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5話「ナツキ・スバル」
Snake/Anake
史上最高の神回ですね
「始めようか」
その一言が、すべての始まりだった。
あるいは、数百万回に及ぶ地獄の、本当の『終わりの始まり』。
セシルス・セグムントが、その歪んだ無邪気な笑顔のまま、刀の柄に手をかける。
世界最強の一閃。網膜に焼き付いたあの冷酷な『青い一線』が、再び自分の首を跳ね飛ばすために起動する。
「――そうゆうことなら引き受けますよ。脇役から主役へのステップアップを狙う挑戦者、大歓迎です!」
「セッシー、手加減すんなよ。」
「セッシー?あはは、ボクのあだ名ですか?いい名前ですね!手加減なんてしませんよ。」
1回目。首を切り落とされ死亡。
2回目。首
3回目。首
4、5、6、7、8、9、10。首
11。八つ裂き
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「あはは、耐えてて可愛い。強がりさんみたい!」
100、1000、10000。八つ裂き
「うがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「あはは、脇役らしく吠えてますね!」
10000。真っ二つ
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
100000。心臓グサ
「…あ」
1000000。精神崩壊
「ははは、ははは。はははははははははははははははははははははははははは。」
「壊れましたか!脆い脇役ですね!」
100000000。セシルス攻略
「行きますよ?」
まずは首。回避。ここで蹴りを一発。
成功。
「え!?」
次は乱れ切りが来る。走り回れ。隙ができるからすかさずラッシュ。
成功
「うわぁ…」
真正面から刀が振られる。回避。ここでアッパー。
成功。
「うーん…」
後ろからの不意打ち。回避。背負い投げ。
成功。
「えぇ!?」
未知の領域だ。ここからは。
「降参します。脇役がここまで頑張ってるのにボコすなんて大人げないですからね。」
「…あ」
この時スバルは初めて勝利した。
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菜月昴という人間に刻まれた最初の記憶は、いつだって父親の、あの広くて大きな背中だった。
菜月賢一。それが彼の父親の名であり、同時にスバルにとっての「世界の基準」だった。
賢一は誰からも愛される男だった。底抜けに明るく、お調子者で、それでいて誰もが困った時には真っ先に手を差し伸べる。近所の人々も、会社の同僚も、学生時代の友人たちも、誰もが口を揃えて「菜月賢一はすごい」と称賛した。母親である菜月菜穂子もまた、そんな夫をマイペースに、けれど深い愛情で見守る風変わりで魅力的な女性だった。
そんな二人の間に生まれた一人息子、それがスバルだ。
幼い頃のスバルは、自分が「あの菜月賢一の息子」であることが誇くて仕方がなかった。同時に、周囲もまたスバルに同じだけの期待の視線を向けた。
「さすが賢一さんの息子さんね」
「将来はお父さんみたいになるのかな」
その言葉は、幼いスバルにとって心地よい愛撫であり、絶対的な肯定だった。
実際、小学校低学年頃までのスバルは、何をやらせても周囲の子供たちより頭一つ抜けていた。足も速く、口も達者で、クラスの中心にいつもいた。悪目立ちするような悪戯を仕掛けては、担任の先生に怒られ、クラスメイトを笑わせる。その破天荒な振る舞いは、まさに父親である賢一のミニチュアだった。
スバルは信じて疑わなかった。自分は特別な存在なのだと。何もしなくても、いずれ自分は父親のように、誰もが認め、誰もが愛する偉大な男になるのだと。
万能感という名の甘いゆりかごの中で、スバルはただ、父親の背中を追いかけていればいいはずだった。それが、破滅へのカウントダウンであることにも気づかずに。潮目が変わったのは、高学年から中学生に上がる頃だった。
