編集者:Snake
ソリスピアでやっているリゼロの二次創作の小説です。楽しんでください。
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目次
1話「トギスマス」
二次創作だぜ!キャラ崩壊とかもあるかもしれないから、苦手な人はスキップしてね。
「聞いた話じゃと、お前さんとこの街の連中はずいぶん頑丈らしいが……それ、うちの里の連中より頑丈だったりすんのかよぅ」
「__下郎っ!」
「っ!」
「…ルイ!ヨルナさんを援護するぞ!」
「うあう!」
5秒
「マジかよ|狐娘《きつね》。セシルスが首切れんかったって言ってたの物理的な話かよぅ」
「お前みたいな奴に乙女の秘密は明かしんせん。」
10秒
バァーーーン!!
爆発音が響き渡った。視界が赤くなり激痛が走り、片目はなくなり、もう片方の目は飛び出ている。鼓膜は破れ、何も聞こえない。彼…ナツキ・スバルはただ泣きじゃくった。
時間が戻る。
「聞いた話じゃと、お前さんとこの街の連中はずいぶん頑丈らしいが……それ、うちの里の連中より頑丈だったりすんのかよぅ」
「__下郎っ!」
10秒前に戻った。なんでそこに戻った?スバルは何も理解できないまま、また10秒が経過しようとしていた。
「__あ」
バァーーーン!!
「うが…いた……っ」
スバルはただ泣きじゃくった。ひたすらに。
「__わっちを愛しなんし。今すぐに」
「は…?」
愛す?今すぐに?そんなのは無理な話だ。愛すと言っても具体的に何をすればいいのかわからないし、恋心はそんなに簡単に芽生えない。確かにヨルナさんは美人で良い人だと思う。でもやっぱり…
「_」
スバルが何かを言いかけた瞬間、ヨルナの唇がスバルの唇と重なる。
「わっちの唇は安くありんせん。__これで」
『これで』の先に言葉は続かなかった。ただ1つわかるとすれば、__これで、自分を愛してくれる。そう言いたかったのだろう。
「好きな人が…いる……っ」
「若い男の子って難しいんじゃぜ。子供は仕留めやすい分ややこしいからのぅ。」
「…翁!!!!」
時間が戻る。
「聞いた話じゃと、お前さんとこの街の連中はずいぶん頑丈らしいが……それ、うちの里の連中より頑丈だったりすんのかよぅ」
「__下郎っ!」
必死に対策を考えた。また痛いのと赤いとが来ると考えたら恐怖で鼻水と涙としょんべんを漏らした。しかし時の流れは無常にまた同じところが来る。
「おえは……っちが……っおれのじゃないひ……っ」
違う。違う違う。違う違う違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
これはナツキ・スバルの死に戻りではない、何かだと。
時間が戻る。
「…もういい。ヨルナさん、オルバルトさん。俺は…死に戻りをしている!」
見えざる手が2人の心臓を掴み取り、2人が死んだ。
スバルの視界には2人しか見えていなかったが、隣には死亡したルイが横たわっていた。
「…あ。ルイ…そうか…お前も…いたのか…なんで俺はこんなバカなことをしてしまったんだろう…」
そこら辺に落ちていたナイフを拾い、自分の首元に突き立てる。
時間が戻る。それは10秒前ではなかった。
「10秒前…じゃない?やっぱり…今発動したのが俺の死に戻り。さっきまで発動していたのが…よくわからない能力だ。それはそうとして問題が多すぎるだろ…なんでオルバルトさんは俺を殺そうとした?次はルイのワープをうまく使って挑んでみよう。」
問題の場所の時間になった
「聞いた話じゃと、お前さんとこの街の連中はずいぶん頑丈らしいが……それ、うちの里の連中より頑丈だったりすんのかよぅ」
「__下郎っ!」
「ルイ!ワープだ!」
「あう!」
近くの城の天守閣へワープした。
「ふぅ…ここら辺は安全だろ…」
数秒が経った…
「お、おったおった。」
「は?」
「聞いた話じゃと、お前さんとこの街の連中はずいぶん頑丈らしいが……それ、うちの里の連中より頑丈だったりすんのかよぅ」
「__下郎っ!」
また、死んだ。痛い。赤い。怖い。どうして死。痛い。赤い。怖い。どうして死。痛い。赤い。怖い。どうして死。痛い。赤い。怖い。どうして死。痛い。赤い。怖い。どうして死。痛い。赤い。怖い。どうして死。痛い。赤い。怖い。どうして死。
「どうして……っ」
それを境にスバルは何もできずに死ぬことが多くなった。何万回繰り返しただろう。
そして__
2,184,902回目の10秒が、また始まった。
スバルが見つけた攻略法はこうだ。
1秒目:開始と同時に自分の指を噛みちぎり、血の目潰しでオルバルトの初手を0.2秒遅らせる。
3秒目:オルバルトが次に踏み込む位置に、あらかじめ自分の体を盾にして「障害物」として置き去る。
6秒目:落ちている瓦礫やルイの能力、媒介を限界まで利用し、自分の命と引き換えにオルバルトの片腕の自由を奪う。
10秒目:オルバルトのクナイがスバルの心臓を貫くのと「同時」に、スバルがオルバルトの喉笛を噛みちぎる。
