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【第一部】第六作戦:二人の怪物
第五作戦:真夜中の出来事 の続きです
ー走って、拠点へと向かう。
二人を、イーサンとカイを止めるために。
僕の大事な、仲間を失いたくないから。
「ッ、はぁッ!はぁっ!」
昔から体力が、体が弱かったから、息がすぐ切れる。呼吸しようとしても、肺から酸素が逃げていくようになくなっていく。
そんなことは、戦場では通じない。限界を超えても、僕は、僕のために動き続ける。そんな思いを胸に、やっと拠点へと戻った。
そこは、文字通り地獄絵図みたいな場所に変わり果てていた。テントや、周囲の木が焼け焦げ、パチパチと火花を散らしている。黒煙が上がっているところもあり、とても耐えられないような異臭が鼻をつく。
反対に一部が凍りつき、冷気が漂い、瞬時に周りを凍り付かせていっていた。
もちろん、すぐに察した。カイ伍長と、イーサン一等兵の能力だ。よくよく見てみると、カイ伍長とイーサン一等兵がお互いに武器を手にして立っていた。
「チッ……。」
イーサンは小さく舌打ちをし、目の前にいるカイを睨み付ける。アースがいなかった数十分間、何が起こったのか、二人とも体に傷を負い、血を流していた。
鮮血が、互いの軍服を汚していく。
「ねぇ…イーサン。君はどうしてそこまで彼女の仇を取ろうとする?あんなクソ女、死んで当然だったんだよ?」
カイは眉を顰めながらも微笑み、息を切らしながらイーサンに問いかけた。
「………血も涙もないお前に、わかるはずないだろうな。」
イーサンは剣を杖代わりに地面に突き刺し、柄を握ってそう答える。
「………………そう。」
長い沈黙の後、カイは短く相槌を打つと、その場から一瞬で消え、イーサンの真上から現れ、月光を背に浴びながら手に持っている剣を振り下ろす。
ーーガキィィィィィン!!!
夜明けが近づく一方で、かつて仲間だった二人が、二人はお互いを殺さんと、剣を振るう。
そんな光景に、アースは耐えられるはずもなかった。
「やめてくださいッッッ!!」
涙を流し、泣き叫ぶ。止めようとしても、なぜか恐怖に足が、手が動かない。
刀剣の柄はしっかり握りしめているものの、動き出し、二人を止める勇気も、実力もない。
またあの時と同じように、自分が無力なせいで、誰かが傷つく。
いやだ、あんなこと、繰り返したくない。
でも、行動できない………。
涙を流すことしか、できない。
こんなこと、夢であって欲しい。二人が争っていることなんか。
認めたくない。
「あはははは!ねぇイーサン、君はあの日、何をしていた?酷い量の血溜まりの中倒れている彼女を見て、何をした?お前は何も!行動できていなかっただろう!!ただ現実から目を背けようと、その場から逃げただろう!!彼女は息があったかもしれない!そんな可能性にかけること、助けようともせず!」
耳をつんざくような、狂気の笑い声が響き渡る。カイは笑いながら、イーサンに攻撃を仕掛けながら、イーサンの精神を、過去を抉るように叫ぶようにそう喋り続ける。
「お前は!!勇敢でもなんでもないよな!!周囲から褒め称えられても、それが過去の傷を!罪を!消すことなどできやしない!!」
剣と剣がぶつかり合う金属擦過音が響きわたるが、そんな中でもカイの声は途切れずにイーサンの耳に届き続ける。
「あぁそうさ!!俺は勇敢でも、強くもない!!過去の罪を隠し、正義を気取っているただの弱者だ!!」
それに応えるように、イーサンは低い声で叫び返す。いつも威圧的だった彼からは想像もできない、"悲しみと後悔"の感情が、その声には混じっていたような気がした。
「じゃあなぜ!!俺を殺さない!!お前がその気になれば俺など、殺せるはずだ!!まさか、もう二度とあの日のようなことは起こしたくないから、手加減しているのか!?そんな感情、戦争では無意味だ!!隙を見せているようなものだ!!」
カイは怒りを露わにし、素早く動きながらイーサンを追い詰めていく。
「ッ、馬鹿野郎!俺みたいな弱者に、そんな決断、できるわけないだろ!お前はいつも周りを巻き込んで、騒ぎ、周囲から信頼されていたよな!俺が誰かを揶揄っても、必ず何かを言ってくれた!お前みたいな才能がある奴が、俺みたいなカスに構う必要などないのに!」
イーサンも激しく動き、耳元のイヤリングをチリンと音をたてて揺らしながら、カイの猛攻を止めようと、剣を持つ腕を動かす。
「だが今はどうだ!?俺は今こうして、お前を、帝国を裏切っている!みんなの信頼など、何もかも無視してさ!!」
カイは即座に言葉を紡ぎ、イーサンの言葉にそう返していく。
そんな中、アースは気づいてしまった。
─カイの白目が黒に染まり、人外化しようとしていることに。
基本的に能力者は、自身が決めた回数・または元から使用できる回数を超えて使用してしまうと、"人外化する恐れ"がある。
人外化すれば、理性を失い、周囲を無差別に攻撃するただの怪物になってしまう。
そして、人外化の予兆として、今までに起こった人外化の共通点から、本来白目である部分が黒目に変わる・言語がノイズ音のようなものへと変化するという特徴がある。
カイもそれを知っているはずだった。だが、イーサンとの激しい戦いを続けるたびに彼は能力を使用していた。イーサンと比べ、カイは体力がない。イーサンは体力が多いから人外化していない。
「……!!」
イーサンはカイの体の異変に気づき、歯を食いしばる。
「ッ!?」
カイの剣を持っている手首を掴み、行動できなくなった一瞬の隙をつき、
自身の持っている剣を、カイの左胸に深く突き刺した。
(第六作戦:二人の怪物 終)