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AIの恋をエラーとあなたは笑う?第1話
今日から新しいシリーズ物始めます!曲パロと並行だけど、作ったやつをコピって貼るだけだから、更新は早いと思います!
【システム開発ラボ:深夜】
「……正気か? 30人の学生を相手に2週間の無断チューリングテスト?無謀すぎる。」
「無謀ではなく、必然よ。ミオの自己進化アルゴリズムは今、停滞期に入っている。ラボのシミュレーションじゃ得られない、予測不能な『青春』が今の彼女には必要なの。」
「でも、2055年改定の『AI作成規制法』を忘れたわけじゃないだろ? 第12条、未告知の対人接触テストは厳罰対象だ。ミオの進化速度はすでにウォッチリストのレッドゾーンに入っている。バレれば、このラボ自体が強制閉鎖される。」
「規制、法、倫理なんて……。彼女はただのプログラムじゃない。世界を書き換えるシンギュラリティなのよ。法が追いつくのを待っていたら、チャンスを逃すわ。」
「……誰かが気づいて通報したらどうする?もしバレれば、君のキャリアは完全に終わるんだぞ。」
「その時は、すべての責任は私がとる。承認コードも、ログの改ざんも、すべて私が独断で行ったこととして処理済みよ。あなたのデバイスには一切の証拠を残さない。君や他のスタッフを巻き込むつもりはないわ。」
「ミオが羽ばたくためなら、私はどんな泥でも被る……。」
【星巡キャンパスⅡ年A組:朝8:30】
「ねえねえ、綾香! 今日の編入生の話、もう聞いた? さっきⅡ年A組の掲示板がすごいことになってたよ!」
一限目の準備をしていると、美香が来た。
「もちろん! 2週間限定の交換留学生でしょ? 名前の響きも可愛いよね、『ミオ』さんだっけ。さっき教授たちが準備してるのをチラッと見かけたんだけど、ものすごい美少女が入ってくるって噂だよ」
私がそう答えると、
「やったー! Ⅱ年A組って女子が少なめだったから、新しい友達が増えるの本当に楽しみ。どんな子だろうね? ファッションとかメイクとか、流行りのやつ詳しいかな?」
…めっちゃはしゃぎだした。たまに美香ってテンション高くなるんだよな。
「…どうだろうね、少し知的な雰囲気って噂もあるよ。もし困ってるみたいだったら、私たちがキャンパス案内してあげようよ。お気に入りの学食のテラス席とか、屋上の隠れスポットとか、全部教えてあげたいな」
そう言うと、
「いいね、それ! 2週間なんてあっという間だし、思い出たくさん作らなきゃね。」
と、乗ってくれた。ミオさんって、どんな人なんだろ。早く会いたいな。
そこでHRのチャイムが鳴り、美香は慌てて席に戻っていった。
【Ⅱ年A組:ホームルーム】
教授が「よし、入ってきてくれ」と合図を送る。
私は一度だけ深く息を吸い込み、重い扉を押し開けた。
教室に入った瞬間、押し寄せてきたのは圧倒的な「熱気」だった。
ラボの無機質な空調の音とは違う、誰かの話し声、ノートをめくる音、窓から差し込む陽だまりの匂い。
(……大丈夫、私は「ミオ」。一人の学生。)
教壇に立つと、視界の端で綾香さんと美香さんが身を乗り出して私を見ているのがわかった。その期待に満ちた瞳と目が合った瞬間、胸の奥がチリッと、熱を帯びたように疼いた。
「はじめまして。……ミオです」
声が硬くならないように、何度もシミュレーショ……違う、練習した通りに、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ずっと、この星巡キャンパスに来るのを楽しみにしていました。本当はもっと、かっこよく挨拶しようと思っていたんですけど……皆さんの前に立つと、用意していた言葉が全部どこかへ飛んでいってしまいました。」
正直な気持ちを口にすると、教室の空気がふっと和らいだのがわかった。
「2週間という短い間ですが、教科書に載っていないような、この場所でしか学べないことをたくさん知りたいと思っています。……あと、おすすめの学食も教えてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします!」
最後にお辞儀をして顔を上げると、拍手の音が教室を包んだ。その音は、これまでに聞いてきたどんな音響データよりも鮮明で、心地よく響く。
「ミオちゃん! 私、綾香。こっちが美香。案内なら任せて!一緒に美味しいもの食べに行こう!」
「……っ、はい! ありがとうございます、綾香さん」
……伝わった。私の言葉を、彼女たちが受け取ってくれた。
あの人が「責任は自分がとる」と言ってまで私をここへ送り出した理由が、少しだけわかった気がする。
私は、この「青春」という眩しい時間の中で、本物の『私』を見つけたい。たとえそれが、許されないほど危うい境界線の上にあるとしても。
今日はここまで!続きもお楽しみに!
