今や地球は、放射能にまみれて地上に出ることは叶わない。
放射能のせいで、凶暴化した動物が地上に蔓延っている。
人間たちはみな、地下鉄を再利用してシェルターを作った。
シェルター間での物流もあり、なんとか安泰かと思ったであろう。
だが、あるシェルターだけは、天井が崩れた瓦礫のせいで
物流網が途切れた状態にあった。
減っていく食料、度重なる内乱、凶暴化した動物の侵入...
その末に待っている結末は...等しく死だ。
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目次
Prologue.断絶区域で死を待つ
この地球は、もう終わったも同然だ。
度重なる戦争により、地上は放射能で汚染し尽くされた。
気付いたときには、手遅れだった。
人類は地下へ逃げた。
地下鉄を再利用し、自分たちの帝国を築き上げた。
物流も盛んで、国家として申し分はなかった。
だがそこに、断絶された区域があった。
瓦礫のせいで、物流はない。
減っていく食料、すり減っていく人間性。
地上から聞こえる変異生物たちの唸り声に、ただ怯える。
「もう死にたい...」
「誰か殺して...」
「死んだほうがマシだ」
「人間の肉って食えるかな...」
「お前が勝手に食料を食ったんだろ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
指導者がいないその区域に、もはやルールはなかった。
食料を多く食ったものは殺され、逆に食わなければ餓死する。
外へ行ったら死ぬし、行かなくたって、侵入してきた変異生物に
食い殺されることだってある...
だがその絶望しかない状況で、生きようと抗ったものがいた。
0.5.生きた証
この小説には、ショッキングな描写が含まれます。
ご注意ください。
...暗い地下鉄の片隅、力無く垂れ下がる四肢が見えた。
もう冷たい男性の首には、太い縄がきつく縛られている。
ひとり死亡...残り23人。
ここにいる中で唯一筆記用具を持っている私は、
その事実をできるだけ丁寧に書き留めた。
もし私たちが死んだあと、ここに誰かが来たら、
この手記も発見してもらえるかもしれない。
私たちが生きて、そして死んだことを、私はここに書き留める。
新聞記者の性というところだろうか...
挫けそうになることもあるが、そんな時にいつも考えている。
私の仕事は、ひとを生き続けさせることなのだと。
文献、日記、歴史書。そういった記録の中で、
死して尚人間は生き続けることが出来るから。
死亡時の状況、生前の彼の様子...
事細かに書き綴る。すると、隣から声が聞こえてきた。
「馬鹿なやつ、貴重な縄をこんなことに使って...
......あんたの分も、私が生きたげる」
この女性は...ああ、この男性と仲が良かっただろうか。
いや、少し話していただけかもしれないが。
「ねえ、死体降ろすなら手伝うけど」
「いや、いいんですよ。私ひとりでも出来ますから」
「うるさい、荷物運ぶときも重そうにしてるくせに。
こう見えて私、土木作業員なの。力には自信ある」
「では...お願いいたします」
彼女の力も借りて、私は男性の死体を降ろした。
もうすでに、死体からは蛆が湧いている。
きっと、この気候のせいだろう。
放射能から起因する異常気象のせいで、ひどい暑さだ。
額から滲み出る汗を拭う。
「死体はどこか邪魔にならない場所に置いておきましょう。
他に死体が出たとき、まとめて燃やしたほうが無駄が少ない」
「邪魔にならない場所...なら、人道待避坑かな。
あそこに置いといて、ブルーシートでもかけておこう」
人道待避坑...確かにあそこであれば、邪魔にはならない。
だが、線路に降りる必要がある。
線路は、変異動物が侵入していることが多い場所だ。
万が一の場合、死ぬかもしれないが...
