!?まずっーー」
フェイもそれを見て汗を流し、地面を蹴ってその場を離れようとするが、足元の地面が血でぬかるんで動けない。
アルヴァレックの指が、銃の引き金へとかけられる。
ーヅガァァン!!
その直後、銃撃音が、響く。
フェイの、胸元を、銃弾が、貫いた。
(第二作戦:聖十字騎士団 終)
【キャラクターに関する小ネタ】
・アルヴァレック・スピエタート…スピエタートは「無慈悲」「容赦がない」などの意味を持つ
→作中でもある通り、冷酷な一面が見られる為
【第一部】第三作戦:出来損ないの私
第二作戦:聖十字騎士団 の続きです
ーー視界が、暗くなる。
時間の進む速度が、遅くなったのように感じられる。
皆、呆気に取られていた。高い実力を持つ曹長が、胸元を、貫かれたからだ。
「…ガハッ…。」
フェイの口から大量の血が溢れ、彼女の白いポロシャツや黒いコートを紅に染めていった。
自慢の刀は手から離れ、手を伸ばそうとしても体はいうことを聞かず、そのまま地面へと落ちていく。
「(あぁ…終わりかぁ…こんな、ところ、で……。)」
…思えば、どうして私は曹長になったんだろうか。
確かあの日だったはず。
私の家は上級貴族だった。そんな中、私は生まれつき片目の色が違い、視力も貧しかった。何をしようとしても上手くいかない。
そんな私を、両親は「醜い」「穢らわしい」などと吐き捨て、私の存在を表に出そうとしなかった。貴族の名を汚さぬ為だったんだろう。だけど、そんな中私の兄さんだけは違った。
私よりも、才能がある筈なのに、見捨てればよかったのに、両親とは違い、私のことを気にかけてくれていた。
「綺麗な瞳だね、フェイ。まるで宝石のサファイアみたいに、輝いている。」
そう温かい笑顔で微笑みながら、私の頭を大きな手で撫でてくれた。そんな兄さんの温かい手が、撫でてくれる手が好きだった。
兄さんとなら、どこへだって行ける。でも、叶うことはない。兄さんは家の次期当主だ。こんな醜い私と一緒にいては、両親から、周りからいいように思われない。
だから、逃げた。
夜中、家を抜け出し、裸足の足で走って、走って、遠くへ行った。
誰も、追いつけないほどに、何処まで行ったか、分からないぐらいに。
その後の家のことはあまり覚えていないけど、家を抜け出して数年後、こんな噂を耳にした。
「ねぇ、???家の次期当主様、自殺しちゃったらしいよ。」
『そうなの?才能があって人気もあったのに?』
その言葉を聞いた時、私は信じられなかった。本当かもどうかも分からないけど、嘘であってほしい。
本当ならば……
なぜ、貴方が死ぬ必要があったのか。
私よりも才能があって人気もあって誰からも愛されている、神の子の様な扱いを受けていた貴方が!!
醜く才能もない、「出来損ないの私」の方が、何故生きているのか!!
