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第四話 ヤマツツジ
「最近中村と仲良いの?」
カオルがどちらかと言えば不機嫌な表情で私に問いかける。カオルが読んだ本の話をしていたから、私が「それ中村におすすめされた」と言ってしまって今に至る。
半年前まで一緒に帰っていたし、別に隠すことではないので認める。
「最近また話してる」
「そーなんだ、まあ仲良かったもんね」
「嫌?まだ気持ち悪いの?」
「もー気持ち悪いよ!せめて痩せればいいのに、未練タラタラなデブなんて気持ち悪いに決まってる!」
中村とカオルが別れて数ヶ月経っても中村はカオルのことを想っているとカオルが知った時、カオルは本当に嫌そうな顔をしていて、中村の教室の前を通る時もビクビクしていたし、常に愚痴を零していた。この説明だけだとカオルが元彼に過剰に反応して嫌がる悲劇のヒロインぶった感じの悪い女に思えちゃうかも知れないけど、別れた元カノに意味の分からないメールをしたり、友達に「早く結婚したい」だとか言っていたヤバい奴が、カオルの元彼、中村である。
お人好しのカオルも流石にそこまで執着が酷いと怖がってしまって、周りの友達はみんなカオルに同情していた。中村は学校に来ていなかった理由についてよく分からないことを色々言っていたけど、一番はカオルの周りの女子からの冷たい視線だと思う。その周りの女子の視線の核は、中村が好きだったカオルなのだから。
「全然仲良くするなとかは言わないから。あ!ほら、部活行くよ!」
「あ、ごめん今日は…」
中村に返さなきゃいけない本があった。
「……もう、明日はちゃんと来てね」
そう言ってため息をつくカオルも、きっと私が部活をサボっている理由なんてお見通しなんだと思う。
「どうだった?」
「主人公が妊娠した時の心理描写が生々しくて好き、現実味がある問題ばっかりで親近感が湧いたよ」
「そういう感想ちゃんと言えるんだね」
「ナメないでもらえますか?」
今日も桟橋で夕日を眺める。もう見飽きてしまうくらいにはずっと眺めているのに、やっぱり海は綺麗で、毎回初めてこの景色に出会うような感情があった。
「あー、帰りたくなーい」
「反抗期娘だ、お母さん悲しむよ」
「……そうだね」
「あ、つーちゃんおかえり。ご飯出来てるからね」
「あ、うん。ありがとー」
「つーちゃん、ご飯食べたらパパのオムツ替えてね。しっかり身体拭くんだよ」
「………はあい」
冷めた冷たいご飯を口に詰め込んで、笑顔でご馳走様と言ってからトイレに駆け込み全て吐き出す。
私は口を拭ってから和室の扉を開ける。リビングから暗い和室へ光が入り込み、今にも死にそうな顔のおじさんが照らされた。
介護用のベッドの横に置いてあるゴム手袋をお母さんにバレないように付けて、おじさんのズボンを下ろしてオムツを換える。温かいタオルで下半身や脇の下を拭き、使用済みのオムツをビニル袋に突っ込んで新しいオムツをつける。そして部屋を出てビニル袋を捨て、トイレに駆け込み吐ききれない何かを吐き、死にものぐるいで手を洗う。お風呂に入って死にものぐるいで身体と髪を洗い、湯船には浸からずにお風呂をあがる。学校の宿題をやって、友達にメールの返信をして、リビングよく分からない神様にお祈りをしてから眠る。
これが私のナイトルーティーンだ。
ヤマツツジの花言葉…曖昧