1/100 濡れた髪のあの子と僕 前編
2/100 濡れた髪のあの子と僕 後編
3/100 卒業式の日にて (4/25 0:00 公開予定)
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目次
濡れた髪のあの子と僕 後編
結局、僕は何も答えられなかった。
あの子の声は僕の心臓の音にかき消されてしまっていた。
彼女が去った後、彼女が触った机は湿っていた。そこを触ると冷たかった。しかし、そこには彼女の優しさ、お淑やかさなどが入り混じった温度があった。悔しかった。雨が降ればいいと思った。国語の授業で、情景描写というものを習った。それを思い出したのだ。だがいくら願っても雨は降らなかった。僕は主人公ではない。あの時に勇気も出せずに言えなかった僕は主人公になる資格もない。そう思った。僕は無意識に彼女が触ったところを触れた。温度は段々と低くなっていき、下の机の冷たさと同じになってしまう。そんな切なさから、放課後に僕は主人公になると決心をした。
放課後、僕はあの子を呼び出した。空はいまだに曇っている。
あの子がきた。彼女の髪からはもう塩素の匂いはしなかった。
「さっきはごめん」
かなり迷った一言目だった。そして間髪入れずに言った。
「好きです、よければ付き合ってください。」
シンプルイズベスト。小説や漫画で散々見た告白の仕方を真似た。もちろん緊張はした。だが主人公にどうしてもなりたかった。
この子は笑った。その笑いは温度があった。あの時と同じ温度が。
「いいよ、」
驚いた。いいと言われるとは思わなかった。彼女は元から僕のことを見ていたそうだ。そう告げてくれた。ほんの一瞬、僕と彼女の手が触れた。
雨は降っていなかったが、空は真っ青に染まっていた。
これでこのお話は完結です。
濡れた髪のあの子と僕 前編
それはプール終わりのことだった。僕はあの子に生まれて初めての感情を抱いた。
濡れた髪、曇天を見つめる憂いを含んだ瞳、机を叩く細い指、それは一年に数回も見れない姿だった。その姿に、僕は見惚れてしまっていた。あの子が机を叩く弱々しい音は教室に響き続ける。初めて見る姿ではないのに、何かがあったわけではないのに、そんなことを考えていた。それは、気を逸らしているふりをしていた。だが、そんな抵抗も無駄に終わり、依然、僕はあの子を見つめていた。
あの子がふと、こっちを見た。僕はすぐに目を逸らした。しかし、あの子は首を傾げて、こちらに歩いてきた。その足音が時計からの秒針の音と同期する。秒針の音がどんどん近づいてくる。普段は何気ないその動作だがいつもとは違うあの子が歩いて来ると考えると不思議と胸がドキドキした。心拍数が上がり心臓が爆発しそうだった。すぐそばに来た彼女の髪からはほのかに塩素の匂いがした。
『どうしたの?』
そんな一言を投げられた、答えはすぐに出た、だが、答えられなかった。
本当に転載ではありません!
卒業式の日にて
暇だなあ…
小学校の卒業式中。出席番号順に呼ばれて返事をする。そして歩いて卒業証書を貰う。それだけの単純な作業。
前原征介(マエハラユスケ)さん
「はい!」
やっと自分の番が来た。壇上に上がる。こう見ると圧巻の景色だ。大きな声で将来の夢を発表する。
「……僕の夢はプロゲーマーです!」
そして校長先生から卒業証書をもらう。
席に着いたらまた暇な時間が生まれる。そう思うと、この緊張の瞬間も惜しく感じる。
そして堂々と歩き席に着く。
ああ、また暇な時間が続くのかぁ……
そんなことを思いながらただぼーっと……………
はっ、眠ってしまっていた。
ステージの上を見ると、丁度親友のはやちゃんが卒業証書をもらっている。はやちゃんは小学校二年生の頃からの付き合いでとても頭がいい。それなのに威張らずに、勉強を教えてくれたり、一緒にゲームをしてくれたりする。
はぁ…それなのにあいつは…そう、僕にはもう二人友達がいる。二人とも頭はいいのだがかなり性格が悪い。威張ってくるし、すぐイタズラするし…。一度、先生に言ってこれで懲りたか、と思ったがそれでも懲りずにまだイタズラをしてくる。最早笑えない。そんなことを思っているうちに卒業証書の受け渡しは別のクラスに突入していた。
上山茉莉花(カミヤママリカ)さん
「…はい。」
もっと大きな声出せよ……。上山茉莉花は僕の好きな人だ。絵が上手く、優しい。でもちょっと内気で恥ずかしがり屋なのが玉に瑕。でもそんな姿も可愛い。あーー、いつか付き合いたいなーーー、そんなことを思っているとすぐ、茉莉花が降壇する。なんでこう言う時だけ時間が早くすぎるんだよ…。あーそれにしても眠いなー…………
はぁ…………。なんでまた寝ちゃうんだよ……。なんで誰も起こさないんだよ。卒業式はもう終盤に差し掛かり、先生の話を聞くだけになっている。
「えー、じゃあこれで終わります。二千××年三月十八日 佐藤遙」
終わってしまった。それもあっさりと。えーとこっからは?確か先生の合図で立って退場…だよな?よし、でも暇な時間も終わりだ!仲のいい人たちも同じ中学校に進むからあんまり関係ないし、さっさと退場してしまおう!
「終わったーーー」
卒業式も終わり帰宅途中。友達とそんなことを言い合う。そしてはやちゃん達が別の道に行き、茉莉花と二人きりになった。いきなりのビックチャンス。卒業したし告白するなら今か?でも小学校で付き合うのは早い?いや、でも周りは付き合ってる人割と多いし、あーどうしよ、そんなことを思いながら無言の時間が過ぎる。そして茉莉花の家に着く。
「またねー」
茉莉花がそういい扉に手をかける。どうするべきだ?俺…考えろ…考えろ……、あぁ、もうしょうがない!
「待って!」
勇気を出して茉莉花を呼び止める。茉莉花は振り返り無垢な目で「どうしたの?」と言い、首を傾げる。
「ちゅ、中学校でも仲良くしような!」
え…?自分でもびっくりする。口が勝手に動いたような感覚。緊張しすぎて脳が勝手に動かしたのか?
「もちろん!」
茉莉花はそう返す。だが、もう呼び止めることはできない。……しょうがない…
「またな」
そう言って振り返らず家に帰る。辛い、言えなかった。そんな不甲斐なさが一気に押し寄せてくる。でも、もう過去は戻せない。自分の弱さを噛み締めながら僕は家に帰った。