これが見つけた攻略法。1回もハマった事は無いのでうまくいくかわからない。ただ限られた10秒の中で頑張ろうと言う意思は見える。
「聞いた話じゃと…」
動け。
自分の指を噛んでも、なんも痛みが来ない。痛いのになれすぎたのだろうか。
「何!?」
素早くオルバルトの前に立つ。
「ル__」
少し、遅かった。
「ぐあぁぁっっぁぁ!!!!!!!」
痛い痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
何回繰り返しても慣れない痛みがスバルを襲う。
初回からぶっ飛ばしました。ここからの分岐ってことでねさらに死ぬ予定ですよ。
2話「最適解」
2話です。投稿スピードが異常に早いのはソリスピアで投稿しているものをコピペしているからです。ちみみにソリスピアの方が挿絵とかあってこっちより楽しめるかと思います。一応リンク貼っとくんで気になった人は見てください。
https://solispia.com/title/5074
ループの中、スバルが見つけた最適解はこうだ。
――ループが始まると、胸の鼓動が割れるように鳴り、指先が血の匂いを放つ。スバルは瞬時に自分の指を噛みちぎり、赤い肉が裂ける音と同時に、鉄の匂い、熱いものがオルバルトの目に入り、オルバルトの拳が僅かに遅れたことを感じ取る。次の瞬間、崩れた瓦礫の粉塵が鼻腔を刺激し、彼の体は「障害物」と化す。自らを盾にして、冷たい金属の刃が胸元をかすめる感触が走る。そしてルイのワープを利用してルイの血が飛び散る音と共にオルバルトの片手が失われる。次の瞬間、心臓に金属がつくのと同時にオルバルトの喉笛を噛みちぎる。
これを全て噛み合わせれば突破ができる。そう考えたのだろう。そんな単純な話だろうか?考えて考えて考えた。
しかし、この最適解はまたルイを殺すことになる。もう、あんな顔を見たくない。でも、これが最適解だから。ルイを殺す罪償いとして__
殺した罪償いとして__
自分を犠牲にする。
「もう、やるしかない。」
痛さと赤さが同時にきて、目は片方だけ飛び出て、もう片方はない。心臓がうるさい。しかし不思議なことに痛覚はなかった。そして時間が戻る。
「聞いた話じゃと…」
指を噛む。飛び散った血がオルバルトの目に入る。噛むのは痛いが目が爆発するのにくらべれば屁みたいなもんだ。いや、そもそも痛みを感じない。成功した。少しだけ心拍数が上がる。
「させない!」
盾になる。
「ルイ!」
「うあう!」
初めて…ここまできた。
ルイは死んだが、オルバルトの片手は使えない。
「やった。」
思わず、声が漏れた。ここまできたのは初めてだ。
「かーっ。わしをここまで追い詰めるのかよぅ。」
クナイを投げる。同時にいけ。
「き_」
痛い。赤い。クナイを心臓に刺されて…呼吸は乱れていく。ゆっくり。ちょっとずつ、熱くなり、冷たくなる。死ぬ…と思わせるようなそんな感じ。
時間が戻る。
「無理だ。俺にはできない…俺は…俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は!!!!!!」
沈黙が続く…いや正確に言えばオルバルトとヨルナが戦っているため沈黙ではないが、今のスバルには沈黙しかなかった。さて、どうする?新たな最適解を探すか、諦めるか。後者の選択肢はスバルにあるはずもないが。
「世の中…うまくいかないもんだな。…………そろそろ10秒か。」
10秒経つ。痛い。赤い。ただそれだけなのに耐えられなかったものも今は…平然としている。
時間が戻る。
「――あ」
耳を劈くような爆風の音も、クナイが肉を裂く嫌な音も、自分の喉から溢れる血の泡の音も、何も聞こえない。
ただ、パチパチと静かに爆ぜる、焚き火の音だけが聞こえている。
「あーう?」
覗き込んできたのは、無邪気な、しかし今はまだ自分のせいで殺されていない、綺麗な瞳をしたルイの顔だった。
スバルが数百万回かけて組み上げた「神速の十秒」は、すべて白紙に戻された。
あの場所に最適化され尽くしたスバルの殺人手順は、何の役にも立たないゴミ屑同然の記憶になったのだ。
すべてが、無駄だった。
あれほどの苦痛を、あれほどの死を重ねて、自分は何も得られなかった。
普通の人間の精神なら、ここで絶望のあまり狂い、あるいは泣き叫んでいただろう。
だが、数百万回の死によって研ぎ澄まされすぎたナツキ・スバルの脳は、もう絶望することすら忘れてしまっていた。
感情のスイッチが、音も立てずに摩耗して消え去っていた。
トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。スバルは最適解をトギスマス。そうしていくしか…ないのだから
これ結構自信策なんですよね。挿絵重要ですねー。ソリスピアでは一応挿絵として最後のほうにタイトルコール入れてます。それ以外に1個は必ず挿絵あるんだけどボソッ
短編カフェでは実装予定ないらしいからないものとして諦めたほうが潔いよね。
3話「11秒目」
個人的に最後のほうのタイトルコールが好きなんだよね。ソリスピアの話ね。
トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。
最適解を、自分のものにしろ。
トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。
最適解を、より良くしろ。
トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス。トギスマス
そうするしか、今のスバルにはないのだから。
__________________________________
「最適解へ、進め。」
死んで、死んで、死んで、また死ぬ。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返す。
11秒へ、向かえ。
11秒の先へ。
行け。
「あーう?」
ルイの無邪気な声が響き渡る。
そんなルイをスバルは無視する。
「オルバルトを…殺せ。」
「わしを殺す?かーっ。最近の若者は威勢がいいのぅ。」
オルバルトの首めがけてナイフを立てる。
「死ね。クソジジイ。」
オルバルトは華麗に避けて
「クソジジイじゃと?クソガキ。あまり老人に対してでかい態度を取らないほうがいいと思うんじゃぜ。」
「つられたな。」
「は?」
――次の瞬間、オルバルトの視界が、自身の背後から肉を裂いて突き抜けた。彼自身のクナイによって遮られた。
「かーっ。最近の若者は頭もいいのかよぅ。こりゃ負けたんじゃぜ。」
オルバルトは地面に倒れ込み息を引き取った。
7、8、9、10。
11。
「あう…」
「|童《わらわ》…?」
「ヨルナさん。今すぐ俺の言う通りに動いてください。さもなければ殺します。」
「分かったでありんす。」
何か見通したようなそんな目だった。
「セシルス。今でありんす。」
――その声に応じて、戦場に一陣の青い風が吹き抜けた。
「主役は遅れて登場するって言いますよね。」
「だ…れ…?」
「僕を知らないって本格的に脇役みたいになってきましたね。」
『青き閃光』はその場の誰よりも雰囲気が軽く、その場の誰よりも強かった。
「へぇ、ナツキ・スバルですか!何やら舌の上をまろやかに転がる不思議な響きですね。耳と記憶に引っかかる良い名前…名優の条件といえますよ!」
「……お前、本物の『青き閃光』?」
「また急に疑いますねえ!でも疑われて慣れてて動じませんよ、よく言われるので!」
かけらも違和感を覚えていない顔に、警戒するのがばかばかしくなった。ので、直球ど真ん中で聞いてみたら、自称セシルスはお腹を抱えて大爆笑だ。本物なら無礼だし、偽物なら偽称だから、ちっとも笑い事じゃないのだが_
「言葉で本物です!と言い張るのは簡単ですが、それは証明にならないでしょう?僕の秘密を打ち明けてもそちらは何も知らなそうですし」
「それは……うん、言う通りだ。」
「だったら、僕の素性の|真贋《しんがん》を言い合っても、時間の無駄!無駄はスパッと切り捨てて、次の話題!ずっと建設的ですよ、僕は壊す専門ですけど!」
なんだか生きると口八丁で言いくるめられた感じがするが、猛然と息継ぎもなく、畳み掛けられると反論の隙間がない。それに極端だけど、一理ある言い分だった。
スバルには本物の『青き閃光』見分ける方法なんてない。その手がかりもない。だったら、自称セシルスを暫定セシルスにしておくしかないのだ。
そうなると、次に自然と意識が向かうのは、自分の置かれた環境の謎さだった。
「えっとさ、セッシー、ちょっと聞いてもいい?」
「セッシー!なんですそれ、もしかして僕のことですか?」
「本物か偽物かわからない相手のこと有名人の名前で呼ぶの気後れしてて……」
どこかで本物のセシルスと会った場合に、備えてなんてつもりはないものの、それが嘘か|真《まこと》かわからない暫定かつ、自称セシルスへの落としどころだった。
「セッシー、セッシーですか……なんと味わい深い特別感!思い返すと相性で呼ばれるなんて経験とんとありませんし、不思議な心地になりますね、最高!」
「そんなに喜んでもらえると、俺も2秒で考えた甲斐があるよ」
何万回もの地獄の2秒に比べれば、このあだ名を考えた2秒はどれほど平和だったか。ともかく、安直な呼び名だと思ったが、本人が喜んでくれているので、それでよしとしよう。
「それで話を戻すけど……ヨルナさんはなんでセッシーのことを呼んだの?」
「……俺そんな命令出してないよね?」
「ばれちゃいましたか。残念です。勘はいいんですね。……あなたが悪役に回っていなかったら僕たちは良い友達になると思います。」
彼は容赦なく、スバルの頭を切り捨てた。
時間が戻る。
「嘘だろ…」
前書きのほうに書いたタイトルコールの話なんだけど、デザインを紹介すると11がオレンジ色で秒が青色。目がオレンジ色なんだけど、その目が一刀両断にされて断面には青い線があるって言うデザインなんだよね。
4話「セシルス・セグムント」
セシルスの名前回ですよ!名前回!6000文字と言う長さではありますが、最後まで読んでくれるとうれしいです!