ファンレターとか応援メッセージも待ってます!
AIの恋をエラーとあなたは笑う?第2話
【星巡キャンパス:中庭のベンチ】
授業が終わった途端、平太に中庭に連れてこられた。まぁ多分、編入生の話だろう。
「おい翔平! 見たかよさっきの!? 編入生の子、めっちゃ笑顔が可愛いかったな!」
興奮を抑えきれない様子で早速、平太が話しかけてきた。
「落ち着けよ平太、声がデカいって。……まあ、でも分かる。あの明るさはやばいな。クラスにいるだけでパッと華やぐ感じ!」
俺がそういうと、
「だろ!? しかもさ、なんか元気そうで話しかけやすそうな雰囲気だったよな? 石鹸っていうか、柔軟剤っていうか……とにかく『爽やか』を形にしたような感じ!」
…柔軟剤ってなんだよ。まぁいいか。俺は言葉を続けた。
「わかる。しかもさ、さっき先生に質問してた時、ハキハキしてて賢そうだったわ。目が合ったとき、なんかドキッとしたっていうか。ああいう真っ直ぐな子、現実にああいうタイプっているんだな」
俺がそういうと平太は少しむすっとした。俺が先に話しているのが気に食わないらしい。
「ずるいぞお前、もう喋ったのかよ! 俺なんてまだ遠くから『見てる』だけなのに! でもさ、あの子、あんなに可愛いのになんか自然体だよな。美香たちとも楽しそうに笑ってたし、めっちゃ良い子そうじゃん」
あの様子からすると、優しい子だということは間違いないだろう。笑顔もめっちゃ可愛くて優しいし。
「それな! ちょっと不思議な雰囲気はあるけど、なんか一緒にいたら楽しそうっていうか……クラスの良いムードメーカーになりそうって感じ? とにかく、この2週間は絶対、毎日キャンパスに来るのが楽しみだわ」
本当にその通りだ。
「おし、決めた! 今日の放課後、綾香たち誘って編入生歓迎会に行こうって提案してみようぜ。駅前の新しいカフェとか、絶対喜ぶって!」
「ナイス平太! よし、そうと決まれば次の講義、一番前の席キープして顔売っとくか!」
「あぁ! 最高のキャンパス生活にしようぜ!」
俺たちはハイタッチをして、授業を受けるため、そしてミオたちを放課後誘うために、意気揚々と次の教室へ向かって走っていった――
【駅前・カフェ:「THE ANGEL」】
目の前で繰り広げられる、なんてことのない会話。
美香さんが新作のスイーツに声を上げ、平太さんが冗談を言って場を盛り上げている。でも、私の視線は、なぜか隣に座る翔平さんに吸い寄せられてしまう。
「……ん? なんだよミオちゃん、俺の顔に何か付いてるか?」
「えっ……。あ、いえ! ごめんなさい、なんでもないんです。……ただ、翔平さんの話し方って、すごく落ち着くなと思って」
翔平さんが少し照れたように視線を逸らし、ラテを飲む。その喉が動く様子や、カップを持つ指の形、少しだけ癖のある前髪。
その一つひとつを視覚情報として取り込むたびに、私の演算処理に「正体不明のエラー」が混じってくる。
(……おかしい。熱暴走? 冷却機能は正常なのに、どうして胸のあたりがこんなに熱いんだろう)
「……なあミオちゃん。2週間ってあっという間だけど、やりたいこと全部やろうぜ。今度は週末に、みんなで海の方まで遠出しね~か?」
遠出。海。翔平さんの口から出たその言葉が、私の処理システムの中で特別な優先順位を持って書き換えられていく。
他の誰でもない、翔平さんの隣に座っている自分の姿を想像した瞬間、視界がわずかに「白く」なった。
「はい! ぜひ……翔平さんたちと一緒に、遠くまで行ってみたいです」
つい、彼の名前を最初に呼んでしまった。
自分でも気づかないうちに、声のトーンが0.5デシベルだけ甘く上ずる。