...そんな万が一を、今ここで引き当てるはずもないか。
武器さえ持っていけば、討伐できる可能性もある。
私たちは、お互い武器になりそうなものを見つけてから、
死体を抱えプラットホームへと向かった。
死体から肩に降ってくる蛆虫が、ひどく鬱陶しくて目眩がした。
歩きながら、私は彼女のことについて聞くことにした。
これからも世話になることがあるかもしれない。
お互いのことは、よく知っておくべきだ。
「あの、お名前お伺いしても」
「ツェンドール・スタイト。あんたは?」
「ホルスト・ライヒェンです」
「ホルスト...ね。今となっては、縁起いい名前だね」
「まあ、そうですね」
少し微笑みながら言う彼女に、私も努めて明るい声色で返す。
階段を下りながら、チカチカと点滅する蛍光灯に照らされた。
ここの蛍光灯も、じき切れるだろう。
それにしても、ツェンドールさんとは中々目が合わない。
というより...彼女自身が避けているようだ。
そう思っていると、彼女が話し始めた。
「私、こいつと一回話したことあるんだ。
あんまり弱音ばっか吐いてるから、いらいらして。
水あげたら静かになったから良かったけどね...」
「そうなんですか、優しいですね」
「優しくなんてないっつーの、私はこいつに貸しを作っただけ。
結局返してもらえなかったし、水も残り少ないし...
あげなきゃよかったなって感じだから」
そう言いながら、彼女のエメラルドのような瞳が揺れた。
言葉の真意は、汲み取ることができない。
だが私は、このひとがとても優しいひとだと悟っていた。
長い階段を降りきり、やっと私たちはプラットホームに足を降ろした。
ゴォォォ、という空気が通り抜ける音が、
私たちの不安な心を掻き立てた。
「じゃあ、私が置いてくるよ」
「え!?ひとりは駄目ですよ、なんのために私も武器を持ってるのか...」
「足手まといなの、あんた。体力もろくに無いでしょ?」
「でも...」
返す言葉も、見当たらなくなった。
確かに私は弱い。まともに運動をしたことはないし、
少し歩いただけで息が上がる。
私は、足手まとい...
ペンだことささくれが目立つ、自分の手を見つめた。
もしここで、彼女にひとりで行かせたとする。
それでもし、彼女が死んだら。
私は一生、今日のことを後悔するだろう。
確かに私は戦えない。だが、私にだって出来ることはある。
「だからあんたは先に戻って...」
「いいえ、私にだって肉壁になることくらい出来ます」
「...は?何言ってんの?」
「私も一緒に行くということです。さあ、早く置いてきましょう」
私の押しに負けたか、彼女は首を縦に振った。
線路上に降り、人道待避坑に死体を置いた。
あとはブルーシートだが...ちょうどあそこに、ぴったりなものが落ちている。
あたしが持ってくるよ、そう言ってツェンドールさんは
少し離れた場所にあるブルーシートを取りに行った。
...だが、なんだ。この妙な胸騒ぎ。
彼女の周りを、よく見てみる。
ひとつ隣の人道待避坑に、赤い光がふたつ...
...変異動物だ!!
「ツェンドールさんっ後ろだ!!」
「はっ!?」
変異動物は、ツェンドールさんへと飛び掛かる。
駄目だ、私より優秀な彼女を死なせるわけにはいかない。
走った、今までにないほど走った。
走って、走って...私は変異動物の前に割り込んだ。
ひどい激痛と共に、ツェンドールさんの叫び声が耳を刺す。
「ホルスト!!!!!」
肩を噛まれた痛みで声が出ない。
その代わりに、ハンドサインで”逃げろ”と示す。
あなたはきっと、私が生き残るよりも、よほど良い人だ。
彼女は私の訴え通り、プラットホームへ上がって
すぐに逃げ出した。そうだ、それで正解なんだ...これが正解なんだ。
私も一応、足掻けるところまで足掻こう。
変異動物を振り払い、プラットホームへ上がる梯子を掴む。
だが、肩の痛みのせいでうまく上がれない...
もたもたしているうちに、足に噛みつかれた。
変異動物は、私の足に噛みつきながら頭をがむしゃらに振る。
痛い痛いやめろやめろ...
私の足は千切れ、少し遠くへ飛んでいった。
変異動物はそちらに気を取られ、離れていった。
だが、私は無理だ。
激痛により、手汗が大量に分泌される。
梯子を掴もうと思っても、手が滑ってどうにもならない。
私は、線路の上に倒れ込んだ。
ああ、せめて...