「嘘だろ……」
網膜に焼き付いて離れないのは、一本の青い線だった。
音も、気配も、殺意すらも置き去りにして、世界のすべてを滑らかに両断した、あまりに綺麗な一閃。
──セシルス・セグムント。
脳内のチェス盤に刻まれたその名前を、スバルは沸き上がる感情の代わりに、ただ無機質な記号として深く、深く塗り潰す。
オルバルトを殺すための方程式は、すでに二百万回で完成していた。
なのに、その先の11秒目に、あいつは笑顔のまま断頭台を設置したのだ。
「あ、は……。なるほど、そうか」
スバルは小さな手のひらで、自分の、死人のように濁りきった瞳を覆う。
セシルスは俺を『悪役』だと言った。
主役の舞台を台無しにする、異質な存在だと見抜いて首を撥ねた。
だったら──
トギスマス。トギスマス……。思考を削れ。感情を削げ
自分の心臓を完全に氷漬けにしたまま、スバルは顔に、かつての自分──『正気で、元気で、健気なナツキ・スバル』の完璧な仮面を貼り付ける。
「セッシー。……お前をどうやってハメ殺そうか」
10秒が、静かに、そして狂気的に回り始めた。
スバルはまた同じ道をたどる。オルバルトを殺す。
「童…?」
「……ヨルナさん…ごめん。オルバルトさん、殺しちゃって。大喧嘩中だったから別にいいかなって思っただけなんだ。ここは俺の顔に免じて許して。」
「許す…?そんなこと無理でありんす。」
「_あ」
|煙管《きせる》でスバルを殺す。斬撃を飛ばされた。それだけはわかった。でも剣なんてどこにもなかったし、セッシーもどこにもいなかった。だからあの煙管の仕業であることだけは鮮明にわかった。痛い。苦しい。もうやめて。初めてこんな死に方をした。初めて初めて初めて初めて初めて初めて初めて初めてもうやめて。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
スバルの脳内には、たったそれだけの3文字の言葉が鮮明に突き刺さる。
『やめろ』
時間が戻る。
スバルは焦っていた。これは確かに感情の1つかもしれない。スバルの中で感情が1つ増えた。焦りと言う感情が。何もできずに殺された。オルバルトはともかく、他の2人は脅威だ。特にセッシー。彼は異常だ。ヨルナを先に仕留めてから逃げて、作戦を練ろう。それだけが今のスバルにできる最適解だった。
「…ヨルナさんごめん。オルバルトさん殺しちゃって。大丈夫。すぐ同じところに逝けるから。」
オルバルトを殺したクナイでヨルナを殺す。
「おやおや、ずいぶんと乱暴な悪役ですねえ!」
「…あ」
また、首を切られた。どうすればいい?何をすればいい?どうすれば、何をどうすれば何をどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば答えにたどり着けるのだろう。痛みも苦しみも全部背負ってそんな男じゃいられない。痛み苦しみ、痛み、苦しみ、痛み、苦しみ、痛み、苦しみ、痛み、苦しみ、痛み、苦しみ、痛み、苦しみ、痛み、苦しみ。これを背負った男はいずれメンタルが崩壊する。お約束みたいなものだ。そう考えると、一体人生には何の意味があったのだろう。
__________________________________
帝国の陽光は、常に勝者の頭上にしか降り注がない。それを幼いながらに理解しているつもりだった。だが、当時のセシルス・セグムントはまだ、人の心の裏に潜む底なしの|泥濘《ぬめり》を知らなかった。
「セシルス、君の剣は本当に美しいよ。いつか必ず、この国を背負う剣士になる」
そう言って自分の頭を優しく撫でてくれた男がいた。いつも朗らかな笑顔を浮かべ、まだ細いセシルスの手に自らの手を重ねて、熱心に剣の稽古をつけてくれた男。年の離れた高弟であり、セシルスにとっては実の兄以上の存在だった。セシルスはその男を心の底から慕い、盲目的に信じていた。彼に褒められるためなら、どんなに手の皮が剥けるような厳しい修行も耐えられるとさえ思っていた。
しかし、その男の笑顔はすべて、都合のいい「偽物」に過ぎなかったのだ。
男の本性は、他者の才能を嫉妬し、自分より優れた者を徹底的に引き摺り下ろすことにしか快感を覚えない、歪んだ狂人だった。セシルスがめきめきと頭角を現し、神懸かり的な速度で自分を追い抜いていく恐怖と絶望に駆られた男は、ついにその夜、本性を現した。
「夜風が気持ちいいね、セシルス。少し、夜の素振りにつき合ってくれないかい?」
いつも通りの優しい声だった。だからセシルスは、何の疑いもなく背を向け、木刀を構えようとした。
その刹那、背後から放たれたのは、風を切り裂く本物の鋼の風圧――殺意だった。
「――っ!?」
本能的な直感がセシルスの身体を紙一重で横に飛ばした。直後、さっきまで彼がいた空間を、冷徹な白刃が通り過ぎる。地面を転がり、咄嗟に受け身を取って立ち上がったセシルスの目に飛び込んできたのは、月光を浴びてぎらぎらと輝く真剣を手にした、あの慕うべき男の姿だった。
驚くべきことに、男の顔には、いつも通りの「優しい笑顔」が張り付いたままだった。口元は穏やかに弧を描いているのに、その両目だけが、見たこともないほどのどす黒い憎悪で濁りきっている。
「おや、かわすなんて流石だね。でも、死んでくれよ、セシルス。君さえいなければ、僕が一番の期待の星でいられたのに。君のその天才が、僕のすべてを壊すんだ。だから、ねえ、死んでよ」
脳が理解を拒絶した。胸の奥が、まるで生木をへし折られたかのように激しく痛む。
信じていた者から向けられた、剥き出しの殺意。セシルスにとっての優しい世界が、ガラス細工のように音を立てて粉々に砕け散っていく。
「どうして……っ、どうしてですか! 僕は、あなたみたいになりたくて……!」
「うるさいなあ! その『悪気のない純粋さ』が、僕をどれだけ惨めにさせるか分からないのかい!?」
男が地を蹴り、猛然と躍りかかってきた。
手元にあるのは、訓練用の木刀のみ。対する相手は、容赦のない殺人剣。キィン、と硬質な音が夜の庭園に響き渡る。木刀で真剣を受け止めるたび、衝撃がセシルスの未熟な手首を痺れさせ、火花が視界をパチパチと弾いた。
