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惚れ薬の偽物の恋②
2話!!! 完全管理のタイムライン
針の音だけが響く部屋で、小夏は目を覚ました。
頭が割れるように重い。手足を動かそうとしても、まるで体にコンクリートを流し込まれたかのように、指一本ピクリとも動かなかった。薬の成分が筋肉の自由を完全に奪っているのだ。
「あ、小夏ちゃん。やっと目が覚めたんだね……! おはよ」
ベッドのすぐ横の椅子に座っていた裕太が、嬉しそうに顔を覗き込んできた。その手には、まだ少し残っているピンク色の液体の入ったグラスが握られている。
「体が動かないでしょ? びっくりさせちゃってごめんね。でも、こうでもしないと、小夏ちゃんまた僕の目の届かないところへ行っちゃうから……。ここならね、もう誰も邪魔しに来ないんだよ」
声を出そうとしても、喉が渇ききってうまく言葉にならない。恐怖で固まる小夏を見て、裕太は優しく髪を撫でてきた。小夏は必死に声を絞り出そうとして、声にならない唇の動きだけで抵抗を示した。
「さ、わ、ら、な、い、で」
口パクでの明確な拒絶。それを見た裕太の顔から、一瞬で血の気が引いた。綺麗な笑顔が醜く歪んでいく。
「……触らないで、って言ったの? 小夏ちゃん、僕のことが嫌いになっちゃった……? そんなの嘘だよね……?」
グラスを持つ裕太の指先が、怒りと悲しみで小刻みに震え始める。彼はグラスを近くの机に乱暴に置くと、小夏の両肩を掴み、ベッドへ押しつけるようにしてじっと見つめてきた。その瞳には、今にも涙がこぼれそうなほどの激しい執着が宿っている。
「僕がどれだけ小夏ちゃんのことだけを考えて、この『あまみるく』を作ったか分かってる……!? 嫌だなんて言わせないよ。小夏ちゃんは、ずっと僕のものなんだから……!」
絶望に駆られた小夏は、それでも消えかけの理性で、もう一度唇を動かした。
「わ、か、ら、な、い」
「わからない、って……」
裕太はぽかんと間の抜けた声を漏らした。怒りで震えていた彼の肩から、すうっと力が抜けていく。
「わからないわけないよ……。だって、小夏ちゃんはいつも僕に優しくしてくれたじゃないか。あの笑顔も、楽しそうに話してくれた時間も、全部僕への気持ちじゃなかったの……? ……そうだよね、まだお薬が足りなくて、頭がぼんやりしてるだけだよね」
自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いたあと、彼は机の上のあまみるくを手に取った。そして、動けない小夏の唇にその縁をそっと押し当ててきた。
「ほら、もう一口だけ、あまみるく飲んで? そしたら全部うまくいくから……」
冷たい液体が唇を濡らし、強引に口内へと流し込まれる。小夏はむせ返りながらも、それを飲み干すしかなかった。
「ごくっ……、ん……」
「そう、お利口さんだね、小夏ちゃん。……全部、僕のためを思って飲んでくれたんだよね?」
裕太は小夏の口元に溢れたミルクを、自分の親指でそっと拭い取った。追加で薬を飲まされた小夏の体は、みるみるうちに熱を帯びてきた。
「これで、もう次に目が覚めるときには、僕以外の男の人のことなんて全部忘れてるよ。僕たち二人だけの、新しい世界が始まるんだ……。おやすみ、僕の小夏ちゃん」
カチャ、と部屋の明かりが消される音が微かに響き、小夏の意識は二度目の深い眠りへと落ちていった。
この日から、裕太の完璧な「管理」が始まった。
彼が使用している薬の効果持続時間はきっちり十時間。裕太は小夏を完全に支配するため、効果が切れる一時間半前、つまり投与から八時間半が経過したタイミングで、先回りして次の薬を投与するという鉄のルールを自分に課した。
これによって、小夏には恐怖や拒絶を思い出す「正気」の瞬間が、一秒たりとも訪れなくなった。常に頭の中には甘いピンク色のモヤがかかり、裕太を見るたびに「ゆうた大好き」という感情だけが強制的に脳内を出力されるお人形へと変えられていったのだ。