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普通の魔法使いですが、歩く天災と相棒になります。【第三話】
ぽかぽかと温かい太陽が照らす、お昼休みの学園の中庭。私は、前回の演習をきっかけにすっかり仲良くなったスズ先輩と、お互いにお弁当を持ち寄って芝生の上で食べていた。
「リノちゃん、あんな強い子と一緒になって大変じゃないの?」
卵焼きをモグモグと食べながら、スズ先輩が心配そうに首を傾げる。金髪ショートの毛先がふわふわと揺れて、まるで小動物のようだ。学園一の『歩く天災』如月アル。周囲から見れば、彼とペアを組むのはさぞかし心労が多いと思われているのだろう。
「大変ですけど……ラッキーじゃないですか!?」
私が即答すると、スズ先輩は箸を止めてぱちくりと目を丸くした。
「えっ? じゃあリノちゃんは如月君のことをそういう目d――」
先輩が「これって恋バナかな?」と頬を染めかけた、その瞬間。私はお弁当の唐揚げを指差しながら、食い気味に本音をぶちまけた。
「だって!! 私普通の魔法使いなのに強ーい盾ができたんですよ!? 私生活はヤバいですけど、あんな規格外の火力を持った人と仲良くしといて損なんてないじゃないですか〜!」
「あ……そ、そっかぁ」
あまりにもビジネスライクで現金な回答に、スズ先輩は引き気味に苦笑いした。そんなお弁当タイムから数時間後。
放課後の私たちは、ペア専用の個別課題として『演習用第5ダンジョン』の前に立っていた。今回の任務は合同ではなく、私とアルの2人きり。しかも、四方を同じような岩壁で囲まれた、複雑に入り組んだ『迷路の洞窟』の突破だ。 一歩、薄暗い洞窟に足を踏み入れた、その時だった。隣を歩くアルの様子が、明らかにおかしくなった。相変わらず顔は完璧な無表情なのだが、なぜか生まれたての小鹿のように、足元がガタガタと激しく震えているのだ。
「き、如月くん……? どうしたの?」
私が嫌な予感を嗅ぎつけ顔を覗き込んだ瞬間。アルは急に細い肩をビクッと震わせ、見たこともないほど涙目で
「……俺から離れるな……」
と、私の服の袖をぎゅぅぅっと力一杯掴んできた。「うおっ!?」
あまりの破壊力に心臓が跳ね上がる。だが、彼の口から紡がれたのは、天才のイメージを木っ端微塵に打ち砕く衝撃の事実だった。
「こんな洞窟絶対無理だから。」
(……は? 待って。もしかして……壊滅的な方向音痴をこじらせた、迷路恐怖症的なやつ!?)
戦う時はあんなに無敵のくせに、まさかの『迷路の中では誰かがいないと迷子赤ちゃん』と化していた。しかし、極度の鈍感である私は、その神シチュエーションを前にしても、真顔で冷徹に言い放つ。
「ペアなんだから離れませんよ。とりあえず手は離してください」
「……いや、ガチで無理。離せって言うんなら俺帰るから。」
無表情のまま涙目で縋り付いてくる美少年。(いや、顔が良いからって許されると思うなよ! セリフの糖度が高そうに見えて、ただ迷子が怖いだけじゃん!でも居なくなるのは困るんだよなー⋯)
結局、アルに袖をがっちりホールドされたまま、探索がスタートした。 私はため息をつきながら、得意の魔力計算を使って迷路の正しいルートを分析し、彼を引率していく。途中で不意打ちの魔獣が現れた時も、アルはベージュの上着のフードをバサッと深く被り、私の袖を掴んだまま、空いた方の片手だけで巨大な雷撃を放って魔獣を瞬殺した。
(腕焦げそう⋯⋯)
相変わらずの戦闘時のカッコよさと、私生活・精神面のヤバさ。そんな凸凹な連携(?)を繰り返しながら、私たちはなんとか複雑な迷路を解き明かし、ついに眩しい光が差し込む洞窟の出口へと這い出た。
「ふはぁー! やっと出た!」
開けた外の空気を吸って、私は伸びをする。 ふと横を見ると、安全な場所に出たというのに、アルはまだ私の袖をきゅっと掴んだまま、ぼんやりと佇んでいた。
ダンジョンを無事に突破して完全に心の余裕を取り戻した私は、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、少し身を乗り出して生意気に言い放った。
「如月くん、迷路出たんだから手離したらどうです? 変人だと思われますよ〜!?」
その瞬間、アルはハッと我に返ったように、パッと私の袖から手を離した。そして、いつもの完璧な無表情に戻り、どこか解せないといった様子で私をじっと見つめながら、ぼそりと呟いた。
「……君、そんなキャラだったっけ」
「ぎゃ、逆にどんなキャラだと思ってたんですか?ほら、早く資料提出するよ!」
私は三つ編みを揺らしながら、逃げるように寮へ帰る。アルは少し困惑したようにベージュのフードを脱いで、私の後ろを静かについてくるのだった。