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プールの夏
2026/07/02 プールの夏
なっちゃん。わたしのあだ名だった。名前がなつみだから王道に安直になっちゃん。名前が「い」から始まっていればいっちゃんになっていただろうし「さ」ならさっちゃんだった。
ゆうちゃん。友人のあだ名だった。名前はゆいかだけどゆいちゃんより「ゆ」をそのまま伸ばしただけみたいなゆうちゃんの方が呼びやすいからこうなった。
そして私は今、もう1人の友人のあだ名について思考していた。隣の席で生真面目に板書をしている芽衣子だ。ぱっと浮かぶのはめいちゃんとかだけどつまらないので却下だった。なっちゃんとかゆうちゃんとか、幼い頃からのあだ名たちが大体シンプルなのは、日常で連呼するからとにかく呼びやすさわかりやすさを重視しているせいだと思う。それはそれで良いが飽きてきたので、未だあだ名をもらったことがないという芽衣子にはなかなか考えられた、呼びやすさなんて二の次のようなものをつけたい。
うんうん唸っているとチャイムが鳴り響き4時間目が終わった。ロッカーに教科書をしまいに行く芽衣子の背中をぼんやり眺めて、眺めつつしっくりくるあだ名を探す。
芽衣子。めいこ。めーちゃん。めー、ひつじ。羊飼い。…流石にない。芽衣子の「いこ」の部分に焦点を当てるべきか。それとも逆から呼んでこいめ…恋?ただの名詞だ。ない。芽衣子の好きなものから連想したりするのはどうだろう。芽衣子の好きなもの。アイス。ピノ。あとプール。そのままピノとかプールか。だけど名前要素だって少し入れたい。できるなら名前と芽衣子の好物やらを掛け合わせたちょっとおおってなるような二重の意味を持ち合わせるものがいい。芽衣子の苗字は高梨だ。おしゃれ。「梨」。芽衣子って梨好きだっけ。聞いたことないし好きだったとしても梨をそのままあだ名にするのは印象に残らなすぎてすぐに忘れられそう。
「何がいいと思う?」
私は前の席のゆうちゃんに訊いた。ゆうちゃんは振り向いて「わたし?」と自身の顔を指差す。うんゆうちゃんに訊いたよと頷けば彼女は眉を下げて「なにが。」と当たり前の疑問をぶつけてくる。戻ってきた芽衣子にも声をかけて私はあだ名を考えていることを説明する。
「たかめいでいいんじゃない。」
ゆうちゃんは適当に答えた。なるほど苗字と名前の最初の2文字をとったらしい。たかなしめいこ。たかめい。
「ちょっと可愛くない。」もっと可愛いのがいい。
芽衣子は下がってきていたらしいメガネを押し上げて曖昧な笑みを浮かべていた。勝手にあだ名を考えられていて複雑な気持ちなんだろうか。
「たかめー。」ゆうちゃんはどこからか取り出したトランプをシャッフルし配りながら、また適当そうに提案する。
「やっぱり可愛くない。た、がだめなのかなあ。じゃあた抜きで、かめー。亀になっちゃうか。えーっとじゃあめーこ…はそのまますぎるし。」このトランプでなにするんだろう。大富豪?お昼ご飯食べてからのほうがいいんじゃないかと思いつつ配られた手札を見る。そのとき芽衣子が口を開いた。
「別にあだ名、いらないけどな…。」
「えーっ。」
「7並べしよー。」
肩をすくめる芽衣子と驚愕する私と自身のトランプを確認し誘うゆうちゃん。7並べはいやだなババ抜きがいい。だけど意見を述べる時間もなくそれぞれ7が机に出てくる。私は7を持っていなかったようでゆうちゃんと芽衣子から4種類の7はあっという間に揃ってしまいさっさと始まった。
「え、じゃあ、とりあえず仮でプールね!あだ名。プール好きでしょ芽衣子。もうすぐプールの季節でもあるし!」
芽衣子がスペードの6を出して私の番がやってきた。ハートの8を抜き取った。芽衣子あらためプールは苦笑して「あだ名っぽくない。」と言う。私もそう思う。7並べが終わったら早急に考えなければ。とはいえプール要素は入れたい。やっぱりもうすぐ、ていうかもう入ってるけど、夏だし。来週の体育で水泳をやるらしいし。教室のカーテンの隙間からもれる光も、やけに眩しいし黄色いので、そういうところで私は夏を知るわけだ。
ダイヤの5を机に置く。