このことを記しておこう。私が生きた証を、記そう。
X月XX日 おそらく晴れ
肩には、変異動物の歯型がしっかりと残っている。
肉は抉れ、血は止め処なく溢れてくる。
足からも同様。こちらは切断されており、どうにもならない。
指先の感覚が消えてきた。いつまでペンを動かせるかわからない。
私の千切れた足の方に気を取られていた変異動物が戻ってきた。
私の顔をのぞきこんでる、腹が満たされているからか、
すぐに私のことを襲うわけではない。
変異動物はわたしにかおを近づけた 息臭い放射能くさい
急にあたまにかみついてきたいたいはがくいこむ
いたいいたいいたいいたいくさいくさいきもちわるい
ずがいこつがわ
...このプラットホームに、もはや生物と呼べるものはいなくなった。
---
残り22人
あと10日
0.5話ということですが、どうでしたか。
まだ参加者が集まっていないのに、めちゃ書きたかったので書きました。
最初に殺すのは自分のキャラって決めてました
じゃないと、他の参加者の人に顔向けできないのでね
次からは参加者様のキャラがメインとなります。
とりま5人集まったら一旦締め切りましょうかね
キャラ殺しすぎて足りなくなったときに備えて募集自体は続行しますが、
早いもの勝ちですのでご注意
1.意外といいもん
この小説には、ショッキングな描写が含まれます。
ご注意ください。
お願い、ホルスト...無事でいてほしい。
そうじゃないと、私は私のことが嫌いになる。
私は元々...お人好しってやつだった。
ひとを助けるのが大好きで、感謝の言葉と
たくさんの笑顔が、私の生きる原動力になった。
だが、地球はこんな有様になってしまった。
友達と約束したんだ、絶対生きて、もう一度会おうと。
だから私は、もう他人を助けたりしない。
自分の命が危険にさらされるのは御免だからだ。
私は、なんとしてでも生きなければならない...何を犠牲にしても。
ただ、そんなものは夢幻の理想論なのかもしれない...
数々の人間の屍の上に立ち、それで友達にどんな顔をすればいい?
まあ、あの子はもう...死んでいるのだろうが。
それでも、死後の世界でもし会えたとしたらの話だ。
たくさん人間を見殺しにして、あなたに会いに来ました!ってか...馬鹿らしい。
あの子は言ってくれていたじゃないか、人に優しいあなたが好きと。
ごめん...私はもう、優しくなんてなくなってしまった。
でも、せめて...助けを呼ぶことくらいは、今の私にもできる。
階段を駆け上がり、助けてくれそうなひとを探す。
いない...いや、あそこだ!
人影を見つけ、私はすぐに駆け寄った。
「頼む!助けてくれ!」
「あぁ?」
いたのは、いかにも柄の悪そうな男。
一言で表すなら、小物といった風のチンピラもどき。
こんなやつに頼っても駄目か...私は唇を噛んだ。
どうする?今から他をあたっていたら間に合わないかもしれない。
...私が、私がやるしかないか。
私は、水を含む重要物資類をその男に預けた。
「プラットホームに、できるだけ多く人手を集めてくれない?