周囲の子供たちが「成長」を始めたのだ。それまでがむしゃらに走るだけだった周囲が、努力を覚え、個性を磨き、それぞれの分野で頭角を現し始めた。
一方で、スバルは何も変わっていなかった。
いや、変われなかったのだ。「天才の息子」というプライドが邪魔をして、泥臭く努力することを無意識に拒絶していた。勉強で行き詰まっても「本気を出していないだけ」と言い訳し、スポーツで追い抜かれても「たまたま調子が悪かった」と笑って誤魔化す。
気づけば、かつて自分より後ろを走っていたはずの合理的な友人たちが、遥か先を走っていた。
「なんだ、菜月。大したことないな」
誰かがこぼしたその一言が、スバルの胸に深く突き刺さる。
テストの順位は下がり続け、運動会での主役の座も奪われた。かつて自分を全肯定してくれた周囲の視線が、徐々に「期待外れ」という冷ややかな色を帯びていくのを感じた。
恐怖だった。自分がただの凡人であると突きつけられることが。何より、「菜月賢一の息子」でありながら、その名前を汚してしまうかもしれないという現実が、十代のスバルの心をすり潰していった。
焦ったスバルが選んだのは、努力ではなく「さらなる悪目立ち」だった。
普通のことをしていては勝てない。ならば、誰もやらない奇行に走るしかない。金髪に髪を染め、突飛な服を着て、教室ではわざと大声で滑った冗談を連発した。授業中に突如として脈絡のない発言をし、周囲を困惑させる。
それは、かつて父親がやってのけた「ユーモア」の劣化コピーであり、ただの歪んだ自己顕示欲の発露に過ぎなかった。
友達は一人、また一人と離れていった。
「あいつ、最近痛いよな」
陰口は、確実にスバルの耳に届いていた。ピエロのように道化を演じれば演じるほど、周囲との溝は深まり、虚しさと自己嫌悪だけが心に沈殿していった。
誰からも期待されず、誰の特別にもなれない。
スバルが纏っていた「天才」という名の金メッキは、完全に剥がれ落ち、そこには錆びついた「菜月昴」という空っぽの器だけが残されていた。高校への進学は、一種の環境リセットを期待してのものだった。
しかし、人間の本質はそう簡単に変わらない。新しいクラスでも、スバルは最初から「変わった奴」として振る舞おうとし、そして初手で完全に滑った。周囲はスバルを腫れ物のように扱い、関わろうとはしなくなった。
ある日の朝。
いつも通り学校へ行くために制服を着て、玄関に向かおうとしたその瞬間、スバルの身体が鉛のように重くなった。
足が動かない。胃の底からせり上がるような強烈な吐き気と、冷や汗が全身を包み込む。
(学校に、行きたくない)
一度そう思ってしまったら、もう限界だった。スバルはその場にへたり込み、それから二度と、高校の門をくぐることはなかった。
引きこもり生活の始まりだった。
スバルの部屋は、現実から逃避するためのシェルターへと変わった。昼夜逆転の生活。夜通しアニメを観て、ライトノベルを読み漁り、ネットの海をあてもなく漂う。昼間は家族と顔を合わせないように泥のように眠り、夜中にこっそりリビングに降りて飯を食う。
そんな生活を続けるスバルを、最も苦しめたのは「両親の優しさ」だった。
父親の賢一は、学校に行かないスバルを一度も怒鳴らなかった。
母親の菜穂子も、腫れ物に触るような真似はせず、いつも通りマイペースに接してくれた。
それが、スバルには耐え難かった。
「どうして俺を殴ってくれないんだ」
「どうして、お前なんか生まれてこなければよかったって、言ってくれないんだ」
もし両親が自分を責めてくれたなら、自分は彼らを「理解のない最悪の親」として憎み、被害者として振る舞うことができた。引きこもっている自分を正当化できた。
しかし、両親はどこまでもスバルを愛し、信じ、待っていた。
その無償の愛こそが、スバルにとっては自らの無価値さを証明する最大の凶器だった。