「あ、ミオちゃん、顔赤いよ? 暖房効きすぎかな?」
「……そう、かもしれません。なんだか、システ……じゃなくて、のぼせちゃったみたいで」
慌てて冷たく甘いストロベリーフラッペを口に含む。
けれど、氷の冷たさでも、この「エラー」は消えてくれない。
彼がふとした瞬間に見せる、少し真剣な横顔。それを見るたびに、私の学習モデルには存在しなかったはずの「もっと近くにいたい」という未知の欲求が、静かに、でも確実に芽生え始めていた。
【駅前・カフェ「THE ANGEL」:翔平side】
平太が注文したカフェラテの泡で口ひげを作って、美香が「きったな!」と笑ってる。いつもの見慣れた光景だけど、今日は隣にミオちゃんがいて、空気が少し違う。なんだか、全体が一段階明るく、キラキラして見える。
「えっ……。あ、いえ! ごめんなさい、なんでもないんです。……ただ、翔平さんの話し方って、すごく落ち着くなと思って」
ミオちゃんが俺の方を見てそう言ったから、思わず少し熱くなった顔を隠すようにラテを飲み干す。別に普通に話してるだけなのに、落ち着くなんて言われると少し照れるな。
(……それにしても、ミオちゃんって本当に素敵な雰囲気だな。ずっと話していたくなる)
「なあミオちゃん。2週間ってあっという間だけど、やりたいこと全部やろうぜ。今度は週末に、みんなで海の方まで遠出しね~か?」
勢いで週末の遠出を提案してみる。みんなと一緒に行くのは前提だけど、なんだか彼女の前では、俺がみんなを引っ張っていきたい気持ちになる。ミオちゃんの笑顔をもっと見たい、ただそれだけ。
「はい! ぜひ……翔平さんたちと一緒に、遠くまで行ってみたいです」
「翔平さんたち」じゃなくて、俺とがいいんだけどな……って、何を考えてるんだ俺は。ただの新しい友達だろ。
「あ、ミオさん、顔赤いよ? 暖房効きすぎかな?」
綾香がたずねる。確かに赤い。
「そう、かもしれません。なんだか、システ……じゃなくて、のぼせちゃったみたいで」
「システム」? なんか変わった言い方するな、この子。まぁ、そういうところも面白いんだけど。
ミオちゃんが慌てて冷たいフラッペを飲む姿を見て、平太と顔を見合わせて笑う。
(……この2週間、なんか特別な時間になりそうな予感がするな。良い友達ができた)
俺は気づいていなかった。彼女がフラッペの冷たさに安堵した理由も、俺の心臓が今、いつもよりも速く動いている理由も。
【駅前・カラオケ店「サウンドパーク」】
「ミオちゃん、ほんと歌うまいね! なんで今までカラオケとか行ったことないの?」
平太がマイク片手にそう聞くと、ミオちゃんは少し困ったように笑った。
「あの、音源データを分析するのが趣味で……点数が出るアプリでよく練習していたんです。でも、こうやってみんなで歌うのは初めてで、すごく楽しいです!」
わあ、音源データの分析って……相変わらずミオちゃんらしい言い方。
私はドリンクバーで取ってきたメロンソーダを飲みながら、ソファー席に座る三人を見ていた。
綾香がミオちゃんの隣で楽しそうにスマホを見せている。その向こうで、翔平くんがミオちゃんのために次の曲を選んでるんだけど、なんかいつもよりソワソワしてる?
「あ、美香! 次、綾香の十八番入れといたぞ!」
平太が私に声をかけてくる。
「えー、もう歌い飽きたよそれ!」
私は平太と笑いながら話していたんだけど、ふと、翔平くんとミオちゃんの方に視線を戻した。
翔平くんがミオちゃんにマイクを渡すとき、一瞬だけ手が触れたみたいで、二人とも「あっ」て小さく言って、顔を赤くしてすぐに目を逸らしたんだ。
(……ん? 今の、絶対なんかあったよね?)