死体がふたつあがるかもしれないからね」
「は?おい待て!どういうことだ!」
男に呼び止められたが、今は待つ時間が惜しい。
私は再び走って、プラットホームに急ぐ。
まだ間に合うかもしれない、そんな淡い希望を胸に。
一段一段着実に、だが素早く駆け下りる。
実は、ホルストのことは以前見かけたことがある。
地球が放射能に侵されてしまう前、すべてが普通だったあの頃。
災害の復旧に駆り出されていた私は、災害現場にいる彼を見た。
彼は新聞記者らしい...真実を伝えるため、真新しい手帳にメモをとっていた。
ペンも真新しいものだ。新人の記者か。
すぐに汚い大人に穢される、純粋な記者精神のカタマリ。
どこにでもいる新人記者だと思い、気にも留めなかった。
彼はその後も、現場監督に近付いて何やら話し込んでいる様子だ。
取材か...そう思ったが、彼はそのまま私たちに混ざって作業をし始めた。
スーツが汚れるのも構わずに、だ。
そのうち、他の作業員が彼に聞きに行ったのが見えた。
「おーい記者くん、何してんだ?」
「ああ、いい記事を書くには、
まず色々な視点から物事を見なければいけないんです。
被災者の視点にはなれませんが...せめて、復興に一生懸命な
あなたたちの視点になってみたかった」
私はとても驚いた。今時こんな記者...なかなかいない。
きっと彼は有名な新聞記者になるだろう。
そう思っていた矢先、未曾有の大戦争により
地球上は放射能で汚染されたのだ。
次に彼を見たのは、この地下鉄構内に逃げ込んで5日目。
私はすっかりやつれてしまい、虚ろな目で天井を見つめるだけだった。
ただ、友人が無事であることを祈りながら、微睡んでいた。
その時近くで、誰かがぶつぶつ何かを呟いているのが聞こえたのだ。
声のする方を見てみると、そこにはあの新聞記者がいた。
話しかけようとしたが、向こうは私のことを知らないだろう...口を噤んだ。
「X月X日...おそらく晴れ......今日も助けは来ない...
瓦礫をどかそうとした者が数人いたが...どけた瞬間......
放射線物質が入ってきたことにより断念......
我々は今すでに...微量ながら放射線を吸い込んでいると思われ......」
...その後は、何を言っているのか聞き取れなかった。
ただ呟きながら、手帳に向かってペンをひたすら走らせている。
この断絶区域の、生きた証を伝えるために。
だから彼は...
「あんたは死んじゃ駄目だろ...!」
彼がいなかったら、誰がここの記録を残す?
私たちの生きた証を紡げるのは、あんたしかいない。
プラットホームに足を踏み入れ、線路へと走る。
頼む、間に合ってくれ...
そう思ったが、私の目に映ったのは何かの肉片と骨の破片、それと布の端。
変異動物は、人間の骨までまるまる食す。
肉片の隣に落ちている手帳とペンで、あれが誰の肉なのかは察しがついた。
私は、その場にへたり込む。
あの時私が、しっかり周りを見ていれば...
こんな結末にはならなかったのだろうか?
「はは...私には...なんにも...なんにも残ってないんだ...」
何かを優先すると、他の何かを失う。
私は自分が生き伸びて、友人ともう一度会うことを選んだ。
友人の生を、一秒でも長く祈り続けることを選んだ。
その結果、ひとりの命が失われた。
私があの時戦うことを選んでいたら、結末は違ったかもしれない。
もう、ホルストを食った変異動物はどこにもいない。
プラットホームには、ただ私が鼻をすする音だけが響いていた。
泣いてなんかいない...ほこりが鼻に入っただけだ。
---
「はぁ!?あの水を飲んだって!?」
「そういう意味じゃねえのかよ!!もう遅えって!」
私は大きなため息をついた...驚いた、この男の馬鹿さ加減には。
あれは”貴重な物資をとっておけ”という意味であって、
”お前にやる!好きに使え!”という意味ではない。
この極限状態でそれすら察せないのか?
いや、極限状態だからこそ、それすら察せないと言うべきか...
思わず頭を抱えた。もう私には水がない。
物々交換で手に入れるしかないか...そう思ったが、
今の私の手持ちに、価値の高いものはない。
念のためポケットを探ってみると...
しめた、何か入っているようだ。
私は嬉々として、ポケットから”何か”を取り出した。
「うげ、これいつのガムだったかな」
私は再び頭を抱えた...こんなものに、需要があるとは思えない。
他の菓子であればまだ価値があっただろうが、
ガムは口の中の水分を吸い取っていく、悪魔のような菓子だ。
要するに物々交換どころか、持っているだけで邪魔なものというわけだ。
私はそれを放り投げ、悲しみを紛らわせるように鼻歌を歌った。
「1、2、3、最高の党..そして4、5、6、最高の関係...
7、8、ワルシャワ条約機構との...そして...
9、君の最高の友人との...」
ああ、私の最高の友人...
