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ともしび山の大きなどんぐり
ポケモンのビッパのお話です
雪深い北の果てにある、大きくて古い火山。いまはもう煙も出ないその山は、ふもとに暮らすポケモンたちから「ともしび山」と呼ばれていました。
その山のまんなかあたり、大きなしだれ桜の木の根元に、小さなビッパの「ポポ」が暮らしています。ポポは生まれつき体が少し小さく、泳ぐのも、木をかじるのも、他のビッパたちのようには上手くいきません。けれど、ポポには誰にも負けない大好きな仕事がありました。
それは、秋の間に山中を歩き回って、まるまると太った「大きなどんぐり」を集めることです。
第一章:金色のどんぐり
「よし、これでちょうど百個目!」
ポポは、じぶんの体ほどもある大きな革の袋に、最後のみがきあげたどんぐりをそっとしまいました。
ともしび山の冬は、凍えるほど寒く、そしてとても長いです。ポポの集めたどんぐりは、ただの食べ物ではありません。冬の間、寒さで凍えるポケモンたちがポポの家を訪ねてきたとき、みんなで囲むあたたかいスープの材料になるのです。
ポポが袋の口をぎゅっと結んだそのとき、カサリ、と頭の上で音がしました。
見上げると、しだれ桜の枝に、一匹のチルットが止まっていました。名前は「チルル」。チルルはこの山で一番の旅人でしたが、今年の秋のはじめに羽をすこし痛めてしまい、飛ぶのがすこし苦手になっていました。
「ポポ、今年もたくさん集めたね。でも、天気予報のキャモメたちが言っていたよ。今年の冬は、百年に一度の大吹雪になるんだって」
チルルは心配そうに首をかしげました。
「百年に一度……? じゃあ、このどんぐりじゃ足りないかな」
「うーん、山の裏側に住むウリムーたちや、ふもとのピチューたちも、みんな困るかもしれない。みんなを温めるには、もっとたくさんの薪や、もっとたくさんの食べ物が必要だよ」
ポポは小さな手で、じぶんの短いしっぽをぎゅっと握りしめました。
「ぼく、もう一回、山のてっぺんまで行ってくる。あそこには、誰も採らない大きなブナの木があるんだ。そこなら、まだどんぐりが残っているかもしれない」
「待って、ポポ。僕も行くよ。飛ぶのはゆっくりだけど、上からどんぐりを探すことならできるから」
こうして、小さなビッパと、羽を痛めたチルットの、冬支度の旅が始まりました。
第二章:ともしび山の出会い
山を登るにつれて、風はだんだんと冷たくなっていきました。
ポポは重い袋を引きずりながら、一歩一歩進みます。チルルはポポの少し前を、ふわり、ふわりと風に乗りながら先導しました。
「ポポ、あそこを見て!」
チルルが指さした岩陰に、一匹のポケモンが丸くなって震えていました。
真っ赤な体をした、ヒトカゲの「ロロ」です。ロロのしっぽの炎は、いまにも消えそうなほど小さくなっていました。
「どうしたの? こんなところで」
ポポが駆け寄ると、ロロは弱々しく目を開けました。
「ぼく……一人前になるために、この山で修行をしていたんだ。でも、急に寒くなって、お腹もすいて、動けなくなっちゃって……」
ポポは迷わず、さっき袋に入れたばかりの一番大きなどんぐりを取り出しました。そして、近くにあった乾いた落ち葉を集めると、ロロに向かって言いました。
「ロロ、この葉っぱに、すこしだけ火をつけられる? どんぐりを焼こう。あったかいよ」
ロロはうなずき、小さな息を吹きかけました。ぽっ、と小さな赤色の火が落ち葉に灯ります。
ポポはどんぐりを火のそばに置き、香ばしく焼き上がると、半分に割ってロロに渡しました。残りの半分は、チルルと分け合いました。
ほくほくとしたあたたかいどんぐりを口にすると、ロロのしっぽの炎が、ひとまわり大きく、ぽうっと明るくなりました。
