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目次
#1 成長という名の変化
あの日、あの時、あの夏。
そう、あの夏が1番楽しかったな。6年前のあの夏。
---
「ゆきむーーー」
「なにーーーーー」
「あつーーーい!」
「絶対らいとのが暑いから!」
ゆきむこと雷斗はそう言う。幸村らいとだからゆきむ。誰が付けたのかな。こんなぴったりなあだ名。
「同じだよおーーー!」
しょぼい公園のジャングルジムにぶら下がって、中身のない会話をする。
「ははっ。馬鹿みたいな会話」
下田が上から笑う。
「そう言ってる下田だって同じ部類だからね!?」
「下田はS大付受けるし格違うでしょ」
と口を挟むれいか。
「れいかまでーー」
「あっ!下田に負けた」
「うえーい!買った〜」
ピコピコとスマブラで対戦する私たち。最後に残ってた2人。下田が勝ったみたい。
「みんなゲーム上手だなあ」
「るなが下手すぎるんだよ笑」
「これでも頑張ってるのにー」
私はいじけてジャングルジムから降りる。
「あ、交換日記、今らいとでしょ」
れいかがらいとに顔を向ける。
「ああ、持ってきたよ」
「読みたい!」
「自分の番になるまでだめーー」
「えーーっ」
あの夏、交換日記をしていた。
そう、交換日記を_____
---
「はあっ……なんだ、夢……。そうだよね。」
まだ外は暗闇に包まれていた。
交換日記。6年前、たしかにしていた。
あの日記をまた見たい。
そんな思いが心に芽生えた。
でも、それは難しいだろうな。
だってみんな、私含めて、変わっちゃった。
あれは成長じゃないよ。
変わっちゃったの。
ゆきむららいと。
無邪気で、ちょっとずる賢くて、人気者で、頭も良くて、運動もできて。モテモテだったね。
スペックは今でも何一つ変わらないけど、性格は変わっちゃった。
低かった背も伸びて、私よりも20cm大きい。
声だってすっかり低くなって、少し怖い人みたい。
性格だって前より冷たくなったよ。よくいえばツンデレだろうけど。
あいだりんか。
漫画とかアニメとかゲームが大好きで、ちょっとオタクっぽくて、大人っぽくて、いっつも私を助けてくれていた。
でも今は、恥ずかしがってKーPOPアイドルが好きとか言ったりして、すっかりキラキラJKですよみたいな顔しちゃって。ほんとは今でもオタクなくせに。
しもだはるき。
頭がよくてツッコミ役で、少しシャイで堀が深くてかっこいい。そしてマザコン。
東京の中学校に行き、そして県内TOPの高校に入学したしもだ。変わったかどうかなんて分からない。ずっと会ってないよ。
さとうるな。
わたし。昔は足が早くて、それなりに勉強もできて、お絵描きと折り紙、あやとりが得意で、毎日外で遊んでたな。友達がとっても多くて、よく明るいって言われてた。
ゆきむとりんかと同じ地元の中学校に行って、しもだと同じTOPの高校を受けたけど見事に不合格。制服が可愛いだけの私立校に通ってる。今が友達が少ないとか、運痴とか馬鹿だとかじゃないけど、私の全盛期はやっぱり6年前。あの夏が1番楽しかったの。
みんなのことを思い返す。
6年前はなんでも知ってたのに、今は知らないことだかけ。
なんだかいても立っても居られなくて、ジャージのまま家を飛び出した深夜2時。
#2 初恋のひと
みんなのことを思い返す。
6年前はなんでも知ってたのに、今は知らないことだかけ。
なんだかいても立っても居られなくて、ジャージのまま家を飛び出した深夜2時。
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こんな時間に、家を出たのは初めて。
