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濡れた髪のあの子と僕 後編
結局、僕は何も答えられなかった。
あの子の声は僕の心臓の音にかき消されてしまっていた。
彼女が去った後、彼女が触った机は湿っていた。そこを触ると冷たかった。しかし、そこには彼女の優しさ、お淑やかさなどが入り混じった温度があった。悔しかった。雨が降ればいいと思った。国語の授業で、情景描写というものを習った。それを思い出したのだ。だがいくら願っても雨は降らなかった。僕は主人公ではない。あの時に勇気も出せずに言えなかった僕は主人公になる資格もない。そう思った。僕は無意識に彼女が触ったところを触れた。温度は段々と低くなっていき、下の机の冷たさと同じになってしまう。そんな切なさから、放課後に僕は主人公になると決心をした。
放課後、僕はあの子を呼び出した。空はいまだに曇っている。
あの子がきた。彼女の髪からはもう塩素の匂いはしなかった。
「さっきはごめん」
かなり迷った一言目だった。そして間髪入れずに言った。
「好きです、よければ付き合ってください。」
シンプルイズベスト。小説や漫画で散々見た告白の仕方を真似た。もちろん緊張はした。だが主人公にどうしてもなりたかった。
この子は笑った。その笑いは温度があった。あの時と同じ温度が。
「いいよ、」
驚いた。いいと言われるとは思わなかった。彼女は元から僕のことを見ていたそうだ。そう告げてくれた。ほんの一瞬、僕と彼女の手が触れた。
雨は降っていなかったが、空は真っ青に染まっていた。
これでこのお話は完結です。