私は、路地裏の壁に寄りかかって、膝を抱えて座った。泣いて、泣いて、泣きまくった。
私に優しくしてくれた兄を見捨て、家を出た私が憎い。臆病な、自分が憎い。
でも、今更戻る気はない。兄さんのいない家なんて、世界なんて、価値がない。ならいっそ、地獄への道を歩もうか。
でも…少しでも、誰かのために、今自分と同じように泣いている誰かのために生きたい。
「…私が、救うんだ。」
例え同じように地獄への道に引き摺り込んでしまうようなことがあっても、今、寄り添ってくれる人のいない私みたいにはさせない。
私が、誰かに寄り添う人になるんだ。
そこからは、強くなるために鍛えた。旅に出ていた時に落ちていた刀を拾って、誰かを襲っているやつを切って、名前も知らないけど、人を救った。
感謝されることもあれば、罵倒されることもあった。でも、どうとも思わなかった。私が好きでやっているから。好きで人を助けているから。罵倒なんてされたって、ちっとも気に病む必要なんかない。
ある日、国から手紙が届いた。
【徴兵令届】
そう書いてあった。丁度いいかもしれない。私はそこから、軍人になるための道を歩んだ。途中で敵兵と戦って片腕を失うこともあった。私の強さは才能なんてものじゃない。努力して、手に入れた「力」だ。
軍曹になったある日、最近治安が悪いと聞くスラム街を見回っていたら、路地裏に小さな子供を見つけた。
壁に寄りかかって座って泣いていた様子が、過去の自分と酷似していた。この子は私とは違い、綺麗な見た目をしていた。それも、こんな汚い場所とは場違いなほどに。声をかけ、親は何処にいるのか聞いた。
「母さんと、父さんは…いない…俺を残していっちゃった‥…。」
嗚咽混じりにそう話す彼。こんな小さい子供を残していったのか。だが、彼に傷があまりないあたり、少なくとも両親はカスなやつではなかったのだろう。
「あんた、名前は?私はフェイ。フェイ・ティミダ」
名前を聞いてみた。あんな家の名前は捨て、昔拾った本に書いてあった、「ティミダ」という、「臆病」の意味を持つ言葉に変えた。
私には、お似合いだろう。
「アース…アース・フェアローレン」
幼い子供、アースはそう言った。フェアローレンは確か、「救われない者」だった気がする。ますます自分と同じように見えた。でも、私にはこの子を見捨てる選択肢はない。
私が、この子に寄り添い、仲間を、手に入れさせてあげるんだ。
そう思って言った私の言葉を聞き、彼は決意したように私の差し伸べた手に小さな手を乗せてきた。羽毛のように軽い、小さな手。私はその手を離さないよう、しっかりと握り、彼を戦場へと、軍人へと向かえた。
こんな小さな子供を軍人にするなんて、私は酷いやつだ。けど、それ以外の選択肢がなかった。
いや、見つけられなかっただけで、本当はあったのかもしれない。それを見つける"目"が、私にはないんだ。
でも、アース…あんたが生きられるなら、私は自分を犠牲にだってできる。そんな狂気さえ持っている私に、これ以上毒されないように。
けれどーーー
「フェイ曹長ッッッ!!!」
聞き覚えのあるその声によって、私の意識は強制的に引き戻された。ガシッと、私の体を地面にぶつかる寸前で、細い、でも鍛えられた腕が支えた。閉じかけていた瞼を持ち上げると、そこには見慣れた顔があった。その綺麗な瞳に涙を浮かべながら、此方をみているアースが。
「ここで、貴女に死なれると、困るんですよ…!!僕をもっと、鍛えてくれるんでしょう!?」
アースはそう言って私の体を担ぐ。が、目の前には今もあいつがいる。
『…戻ってきたか。手間が省けた。』
アルヴァレックはそう言って銃をもう一度構え、アースの方へと銃口を向けた。アースも刀剣を空いている片手で持ち、構えをとったその時ーー
「オラァァッッ!!」
低い、野太い声が響く。刹那、誰のか分からない血をその体に浴びまくったイーサンがアルヴァレックの背後から剣を持って急襲を仕掛けた。
