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1-1)著作権侵害……?
202X年8月23日 午前10:17 「Xアンチスレ」
ホラゲ泥酔実況の次の日のことである。ある住民が一枚の画像をスレに添付したのがきっかけだった。
「ちょっと気になったことがあったから調べてみたこと、ここに貼っていい?」
「X関係か?」
「うん」
「どうぞ」
「ほい」
前置きの後、件の画像が添付された。メール文書のようで、宛名は見えないが、質問とその返答の一部が書かれたスクリーンショットのように見える。
「これは?」
「昨日『○○ホーム』っていう泥酔ゲーム実況してたでしょ? 泥酔も失言も煩わしいのはさんざん議論したしもういいんだけどさ、実況の根幹……配信基盤がしっかりしてるのかについて気になったんだ。
それでね、『○○ホーム』の版権元であるKのHP見たら配信者に向けてのガイドラインがあったわけ」
ここで言うガイドラインとは、版権元(ゲームメーカー販売元)が提示するネットワークサービスにおける『著作物利用』に関するガイドラインのことである。
著作権とは作品を創作した個人・団体・法人が有する著作者に対して自動的に付与される権利のことであり、作品がどう使われるかを自由に設定・制限することができる権利のことである。
著作者の思想または感情を捜索したものを特に『著作物』と言い、ゲームソフトは勿論、ゲームキャラ、世界観、映像に至るまでそのすべてが著作物と言える。
著作物利用というのはすなわち、それらの映像をキャプチャやスクリーンショットなどを用い、第三者が換骨奪胎した創作物をネットに投稿するなどのような二次利用全般である。第三者における実況・その収益化もここに包含される。
無論配信者によるゲーム実況(収益化以前の、配信できるか否かについてすら)も、著作権有する版権元――ゲーム著作権有する企業が提示する制約に従わなくてはならない。
「そりゃあるだろ、無かったら『乱用してください』って言ってるようなもんだからな。――で?」
「そこに書いてあったのはこんな感じ。
・弊社が著作権を有する権利物に関しては【掲載・配信に可能な物】に該当する場合を除き、掲載や配信の許可を行っていない。
・権利者に無断で権利物の掲載や配信をおこなわれた場合、収益化の有無に拘らず処罰の対象となる可能性がある。
・個人配信の使用・それにおける配信許諾は【掲載・配信に可能な物】に区分されたものであってもお断りしている。
でさ、その【掲載・配信に可能な物】のなかにXたちがやってた『○○ホーム』はなかったわけよ。そこには最近のハードとかに付属してあるカメラ機能やスクショだったらいいよみたいな、そういうことは書いてあるんだけど、レトロゲームまでは載ってない。
これってまあ、Xを庇うわけじゃないけど、微粒子レベルで古すぎて記載漏れがあるのかなぁって、網羅できなかったのかなぁって少し穿った見方をしたんだよね」
「……確かに。30年くらい前のゲームだしな。著作権が切れてるかもしれねえもんな」
そんなことはありえない。著作権の保護期間は公表後70年まで。30年前であっても半分も経過していない。
ありえるのは著作権侵害を主張しないなどの『著作権の一部放棄』くらいだ。だから――
「だからダメ押しの一発ということでいっそ聞いてみたのさ。ファミコンソフトの配信はどうなんですかねぇって」
「なるほど、で、その返答が――」
「このスクショってこと」
アンチスレのコメ投稿が数分だけ停止する。画像を見ているのだ。
内容は以下の通りだった。
***
平素はK製品をご愛顧賜り、誠にありがとうございました。
Kお客様センター相談室 家庭用ゲームサポートのH井と申します。
お問い合わせいただきました弊社著作物の掲載について、ご案内いたします。(中略)
ファミコンのソフトでは、サポートページ内にて記載されております【掲載・配信に可能な物】に該当する方法での配信が『そもそもできない』ため、許可していないコンテンツに該当いたします。
また、同記載の【掲載・配信に可能な物】に該当する方法にて掲載・配信されたものであっても、一般のお客様に対して動画の収益化は『公式に』許可しておりません。
以上で回答は終了とさせていただきます。
今後ともKをよろしくお願いいたします。お問い合わせありがとうございました。
***
「……でかした!」
「あちゃー……。無許可配信決定か……」
「企業側から『収益化』以前に『配信は駄目だよ』って来てるわけか。で、「Xの先駆者」はそれを無視して配信をした……それも収益化もしている……」
「収益化? ――ああ、投げ銭OKサブスク推奨の“ミリオンdeil”だからか」
「ちなみに“つべ”もダメだぞ。あそこは広告収入だからな。どっちもアウトだ」
「これ、どうなの? 炎上案件じゃない?」
「……もしかして、他のゲームも『やって』そうじゃない? ……無許可配信」
***
202X年8月27日 午前10:17 「Xアンチスレ」
いわゆるXたちの著作権侵害発覚から5日後、様々な報告がスレに載せられていく……。
「初期でやった『『BIO』実況3』のガイドライン見たら、配信OKだけど許諾してないから収益化NGだとよ」
「でかした!――と、言いたいとこだけど……」
「違反しすぎだよなー。これで7作品目だぞ」
「こんなに違反しててええんか? 普通炎上どころか訴訟もんだぞ。無許可配信は立派な著作権侵害。
無名まで落ちぶれた存在とはいえ、多額の契約金で“ミリオンdeil”の看板背負ってるXなのに、なんで無許可でやってて今まで無事なんだよ。おかしいだろ」
