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恋愛圏内接近中!
幼少期のフーゾさんが初恋の相手であるシイさんの距離感に悩む話。
⚠︎BL要素しかありません。ほんの少しの胸糞表現アリ(香り付け程度です)最後がすごく不穏
大変拙いですが、それでもよろしい方のみ
太陽に照らされて白い髪が光を集めている。自分と同じくらいの年齢なのに、どこか大人びた端正な横顔が、不意にこちらを向く。君は俺に気がついたのか、笑みを浮かべて大きく手を振った。
君のその、太陽のような笑顔を見て俺は「ああ、好きだなぁ」と思ったんだ。
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特に寝苦しくなるような茹だる暑さもなく、体の芯まで冷え切ってしまうような寒さもない、至って快適極まりない夜であるにも関わらず、フーゾ・ギディオンは眠れないままでいた。
どうにもこうにも目が冴えて仕方がなく、かといって起き上がって何かするのは憚られる。目を閉じても、寝返りを打っても、思考を別の方向へ飛ばそうとしても、全て無駄な足掻きだと言わんばかりに脳は覚醒してしまう。
ベッドに入る前までは眠かったんだ、とフーゾは心の中で言い訳をしてみる。いつも通りに護身術の稽古に励み、知識を詰め込み、しばしの談笑を挟みつつ、食事をとる。元気が有り余る10代の少年にとっては、丁度よく疲労が溜まるくらいのスケジュールであり、安眠など約束されたようなものである。が、それでも少年は目が冴えて仕方がなかった。
フーゾは恨みがましく目の前で安らかに寝息を立てている少年を見つめる。シイ・シュウリン、フーゾの同居人だ。今現在、フーゾはシイと一つのベッドを共有してる状態であり、それがフーゾの安眠を妨害する原因でもあった。
両性愛者、いわゆるバイセクシャルであるフーゾはシイに恋をしていた。初恋で、しかも一目惚れである。初めて彼を見た時の衝撃は、今でも忘れられない。以前いた研究所ですれ違った時に見えた、白い髪に赤い瞳、端正ながら生気を感じない顔立ちに、たちまちフーゾは虜になった。その後保護され、共に生活するようになり、彼の性格を知っても、その熱は冷めることなく、むしろよりシイへの想いをたぎらせるばかりだった。焼け石に水どころか、火に油である。
そんな初恋相手には、困ったところがあった。側から見れば、可愛らしく微笑ましい、ほんの少しの些細な問題。だが、丁度思春期真っ只中のフーゾにとって、それは死活問題だった。
改めて、自分とシイの体制を鑑みる。視界に入ってくる初恋相手の寝顔に耐えられず、寝返りを打って仰向けになっている自分と、その自分の右腕を抱き抱えて眠るシイ。いくら二人の仲が良いとはいえ、この年頃にこの体制は適切ではないと、今まで一度も男友達ができたことのないフーゾも理解しているのだ。
シイ・シュウリンは距離感がおかしかった。信じられないくらいに、とにかくに近かった。
食事の時に席が隣なのは当たり前。稽古の休憩の時には容赦なく寄りかかり、指南書の内容で分からないところがあれば頬と頬がくっつくんじゃないかと思うほどに身を寄せ、たまに抱きついてくることすらある。恋人だって遠慮や恥じらいで中々やらないことを、ただの友人のシイはなんでもないことのようにしてくる。フーゾはフーゾで、中々言い出せずにいたためか、シイのスキンシップは止まることを知らなかった。
何より、フーゾは己の恋愛対象が世間一般に言われる“普通”と違うことをうっすらと感じ取っていたため、自分がシイを意識していることを知られたくなかったのだ。ただでさえ、好きな子に想いが知られるのは恥ずかしいと言うのに、気味悪がられでもしたらきっと立ち直れないだろう。そんな失恋を恐れる気持ちが邪魔をした結果、フーゾは寝不足一歩手前にまでなりかけていた。思春期のフーゾには、距離感も失恋も大問題なのだ。
「それで十分な睡眠が取れていなかった、と。うーむ、我が愛弟子ながら愛い話ではあるが…だからと言って、相手は手加減してはくれんじゃろうに」
「ごもっともです…すみませんリー師匠…」
肩を木刀でペシペシと緩く叩かれながら、フーゾは己の師匠であるリーの前で正座をしていた。
結局半ば気絶するようにして眠りについたフーゾは、寝不足が祟ってか稽古でシイ相手にボロ負けしてしまい、その様子を見ていたリーがフーゾを呼び出したのだ。
リーはほんのりと呆れつつ、口元には、というか顔全体がかなりニヤついていた。一時期は他人に興味を持つこともなく、ただ理不尽な痛みに怯えていた子が、今ではこんなに恋に悩む一般的な少年に成長してくれて、更にそれは殆どが自分の手回しのお陰となれば無理もない。地球ができてから生物の進化や人の営みを神として見守ってきたが、こんな喜びは今までにない。まさに感無量である。