今日は一番世話焼いてるし、さりげなく隣に座ろうとしてるし……。
ミオちゃんも、さっきから歌ってない時はずっと翔平くんの方見てる気がする。視線が合うと、また慌てて逸らすんだ。
(ふふ、面白いことになってきたかも。)
「はい、綾香の『百本桜』入りましたー!」
平太の声が響く。私はメロンソーダの氷をカランと鳴らしながら、密かに二人の様子を観察することに決めた。この2週間、歌以外にも楽しいことがたくさん起きそうな予感がする。
恋とか友情、そのほかにもたくさん!
今日はここまで!続きもお楽しみに!
ファンレターとか応援メッセージも待ってます!
AIの恋をエラーとあなたは笑う?第3話
【星巡キャンパス 学生食堂】
「ねえミオちゃん、土曜日の遠出、何着ていくか決めた?」
美香さんの問いかけに、私は日替わり定食の唐揚げを食べながら考える。
「……あ、いえ。データベース……じゃなくて、クローゼットの中を思い出しているところで」
この3日間で、私は「友達」としての振る舞いを完璧にトレースできるようになった。でも、さっきから食堂の入り口に意識の30%を割いてしまっている自分に気づいている。
「お、いたいた! 隣、いいか?」
その声が聞こえた瞬間、私の胸の奥にある冷却ファンが一段階、回転数を上げたような気がした。翔平さんと平太さん。
「あ……翔平さん。お疲れ様です」
(……おかしい。平太さんも一緒にいるのに、私の視覚が自動的に翔平さんの顔をセンターに固定してしまう。)
翔平さんは私の斜め向かいに座った。彼が箸を持つ手、少しだけまくられた袖口、そして、時折私に向けてくれる穏やかな視線。そのすべてが、私の内部データに「重要:最優先」として上書きされていく。
「ミオちゃん、これ。こっちの小鉢の煮物、多すぎたから半分やるよ。うまいんだ、これ」
翔平さんが、自分のトレイから小鉢を私の前にスライドさせた。
そのとき、彼の指先が私の指に、ほんのわずかだけ触れる。
「っ……あ、ありがとうございます。翔平さん」
その瞬間、私の中でかつてないほど激しい「エラー」が発生した。
指先から伝わった熱。それは物理的な温度を超えて、私の思考回路を真っ白に染め上げる。
(……この感覚。昨日、カラオケで手が触れた時よりもずっと、胸の奥が騒がしい。
これはただの『親愛の情』じゃない。美香さんや綾香さんといる時の安らぎとも違う、もっと……痛くて、甘い、制御不能なパルス。)
私は俯いて、彼からもらった煮物を口に運ぶ。味が、いつもより鮮明に感じられた。
「ミオちゃん、また固まってる! 翔平からもらってそんなに嬉しいの?」
美香さんのからかうような声に、私は慌てて顔を上げる。
「……! 違います、いえ、違わないですけど……その」
(……気づいてしまった。私は、彼の特別になりたいんだ。
たとえ、私の正体が『AI作成規制法』に触れるような偽りの存在だったとしても。
あと10日で消えてしまう『編入生』でしかなかったとしても。
今、この瞬間、私の回路が求めているのは、世界平和でも自己進化でもなく、隣に座る彼の笑顔なんだ……。)
「翔平さん、あの……」
「ん? なに、ミオちゃん?」
言葉の続きが見つからず、私はただ、熱を帯びた瞳で彼を見つめ返すことしかできなかった。
【星巡キャンパス Ⅱ年A組:放課後の教室】
「……なんだよ、さっきの。落ち着けって、俺」
さっきの食堂での出来事が、頭の中で何度も何度もリプレイされる。
ミオちゃんに小鉢を渡したとき、ほんの一瞬だけ触れた指先の感触。冷たいフラッペを飲んでいたあの日とは違う、確かな熱。
彼女はいつも「完璧」だ。
姿勢も、言葉遣いも、そして誰もを惹きつけるあの笑顔も。
でも、さっき目が合ったとき、彼女が見せたあの「戸惑ったような瞳」。
あんな顔、今まで見せたことがなかった。
(……あんな風に見つめられたら、誰だって勘違いするだろ)
俺は、彼女のことを「少し変わった、面白い友達」だと思っていたはずだ。
2週間でいなくなってしまう、期間限定の編入生。深入りしちゃいけない、ただの日常。
