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Angelus Fallaciae.
「見よ、あなたたちの王だ」と言うと、彼らは叫んだ。「殺せ。殺せ。十字架につけろ。」ピラトが、「あなたたちの王をわたしが十字架につけるのか」と言うと、祭司長たちは、「わたしたちには、皇帝のほかに王はありません」と答えた。
-ヨハネの福音書第19章14〜15節-
右頬を殴られたのであれば、左頬をも差し出しなさい。
私はそれに従うと、彼に嘘を吐いた。それ故に彼にも噓を吐かれたが、私はそれ以上虚実を吐き出していいのか、そう思った。しかし彼は私にそれ以上嘘は吐かなかった。何故なら、彼は数多の人間を欺いてきたから。主はそれについて言及することは特に無かったが、それでも私は本心から諦めてはいなかった。いや、昔に諦めていたがそれをどこかに忘れてきただけかもしれない。私は彼に嘘を吐くことはいくらでも、いつでも、どこにいてもできただろうが主はそれをお許しになさるのか、そう考えていた。私は口が滑ると必要以上に言ってしまうだろう。彼は今日も相変わらず釘で打ったような笑みを浮かべている。両の背から翼を生やしているが、それが神々しいとは言えるようなものかは定かではない。彼が食卓に並べるのは、いつもパンと赤ワインだった。それが何を意味しているのか、私には到底理解できなかったが、理解できないからこそ彼は存在しているのだ。彼は再び右足と左足を交互に前へ前へ進める。彼の歩きはそこまで早くはなかったが、かといって遅いかと言うとそうでもなかった。
彼はよく人を欺く。それは赤の他人であろうと初対面の人間であろうと。シャロームと一回喋れば、向こうも反復したようにそう言う。そして彼は談笑を交えて話しかける。そして相手の体についた花粉を除去していく。彼はあまりすぐに関係を縮めたりはせず、ゆっくりと時を刻んでいく。彼はその肯定をも嗜み、それと同時にそれもまた欺きの一つなのだ。そして彼はいつもミルラの匂いを漂わせ、周囲の者を少し退かせる。しかし自らの談笑を自然体のように見せびらかすことで彼は周りからの視線が溶けていき、それが蜂蜜のようになる時間を知っている。しかし彼は他の人間には挨拶ぐらいと最低限の反応だけをすることで、もともと話しかけていた対象が安心できるようにする。彼は怒らず笑みを浮かべてひたすらに飛んで火に入る夏の虫を待っている。
彼が一通り欺くと、散歩中に不自然すぎないように会う。それは故意のものなのは私と彼のみ知っているだろう。彼が得意なのが欺瞞なのであれば、彼が苦手なことは砂上の楼閣だろう。私だって最初は彼に欺かれたが、彼のやることを静観している。彼はまあまあ力は持っており、もし彼が仮に天使じゃなかったとすれば、もし仮に好戦的だったとすれば死者は指がいくつあっても足りないぐらいにまで振り切れたであろう。ひたすらに一方的に、着実に…そうして彼は欺く。
しかしそれに気づいた頃には既に喰らい殺されているだろう。
とにかく彼には近づくな。