「だがしかしなぁ、シイの距離感をどうにかしてほしいと我に言われてもなぁ…」
「分かってますけども〜…そこをなんとか…!」
別に、自分からなんでもないように口添えをすること自体はなんら難しいことではない。と言うか、二人が時折喧嘩をする際に毎回やっているので慣れっこでさえある。だが、シイの距離感の原因を考えるに、己が言ったところでさほど効果はなかろう。
シイは確かに自分から見てもフーゾとの距離はかなり近い。恋仲の男女のようにすら見えることもあるため、フーゾにとってストレスではないのかと心配はしていた。ただ、それに関してはフーゾがシイに物申すこともなかったため、大丈夫だと思っていた。まぁ、斜め上の理由で悩みの種になってはいたのだが…
しかし、自分やたまにやってくる他の神々との距離は至って普通なのだ。と言うより、知らない者に対する距離は少し遠いほどである。つまり、シイが分からないのは“友人との距離感”なのではないか。リーはそう予想していた。
シイは恐らく、フーゾと同じように友達がいなかった。更に、幼い妹の世話もしていたと聞くし、恐らく同年代の子供を見かけることもなかったはずだ。それ故に、同年代の“普通”を何も知らないのだろう。そして、それは“普通“の友人がいなかった自分が言ってもあまり意味はない。むしろ逆効果になる可能性もある。
その旨をフーゾに伝えると、困ったように考え込んでしまった。一生懸命に考える姿はとても愛いものだが、こうなると愛弟子はもう空返事しか返さないので、部屋に帰るように伝える。フーゾは素直に頷き、考え込んだまま歩き出していった。
部屋に帰る途中で、シイに出会った。噂をすればなんとやらである。
「なぁ、フーゾ」
よく見ると、いつもよりも表情が暗い。それに、なんとなくこちらの様子を伺っている感じがする。
「えーと…どうかしたか?」
「その、さ…オレって、もしかして近い?距離、とか」
「えっ…な、なんでそれを、あ」
「や、なんか、稽古の時、体調悪そうだったし、師匠に呼ばれてたし、どうしたのかな〜って、思ってさ」
頭が真っ白になり、次の瞬間、聞かれてしまった、いつから?どこまで知られた?そんな疑問がフーゾの頭を埋め尽くす。しどろもどろで、あ〜とかう〜とか、言葉にならない音が口から出てくる。
必死に思考をまとめ、悩みに悩んだ末、フーゾは静かにこくりと頷いた。
「っ…そ、っか…」
「あ、でも、別に気持ち悪いとか、嫌とか、そんなんじゃなくって」
本心であった。確かに恥ずかしかったりドキドキが止まらなかったりで困りはするものの、嫌ではないのだ。好きな子にくっついてもらえること自体は嬉しいことである。ちょっと引っ付き具合や頻度に心が追いつかないだけで。
「…なーんだ!そうならそうと、早く言ってくれよ〜!てっきりオレ、フーゾに嫌われたのかと思って、すんげぇビックリしたんだからな!!」
「あ…は、は…わ、悪い。俺も、どのくらいが正しいのかあんま分かんなかったからさ!」
「ま、そう言うことならちょっとオレも気をつけてみるな!てか、次からはちゃんと言ってくれよ?言わなきゃ伝わんないんだから!」
「お、おう!分かった!」
そう言うと、シイは満足そうにそのまま走り去っていった。手に竹刀が握られていたのを見るに、一人で稽古をしていたのだろう。フーゾは少し申し訳なさを感じつつ、シイが案外すんなり受け入れてくれたことに対して安心した。こんなことにずっと悩んでいたのか、とすら思うほどに。
言葉通りにシイのスキンシップは明らかに少なくなった。その日は久々に順当に眠りにつくことができたし、翌朝もスッキリ目覚めることができた。だが、フーゾはいつもの右腕の温もりが無くなったことに、少しの寂しさを覚えていた。
シイからのスキンシップが減ってから一週間経った。フーゾの安眠は無事取り戻され、いつも通りの日々を過ごせるようになった。が、フーゾはどこか悶々とした気持ちを抱えていた。
原因は、シイの調子が悪いこと。頭痛や腹痛などの体調不良ではなく、単に気分が優れないらしい。それも、ちょうどスキンシップが減った日の翌日から。今は師匠が話を聞いているらしいが、あまり答えようとはしないらしい。
やっぱり、俺の言葉気にしてんのかな…と、一週間前の自分の言動を思い返す。今思い返すと、嫌がっていないと言うにはあまりにも、あまりにもな反応をしてしまっていたような気がする。もしそれで、シイが傷ついてしまっていたら…そう考えると、あの時感じたものの比でないくらいの罪悪感がのしかかってくる。何より、好きな子にくっつかれないのは少し、いやかなり悲しい。