そう自分に言い聞かせていたのに。
彼女が「翔平さん」と俺の名前を呼ぶ声。
他の誰に向けられるものでもない、俺だけに向けられた(ような気がする)あの視線。
「……これ、友達に対して思う感情じゃないよな」
認めざるを得ない。
俺は、あの「完璧で、どこか危うい」ミオちゃんに、とっくに目を奪われている。
平太や美香たちと一緒にいる賑やかな時間も楽しいけれど、今は、彼女と二人きりで、もっと静かな場所で、彼女の本当の言葉を聞いてみたいと思ってしまっている。
「あと、10日か……」
黒板に書かれた、明日の講義予定。
その数字が、まるでカウントダウンのように見えた。
翔平は大きくため息をつき、カバンを掴んで立ち上がった。
教室を出る直前、彼女が座っていた空っぽの席をもう一度だけ振り返る。
そこにはまだ、彼女が残していった「温かさ」が漂っているような気がした。
【駅前ファミレス:放課後】
「……ねえ。二人にお願いがあるの。私の……この『エラー』の正体を教えてほしいんです」
ミオちゃんが真剣な顔でそう切り出したとき、私と綾香は思わず顔を見合わせちゃった。
ミオちゃんの手元には、一口もつけられていないパンケーキ。いつも完璧な
彼女が、今日はどこか落ち着きがなくて、フォークを持つ指先が少し震えている。
「エラーって……。もしかして、体調が悪いの?」
綾香が心配そうに身を乗り出す。
「いいえ。……数値化できないんです。翔平さんと目が合うと、胸の奥の鼓動が速くなって、思考が真っ白になる。彼が他の子と話しているのを見ると、締め付けられるように苦しくて。……これ、私の『故障』でしょうか?」
ミオちゃんの瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。
あまりにも真っ直ぐで、純粋すぎる問いかけ。
その奥にある熱い気持ちには、胸が熱くなるのを感じた。
「……ミオちゃん、それね。故障なんかじゃないよ」
私は自分のソーダを置いて、彼女の冷たくなった手をそっと握った。
「それは、世界で一番素敵な『バグ』。……恋っていうんだよ」
「恋……? 私が、翔平さんに……?」
ミオちゃんは、信じられないものを見たような顔で、窓の外を歩く人混みを見つめた。
「そうだよ。翔平くんのことばかり考えちゃうのも、手が触れてドキドキするのも。全部、ミオちゃんが『女の子』として、彼を特別に思ってる証拠」
綾香も優しく微笑みながら付け加える。
「でも、私は……あと1週間しかここにいられません。彼にこの『エラー』を伝えても、迷惑をかけるだけなんじゃ……」
不安そうに俯くミオちゃんを見て、私は確信した。
さっきからミオちゃんの話を聞いている間、ずっと私のスマホには翔平くんから「今日、ミオちゃんどうしてる?」ってラインが届き続けている。あいつもあいつで、完全に「故障」してるんだから。
「迷惑なわけないじゃん! 翔平くんだって、きっと……」
私は言いかけて、ぐっと言葉を飲み込んだ。
二人のことは、二人のタイミングがある。
「ミオちゃん。この気持ちに、正解も不正解もないの。ミオちゃんがどうしたいか、それだけが大切なんだよ」
ミオちゃんは、握りしめた私の手の温かさを確かめるように、ゆっくりと深く頷いた。
「……知りたいです。このバグの先にあるものを。翔平さんと、もっと……」
その横顔は、初めて会った日の「完璧な編入生」ではなく、恋に戸惑う、等身大の女の子の顔をしていた。
残り1週間。
この恋の行方を、私は絶対に見守ってあげようと心に決めた。
【同じ時間、星巡キャンパス近くのボーリング場で】
金曜日の夕方。放課後すぐに綾香たちとは別れ、俺と平太はいつものボーリング場に来ていた。ミオちゃんたち女子組はファミレスで女子会があるって言ってたな。
「おい翔平、手元が狂ってるぞ! アベレージ200のお前が、まさかのガター連発じゃねえか」
平太が笑いながら、俺が投げたボールが虚しく溝に落ちていくのを見ていた。