「いーや、逆もあり得る。メーカー側から泳がされてるって可能性も十分考慮した方がいい。満天堂みたく契約満了の辺りでどかっと訴えられるかもしれんし」
満天堂とは、最大手のゲームメーカーである。
ゲームの種類もさることながら、大人気ゲームの販売元であるため、二次利用に寛容であり、ゲーム実況の収益化まで許可されている。
だが、ネットワークサービス以外の利用については厳格であり、数年前に満天堂の許諾なくゲームソフトの名称およびコスチュームデザインを宣伝・営業に利用していることで著作権侵害に当たるという旨を、知的財産(著作権は知的財産権の一種)裁判所に提訴、その後勝訴したという事例があった。
一審の地方裁判所での判決は1000万円の損害賠償で勝訴が確定。その後相手側が不服申し立てをして控訴し、満天堂側も一部認められなかった部分を不服として、賠償金額を5000万円に増額して高等裁判所に控訴。二審でも満天堂側が勝訴し、5000万円の判決が言い渡された。
このように著作者に許諾なく(いわゆる“無許可”で)著作物を利用すると、発覚した時の反動が桁違いであるのだ。『知らなかった』では済まされない。これは裁判所で裁かれうる可能性はないとは言い切れない。「グレー」なのである。
「Xたちって知らんのかね、このこと。だったら実況の基礎の『基』の字も出来てないね。初心者実況者でもここだけは弁えてるところなのに……」
「満天堂の勝訴は一時ニュースになるくらいだったもんね。周知の事実だと思ったけど、もしかして訴えられたいって思ってるのかも……」
「炎上したら世間様が目を付けるもんな」
「てか、X実況してきて何年目だよ。10年超えてて『これ』ってどういうこと? メーカー側がちゃんと許可してんのか・してないかぐらいは調べるだろ。それは『実況者の自由』じゃなくて、場を乱す身勝手な行為だよ」
「なるほどなぁ。だから『ましゅーず!』で権利関係のコメントが削除されやすかったわけか。これは投書で送るしかないな。『メーカー側は許可してない、いわゆる無許可配信の是非を聞きたい』と」
***
202X年9月1日 午後8:25 垢名:Xの先駆者
配信告知!
申し訳ありません!
明日予定していた配信を木曜日22時~に変更いたします!
『風吹けば名前なし(初代)』をGとプレイしたいとおもいます!
ファミコンの奴です。よろしくおねがいします! ピッ
***
同日 午後8:31 「Xアンチスレ」にて。
「あのぉ……XCソフトのガイドライン見たら配信OKなの『名前なし4』と『続・風吹け5』しか無いんですけどぉ……」
「気になって自分も確認したわ。どう見ても4と5しか書いてないな」
「じゃあやはり今までも無許可か」
「またかよ……ここまで能天気なら、一回痛い目見てほしいな。それなりに知名度あった人間がいい加減な事すると、規制がより厳しくなってゲーム配信自体の首絞める事になりかねんぞ」
「みなさん、権利関係について丁々発止の議論をしているが、末尾の『ピッ』も相当イタいことにも注目してやってくれ」
***
「今更だけど、配信許諾は“ミリオンdeil”経由でとってる可能性もあるんじゃない?」
「そう反論されると思ったんで“ミリオンdeil”の配信者規約見てきた。抜粋するわ。
1)配信者は“ミリオンdeil”内での配信(以下“本配信”)にて配信する配信コンテンツのすべての内容について、『事前に』、権利者との間で必要な権利処理を適切に処理するものとします。
→配信者が事前に許諾の許可とっとけよ――と書いている。
2)配信者は運営会社“ミリオンdeil”に対し、本配信で配信するすべての内容について、『事前に必要とされるすべての権利処理が適正に実施』されており、(中略)かつ、いかなる法令、本利用規約および本配信規約に違反する者ではないことを表明し、保証するものとします。
→“ミリオンdeil”自体は何にもやんないけど、配信者が「事前に許諾とった」って言ったら保証してやんよ、確認しねぇけどな。
3)配信者が本配信を実施したことにより、第三者に損害が生じた場合は、配信者は配信者の故意・過失の有無及び予見性の有無にかかわらず、当該損害の賠償に関する事象すべてを、『配信者の責任と費用負担において解決』するものとします。
→俺達責任取らないからな。つーか、ちゃんと許可とったんならこんなこと起きねぇよな? だからあっち側から賠償金とか言われても払わないからよろしく。あ? 『公認配信者』?――守るとは一言も言ってない。知らんな。
――とのこと。さすが中国企業。やはり非情だな」
「やべぇww」
「やばい内容だな、この配信規約ww」
「有能乙。つまり、
『許諾は配信者本人が取る。“ミリオンdeil”は一切責任を負わない』――そういうことね」
「なるほど……全部配信者本人に依るのか。
じゃあ今のXみたいにだんまり決め込むと、本当に許可とってんのかそうでないか分からなくなるんだな。なんなんだこのトカゲのしっぽ切りスタイル……『金渡したろ、あとは牢屋で人生過ごしな』って感じで嫌だわ」
「あの国は今に始まったことではない」
「となると“ミリオンdeil”の腰は重いわけか……。どれだけ通報しようがこの規約を盾に、会社側は動かないだろうし。もっとXが荒稼ぎしてないと動かなそう」
「企業系や法人系の大人気実況者集団なら即動くだろうけれど、投げ銭もいうほど投げられてない個人のXじゃすぐには動かないだろうな。底辺だからこそ命拾いしてるというかなんというか」
「視聴者600位だもんね。投げ銭もたかが知れてる」
「ね」
このアンチスレ民追求の元、Xの著作権利用を含むゲーム配信のずさんさが白日の下にさらされたのを契機として、とある炎上に繋がることになる。どうやらこの時のXたち『先駆者メンバー』は、露ほどに知らなかったようである。