こんなに素晴らしい両親の元に生まれながら、自分は何も返せないどころか、部屋に引きこもって親の脛をかじり続けているゴミ虫だ。
自責の念は膨れ上がり、スバルの心を精神的に去勢していった。
いつしか、部屋の中で筋トレをすることがスバルの唯一のルーティンとなった。身体を極限まで痛めつけている間だけは、自分が生きている実感が湧き、未来への不安を忘れることができたからだ。だが、それもまた、根本的な解決からは程遠い現実逃避の変形に過ぎなかった。引きこもり始めてから長い時間が経った、ある夏の夜。
スバルの部屋の漫画や食料が底を突き、彼は数日ぶりに家の外へと足を踏み出した。
夜の空気は冷たく、静かだった。誰もいない住宅街を歩きながら、スバルは自分の足元を見つめる。
__俺、このままどうなるんだろうな……
定職にも就かず、学校も辞め、友達もいない。ただ筋トレだけが無駄に得意な、十九歳の引きこもり。親が死んだら、自分はどうやって生きていくのか。そんな暗澹たる未来が、頭をよぎる。
近くのコンビニエンスストアに入り、明るすぎる蛍光灯の下で、スバルは適当なスナック菓子とカップ麺、そして手持ち無沙汰を埋めるための雑誌を買い求めた。
レジで店員と最低限のやり取りを交わし、袋を受け取って店を出る。
夜風がスバルの髪を揺らした。
いつもの、見慣れた、退屈で、けれど安心できるはずの帰路。
スバルは歩きながら、ふと自分の目をこすった。
「そりゃ1日中部屋に引きこもってゲームやってりゃこんなものも見えるようになるわな。」
妙に目がチカチカする。ひどく眠気が襲ってきたかのような、あるいは三半規管が狂ったかのような、奇妙な感覚。
一歩、足を踏み出す。
次の瞬間、スバルの視界がぐにゃりと歪んだ。
世界の輪郭が融解し、夜の闇が、あり得ない色彩の奔流へと置き換わっていく。
「――え?」
声を出したつもりが、自分の声がどこか遠くへ吸い込まれていくようだった。地面を踏みしめていたはずの感覚が消え、浮遊感と、それから猛烈な眩暈がスバルを襲う。
買い出しの袋を握りしめたまま、スバルは本能的に目を閉じた。
心臓がバクバクと破裂しそうなほどに脈打つ。
これは、何の冗談だ?
ついに自分の脳がイカれて、幻覚でも見始めたのか?
そして、ふっと周囲の「音」が変わった。
車のエンジン音でも、深夜の虫の声でもない。
ガヤガヤとした、聞いたこともない言語の喧騒。浴びせかけられる、強烈な太陽の光。
ゆっくりとスバルが目を開けたとき――そこには、アスファルトの道路ではなく、石畳の広場が広がっていた。
行き交う人々は、誰もが中世ヨーロッパのような奇妙な衣服を身に纏い、その中には、あからさまに人間ではない「亜人」の姿混じっている。
巨大なトカゲが荷車を引き、見上げるような青空には、地球では見たこともない巨大な鳥が羽ばたいていた。
菜月昴という、何者にもなれずに日本で燻っていた少年。
彼が、自らの過去と決別し、過酷極まる「死に戻り」の運命へと足を踏み入れたのは、まさにこの、何の前触れもない一瞬の出来事だった。
手に持ったコンビニ袋と、わずかな小銭。それが、彼が過去から持ち込めた、唯一の全てだった。
「もしかしてこれって…異世界召喚ってやつ〜!?!?!?」
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すべての始まりが今思い出された。これが彼の日本での全貌であり、情けない部分が出ているものでもあった。それは彼にとってとても刺さるものだった。今は大切な時なんだと信じさせてくれた。そんな瞬間でもあった。この時お父さんやお母さんの事は何も出てこなくて心配させてるんだろうな。そういうことだけはわかった。多分こっちの世界とあっちの世界は同じ時間軸が通ってる。お父さんとお母さんは今頃俺を探し回ってる。そんなのって悲しいよな。でも、そんな両親なんだ。俺は帰れることを信じて、今ここにいる。
「セッシー。ありがとう。お前のおかげで大切なことを思い出した気がするよ。」
「それは何よりです。」
疲れた…