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第七話
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「というわけで昨日、宰相様をお屋敷に招待したのですわ」
王城の執務室。当然のように居座るのはこの国の侯爵令嬢、イリ―ネだ。イリーネは執務室で資料を捌いているこの国の王、ザインにまるでザインの仕事量に気づいていないような素振りで話しかけていた。
ザインは一度、仕事の手を止めてイリーネに向き直る。
「ほう?とうとう既成事実でも作って無理やり結婚しようとしておるのか?」
「違いますわ、陛下。確かに屋敷には連れ込みましたが、手は出しておりませんのよ?」
「なんだと!?お前が、ルークに何もせずに五体満足で帰しただと!?信じられん⋯」
「陛下はわたくしのことをなんだと思っておられますの?」
ジトリとイリ―ネがザインを睨むが、ザインとしては日頃の行いの結果だとしか言えなかった。
イリーネは「まぁ、いいですわ」と持ち直し話を続ける。
「宰相様、寝間着を持っていらっしゃらないのかしら。いつでも戦闘できそうなお姿で眠っておられて」
「⋯やはり、寝室に忍び込んでいるではないか」
「別に夜這いがしたかったわけではありませんわ。部屋の外で手を合わせていたらうめき声が聞こえましたので⋯」
「待て。部屋の外で合掌⋯?お前は何をしておったのだ?」
「嫌ですわ陛下。もちろん宰相様を拝んでいたのですわ。あの方はわたくしにとっては命の恩人ですもの。」
「どんな宗教だ。怖いことをするな」
「わたくしのことは良いではありませんか。それより、宰相様。魘されておいでだったのですわ。」
心配そうなイリ―ネの顔にザインは「このご令嬢にも人並みの感情があったのだな」などと失礼なことを思いながら話を聞いていた。
「⋯あれが悪夢に魘されるのは我も知っておる。」
「まぁ、いつ頃からですの?」
「知らん。我と会った頃にはもう魘されておったわ。」
痛ましそうに顔を歪めるイリーネにザインは菓子をすすめる。
イリーネは気を紛らわせるようにそれを一つ口に入れる。
「お可哀想な宰相様⋯わたくしにできたのはこれ以上悪夢を見ないように起こして差し上げるぐらいでしたわ⋯」
「ん?ちょっと待て。お前が起こしたのか?」
「え?えぇ。そうですわ」
「⋯おかしい。ルークが部屋に侵入した気配に気づけないはずがないのに⋯」
呟いてから気づいた。ルークは気配察知が常人の域を超えている。
そんなルークがイリ―ネの侵入を許したのだ。もしかしたら、ルークはザインが思っている以上に、イリ―ネに心を許しているのではないだろうか―――
「ごほん。まぁ良い。」
「はぁ⋯?」
イリーネは怪訝そうにザインを見たが、ザインは素知らぬ顔でカップに口をつけた。
イリーネはふぅっとため息を吐き、話を続けた。
「宰相様、言いましたの『なぜ、私のような者にそこまでしてくださるのですか?』と。」
イリーネは一度思い出すように目を閉じ、それからほぅっと感嘆の息を吐いた。
「なんと慎ましい方なのでしょう。彼は《《この国の英雄》》ですのに。」
そう締めくくったイリーネは話したいことが終わったのか、上機嫌に執務室を出ていった。
ザインは誰もいなくなった執務室で、彼女の言葉を反芻した。
「この国の英雄、か。《《あれは戦争に巻き込まれた哀れな元飼い犬》》と言ったほうが正しい気もするがな」
ザインは憐れむような表情を浮かべた後、何事もなかったかのように仕事に戻るのだった。
***
『戦場が悪化した王国を嘆き悲しむ民衆。そんな中立ち上がったのは齢僅か7つの黒髪、赤目の少年だった。(中略)少年に見られた敵兵はその目の如く赤く染め上げられ、少年の後ろを歩いた敵兵はその髪のように炭となって焦げ落ちたのだ。(中略)彼はその後。沢山の戦いを勝ち進みミリダス王国は勝利を収めるのだった。しかし、彼がなぜ戦ったのか。その理由は誰も知りはしないのだった。
―――ミリダス王国伝書より抜粋』
***
「陛下、お呼びでしょうか?」
執務室に呼ばれたルーク。執務室に入ると、資料を捌いているザインと目があった。
「来たか。お前、今の王国兵最高司令官とは知り合いか?」
「えぇ、まぁ⋯」
ルークは内心嫌な予感がしていた。
正直、あいつには会いたくない。キリスの千倍はマシだがそれでも会いたくはない。
「ちょっと、この資料を持っていってくれないだろうか⋯?」
「⋯スーッ。⋯わかりました。」
資料に目を通しつつ、了承する。
すると、バーンッと派手な音と共に誰かが執務室に入ってきた。
「わたくしもご一緒してもよろしくて?」
イリーネだった。