『な……っ!?』
予想外の敵に流石のアルヴァレックも取り乱し、銃を手放し剣を構えた。刃と刃のぶつかり合う金属擦過音が再び響き渡る。だが、イーサンは体格を見れば分かるが馬鹿力の為、アルヴァレックの刀の方が押し負けている。
『チッ…!』
アルヴァレックも不味いと思ったのか、舌打ちをして体を横へずらして体勢を低くしイーサンの剣を危機一髪で回避する。イーサンの剣が地面に突き刺さった際に起こった土埃が、アルヴァレックの白い軍服を汚していく。アルヴァレックはそれすらも気にせず、後ろへと地面を蹴って下がった。
『全員、一度撤退だ!』
アルヴァレックの声が響き渡る。それを聞いた他の聖十字騎士団の兵士たちも、剣を収め、その場から離れた。アルヴァレックは此方を忌々しそうに睨んだ後、自身もその場から消え去った。
「やった…敵が引いたぞ!!!」
一人の兵士がそう叫んだ。それに呼応するように、周りからは大地を揺るがすような勝利の雄叫びが響き渡る。
「…あー、チッ、お前、何してんだよ。曹長ともあろうお方が、そんなボロボロになって二等兵の小僧に担がれてるなんてよ。」
剣を肩に担ぎ、イーサンが小馬鹿にするように鼻で笑ってそう言った。
「まぁまぁ、いいじゃないか。絆…というものだよ。」
その後ろからいつも通りニコニコしているカイがいつの間にかが姿を現し、イーサンの背中を刀の鞘で小突く。
「イッテェ!何すんだテメェ!」
「なにも、君が目上の人を馬鹿にするのが悪いんじゃないか?」
キレ散らかすイーサンに対し、カイは呆れるように笑って馬鹿に仕返した。
「さ、後ろで治療してもらおう。早くしないと死んじゃうしね。」
カイは視線をフェイに戻し、アースからフェイを受け取り担いで歩き出す。
「すまねぇな…やっぱり私はみっともない。」
自嘲気味にフェイは笑って、弱々しく掠れた声でそう呟く。
「みっともなくないですよ!曹長はすごいですから!」
アースは明るい笑顔を浮かべて笑って、励ますかのように言った。フェイはその言葉を聞いて、「そうかい…」と目を伏せて、でも少し嬉しそうに微笑んだ。
夜に近づくにつれ、太陽が落ちていく中、皆揃って歩く彼らの道を照らすように輝き続けていた。
(第三作戦:出来損ないの私 終)
【第一部】第四作戦:白十字救済会「サナトリウム」
第三作戦:出来損ないの私 の続きです
ルミナス聖教皇国の急襲を退けて数十分後ーー
アース達4人は重傷を負ったフェイを治療するため、白十字救済会「サナトリウム」へと向かっていた。
「ここが、白十字救済会「サナトリウム」…!」
アースは後ろの方を歩きながら、目の前にある建物を見上げ、呆気に取られていた。
それは、質素だが戦場とはかけ離れた清潔さを漂わせる白い建物だった。そこでは、敵味方問わず、怪我を負った兵士たちが等しく収容されており、治癒特化の能力・魔術を持つ救命士が治療を行っている。
「僕たちはもう何回も来てるよね。よくお世話になっているよ。主にイーサンが(突っ込んで怪我ばっかするから)」
カイはフェイを背負ったまま、アースの隣に立ってそう言った。しれっとイーサンを小馬鹿にするのは忘れないまま。
「うるせぇな…早く中に入るぞ。」
イーサンは忌々しそうに「チッ」と舌打ちしてキレながら、先頭を歩いてドアを開け、中へと入った。
中では、同じく帝国軍の兵士、それから聖十字騎士団の兵士までもが揃って治療を受けていた。ただ、施設内での戦闘は絶対厳禁である為、暴力などは振るわないが、お互いの敵意は隠さぬまま睨み合っているところもある。
「あ!怪我人ですかァ!?」
そんな中、一人の、ナース服を着た10代半ばと思われる少女が救急箱を持って忙しなく動き回りながら、アース達を見て目を丸くしてそう大声で言った。
「こいつだ。胸を銃で打たれた。心音もどんどん弱くなっている。」
