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جَنَّة
検問所についた。楽園と呼ばれる場所は今踏みしめている砂漠とは打って変わって、森と小さな村がかけ合わさったような場所だ。
検問の人はケモミミで、謎の調査器具を持っている。あれで病原菌を保有しているかどうかを判別するのだろう。ハルは並んでいるが、俺は近くで見ているだけだ。
ハルは並ばせようとするが、俺があまりにも嫌がるので諦めたようだ。
きっと体調が悪いとか検査が怖いとか思われているんだろう。
ハルの番が来た。どうか感染していませんように。
「ما اسمك؟」
何かを聞いている。出身地?名前?
しかし出身地を聞いても、これからここに住む予定なのだから聞いても意味がないだろう。
「إِسْرَاء」
イスラ...?こっちが本当の名前なのか?それとも苗字?
「سأتحقق من ذلك」
ハルが検査されているというのに、俺はハルよりも怯えている。
「أنت لست مصاباً. تفضل بالدخول.」
そうきくとハルは嬉しそうな顔をして、こちらを見た。
「يرجى الحضور بسرعة」
そんな顔で俺を見ないでくれ。来ないことを不思議に思ったのか、こちらに駆け寄ってこようとする。
俺は、震える足で、ハルを無理やり楽園に押し込んだ。押し込んだ衝撃で、帽子が取れる。
大きく育った耳が、風に吹かれて揺れている。
ハルはフェンスの向こうで、驚きのあまり口が少し開いてしまい、冷や汗をかき、眼を大きく見開いている。
蹴ったせいでもう体力が限界のようだ。
ケモミミの病原菌に感染した人は、死ぬか、新たな病原菌を保有者になるかの二択だそうだ。
俺はたまたま死んでしまっただけなんだろう。
ハルは、泣きじゃくって近づこうとしているが、検査員に止められている。
これで良いんだ。
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遠のく意識の中で、ハルの泣く声と、青い太陽が重なる。
視界がホワイトアウトし、次に目を開けた時、そこにあったのはどこまでも続く大空ではなく、見慣れた白い天井の蛍光灯だった。
あれは夢だったのだろうか。けれど、あのハルの泣いていた声は今でも耳に残っている。
きっとハルはあのケモミミの楽園で生きていくのだろう。
俺も、この日本で生きていくしかないんだ。
そういえば、頭が痒い気がするが、気のせいだろう。
ふと見たカレンダーは、2030年5月を示していた。