「おいしい……。あったかいや」
ロロの顔に、笑顔が戻ります。
「ロロ、もしよかったら、ぼくたちと一緒に山のてっぺんに行かない? 一緒にどんぐりを集めて、ぼくの家で冬を過ごそう」
ポポの言葉に、ロロは嬉しそうに何度も learn(うなずき)ました。
一人ぼっちだったロロが仲間に加わり、三匹の足取りは少しだけ軽くなりました。
第三章:吹雪のなかの約束
山の八合目まで来たとき、空が急に暗くなりました。
チルルが言っていた「百年に一度の大吹雪」が、予定よりも早くやってきたのです。
激しい風が吹き荒れ、白い雪があっという間に視界を遮りました。
「みんな、はぐれないで! ぼくのしっぽにつかまって!」
ポポは叫びましたが、冷たい風の音にかき消されてしまいます。
「寒い……炎が、消えちゃう……」
ロロのしっぽの火が、風にあおられて小さくなっていきます。ロロが倒れたら、この寒さのなかでは大変なことになります。
そのとき、チルルが言いました。
「僕の羽を使って! 僕の羽は、あったかい綿地でできているんだ。ロロ、僕の体を抱きしめて!」
チルルは自分の痛む羽をいっぱいに広げ、ロロの体を包み込みました。ロロのしっぽの炎がチルルに燃え移らないよう、ポポが雪を丸めて壁を作り、風よけになります。
「みんな、がんばろう。ぼくの家は、この坂をくだったところにある。どんぐりは採れなかったけど、みんなで生きて帰るんだ!」
ポポは、自分の体が冷え切っていくのを感じながらも、必死に二匹を引っ張りました。ビッパの頑丈な前歯で、凍った地面を削り、足場を作りながら、一歩ずつ、一歩ずつ下っていきます。
そのとき、ポポの足がすべりました。
「うわあ!」
三匹は、真っ白な雪の斜面を、転がるように落ちていきました。
第四章:一番あたたかい場所
ポポが目を覚ますと、そこは自分の家のなかでした。
「気がついた?」
目の前には、チルルとロロ、そして、たくさんの山のポケモンたちがいました。
ウリムーたち、ピチューたち、そして大きなオドシシまで、みんなが心配そうにポポをのぞき込んでいました。
「みんな……どうしてここに?」
オドシシが静かに言いました。
「チルットが、吹雪のなかで必死に声を枯らして鳴いていたんだ。それを聞いて、みんなで君たちを探しに行ったんだよ。ポポ、いつも私たちにどんぐりを分けてくれる、優しいビッパを死なせるわけにはいかないからね」
部屋のまんなかには、大きな土鍋が置かれ、そこから湯気が立ち上っていました。
鍋のなかでぐつぐつと煮えているのは、ポポが命がけで守ったあの百個のどんぐりで作ったスープです。
ロロが、じぶんのしっぽの炎で、鍋の下の薪をずっと温めてくれていました。
「ポポ、食べて」
ロロがスープをお皿に汲んで、ポポに手渡しました。
ひとくち飲むと、どんぐりの甘みと、みんなの優しさが、ポポの体じゅうにじわリと広がっていきました。体だけじゃなく、心までぽかぽかと温かくなっていきます。
ふと部屋の隅を見ると、そこには見たこともないほど大きな、金色のどんぐりが、山のように積まれていました。
「あれは……?」
「君たちが意識を失っている間に、山のてっぺんのブナの木から、風で落ちてきたのさ。私たちがみんなで拾って、ここに運んだんだ。これで、今年の冬はどれだけ寒くても大丈夫だね」
チルルが嬉しそうに羽をパタパタと動かしました。その羽は、もうすっかり痛みが引いているようでした。
窓の外では、冷たい大吹雪が吹き荒れています。
けれど、小さなビッパの家のなかは、ともしび山のどんな歴史よりも、あたたかい笑顔と優しい炎で満たされていました。
(おしまい)
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