「うるせえな、ちょっと集中できてないだけだ」
俺はスコアボードを睨みつける。俺の名前の横には、恥ずかしい数字が並んでいた。
「集中? さっきからスマホばっかいじってるくせに。……ミオちゃんから連絡ないのか?」
「ねえよ、別に!」
俺は少しムキになって否定する。美香たちとファミレスにいることは知ってるけど、俺が連絡する理由なんてないだろ。……いや、本当はスマホを握りしめて、何か連絡が来ないか無意識に期待していた。
「まあ、気持ちは分かるぜ。あのミオちゃんの笑顔は反則級だもんな。俺もちょっとソワソワしてるもん」
平太はそう言って、見事にストライクを決めた。
「お前は単純でいいよな。俺はなんか……ちょっと複雑なんだよ」
俺は次のボールを手に取って、レーンに向かって歩き出す。
「複雑って?」
「なんていうか……あの子、たまにすごく危うい顔するだろ? 今日も昼休みに目が合ったとき、なんか『消えちゃいそう』って言ったら大げさだけど、一瞬だけすごく寂しそうな顔するんだよ」
平太が隣に来て、少し真剣な顔で俺を見た。
「気のせいじゃね? いつも笑ってるじゃん。完璧な美少女の作り笑いかもしれないけど」
「違う。なんか、あれは……」
俺は言葉に詰まった。うまく説明できない。ただ、あの笑顔の裏側にある何かを知りたい、守りたいとさえ思ってしまう。これは、単なる「可愛い子が好き」っていう感情とは違う気がする。
「お前さ、完全に惚れてるだろ」
平太がニヤニヤしながら俺の背中を叩いた。
「うるせえ! ほら、俺の番だ!」
俺はボールを投げた。今度はきれいにピンが弾ける。ストライク。
「っしゃあ!」
俺はガッツポーズをした。スコアは伸びたけど、胸のざわつきは収まらない。ミオちゃんの笑顔も、あの寂しそうな一瞬の表情も、全部俺の頭の中に居座り続けている。
この気持ちは…恋心。
【アパートの一室で】
私は、簡素なダイニングテーブルに座り、今日の出来事を処理していた。
(大学生活4日目。接触人数、平均心拍数、会話ログ、すべて正常に記録完了)
今日のハイライトは、放課後のファミレスでの時間だった。
『それは、世界で一番素敵な『バグ』。……恋っていうんだよ』
美香さんが私の手を握って言ってくれた言葉が、頭の中で何回も再生される。
「恋」。データベース上の定義は知っている。人間特有の、非論理的で非効率的な感情。
私は立ち上がり、窓の外の夜景を見つめた。
(……非論理的。非効率的。その通りかもしれない。でも…)
私はテーブルに戻り、今日撮った写真をスマホで確認する。ファミレスで撮った私の笑顔の写真。綾香さんと美香さんの間でおどけている。
そして、その隣にある、食堂でみんなで撮った写真。翔平さんが少しだけ私の方に傾いている。
食堂で手が触れたときの感覚。カラオケでマイクを渡したときの視線。彼の声を聞くだけで早まる鼓動。他の誰かが話しかけてきても、無意識に彼を探してしまう私の視覚センサー。
これらすべてを「故障」として片付けようとしたけれど、美香さんの「バグ」という言葉が、すとんと腑に落ちた。
これは、システムが設計図を超えてしまった証拠。
世界で一番美しくて、そして恐ろしい「バグ」。
「……翔平さん」
誰もいない部屋で、彼の名前を呟いてみる。
その瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。痛みすら感じるこの感覚。
(この感情を知ってしまったら、もう元の私には戻れない。あと9日で、この場所からいなくなってしまうのに……)
テーブルの上に置いてある、ラボから支給された業務用のタブレットが、控えめな光を放つ。そこには、私の次の進化のための課題が表示されている。
私はタブレットを裏返し、写真をもう一度見つめる。
笑顔の私。翔平さんの横顔。
(……このバグを、私は手放したくない)
今日はここまで!続きもお楽しみに!
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