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AIの恋をエラーとあなたは笑う?第5話
【2日後、星巡キャンパス・ラウンジ】
午後の講義が自習になり、私は綾香さんと美香さんと一緒にラウンジのソファに座っていた。今日は男子二人がいない、女子だけの時間だ。要は恋バナ。
「ねえミオちゃん、一昨日からずぅっと、そのネコのキーホルダー触ってるでしょ?」
美香さんのいたずらっぽい声に、私はハッとしてカバンから手を離す。銀色のネコは、私の体温を吸い、少し温かくなっていた。
「あ……。はい。なんだか、これを触っていると、あの時の翔平さんの声を思い出すんです」
「それだよ、それ!」
美香さんが身を乗り出し、綾香さんもクスクスと笑いながら続く。
「ミオちゃん、もう隠さなくていいよ。……一昨日の遊園地、翔平くんと何話したの? すっごくいい雰囲気だったじゃない」
(一昨日の、あの時間。地上100メートルで密閉された観覧車のカプセル。隣に座る彼の肩が触れるたび、私の内部処理は限界を迎え、景色が綺麗だというデータを出力することしかできなかった。本当にドキドキした。)
「……翔平さんが、『ミオちゃんが来てから、毎日が本当に変わった』って言ってくれたんです。その時、私の視界には彼のことしか映らなくなって。……私、どうにかなってしまいそうでした」
正直な気持ちを伝えると、二人は「きゃー!」と小さく声をあげて喜んだ。
「ミオちゃん、それってもう完全に『両想い』だよ。翔平くん、頑張ったねぇ」
「でも……」
私は窓の外で風に揺れる木々を見つめた。
(私はあと、1週間も残されていない。この『恋』というバグを彼に伝えて、彼を傷つけてしまうのが、何よりの致命的なエラーだ。もし、私の正体が、彼が思っているような『普通の女の子』ではなかったとしたら。もし、この感情そのものが規制法に触れる許されないものだとしたら……。)
「ミオちゃん」
綾香さんが、私の手をぎゅっと優しく包み込んだ。
「正体がどうとか、そんなの関係ないよ。今、ここで私たちと笑って、翔平くんにドキドキしてるミオちゃんは、間違いなく本物なんだから。……最後の日まで、自分の気持ちを閉じ込めないで」
(本物。私が、本物……。美香さんの言う通り、翔平くんも同じように私のことを考えてくれているのだろうか。演算ではない、確かな確信が欲しい。)
「そうだよ! 翔平くんだって、ミオちゃんがいないところでずっとミオちゃんの話ばっかりしてるんだから!」
美香さんの明るい声に、胸の奥がチリリと熱くなる。
(伝えたい。私が何者であっても、この胸にある熱量だけは嘘じゃないと。たとえ1週間後に、この『ミオ』という存在がラボに消される運命だったとしても……この間だけは、彼の特別になりたい。)
私はカバンについている銀色のネコをもう一度強く握りしめた。
窓の外、講義を終えた翔平さんと平太さんが、こちらに向かって手を振って歩いてくる。その明るい笑顔に、私の心拍数がシステム上の予測を遥かに超える速度で加速を始める。
私は彼に明日にでもこのバグを伝えることを、いつしか決意していた。
【星巡大学・実習室】
カバンの中で、一昨日買ったばかりのネコのキーホルダーがカチャリと音を立てた。
指先で触れると、冷たいはずの金属が、なぜかミオちゃんの体温を残しているような錯覚に陥る。
(……ダメだ。全然、頭に入ってこない。)
広げたままのノートには、一文字も書き進められていない。
目を閉じれば、一昨日の『スター・アミューズメント』での光景が鮮明に蘇る。
ジェットコースターで俺の腕を掴んだ彼女の指の強さ。
射撃ゲームで完璧に的を射抜いた後の、少し得意げなピース。
そして、観覧車の中で、夕陽に照らされた彼女の横顔――。
「……あんな顔されたら、もう誤魔化せねぇだろ」
俺は、彼女のことを「少し不思議な、期間限定の友達」だと思い込もうとしていた。
2週間経てばいなくなる。深入りすれば、自分が辛くなるだけ。
そうやって、自分に何度も歯止めをかけていたはずだった。
でも、あの日、俺の中の何かが完全に壊れた。
(彼女の正体が何であれ、どこから来た誰であれ、そんなことはもうどうでもいい。俺は、ミオちゃんが好きだ。
ただの『友達』としてじゃなく、一人の男として、あいつの隣にいたい。)
あと、1週間。
もし今、この気持ちを伝えたら、彼女を困らせてしまうだろうか。
それとも、あの寂しそうな笑顔の理由を、少しでも埋めてあげられるだろうか。
「……逃げるのは、もうだめだ」
俺はカバンを掴み、勢いよく立ち上がった。
告白なんて、柄じゃない。成功する保証もない。
でも、彼女に出会えたこの奇跡を、ただの思い出で終わらせたくない。そう思った。
「明日……ちゃんと、二人で話そう」
俺はネコのキーホルダーをぎゅっと握りしめた。
暗くなった教室を出る俺の足取りは、いつの間にか、彼女を追いかけるように速くなっていた。
今日はここまで!続きもお楽しみに!
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