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普通の魔法使いですが、歩く天災と相棒になります。
この世界において、魔力とは誰もが生まれ持つ普遍的なエネルギーであり、魔法は学問であり技術だ。 人々の生活には当然のように魔法が溶け込んでおり、中でも優れた才能を持つ若者たちは、国家を守るエリートとなるべく『王立マギウス魔法学校』へと集められる。広大な敷地にそびえ立つ古風な白亜の校舎、飛び交う箒、そして日々響く呪文の詠唱――それが、私の通う学校の日常だ。
「――以上の理由から、今年度より本学園では二人一組の『固定ペア制』を導入する。今から発表する相棒は、卒業まで生死を共にする運命の相手だ。……では、次。浅野リノ」
担任の適当そうな声が、教室に響く。 私は、後ろで一本に結んだ三つ編みをきゅっと握りしめた。どうか、真面目で常識的な、普通に話し合える女の子が相棒になりますように。そう神に祈った瞬間だった。
「ペアは、如月アル」
その名前が呼ばれた瞬間、教室の空気がまたたく間に凍りついた。 周囲の生徒たちが、一斉に怯えと哀れみの混ざった視線を私に突き刺してくる。
(き、如月アル……!?)
頭が真っ白になる。 如月アル。入学試験をトップで通過し、一世代に一人現れるかどうかの規格外の魔力を持つと言われる、学園一の高嶺の花にして『歩く天災』。いつも無表情で、人を寄せ付けない冷徹な天才エリートだ。(ひ、ひぃぃっ、終わった……! 怒らせたら一瞬で消し飛ばされる!私の青春終わったぁ⋯⋯!)
私はガチガチに緊張しながら、教室の隅で、サラサラの黒髪を揺らして窓の外をぼんやり見つめている彼を、恐る恐る盗み見た。
挨拶をする間もないまま、最初の授業として、私たちはさっそく学園の『演習用地下ダンジョン』へと放り込まれた。 ここは古代の遺跡を模した魔導空間で、実戦さながらの魔獣が現れる危険な場所だ。学校側はペアの連携を見たいのだろうが、私の心臓は破裂寸前だった。隣を歩くアルは、相変わらず何を考えているか分からない完璧な無表情。
その時、通路の奥から地響きが轟いた。 現れたのは、並の魔法使いが数人がかりで挑むレベルの巨大な魔獣『オーク・ジェネラル』。猛烈な咆哮とともに、鋭い爪が私たちを目がけて振り下ろされる。
「如月くん、危な――」
私が叫びかけた、その時だった。 アルが、着ていたベージュの上着のフードを、バサァッと深く被った。
(え……?)
次の瞬間、アルの全身から、空気が自重で歪むほどの圧倒的な魔力が噴き出した。暴風のようなプレッシャーが肌を刺す。 彼は無表情のまま、杖も使わず、ただ一言、短く呪文を紡いだ。
「――『灰塵』」
彼が指先を向けた瞬間、ダンジョンの天井を焦がすほどの、見たこともない巨大な烈火の渦が放たれた。熱波が空間を支配し、凶悪な魔獣は反撃する暇さえ与えられず、一瞬にして文字通り『消し炭』へと変えられてしまったのだ。 あまりの次元の違う強さに、呆然とする一同。 しかし、その圧倒的な背中を見つめていた私の脳内では、恐怖が一瞬で消し飛び、別の思考が猛スピードで回転を始めていた。(……待って。こやつ……意外と頼りになるのでは!?)
私の顔が、一瞬で現金な輝きを帯びる。
(私みたいな普通の魔法使いが、こんな規格外の盾を手に入れちゃったわけ? 才能ある人とつるんでて損することなんてないし……あれ? 私、めちゃくちゃラッキーかも!!!)
演習が一段落した後。 アルの戦闘力に味を占め、すっかり恐怖の消し飛んだ私は、職員室のドアを勢いよく開けた。担任の先生への、殴り込み(という名の質問)である。
「先生!! なんで私が如月くんとペアなんですか!?」
机に両手をついて詰め寄る私。当の担任は、お茶をズズッとすすりながら、軽いノリで平然と言い放った。
「あ〜、なんか君たちの魔力とか得意な魔法、性格。全部ピッタリっぽかったからペアにしときました〜」
あまりの適当さに、顔が引きつる。
「な、なんて適当そうな理由なんですか……!!」
「いやいや、リノさんの精密な防御魔法なら、彼の暴走気味な火力をいい感じにカバーできるでしょ。あ、そうだ。明日の課題の打ち合わせ、彼の部屋でやってね。アルくんに鍵渡しといたから」
翌日の放課後。 私は指示された通り、男子寮にあるアルの部屋の前に立っていた。 強いと分かったものの、あの無表情で威圧的な彼とはまだ全然打ち解けられていない。心臓をバクバクさせながら、ドアをノックする。
「如月くん? 浅野です。入るよ?」
返事がないため、恐る恐るドアノブを回し、ガチャリと扉を開けた。 そして――私は、そのまま石のように固まった。
「…………は?」
部屋の中は、破滅していた。 脱ぎ散らかされた服、山積みの魔導書、いつのものか分からないお菓子の袋。足の踏み場もない、完全なるゴミ屋敷。 その中央で、あの完璧な美少年・如月アルが、ぽつんと座っていた。
「あ……」
私と目が合ったアルは、いつものクールな無表情のまま、少しだけ気まずそうに視線を泳がせ、ぼそりと言った。
「あー、ごめん。俺片付け苦手だから……」
(苦手とかいうレベルじゃない……! なんだコイツ……!)
まだ彼が怖いはずだった。粗相をして怒らせたら消し飛ばされるかもしれない。そう思っているのに――あまりの惨状を前に、私の『しっかり者』としての本能が、恐怖を完全に凌駕してしまった。
「なんて片付けがいのある部屋なんですか⋯」
私は無言のまま腕をまくり、爆速で部屋の片付けを開始した。 ゴミをまとめ、服を畳み、本を棚に押し込む。目にも留まらぬスピードで部屋が綺麗になっていく。 数分後。すっかり見違えるほどピカピカになった部屋の中心で、私はようやく我に返った。
(はっ……!?)
血の気が引く。私、あの『歩く天災』の部屋を勝手に、しかもキレ気味に片付けてしまった。 私はガタガタと震えながら爆速で部屋の隅へと後退し、壁に背中を押し付けながら悲鳴気味に叫んだ。
「ご、ごめんなさい! 勝手に片付けしちゃって……!」
終わった。消し飛ばされる。そう覚悟して目を瞑った私に、アルは相変わらず完璧な無表情のまま、淡々と言った。
「……別に大丈夫。それで要件は?」
全く気にしていない様子で、そのまま平然と課題の書類を開くアル。
(き、気にしないんだ……っていうか、要件進めるんだ……!?)
学園の超天才エリートの裏の顔は、私生活がダメダメで、かつ色んな意味で規格外にマイペースな男の子だった。私たちの前途多難なペア生活は、こうして幕を開けたのだった。