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惚れ薬の偽物の恋⑥
6話!!! 引かれた銀の糸
二回目のパエリアから、ちょうど二年が経過した午後だった。
裕太の計算では、小夏はもう一生薬が切れない状態になっているはずだった。二人はソファに並んで座り、穏やかな時間を過ごしていた。
しかし、その瞬間は本当に突然、前触れもなく訪れた。
小夏の脳の奥深くを二年もの間ずっと覆い尽くしていた、あのピンク色の甘いモヤが、ガラスがパリンと割れるかのように、一瞬にして綺麗さっぱり消え去ったのだ。
「……っ!?」
急激に視界がクリアになる。胸を支配していた盲目的な愛が一瞬で消失し、代わりに「私は二年間もお人形でいさせられていた」という、圧倒的な恐怖と強烈な正気が蘇ってきた。小夏の手がガタガタと震え始める。
「……小夏ちゃん? どうしたの、急に震えて。寒いの?」
隣に座っていた裕太のクリアな正気の瞳が、小夏の顔を覗き込んできた。薬を飲んでいない彼は、小夏のわずかな表情の変化を見逃さない。もしここで正気がバレたら、彼はまたあの恐ろしい「特濃の薬」を料理に混ぜて私を染め上げようとするだろう。
「ちょ、ちょっとさむくて……」
「……嘘だ。小夏ちゃん、今の目、何……?」
裕太の顔から一瞬で血の気が引いた。彼はソファから立ち上がると、小夏の両肩を掴み、ベッドへと乱暴に引きずっていった。クローゼットの奥から、二年ぶりの銀色の鎖が取り出され、小夏の足首にカチャリと重い音を立てて嵌められる。
「嫌だ、嫌だよ小夏ちゃん!! またそんな目で僕を見るなんて絶対に許さない!! 今度は二年なんて言わない、一生二度と正気になんて戻れない究極のやつを飲ませてあげるから……!」
裕太は泣きながら笑い、台所で今までで最も濃厚な「一生モノの超特濃あまみるく(お酒ver)」を調合し始めた。
「ゆうた……やだ……っ!」
小夏は鎖を激しく鳴らし、ベッドの上で必死に身をよじって抵抗した。しかし、薬を飲んでいない裕太の冷徹な力には敵わなかった。身動きを封じられた小夏の唇に、冷たいグラスの縁が押し当てられ、圧倒的な濃度の液体が無理やり流し込まれた。
「んぐっ……、や、だ……っ!」
ごくんと喉が鳴り、それを強制的に飲み干させられた瞬間、頭の中心がジリジリと焼けるような強烈な熱さが駆け巡った。せっかく取り戻した正気の意識が、数秒も経たないうちに凄まじいスピードでシャットダウンされていく。
しかし、今回の変化は今までとは違っていた。
正気を失う恐怖が脳内で限界まで圧縮された結果、それは瞬時に「裕太のことが好きすぎて、頭がおかしくなりそう」という、これまでを遥かに凌駕する狂信的な愛情へと完全にひっくり返ったのだ。
小夏の瞳から抵抗の光が消え、とろんと濁った涙目が裕太へと向けられた。彼女は自ら裕太の首筋に両腕を回すと、彼を引き寄せ、激しく、深いキスを自分から仕掛けた。
「ん、む……っ、ん、う……っ……」
裕太は一瞬、驚きに目を見開いたが、すぐに凄まじい歓喜と歪んだ独占欲を瞳に灯し、小夏の細い腰を折れそうなくらい強く強く抱きしめ返した。
深く、激しいキスのあと、二人の唇がゆっくりと離れる。
その唇の間には、きらきらと光る一本の銀色の糸が、名残惜しそうに長く、長くつながれていた。
「あは……見て、小夏ちゃん。僕たちの愛の糸、こんなに綺麗につながってるよ……」
裕太はその糸を愛おしそうに見つめながら、自分の親指で小夏の濡れた唇をそっと拭った。
「もう二度と、あんな怖い目で僕を見ないでね。ずっと今の小夏ちゃんで、僕にこうやってたくさんちゅーして甘えていてよ……」
一生効果が切れない究極の檻の中で、小夏は裕太の腕に完全に骨抜きになって寄り添った。二人はお互いの激しい心臓の音を重ね合わせながら、甘く不気味な楽園の深淵へと、どこまでも深く、永遠に沈んでいくのだった。
これで惚れ薬の偽物の恋は終了です