歌詞に合わせて、友人の顔が浮かんだ。
生きて会えるのなら、どれほど良いだろうか。
「A-B-C、最高の軍隊...そしてD-E-F、正確な命中弾...」
「G-HそしてI、民主主義のために!そしてJ、それはFDJ!」
「あぁっ!?お前さっきの水泥棒!」
「その節は申し訳なかったな。だからほら、水やるよ!
足りなくなったら言えよ!補充分もあるぞ!」
私の鼻歌に割り込んできた、先程の水泥棒は
そう言って半ば強引に、私に水を押し付けていった。
古びた水筒には、水が満杯まで入っているようだ。
ひとに優しくした分は、必ず自分に帰ってくるんだよ。
小さい頃、私が母親に言われた言葉だった。
今回は、優しくしたつもりはないのだが...
首を吊った男に水をあげた分の借りが帰ってきたのだろうか。
どちらにせよ、私は胸が暖かくなった。
たまにはひとに優しくするのも、悪くはないかもしれない。
水筒を開け、水を飲む。
...その水が、喉を通った瞬間だった。
痛い痛い痛い...喉が痛い...!
喉と唇が、焼けるような激痛に包まれた。
すぐに腹も痛くなり、おおよそ腹からは鳴ってはいけない音が鳴っている。
ちゃんと匂いを嗅ぐべきだった...
放射能臭い水、あの男...汚染された水を押し付けてきやがった...!
今は喉の表面と、胃袋が溶けている最中といったところだろうか...
痛い。冷静に状況を俯瞰してカッコつけるつもりだったが、
この状況ではそうもいかない。痛い...苦しい...怖い...
軽快な足音と共に、笑い声が聞こえてきた。
水泥棒だ。
「間引きだよ間引き!じゃないと食料無くなっちまうからなー!
あっ、水ありがとな。美味かったぜ!その水は美味かったか?」
「...あっ......おまえ.......」
「あ、喋ると苦しいか。ダハハ!」
ひとの良心を信じた、私が馬鹿だった...!
このクズ、なんで笑っていられるんだ...
嫌だ、こんなところで死ぬのは嫌だ...
まだ私は生きていなくちゃいけないんだ...
胸ポケットから、私は手帳を取り出した。
ホルストの遺品だ。パラパラとめくってみる。
すると、彼が死に際に遺したであろう文章が目に留まった。
ああ、こいつは...
「死に際に読書か?ダハハ!ご苦労なことだ...」
うるさい...そう思った瞬間だった。突然男の背後に現れた人影が、
男を鈍器で殴り倒した。鈍器には、べったりと血液が付着している。
あの水泥棒は...もう息をしていないだろう。
その人影は、ゆっくり私に近付いてきた。
眉間のシワが刻み込まれたように、厳格な風貌をした老人。
白衣を羽織っている...医者だろうか。
だが、放射性物質を大量に摂取したなど...
もはやまともな医療設備のないこの場所では、
どうにもならないだろう。
老人もそれを悟っている様子で、私に話しかけた。
「何か言い残したいことがあるのならば、言うといい。
もっとも、ただの気休めにしかならんだろうが」
「ないよ、そんなこと...おじさん、どうしてその男を殺そうと思った?」
「秩序を乱すものは、ここに必要ないからだ」
「ごもっともだね......あ...ひとつ頼みたいことが」
私は、老人にホルストの遺品である手帳とペンを差し出した。
「そこに、私がどんな風に死んだか書いてほしいんだ」
「悪趣味なことをさせるな」
「でも...意外といいもんじゃないのかな。
どうやって死んだのか...記録として残って...覚えていてもらえるのは。
記録が残り続ける限り...ひとは死なない。あと.....この、断絶区域のことも.....
できるだけ、かきしるしてほしい...だれにも......わすれられない...ように」
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X月XX日 正確な天気は不明
若い女性が死亡した。
状況から察するに、放射能汚染されていた水を大量摂取したことが
原因だと思われる。彼女に汚染水を飲ませた男性は死亡。
今現在断絶区域で生き残っている人数は、19人。
ツェンドールさん追悼絵
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