イーサンがカイに背負われているフェイを指差し、威圧的な態度は変わらぬまま簡潔に説明する。そのイーサンの態度に女の子は「ヒッ…!」と怯えながらも、「わかりました!」と言って、慌てながらも治療を始めようとする。
「こら!そんなに慌てたら、怪我人の傷を完璧に治すことはできないよ!」
その慌てふためく女の子の様子を見て、白いパーカーを着た女の子が姿を現し、そうキリッとして叱りつけた。
「ひぇえ…ごめぇん…。」
「泣く暇があったらさっさと準備!怪我人優先!」
泣くナース服の女の子に対し、白いパーカーの女の子は再度叱ると、呆然とするアース達の方に向き直る。
「重症者ね!じゃあ、そこのベットに優しく運んで!」
パーカーを着た女の子は手を腰に当て、片手で空いているベットをビシッと指差す。
「オッケー。分かったよ。」
カイはニコニコとしたままそういうと、ベットの方に向かって歩き、背負っているフェイをゆっくりと、仰向けになるように寝転がさせた。
「準備できたよぉ〜!」
ナース服の女の子が、まだ涙目のまま、タタッと軽快な音を立てながら、細い足で駆けつけてそう言った。
「ん!上出来!じゃあ、ちょっと離れててね!治療するから!」
パーカーを着た女の子はそれを聞いて、満足そうに微笑むと、アース達を「しっし!」と手で追い払うような仕草をする。アース達もそれに従って距離を取ると、女の子はパーカーの袖を捲り上げ、目を閉じて深呼吸をする
「スゥ……【聖天の慈雨】!!」
女の子がそう詠唱すると、暖かな緑色の魔力がフェイの体を包み込み、胸の今でも血が流れる傷口を癒し、まるで逆再生かのように塞いでいく。
「わぁ……!すげぇ……!!」
アースもその美しさ・手際の良さに感動し、目を見開いて目を輝かせながらそれを見守る。
「いつ見ても圧倒的だねぇ〜、白十字救済会「サナトリウム」の人の治癒魔法は。」
カイもアースの隣に立ち、いつまで経っても絶えることがない笑顔のまま、ニコニコしながら片手を顎に当て、静かにそう呟いた。
数分経った後、緑色の魔力は女の子の体の中へ戻っていき、その時にはフェイの胸にあった傷は消え去り、元通りになっていた。と同時に、フェイの閉ざされていた瞼が、ゆっくりと持ち上げられる。
「…あ………。」
先程まで虚ろだった瞳は光を取り戻し、頬にも赤みが戻っており、完全に回復したようだ。
「フェオ曹長!!大丈夫ですか…!」
アースはベットの縁に素早く駆け寄り、フェイの片手を握って心配そうに眉を下げながら、顔を覗き込みそう言った。
「あぁ…大丈夫だよ。この子が治してくれたおかげさ。」
フェイはその様子を見てフッと笑ってそう言い、体を起こし、アースの頭を撫でる。
「ふふん!白十字救済会の力を舐めないでよね!」
白いパーカーの女の子は満足げに、ドヤ顔で鼻を鳴らしてそう言った。
「いや別に誰も舐めてないが。」
それを見てイーサンは眉を顰め、腕を組んだまま珍しく(?)まともなツッコミを入れた。
「なによぉ!ちょっとカッコつけるぐらいいいでしょぉ!」
そのイーサンのツッコミに白いパーカーの女の子はみるみる顔を耳までゆでだこのように赤くし、イーサンの腕をポカポカと小さい手で殴りながら、馬鹿正直にそう大声で叫ぶ。だが、イーサンはその様子を鼻で笑っているだけで、相手にしようとしていない。
「ははっ、まぁ良かったよ、フェイ。君の傷が治って。」
カイ二人のやりとりを見てそう小さく笑うと、フェイの方をくるりと向いてそう言った。
「そりゃどうも。これでまた、前線で暴れることができるよ。」
フェイもベットから降りて、前髪をかきあげ、額に片手を当て、もう片方の手を腰に当ててまた頼もしそうに笑う。
「よかったぁ…でも、無理はしないでくださいね!僕、ああ見えて普通にめちゃくちゃ怖かったんですから!!」
アースはホッと胸を撫で下ろしてそういうが、眉毛をキリッとして人差し指を立ててそう叱るように言った。
「ハッ、曹長が二等兵に怒られてやんの。」