男の剣は速く、重かった。だが、それ以上にセシルスの心を攻め立てたのは、絶え間なく押し寄せる精神的な混乱だった。
__嘘だ、これは悪い夢だ。だってこの人は、僕の手を取って教えてくれた人だ。僕の成長を、誰よりも喜んでくれた人のはずだ――!
しかし、眼前に迫る刃は一寸の容赦もなくセシルスの肌をかすめ、鮮血を散らす。頬を伝う熱い血の感触が、これが紛れもない現実だと告げていた。
男の笑顔の裏にあったのは、セシルスへの慈しみなどではなく、ただのどす黒い嫉妬。これまでの温かい言葉も、向けられた眼差しも、すべては牙を隠し、セシルスを油断させるための|欺瞞《ぎまん》に過ぎなかったのだ。
「あははは! ほら、どうしたの天才! 防戦一方じゃないか! 早くその才能で、僕を驚かせてみせてよ!」
狂ったように笑いながら、男の猛攻は続く。セシルスの防壁である木刀は、度重なる衝突によってすでに限界を迎え、ささくれ立ち、今にもへし折れそうだった。
その時、セシルスの心の中で、何かが完全に冷え切った。
悲しみは一瞬にして消え失せ、代わりに、底知れない虚無と、自分自身に対する激しい嫌悪が湧き上がってきた。
__ああ、僕は馬鹿だった。人の言葉を信じ、笑顔を信じ、体温を信じた。その結果がこれだ。騙されていたのは、僕のほうだったんだ
胸を焦がしていた熱い感情が消え、視界が恐ろしいほどにクリアになる。
男の剣筋が見える。粗く、歪み、嫉妬に狂った男の動きは、セシルスの天賦の才から見れば、あまりにも「遅く」感じられた。
「これで終わりだ、セシルス――!」
男が勝利を確信し、大上段から刃を振り下ろした瞬間。
セシルスは一歩、前に踏み込んだ。避けるのではなく、自ら死線の中へと飛び込んだのだ。
引き絞られた男の懐。がら空きになった胴体。セシルスは手にした木刀を、相手の剣が届くよりも早く、その手首へと正確に叩きつけた。
ボキリ、と嫌な音がして、男の手から真剣が零れ落ちる。
宙に舞う銀色の刃。セシルスは流れるような動作でその柄を空中で掴み取り、着地と同時に、反転の勢いのまま横一文字に薙いだ。
「――が、はっ……」
男の動きが止まった。
月の光に照らされた男の胸元から、一筋の赤い線が走り、ドッと鮮血が噴き出す。男は信じられないというように目を見開き、よろよろと後退した。その顔からは、先ほどまでの張り付いた笑顔が完全に消え失せ、ただの醜い死の恐怖だけが取り残されていた。
「セ、シルス……助け……」
男が血に染まった手を伸ばしてくる。その期に及んでもまだ、哀れみを乞うために偽りの表情を作ろうとする男の姿を見て、セシルスは完全に理解した。
人間とは、これほどまでに脆く、醜く、平気で嘘を吐く生き物なのだと。
男が地面に崩れ落ち、二度と動かなくなるのを見届けながら、返り血を浴びたセシルスは月夜の下で静かに佇んでいた。
その心に刻まれたのは、決して消えることのない冷たい傷痕。そして、強烈なまでの誓いだった。
もう二度と、誰にも騙されない。二度と、誰の言葉も、笑顔も信じない
優しさも、親愛も、すべては牙を隠すための仮面に過ぎない。ならば、誰も自分を欺けないほどの「圧倒的な高み」へ至るしかない。誰の追随も許さない、誰もが触れることすらできない世界最強になれば、もう二度と裏切られることなどないのだから。
男が地面に崩れ落ち、二度と動かなくなるのを見届けながら、返り血を浴びたセシルスは月夜の下で静かに佇んでいた。
生温かい血が頬を伝い、地面にポタポタと滴り落ちる。その音だけが、異様なほど静まり返った夜の庭園に響いていた。
セシルスは、手にした真剣の切っ先を見つめた。
つい先刻まで、自分に剣を教えてくれていたはずの男の血。その赤は、月光に照らされてひどくどす黒く、そして酷く冷たく見えた。
「……あはは」
乾いた、小さな笑い声がセシルスの唇から漏れた。
それは悲しみでもなく、勝利の悦びでもない。ただ、己のあまりの愚かしさに対する、自嘲の笑みだった。
「なるほど、なるほど、そういうことですか……。いやあ、ボクとしたことが、とんだ大大遅刻の大失態ですね。舞台の幕が上がる前に、危うく退場させられるところでした」
彼はぽつりと、誰に聞かせるでもなく語り始めた。声はまだ幼く、震えているはずなのに、その言葉には奇妙な冷徹さが宿り始めていた。
「ボクは信じていたんですよ。あなたの笑顔も、優しい言葉も。ボクが強くなるのを、我がことのように喜んでくれているんだって、本気で、本気で思っていたんです。だけど……全部、ボクを引き摺り下ろすための『台本』だったわけですか」
セシルスは一歩、倒れた男の遺体に近づき、見下ろした。死への恐怖に歪んだ男の顔には、もうあの優しかった兄師の面影はどこにも残っていない。
「醜いなぁ……。本当に、びっくりするくらい醜い。人間って、こんなに簡単に嘘を吐いて、こんなに簡単に壊れてしまうんですね。あんなに欲張って、ボクの才能を妬んで、結果がこれですか? 主役の座を狙うにしては、あまりにも|脇役《モブ》らしい、哀れな最期じゃないですか」
ふぅ、と深く息を吐き出す。
胸の奥を焦がしていたドロドロとした悲しみや怒りは、その言葉とともに、急速に凍りついて消えていく。代わりに、彼の心を満たしたのは、世界を完全に突き放したような圧倒的な客観性だった。
「……決めました。もう、おしまいです」
セシルスは剣を強く握り直し、夜空に浮かぶ満月を見上げた。
