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Ⅴ《オパール》
六日後。〈狩人の街〉は抜けるような青空が広がる快晴で、お祭り前のような活気に満ちあふれていた。石畳の通りには軽快な音楽と行き交う人々があふれ、賑やかな喧騒が響いている。
ふと視線を向けた先には、数日前にナギさんが派手に粉砕した〈フローライト〉の宝石竜が暴れていた通りがあった。しかし、そこには血痕どころか砕けた結晶の欠片すら一筋の残り滓もなく、すっかり綺麗に片付けられて日常の風景へと戻っている。この街では宝石竜の襲撃や討伐など日常茶飯事だ。
そんな中、私は仮面と紺色のローブを身にまとって集合場所へと向かう。この出で立ちは私のトレードマークのようなものだ。通りすがりの人々は一目見るなり、「おっ、あの商売上手なラムじゃないか」「魔法使いラム、今日は何を売り歩くんだ?」と、すぐに私だと気づいてひそひそと噂話を始める。
「すみませんね、今日は商人としてではなく、狩人として来たのです」
声をかけてきた知り合いにふふんと鼻を鳴らし、いつもの調子でひらりと手を挙げて軽くあしらう。自分が街のちょっとした有名人になっていることを、悪くない気分で満喫していた。とはいえ、これから出発するというのに、商人目当ての客に捕まって足止めを食らうのは困る。これではいつまで経っても役所にたどり着けない。
私は周囲の視線をごまかすように手早く呪文を紡ぐ。
**「|透明化《トランスペアレント》」**
雑踏の中に気配を溶け込ませ、私は目的地である役所の窓口へと急ぐのだった。
──しかし、そう順調にはいかないのがこの街の定め。
役所へ向かう途上の広場に差し掛かった時、頭上から突然の爆音が降ってきた。ギャアァァッと空気を切り裂くような咆哮。見上げれば、太陽の光を浴びて虹色に煌めく──オパールの宝石竜だ。
周囲を見れば、人々は一目散に竜から距離を取る。その混乱の真ん中、逃げ遅れた一人の少女が恐怖で足がすくんだのか、その場にぽつんと立ちすくんでいた。
私は小さく息をつく。もともと私の魔力量は決して多くない。普段なら温存すべきところ……まあいいでしょう。あんなところで小さな子どもが無惨に踏みにじられるのを見過ごすほど、冷酷にもなりきれない。
私は透明化したまま静かに息を整え、照りつける太陽に向かって意識を集中させる。今日は良い天気ですね。
**「|天候のおまじない《クライメット・スペル》」**
詠唱を最小限に抑えて放った炎は、空気中の熱量を纏い、瞬く間に空中の〈オパール〉を直撃した。
青空の真ん中で竜が激しく燃え上がる。周囲に魔法使いの姿はない。にもかかわらず、突如として空中の竜が炎に包まれたものだから、避難途中の人々から「えっ、何だあれ!?」「急に竜が燃えたぞ!」と驚きの声が上がった。もちろん、姿を消している私に気づく者は誰もいない。
〈オパール〉は、全身に無数のひび割れを走らせ、あの幻想的な輝きを失いながら、真っ逆さまに地面へと落ちていく。
轟音とともに竜が地に伏すやいなや、近くにいた誰かが「おい、あの子を助けろ!」と叫びながら少女めがけて駆け出していくのが見えた。あとは、あの人や他の人たちに任せればいい。
人助けの余韻に浸る間もなく、私は気楽な足取りでその場をそっと離脱するのだった。