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第六話
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「ようこそ、わたくしの屋敷へ!」
ルークは今、イリ―ネの屋敷の前で呆然と立ち尽くしていた。
一体どうしてこうなったのか。それは数時間前に遡る。
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ルークは今夜泊まる予定だった部屋を早々に出た。
本当は任務に数週間掛かる予定だったのだが、それもなくなったので不要になった。
「イリーネ様、夜遅いですしお送り致します。」
イリーネに向かってそう言うと、イリ―ネは少し考えるような仕草を見せた。
「⋯宰相様はこの後どうするのですか?」
「私ですか?そうですね⋯王城に戻って陛下に報告を」
「それって、お急ぎの用でしょうか?」
「え、いえ。そういう訳では。」
「でしたら今夜はわたくしの屋敷へ参りましょう」
(⋯は?)
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こうして案外押しの強い侯爵令嬢の提案を断り切れずに屋敷に到着したのだが。
正直、平民上がりのルークにとって大きな屋敷というのは正直気後れしてしまう。
王城はもう入り慣れてしまったからどうとも思わなくなってしまったが、王城とはまた造りの違う屋敷を前にルークは回れ右をして帰りたくなった。
が、おもてなしする気満々のイリーネに半ば引きずられる形で屋敷に連行されてしまった。
「食事はまだのようですので、先にお湯に浸かって疲れを癒してきてはいかがでしょう?」
「⋯はい。ありがとうございます。」
「お背中流しましょうか?」
このご令嬢は本当に何を言い出すのか。
思わずゴホゴホとむせてしまったルークをイリーネはクスクスと笑う。
「少々からかい過ぎましたわ。着替えはここに置いておきますね。」
「いえ。服は余分に持ってきているので大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「まぁ、婚約者ですのでこのくらいは当然ですわ。ではごゆっくり」
パタンとドアが閉まる。
ルークは一本、ナイフを持って他は全てかごの中に入れる。
勢い良く服を脱ぐと、体中に散らばる古傷が目に入る。
戦争を思い出させる古傷に小さく舌打ちをしつつ、浴場へ向かい―――またもや立ち尽くした。
広すぎる。絶対にこんなに要らない。そんな身も蓋もない感想を覚えつつ、体を清めた。
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「まぁ、宰相様もう上がられたのです―――か」
イリーネはルークの服装を目に止め目を見開く。
「えっと⋯寝間着じゃない⋯ですわよね?それ」
「えぇ。まぁ。」
「なぜ、武装?してますの?」
ルークは今、武器を仕舞える服装だった。
理由は戦争中、敵軍から寝込みを襲われることが多かったので、その癖でルークは軽装で寝ることができなくなっていた。
が、その理由を話すとまるでイリーネのことを信用していないように聞こえてしまうのでルークは曖昧な笑みで流した。
「ところでお腹が空いてしまったのですが⋯」
「もう用意はできておりますわ。ささ、どうぞこちらへ」
食堂に来てまたもやルークは立ち尽くす。
テーブルが長い。絶対に普段こんなに長いテーブル使わない。半分に切ったらいいのに。
なんてことを思いつつ、促された席に座る。そして色とりどりの料理が並べられる。
ルークとしてはいつもの硬いパンだけでいいのだが、張り切るイリーネを止められる気がしないので素直に受け取る。
味は、本当に美味しいものばかりで、ルークはしばらく料理に舌鼓を打った。
特に食後に出てきたクッキーは本当に美味しくて、思わず「美味しい」とつぶやいてしまった。
イリーネはなぜか少し恥ずかしそうに笑っていた。
+++
「では宰相様。お休みなさいませ」
夜、広すぎる客間に通されたルークは恐る恐る大きなベッドに腰を下ろした。
が、フカフカすぎて落ち着かないので、近くにあった椅子に座った。
夜はあまり好きではない。悪夢を見るから、あの時のことを思い出すから―――
ルークは少しでも休息を取ろうとナイフを持ち、椅子に座ったまま目を閉じた。
***
ひたすら走っている。これは夢だ。ルークはそう思った。
最悪なことに、あの日の夢だった。
追う、追う、松明を追う。小さな手には包丁を持っている。
母親と一緒に料理をした思い出のある包丁を振り下ろす。刺す、刺す。
聞こえる断末魔、命乞い、発狂、泣く声、人の肉が焼ける匂い。
それらが全てなくなった頃には、もう感情を失っていた。
***
「宰相様!」
大きく揺さぶられてルークは目を覚ました。
目の前にはなぜかイリーネがいた。空はまだ暗く、静かだ。
「イリーネ、様?」
「あぁ。良かった。魘されておられるようでしたので」
明らかに安堵した様子のイリ―ネを見たからか、悪夢を見たからか。
「なぜ、私のような者にそこまでしてくださるのですか?」
ポツリ、と弱気な言葉が出た。思わずハッと口を手で覆う。
それを見たイリーネはまるで子どもを安心させるように頭を撫でて微笑んだ。
「婚約者だから、ですわ」
なんて綺麗な人だろうか。本当に聖女のようだ。
そう、思った。