「二度と、誰の言葉も信じません。二度と、誰の笑顔も信じない。優しさも、親愛も、すべては牙を隠すための退屈な欺瞞に過ぎない。だったら、ボクがやるべきことは一つだけです。誰もボクを欺けないほどの『圧倒的な高み』へ至る。誰も追いつけない、誰も触れることすらできない、世界最強という名の――『物語の主役』に、ボクがなればいい」
彼は、返り血を拭うことさえせず、男の遺体に背を向けた。
「さようなら、ボクの哀れな|観客《引き立て役》。ボクの華々しい開幕の一歩に、ふさわしい血をありがとうございました」
それ以来、彼は自らの繊細な警戒心を、誰も踏み込めないほどに陽気で飄々とした「仮面」で覆い隠した。ただ世界最強という名の、誰も追いつけない「物語の主役」を目指して、修羅の道を孤独に歩み始めるのだった。
血の臭いが染みついた夜を境に、セシルス・セグムントという少年の歩む道は、完全に修羅のそれへと変貌を遂げた。
事件の翌朝、彼が取った行動は「隠蔽」でも「逃亡」でもなかった。
返り血を浴びた姿のまま、平然と自らの所属する剣の詰所へと戻り、事も無げに「彼がボクを殺そうとしたので、代わりにボクが彼を斬りました」と報告したのだ。
弱肉強食、実力至上主義を掲げる神聖ヴォラキア帝国において、その報告は残酷なほど正当に処理された。才能を妬んで夜襲を仕掛け、返り討ちに遭った男は「ただの敗者」として処理され、セシルスには一切のお咎めもなし。それどころか、年上の高弟を木刀一本から逆転して斬り伏せた少年の天才ぶりに、周囲の目は驚愕と畏怖へと塗り替えられた。
「あはは! 皆さん、そんなに怯えた顔をしないでくださいよ。ボクはただ、舞台の台本通りに動いただけですから!」
詰所の連中が自分を遠巻きに見るようになっても、セシルスはただ陽気に、飄々とした笑顔で笑い飛ばした。
その笑顔は、かつて彼を裏切った男が浮かべていた偽りの仮面によく似ていた。だが、セシルスが身に纏った「仮面」は、それよりも遥かに強固で、底が知れず、誰一人として本心へ踏み込ませないための絶対的な防壁だった。
それからのセシルスの台頭は、まさに「青き雷光」の異名にふさわしい、凄まじい速度だった。
彼はただひたすらに剣を振るい、戦場へと身を投じた。
帝国の国境を侵す亜人の大軍、反乱を目論む不遜な貴族の私兵、そして名を上げんとして襲いかかる名うての剣士たち。セシルスにとって、迫り来る敵のすべては、己という「物語の主役」を引き立てるための舞台装置であり、観客に過ぎなかった。
戦場で誰かが優しく声をかけてきても、心の中では一切信用しなかった。
戦友が熱い言葉を交わしてきても、その裏にあるかもしれない嫉妬や計算を、冷徹に見透かしていた。
「先に芽は摘む」
彼の洗練された防衛本能は、敵が害意を抱くよりも早く、その首を容赦なく刎ね飛ばした。二度と騙されないために、誰よりも速く、誰よりも強く。
そして、時は流れる。
幾千の屍を築き、一騎当千の武勇を示し続けたセシルスは、やがて帝国の最高戦力である「九神将」の、それも第一の席――筆頭の座へと登り詰める。
その腰に、伝説の魔剣『ムラサメ』と名刀『マサユキ』の二振りを帯びた若き剣聖の姿に、もはや異を唱える者は帝国中に誰一人として存在しなかった。かつて彼を惨めに引き摺り下ろそうとした男の思惑とは裏腹に、セシルスは誰の手も届かない高みへと、本当に至ってしまったのだ。
「さあさあ、皆さん! ヴォラキアの青き雷光、セシルス・セグムントの晴れ舞台です! 特等席で、ボクの最高の輝きを目に焼き付けてくださいね!」
満天の星空の下、かつて裏切られた庭園を思い出しながら、セシルスは刀の柄に手をかける。
その瞳の奥に宿る冷たい虚無を陽気な光で覆い隠し、彼は今日も、世界最強という名の終わりなき演目を踊り続けるのだった。
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「あーう?」
「…」
「童?」
「…セッシー。あいつは要注意人物だ。来い。セシルス。」
「呼びましたか?」
「一対一のサシでタイマン張ろうじゃねえか。」
「ええ、これも主役で嫉妬される僕への挑戦状と受け取っていいんでしょうか?そういうことなら引き受けますよ。」
「そうだと思ってくれて構わない。始めようか。」
これで怒涛の更新は終了!最新話に追いつきました!やったね!いや今回の話、我ながら自信作ですね。シルスの過去も良い感じにかけた気がしますし。でもやっぱこの回も挿絵があるとさらに良くなるんだよなぁ。諦めたほうがいいと言う結果が出たけど、やっぱり欲しいよね。まぁソリスピアの方ではつけれてるし、別にいいけどさ。
5話「ナツキ・スバル」
史上最高の神回ですね
「始めようか」
その一言が、すべての始まりだった。
あるいは、数百万回に及ぶ地獄の、本当の『終わりの始まり』。
セシルス・セグムントが、その歪んだ無邪気な笑顔のまま、刀の柄に手をかける。
世界最強の一閃。網膜に焼き付いたあの冷酷な『青い一線』が、再び自分の首を跳ね飛ばすために起動する。
「――そうゆうことなら引き受けますよ。脇役から主役へのステップアップを狙う挑戦者、大歓迎です!」
「セッシー、手加減すんなよ。」
「セッシー?あはは、ボクのあだ名ですか?いい名前ですね!手加減なんてしませんよ。」
1回目。首を切り落とされ死亡。
2回目。首
3回目。首
4、5、6、7、8、9、10。首
11。八つ裂き
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「あはは、耐えてて可愛い。強がりさんみたい!」