親はすっかり眠っているだろう。
もう7月。半袖でも外を歩ける気温だった。
静まり返る見慣れた住宅街。電柱から青いライトが道を薄暗く照らす。
足は自然と、あの場所へ向かっていた。
6年前、みんなで沢山遊んだしょぼい公園。名前はなんだっけ。
『ひまわり第2児童公園』
そう書かれた公園へ足を踏み入れる。
伸びきった草。少し錆びた遊具。
ここで鬼ごっこをしたり、かくれんぼ、ドッヂボール、中線ふみ、色鬼、人狼ゲーム、DS。色んなことをしたな。
わたし、ゆきむ、りんか、しもだの4人で。
みんなで遊具鬼をした遊具の階段を少し登る。あの頃みんなで遊具に石で刻んだ『るらりし!』の文字。
みんなの名前の頭文字を取った言葉。
(しもだだけ、上の名前だ笑)
この文字は、ゆきむの文字かな。
ゆきむ。ゆきむららいと。
みんなはらいとって呼んでたけど、なんだか恥ずかしくてわたしだけゆきむって呼んでたな。中学3年間、しもだは東京の中学校に行ったし、わたし、ゆきむ、りんかの3人はそれぞれずっとクラスが違かった。
でもゆきむらさんとか、あいださんなんて呼ぶことは一度も無かった。
ゆきむとか、りんかとか呼んだのも両手で数えられるくらいしか無いかもな。しもだなんて、一回も呼んでないだろうな。
少し、寂しかった。
わたしだけかな。
澄んだ夜空の下、わたしは1人遊具に座り込んだ。
「えっ」
聞いたことのある低い声がした。
わたしはびっくりして、声がする方に顔を向けると______
ゆきむがいた。
「なんで……?」
「こっちのセリフだよ!」
驚いたわたしにゆきむはツッコミをした。
懐かしい感じがする。
卒業してから約4ヶ月見ない間にゆきむは少し大人っぽくなって、身長も伸びている気がした。
そんな大きくなった体を縮めて、滑り台に寝っ転がるゆきむは、6年前を思い出させた。
「ほんとになにしてるの?」
「いや…、ちょっと…家に居ずらくなって」
ゆきむは体を起こし、少し俯いた。
久しぶりだというのに、少しも気まずいふりなんかせずに、友達のように話してくれた。
「家出?」
「そんなとこ。さとうは?」
「いやなんか、寂しくなっちゃって」
「へえ」
さとう。そう呼ばれたことが悲しかった。6年前は、元気にるなって呼んでくれてたのに。もうあの時の恋心なんて微塵もないけど、やっぱり寂しくなった。
大好きだったゆきむ。
クールだけど心の奥で優しくて、なんでも出来ちゃうかっこいい人。
今は、どんな人なのかな。
わたしはもう、ゆきむに詳しくない。
「いつから家出してるの?」
「2日前。俺の高校もう夏休みでさ。昼はバイトして夜はホテルに泊まってんの」
「それ大丈夫なの?」
「別に、なんも連絡とかないし」
「なんで家出したの?」
「……なんか、適当」
はぐらかす癖は変わってなかった。
思ったよりも、ヤンチャになったのかな。それとも、なにかあったのかな。
わたしは夜空を見上げる。
「夜空、綺麗だね」
「うん」
「また、彗星見れないかな……」
6年前、わたちたちは町外れの高原で彗星を見た。ゆっくり落ちていく彗星を確かに、この目で見た。
あれは3000年に1回のレアな彗星。また見れたらいいななんて思っても、次に見れるのは3000年後。
「3000年後だな」
「えー、そっか…」
前みたいにゆきむの前ではしゃげなかった。やっぱり悲しくて、わたしも俯いた。
「あのさ、さとう」
「なに?」
わたしはゆきむと目を合わせた。
「あのさ……昔、お前よく俺の相談乗ってくれてたよね」
「うん…」
ゆきむの相談、悩み、愚痴、自慢、色んな話を聞いた。この話をわたしだけにしてくれてたらいいななんて、毎回思っていたのは秘密。
「また、相談乗ってもらいたいんだけど、いい?」
