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Ⅳ「傍に」
黄昏に沈む並木道。
帰路を急ぐ生徒たちの気配は、いつの間にか霧散していた。
今、この場所には二人しかいない。
(席が、増える)
一つの仮説が浮かび、チカゼの指先が微かに震える。
それは恐怖ではなかった。
あの日の衝撃を再び味わえるかもしれないという、抗いがたい期待だ。
「……一人で無茶をしないでくれ。あの日、列からいなくなったと気づいた時は、もし戻ってこなかったらと思って」
「あら、気づいてたの。心配しなくても、退避魔法の準備くらいしてたよ。先生にバレないよう、すぐ戻ったし。おかげで数十年ぶりに動いたっていう初代学園長像までは拝めなかった」
「君の力は信じてるよ。ただ、最近調子悪いって言ってたから、心配で胃に穴が開きそうで」
「開けばいいじゃない」
チカゼの平然とした様子に、シュウはやれやれと苦笑した。
「あの日、表向きは『犯人確保』と発表されたけど……」
「ええ。憲兵が連行した男も、おそらくは替え玉の類ね。学園で何かが動き出している」
「チカゼ、この件は一緒に調べよう。お互いに情報を共有して動く。そういう『約束』はできないかな」
甘い誘惑のような、それでいて、絶対的な自信に裏打ちされている。
「君は目的のためなら、悪気なく周囲を振り回して、被害者を出し兼ねない。誰かが盾にならないと」
彼は、癖なのか、何かを決意した合図なのか、乱れてもいないネクタイを整え直す。
「失礼ね。盾になるって、私を守るんじゃなくて、そっち? まあ、あながち間違いじゃない」
「あはは、どっちもだよ」
好奇心旺盛なパートナーに振り回される、お人好しの顔。
夕闇の中で、彼の蒼い瞳が祈るような光を宿していた。
(約束するフリをすべきかしら)
彼の手を取れば、氷晶家が独占する領域へのパスポートが手に入る。
あの名家は、このカリスティア島唯一の連絡船や島の政治を握っている。
「うん、約束する。じゃあ私、図書館で炎の魔法構成について徹夜で調べるから。あなたは帰っていいよ。あ、船の時刻表、明日までに揃えといて……って言ったら、どうする?」