100、1000、10000。八つ裂き
「うがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「あはは、脇役らしく吠えてますね!」
10000。真っ二つ
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
100000。心臓グサ
「…あ」
1000000。精神崩壊
「ははは、ははは。はははははははははははははははははははははははははは。」
「壊れましたか!脆い脇役ですね!」
100000000。セシルス攻略
「行きますよ?」
まずは首。回避。ここで蹴りを一発。
成功。
「え!?」
次は乱れ切りが来る。走り回れ。隙ができるからすかさずラッシュ。
成功
「うわぁ…」
真正面から刀が振られる。回避。ここでアッパー。
成功。
「うーん…」
後ろからの不意打ち。回避。背負い投げ。
成功。
「えぇ!?」
未知の領域だ。ここからは。
「降参します。脇役がここまで頑張ってるのにボコすなんて大人げないですからね。」
「…あ」
この時スバルは初めて勝利した。
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菜月昴という人間に刻まれた最初の記憶は、いつだって父親の、あの広くて大きな背中だった。
菜月賢一。それが彼の父親の名であり、同時にスバルにとっての「世界の基準」だった。
賢一は誰からも愛される男だった。底抜けに明るく、お調子者で、それでいて誰もが困った時には真っ先に手を差し伸べる。近所の人々も、会社の同僚も、学生時代の友人たちも、誰もが口を揃えて「菜月賢一はすごい」と称賛した。母親である菜月菜穂子もまた、そんな夫をマイペースに、けれど深い愛情で見守る風変わりで魅力的な女性だった。
そんな二人の間に生まれた一人息子、それがスバルだ。
幼い頃のスバルは、自分が「あの菜月賢一の息子」であることが誇くて仕方がなかった。同時に、周囲もまたスバルに同じだけの期待の視線を向けた。
「さすが賢一さんの息子さんね」
「将来はお父さんみたいになるのかな」
その言葉は、幼いスバルにとって心地よい愛撫であり、絶対的な肯定だった。
実際、小学校低学年頃までのスバルは、何をやらせても周囲の子供たちより頭一つ抜けていた。足も速く、口も達者で、クラスの中心にいつもいた。悪目立ちするような悪戯を仕掛けては、担任の先生に怒られ、クラスメイトを笑わせる。その破天荒な振る舞いは、まさに父親である賢一のミニチュアだった。
スバルは信じて疑わなかった。自分は特別な存在なのだと。何もしなくても、いずれ自分は父親のように、誰もが認め、誰もが愛する偉大な男になるのだと。
万能感という名の甘いゆりかごの中で、スバルはただ、父親の背中を追いかけていればいいはずだった。それが、破滅へのカウントダウンであることにも気づかずに。潮目が変わったのは、高学年から中学生に上がる頃だった。
周囲の子供たちが「成長」を始めたのだ。それまでがむしゃらに走るだけだった周囲が、努力を覚え、個性を磨き、それぞれの分野で頭角を現し始めた。
一方で、スバルは何も変わっていなかった。
いや、変われなかったのだ。「天才の息子」というプライドが邪魔をして、泥臭く努力することを無意識に拒絶していた。勉強で行き詰まっても「本気を出していないだけ」と言い訳し、スポーツで追い抜かれても「たまたま調子が悪かった」と笑って誤魔化す。
気づけば、かつて自分より後ろを走っていたはずの合理的な友人たちが、遥か先を走っていた。
「なんだ、菜月。大したことないな」
誰かがこぼしたその一言が、スバルの胸に深く突き刺さる。
テストの順位は下がり続け、運動会での主役の座も奪われた。かつて自分を全肯定してくれた周囲の視線が、徐々に「期待外れ」という冷ややかな色を帯びていくのを感じた。
恐怖だった。自分がただの凡人であると突きつけられることが。何より、「菜月賢一の息子」でありながら、その名前を汚してしまうかもしれないという現実が、十代のスバルの心をすり潰していった。
焦ったスバルが選んだのは、努力ではなく「さらなる悪目立ち」だった。
普通のことをしていては勝てない。ならば、誰もやらない奇行に走るしかない。金髪に髪を染め、突飛な服を着て、教室ではわざと大声で滑った冗談を連発した。授業中に突如として脈絡のない発言をし、周囲を困惑させる。
それは、かつて父親がやってのけた「ユーモア」の劣化コピーであり、ただの歪んだ自己顕示欲の発露に過ぎなかった。
友達は一人、また一人と離れていった。
「あいつ、最近痛いよな」
陰口は、確実にスバルの耳に届いていた。ピエロのように道化を演じれば演じるほど、周囲との溝は深まり、虚しさと自己嫌悪だけが心に沈殿していった。
誰からも期待されず、誰の特別にもなれない。
スバルが纏っていた「天才」という名の金メッキは、完全に剥がれ落ち、そこには錆びついた「菜月昴」という空っぽの器だけが残されていた。高校への進学は、一種の環境リセットを期待してのものだった。
しかし、人間の本質はそう簡単に変わらない。新しいクラスでも、スバルは最初から「変わった奴」として振る舞おうとし、そして初手で完全に滑った。周囲はスバルを腫れ物のように扱い、関わろうとはしなくなった。
ある日の朝。
いつも通り学校へ行くために制服を着て、玄関に向かおうとしたその瞬間、スバルの身体が鉛のように重くなった。
