公開中
五頁 桜花爛漫
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴る数秒前くらいに、クラスメイトたちは続々と教室から出ていく。
解き放たれたように騒がしくなる教室に、僕はただでさえ悪い目つきを一層鋭くして、立ち上がった。
「ねーよがりん、一緒に帰ろっ」
「おう」
RPGゲームのごとく烏野を引き連れたなびきが、僕のほうに腕を回してくる。
「お前、なんか、前より重__くなってないか?」
「せっかく躊躇ったのに全部言っちゃったねえ!?」
「まあまあ。太ってても可愛いから大丈夫だって」
喚くなびきを適当に窘めてから、烏野のほうに目をやって
「ていうか、お前、どっち方面?」
「ファミマがあるほう。君たちと一緒だよ」
そんくらい確認してるよ〜、というなびきの声は無視して、僕らは教室から出た。
下駄箱までの道でばったり由良さんと会い、無視するのもなんだしなあと思った僕は声をかける。
「由良さん、部活ですか? 大変ですね」
人混みの中から僕の姿を見つけた由良さんは、ぱっと顔を上げて
「あ、よがりくんは帰宅部なん? そうなんよ、うち、バスケ部なんやけど__上下関係とか厳しくって、ほんま、胃に穴開きそうやわ」
芝居がかった仕草でお腹を擦りながら、苦笑する由良さん。
「胃薬なら常に持ち歩いてますから、いつでも言ってください」
「なんや、ちょっと怖いな、それ」
由良さんは「けどありがと。ほんなら安心やな」と微笑んで、体育館のほうへと去っていった。
「……いや、友達できてんじゃん、よがりん。もっと早く言えよ、僕、なんか恥ずかしいやつになっちゃったじゃん」
また三人きりになってから、ぶう、と唇を尖らせるなびき。
「別に、由良さんはまだ友達って感じじゃ……。それに、友達の数に上限はないんだからいいだろ」
「まあ、そうだけどさ〜」
僕らは靴を履き替え、家路についた。
「わ〜、登校するときも思ったけど、桜、満開だねえ!」
無邪気にそう言うなびきに、「そうだね」と返す烏野。
その頬は緩んでいた。
……桜、好きなのだろうか。まあ、好きそうではあるけれど。なんていうか、雰囲気的に。
「そういえば。吉野さん、料理得意って聞いたけど、普段からご飯とか作ったりするの?」
僕は「よがりでいいよ」と言ってから、少し考え込むようにした後に
「まあ、それなりかな。一般的な男子高校生よりは、よくキッチンに立っていると思うよ」
「よがりんのお菓子は絶品なんだよ! 定期的によがりん家遊びに行っては、僕もおこぼれもらってる」
にこにこと心底楽しそうにしながら、なびきは笑う。
僕が自分以外のやつと喋っているとき特有の笑い方だ。
「へえ、すごいね。僕は料理とか、あんまできないから……。あ、でも、裁縫とかならできるよ」
その言葉に、今度は僕が目を丸くする。
「十分すごいだろう。僕なんて、指に針が刺さったのが痛すぎて、それ以来二度と裁縫なんてするかと心に決めているぞ」
「覚悟の無駄遣い……」
小さく烏野は呟いて、さっきより少しだけ肩の力の抜けた笑みを浮かべた。
「ちなみに、マジでよがりんは裁縫の授業がある日、仮病で休んでるよ」
「有言実行してるんだ。覚悟が強すぎるでしょ」
肩を震わせ始めたので、何かと思ったが、どうやら烏野は笑いをこらえているらしかった。
そんなに面白かったかな。
まあ、肩の力を抜いてもらうために、あえて言ったようなところもあったので、嬉しい限りだけれど。
ひらり、桜の花弁が一枚、舞いながら落ちていく。
とまぁそんな感じで、なびき以外の人がいるという、僕の高校生活ではかなりレアケースな事象は、ぬるっと進んでいった。