すかさずイーサンが笑ってそう言うが、カイに「イーサンもこう言うことあったでしょ」と言われ、黙り込んだ。
「じゃー、一回敵も退けたことだし、今夜はパーティーだ!!」
フェイがそう言って片腕を振り上げて、先程の弱々しい姿は嘘かのように満面の笑みで宣言する。
「おっ、じゃあ酒は持ってこないとな。いくつか在庫がある。」
イーサンもニヤッと笑って賛同する。
「お、お酒…!?僕、飲めないんだけど…!?(18歳)」
アースは目を見開いて冷や汗を流し、オロオロしながら慌てる。
「ガキは黙って茶でも飲んどけ。(イーサン」
「お茶あるんだ!?(アース」
いつも通りわちゃわちゃしながら、白十字救済会「サナトリウム」を抜け、自分たちの拠点へと歩いていく。
「……………。」
カイはそんな中、一番最後尾で無表情で俯いたまま歩いていた。瞳にハイライトはない。
「…楽しそうだね(ボソッ。」
そう聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな独り言は風にかき消され、カイは顔をあげて足の速度を速め、輪の中へと入っていった。
(第四作戦:白十字救済会「サナトリウム」終)
【第一部】第五作戦:真夜中の出来事
第四作戦:白十字救済会「サナトリウム」 の続きです
フェイが「パーティー」と宣言して少し経った後ーー
「おらぁ!もっと飲め飲め!」
フェイは軍の紋章の描かれたラベルが貼られた酒瓶を片手に持ち、アースの肩に腕を回して顔をうっすら赤らめて酔っていた。普段のクールな彼女からは少し意外な、無邪気さが見える。
「だから、僕は飲めないんですってば…。」
酔ったフェイのあまりにも近すぎる距離感に、酒を飲んでないはずのアースの顔まで心なしか赤くなっている。アースは麦茶の入ったボトルを片手に持ちながら、静かに焦っていた。
「おいガキ、顔が赤くなってるぞ。」
それを見たイーサンが、同じく酒瓶を片手に持ちながらも全く酔ってない様子で、口元を不敵に歪めて笑って揶揄った。
「ふえっ!?あ、赤くなってないですよ!熱いんです!」
アースはその言葉に驚きと恥ずかしさで更に顔を赤くし、空いている片手を顔の前に持ってきて顔を隠すようにした。完全に図星のようで、本人は必死だが、周りから見ればただの"照れ隠し"にしか見えなかった。
一方でフェイは酒瓶に入った酒を飲みながらも、ウトウトし始めている。
「ったく、三十路も超えて、ずっと下戸(げこ)のままだな、フェイは。」
イーサンもアースのその様子を面白そうにしながらも、フェイの方を見てそう呟いた。
「あ、そういえばお酒って飲めるんですね…戦争中にお酒ってあんま聞いたことなくて。」
「まあな、俺たちの生まれたヴァルハイト大帝国の帝国軍は他国との貿易が盛んだ。そのおかげで、俺らのような泥臭い軍人でも、普通は高級な酒が飲めるってわけだ。ま、お前には関係ないだろうがな。」
アースがふと思い出したように問いかけると、イーサンは真夜中、空に浮かぶ満月を見上げながらそう話す彼の声音に、いつも通りの荒々しさや威圧感はない。彼の端正な顔が、明るく燃えるような赤髪が、月光に照らされて美しく光り輝いている。
「─で、お前はいつからそこにいたんだ?カイ。」
イーサンがふと視線を地面に落とし、後ろも見ずに声を一段と低くしてそう言った。アースもその言葉に驚いて辺りを見ると、空いていた一個の席に、カイが座っていた。
「いつからって‥ついさっきさ。上に報告してたからね。」
カイは平然とし、いつも通りの笑顔を絶やさずに酒瓶に入った酒を飲みながらそう答える。アースは彼がいつの間にか、"音も気配もなく"座っていたことに、ただただ疑問と困惑することしかできなかった。
「お前は前からそうだったよな。勝手にどっか消えたかと思えば、いつの間にか近くにいる。」
イーサンが少し苛立っているような声でそう言うと、立ち上がって座っているカイの目の前に立ち、彼を見下ろす。イーサンの大柄な体躯が作る影が、カイを覆い、辺りを暗くする。
