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澪標
『千代!懐かしっ!電話番号、確かに交換してないわ。教えてOKだから〜』
清美に電話すると、しきりに『千代』と言っていた。久しぶりに言う『千代』の響きが良かったのだろう。じゃあSMSのグループも作っておくから、と言って電話を切った。千代に清美の電話番号を教えた。
その後、ぽんぽんと返事が弾み、1週間後に千代の家で遊ぶことになった。1週間後の日曜。あと学校は4回。うん、耐えられる。
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じわじわと空気が清浄されたような、されていないような。そんなところで、わたしは淡々と過ごしていた。冷ややかな視線、冷たい眼差し。べつに大したことない。6月中旬。いつの間にか2か月ほど学校生活は過ぎ去っていた。あと6回ほど、これを繰り返す。
明日はいよいよ千代と清美と遊ぶ。そう思う。
今日のどれだけ冷ややかな視線も耐えられる。明日は暖かい言葉が来るから。
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図書館で集合して、取り敢えずLINEのグループを作成した。グループ名に迷った。後回しにしようということで、必然的にグループ名は『千代,Kiyomi,ゆかり』になった。漢字、ローマ字、平仮名すべてがまじっている。
千代の部屋は整頓されていて、すっきりしていた。ミニマリストのような類ではなかった。教科書類やノート類が綺麗に整頓されている。家の中でも乱れはなく、いつもこうなんだろうな、と想像をふくらませる。
「何して遊ぼっか」
「うーん、トランプかオセロ?3人じゃあな」
しくじった、3人用のゲーム、うちにあるのに。いや、それは杞憂か。彼女には、ビデオゲームという選択肢がないのだ。教育方針か何かで、ゲームは全く持っていない。コントローラーも、すべて。
ああいったモノを知らない彼女の微笑みは、どんな人よりも純粋だ。
「取り敢えずお菓子食べよ」
「そうだね」
カラフルなグミ。チョコレートは3種類ある。清美がホワイトチョコレート、千代がブラックチョコレートと目立つのに、わたしは中間のミルクチョコレート。
「甘っ。久しぶりに食べた」
「嘘、じゃあいつも何食べてるの?」
「さあ…」
垣間見えた千代の教育方針、家庭方針。わたしとは雲泥の差があって、目を背けたくなるほどのものだ。
結局、お菓子をつまみながら喋って、時間を溶かした。学校のこととか、千代の私立中学校はもうすぐ校外学習があるとか、図書館の本の冊数とか。3時間はチョコレートよりも早く溶ける。バイバイ、と手をふった。
清美は明るいし、千代は賢い。どちらにもなれない、中立の存在。それでいいのだろうか。別にいいんだろうな。清美も千代も、きっと中途半端なところはあるんだから。
さて、これからやっていこう。