「うん……いいよ。なんでも話して…」
「ここじゃ近所迷惑だし、来て」
「来てってどこに…」
「ホテル」
初恋のひと。大好きだった、ゆきむ。
今思えばゆきむのあの真剣な眼差しは、下心とか変な意味なんて無くて、ただわたしを頼ってくれていたんだと思う。それにもっとはやく気づければよかったのに。
#3 ベッドのうえで
「来てってどこに…」
「ホテル」
初恋のひと。大好きだった、ゆきむ。
今思えばゆきむのあの真剣な眼差しは、下心とか変な意味なんて無くて、ただわたしを頼ってくれていたんだと思う。それにもっとはやく気づければよかったのに。
---
「えっ、まって、ゆきむ」
「なに」
わたしはゆきむに連れていかれたホテルを見上げた。
「ほ、ホテルって……ラブホ……?!」
「だってこの辺で1番安いんだもん。絶対家族探しに来ないし」
ゆきむは澄ました顔で言う。女の子をこんなホテルに連れてきていいのだろうか…。
「てゆうか、まだ16歳だよ私たち」
「大丈夫。俺もお前も大人っぽいし。もう2日泊まってる」
「ラブホに2日って中々だね……」
「ね。大丈夫」
そうは言われても、やっぱり少し足が竦む。
「わたし、まだ優等生な方だし、バレたらまずいよ……。あと、なんかこわい……」
「大丈夫。俺がなんとかする」
「なんとかってなに……わっ」
ゆきむに手を引かれて、渋々ホテルに入った。少し、強引になったな。強引にわたしを引くては、6年前に手比べをしたきよりもなんかごつくて、男の子の手って感じだった。
部屋に入ると、意外と内装は普通だった。
わたしは慣れないベッドに座る。
「相談って、なに?」
ゆきむはわたしの隣に座ると、ため息をついた。
「お前さ、むかし……、6年前、俺の事好きだった?」
「えっ……し、知らない」
わたしは顔を伏せた。好きだったよ。大好きだったよ。
「俺はさ、好きだったよ」
「……!」
「お前はどうなの?」
「す、すき……。すきだったよ」
「じゃあ、両思いだったんだね。ガキの両思いなんて、しょぼいもんだけど」
両思いだったんだ。赤らむ顔を手で抑えた。なんともいえない空気が部屋に充満している。
「ねえ、俺さ……」
「うん」
「余命宣告、されたんだよ……」
「……え?」
ゆきむは顔を伏せた。伸びた髪のせいで顔が見えない。
「ちょっと待って、どういうこと?」
「るな…………」
顔を上げたゆきむは、涙ぐんでいた。
「俺、少し前に倒れちゃってさ、病院行ったら余命2ヶ月だってさ」
「なにそれ……」
ゆきむがあと2ヶ月しか生きられない。2ヶ月後、ゆきむはいない。冬を迎えることはできないんだ。最後の、夏なんだ……。
ゆきむが、死ぬ……。そんなこと、考えたことなんて無かった。考えないよ。初恋のひとが死んじゃうとか。うそ。うそでしょ?
わたしは自然と困り顔になっていたようで、ゆきむが心配そうにわたしを見つめていた。
「話してくれて、ありがとう……」
「話すなら、るなとしもだ、りんかしかいないと思った。俺が1番楽しかったのは、お前らと過ごしたあの夏だから……」
ゆきむも、そうだったんだ。
私が1番楽しかったあの夏。大好きなみんな。
「ほんとうに、死んじゃうの?」
わたしの手を握った大きなゆきむの手。まるで生きている証。これからもずっと生きている証みたいだったのに。
「死ぬよ」
「っ…………。それだけじゃないでしょ、相談」
「うん。俺さ、無理だよ、無理な話だけどさ、どうしても死ぬ前にまたみんなで、彗星見たい。あの高原で」
ゆきむは、見た事のない顔でわたしにせがんだ。
「見るよ。見よう。また、みんなで。あの高原で」
3000年に一度の彗星を6年ぶりにまた見ようって約束してしまった。