「なぁ、お前の体から血の匂いがするのは気のせいか?聖十字騎士団のようなやつじゃない…俺たちの仲間の匂いが。お前、殺したんじゃないだろうな?」
イーサンは眉を顰め、カイの瞳を真っ直ぐに、自身の深紅の瞳で見つめてそう問いかけた。アースはそのイーサンの言葉にさらに困惑し、眉をハの字にするようにして下げ、眠っているフェイの背中に片腕を回して体を支えながら、カイの方に視線を向ける。
「…匂いまで嗅ぎつけるなんて、本当に犬みたいだね、イーサン。」
カイははぁ、とため息をつき、目を開いてイーサンの目を見つめ返す。燃えるような深紅の瞳を持つイーサンとは対照的にカイは、あのアルヴァレックに似た、底冷えするような海の青い瞳をしていた。そこに笑顔は一切ない。口を固く閉ざし、真一文字に結んだまま、本性を表した。それこそ完全に、「聖十字騎士団団長・アルヴァレック・スピエタート」のものと全く同じだった。
「やっぱりそうだ。お前、帝国側の人間じゃないな?」
イーサンが腰に下げた剣の柄へと手をかけ、いつでも引き抜ける準備をする。対するカイは、そんなことも慣れたとでもいうように、冷徹に、無表情で冷めた目で見つめていた。
「せっかく、俺が、何度も、何度も、計画して実行してきたのに、縁というのは残酷だね。」
カイは首を傾け、再びあの笑顔の仮面を貼り付けて笑った。いつもの優しいカイ伍長ではない。ただただ不気味な、化け物という風にしか、アースには見えなかった。
「う、うそ…??」
状況を察してしまったアースは絶句し、カイを恐怖と悲しみが混じった瞳で見つめる。
「嘘じゃない。真実だ。お前、何をしようとした!!!」
イーサンはチッと舌打ちをし、アースに現実を突きつけた後、轟くような怒鳴り声で叫びながら、剣を鞘から「シャラァァァァン」と音を立てて完全に抜いた。
「うるさいな、鼓膜が痛いじゃないか。」
カイは笑顔で目を細めたまま、言葉とは裏腹に全く気にしていない様子でそう言った。
「思い出した。お前があの日、一人で屋上で立っていたのは……!!!」
「お前が、ミゼリアを、俺の恋人を殺したのか!!!」
イーサンがハッとして目を見開き、声音を落とした直後、雷のような、天を裂く声で怒鳴り散らかした。彼の異能の力が、小さな火花となってパチパチと音を立てて弾ける。
「気づくのが遅いよイーサン!そうさ!殺したさ!あんなクソ女、死んで当然だったさ!」
カイも目を見開いて狂ったように笑いながらそう衝撃の事実を口にした。同じくカイの異能の力も、冷気となって周囲を凍らせていく。
「…まずい!みんな、離れろ!!」
このままでは危ないと悟ったアースは、眠っているフェイの体を担ぐと、自身の刀剣を腰に下げてその場から離れると同時に、周囲の他の兵士にも大声で叫んで知らせた。
アースは走って、再度サナトリウムへと走っていった。
「なにーってまた貴方!?」
数十分後、白いパーカーを着た少女がアースに気づいて驚きの声を上げた。
「フェイ曹長を頼む!!」
アースはベットの上にフェイを横たわらせると、そのままサナトリウムの建物を駆け出していった。
「あっ、ちょっとー!!」
少女の叫び声も虚しく、既に十数メートル離れた彼の耳に届くはずもなく、少女は額に手を当てながら、俯いて「やれやれ」と呆れたようなため息をついた。
「はぁ、はぁ…」
呼吸を荒くしながら、イーサンとカイがいる方へと、疲労が溜まっている足を必死に動かし、痛みに耐えながら駆け抜けていく。首筋で結ばれた二つ結びが走る際に起こる風によって揺れ、月光を反射しながら輝く。
「(止めなくちゃ、二人を。あの二人を争わせたら、絶対にダメだ。)」
本能としてそれを感じながらも、苦しそうに顔を少し歪めながらも、足を動かし走り続ける。
とんでもないことに巻き込まれたと、悟りながらーー
(第五作戦:真夜中の出来事 終)