足が動かない。胃の底からせり上がるような強烈な吐き気と、冷や汗が全身を包み込む。
(学校に、行きたくない)
一度そう思ってしまったら、もう限界だった。スバルはその場にへたり込み、それから二度と、高校の門をくぐることはなかった。
引きこもり生活の始まりだった。
スバルの部屋は、現実から逃避するためのシェルターへと変わった。昼夜逆転の生活。夜通しアニメを観て、ライトノベルを読み漁り、ネットの海をあてもなく漂う。昼間は家族と顔を合わせないように泥のように眠り、夜中にこっそりリビングに降りて飯を食う。
そんな生活を続けるスバルを、最も苦しめたのは「両親の優しさ」だった。
父親の賢一は、学校に行かないスバルを一度も怒鳴らなかった。
母親の菜穂子も、腫れ物に触るような真似はせず、いつも通りマイペースに接してくれた。
それが、スバルには耐え難かった。
「どうして俺を殴ってくれないんだ」
「どうして、お前なんか生まれてこなければよかったって、言ってくれないんだ」
もし両親が自分を責めてくれたなら、自分は彼らを「理解のない最悪の親」として憎み、被害者として振る舞うことができた。引きこもっている自分を正当化できた。
しかし、両親はどこまでもスバルを愛し、信じ、待っていた。
その無償の愛こそが、スバルにとっては自らの無価値さを証明する最大の凶器だった。
こんなに素晴らしい両親の元に生まれながら、自分は何も返せないどころか、部屋に引きこもって親の脛をかじり続けているゴミ虫だ。
自責の念は膨れ上がり、スバルの心を精神的に去勢していった。
いつしか、部屋の中で筋トレをすることがスバルの唯一のルーティンとなった。身体を極限まで痛めつけている間だけは、自分が生きている実感が湧き、未来への不安を忘れることができたからだ。だが、それもまた、根本的な解決からは程遠い現実逃避の変形に過ぎなかった。引きこもり始めてから長い時間が経った、ある夏の夜。
スバルの部屋の漫画や食料が底を突き、彼は数日ぶりに家の外へと足を踏み出した。
夜の空気は冷たく、静かだった。誰もいない住宅街を歩きながら、スバルは自分の足元を見つめる。
__俺、このままどうなるんだろうな……
定職にも就かず、学校も辞め、友達もいない。ただ筋トレだけが無駄に得意な、十九歳の引きこもり。親が死んだら、自分はどうやって生きていくのか。そんな暗澹たる未来が、頭をよぎる。
近くのコンビニエンスストアに入り、明るすぎる蛍光灯の下で、スバルは適当なスナック菓子とカップ麺、そして手持ち無沙汰を埋めるための雑誌を買い求めた。
レジで店員と最低限のやり取りを交わし、袋を受け取って店を出る。
夜風がスバルの髪を揺らした。
いつもの、見慣れた、退屈で、けれど安心できるはずの帰路。
スバルは歩きながら、ふと自分の目をこすった。
「そりゃ1日中部屋に引きこもってゲームやってりゃこんなものも見えるようになるわな。」
妙に目がチカチカする。ひどく眠気が襲ってきたかのような、あるいは三半規管が狂ったかのような、奇妙な感覚。
一歩、足を踏み出す。
次の瞬間、スバルの視界がぐにゃりと歪んだ。
世界の輪郭が融解し、夜の闇が、あり得ない色彩の奔流へと置き換わっていく。
「――え?」
声を出したつもりが、自分の声がどこか遠くへ吸い込まれていくようだった。地面を踏みしめていたはずの感覚が消え、浮遊感と、それから猛烈な眩暈がスバルを襲う。
買い出しの袋を握りしめたまま、スバルは本能的に目を閉じた。
心臓がバクバクと破裂しそうなほどに脈打つ。
これは、何の冗談だ?
ついに自分の脳がイカれて、幻覚でも見始めたのか?
そして、ふっと周囲の「音」が変わった。
車のエンジン音でも、深夜の虫の声でもない。
ガヤガヤとした、聞いたこともない言語の喧騒。浴びせかけられる、強烈な太陽の光。
ゆっくりとスバルが目を開けたとき――そこには、アスファルトの道路ではなく、石畳の広場が広がっていた。
行き交う人々は、誰もが中世ヨーロッパのような奇妙な衣服を身に纏い、その中には、あからさまに人間ではない「亜人」の姿混じっている。
巨大なトカゲが荷車を引き、見上げるような青空には、地球では見たこともない巨大な鳥が羽ばたいていた。
菜月昴という、何者にもなれずに日本で燻っていた少年。
彼が、自らの過去と決別し、過酷極まる「死に戻り」の運命へと足を踏み入れたのは、まさにこの、何の前触れもない一瞬の出来事だった。
手に持ったコンビニ袋と、わずかな小銭。それが、彼が過去から持ち込めた、唯一の全てだった。
「もしかしてこれって…異世界召喚ってやつ〜!?!?!?」
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すべての始まりが今思い出された。これが彼の日本での全貌であり、情けない部分が出ているものでもあった。それは彼にとってとても刺さるものだった。今は大切な時なんだと信じさせてくれた。そんな瞬間でもあった。この時お父さんやお母さんの事は何も出てこなくて心配させてるんだろうな。そういうことだけはわかった。多分こっちの世界とあっちの世界は同じ時間軸が通ってる。お父さんとお母さんは今頃俺を探し回ってる。そんなのって悲しいよな。でも、そんな両親なんだ。俺は帰れることを信じて、今ここにいる。
「セッシー。ありがとう。お前のおかげで大切なことを思い出した気がするよ。」
「それは何よりです。」
疲れた…