だがしかし、距離感について苦言を呈した自分がそう言うことを言うべきではないだろう、いやでも、このままシイが気分が優れない状態で、誰かに襲われでもしたら…そんなたらればが、頭の中を旋回する。フーゾは、距離感に悩まされていた時よりずっとモヤモヤしていた。
廊下でぼーっとしてた想い人に声をかけると、分かりやすく体が跳ねる。そんなに驚かなくても良いのに…と思いつつ、自分が同じ立場だったらこのくらい驚くかも、とも考える。
シイがこちらに顔を向ける。笑顔ではあるが、どことなく、口元が引き攣っているのか、ぎこちない笑顔だった。それは、俺が好きな太陽のような笑みではない。
「どうかした?あ、稽古付き合って欲しいのか?それとも、指南書で分かんないとこあった?」
「それはシイの方だろ、一緒にすんなって。…そうじゃなくって、その、この前の、距離感の話、だよ」
途端にシイの顔から笑みが消える。明らかに目が泳ぎ、焦っているのが手に取るように分かってしまい、分かりやすすぎだろ、と茶化しそうになってしまう。が、そんなことをしたら絶対に嫌われるか蹴られるかするのでグッと堪え、必死に考えてきた文章を反芻しながら話しだした。
「お前、あれ指摘してから明らかになんか落ち込んでるし、前よりも俺に気ィ使うようになったよな」
「そ、そうか?まぁ、あんまベタベタしないように気をつけてるし、な」
「…あれ、もう良いから」
「もう良い…って、え、何が?」
「〜っだからぁ!好きなだけひっついて良いから、そーやって我慢すんなってこと!お前の元気がないと、こっちもなんか調子狂うんだよ!」
「え、でも、オレの距離感すごい近いんじゃ」
「別にもう気になんねーし!慣れればあんなん誤差だろ誤差!」
予定していたものよりずっとキツい言い方になってしまい、そっとシイの様子を横目で伺う。
シイは、ぱぁぁっと効果音がつきそうなくらい、明るく、俺の大好きな太陽のような笑みを浮かべていた。その顔に、思わず心臓が暴れだす。それと同時に、やっとその顔を見れたという嬉しさも、強すぎる鼓動の陰に隠れるように芽生えてくる。
「〜っ!!!じゃあじゃあ、飯んとき隣座って良い?!」
「お、おう!勿論いいぞ!」
「じゃあ、寝る時また隣で腕抱えてて良い?!」
「ンッ…ま、まぁ、別にやりたいならやれば?」
「じゃあ!廊下で見かけた時勢いよく抱きついて良い?!」
「それはダメ!!!!!」
「そんな〜!!!」
シイが元通りになってから、かなりの年月が経った。
適切な距離感を俺もシイも理解したにも関わらず、シイのひっつき虫具合は治るどころか進化するばかりだった。今では寝る際に腕に加えて足まで絡まってきており、本当の本当に気が気でない。
シイも、面白がっているのかどんどんスキンシップを増やしてくるし、止めても過去の言質を振り翳してきて、中々強く出られない。こういうところで小賢しいのだから、油断ならない。
今も、俺のことを強く抱きしめてくる。だが、嫌な気持ちには全くならない。
シイが何かを言っているが、うまく聞き取れない。耳鳴りが止まらず、頭が、意識が朦朧としてくる。頬に手を添えようとするが、腕を持ち上げる力ももう残っていなかったのか、ぴくりとも動かなかった。
シイは、いっつも俺より先に寝ていた。俺が早く寝ようとしても、シイがひっついてくるから中々眠れたもんじゃない。でも、今日は俺の方が先に眠りにつくみたいだ。
おやすみの代わりに愛の言葉を伝えられたら、どんなに良かっただろう。そう思いながら、俺は目を閉じた。
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屋外から、窓の内側にいる愛弟子たちを眺める。どうやら、微妙な仲違いは解決したようだ。一週間、浮かない顔のシイと殆ど空返事のフーゾに挟まれ、どうやって2人の仲を取り持てば良いのかと痛めた胃をさすった。これで良かったと思う反面、リーは2人の将来を案じていた。
2人はいずれ道を違えるだろう。シイとフーゾは性格が似ているようで少し違うし、話を聞く感じだと、きっとなりたい職業も違うはずだ。それに、いつまでも自分に教えを乞うわけにもいかない。いずれ2人が旅立って、それぞれ自分の進みたい道を進む時、もしお互いへの想いが、2人を雁字搦めにしてしまったら、と考える。もし、お互いと離れたくないがために、どちらか…もしくは2人共、自分の夢を諦めてしまうようなことがあったら?その時に、自分は何ができるのだろうか。
少し悩んでみたが、考えるのをやめる。未来のことを考えたところで、今自分に何かできるわけではあるまい。何よりもし本当にそうなったとて、それは2人の問題であって保護者の自分が首を突っ込んで良いはずがないのだ。できることといえば、ただ2人の将来が、よくなることを祈るばかりである。