「ねえシオン。僕たちのこの絆は、本物(リアル)だと思う?」
人類最後の砦『隔離都市アジール』。
他人の傷を自分の身体に転移させる異能を持つ少年・シオンは、二人の親友、
アルトやルークと共に、街を襲う異形『魔獣』と戦う日々を送っていた。
誰も傷つかない完璧な勝利、優しい仲間、穏やかな宿舎。
閉ざされた世界の中で、少年たちは確かに固い絆で結ばれていた。
だが、都市の最前線に、中央軍から冷酷なエリート執行官・キルヒが派遣されたことで、
完璧に調律されていた美しき日常の皮が、一枚ずつ剥がれ落ちていく。
昨日、戦場で即死レベルの重傷を負って運ばれたはずの親友が、
翌朝には傷一つない『新品のブレスレット』を巻いて、いつも通りに笑いかけてくる違和感。
魔獣を倒し、誰かを「救う」たびに、
都市の中央にそびえ立つ大時計塔の針が――なぜか【逆さに巻き戻る】恐怖。
そして、シオン自身の肉体から流れた、人間のものではない『漆黒の泥の血』。
「さあ、今日もいつも通りの日常をはじめよう」
優しく僕を呼ぶ親友の声は、本物か、それとも僕を騙すためのプログラミングか。
登場人物たちの全ての『癖』や『セリフ』が、中盤から怒濤の勢いで裏返る。
仕組まれた破滅のレールを正義と信じて突き進む、少年たちの30日間の全滅記録。
――誰も救われない、完璧なるバッドエンドが、今幕を開ける。
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目次
第1話:『鋼鉄の防壁に、錆びた嘘を』
「――シオン、前を! 『|殻獣《かくじゅう》』が来るぞ!」
幼馴染のアルトの怒鳴り声と同時に、硬質な地鳴りが響いた。
ここは隔離都市アジールの最前線、第7防壁。
そびえ立つ鋼鉄の壁の向こうから現れたのは――
全身をどす黒い外殻で覆われた、二足歩行の異形――魔獣の一種だった。
「わかってる!」
僕は愛用の大剣を引き抜き、地面を蹴った。
僕の異能は『肉体補正』。地味だが、前線で刃を交えるには一番都合がいい。
魔獣が鋭い爪を振り下ろす。金属が擦れ合うような嫌な音が鼓膜を刺した。
僕は大剣の腹でそれを受け流し、一歩踏み込んで魔獣の膝の関節を叩き斬る。
「グアァッ!?」
「今だ、アルト!」
僕の合図に、後方に控えていたアルトが応じる。
彼の異能は『|炎弾《えんだん》』。
彼の指先から放たれた高熱の光弾が、僕が剥ぎ取った魔獣の肉へ正確に着弾した。
凄まじい爆発音。魔獣は断末魔すら上げず、黒い霧となって消滅していく。
「ふぅ……。これで今週のノルマは達成、か?」
アルトが額の汗を拭いながら、気さくに笑いかけてくる。
「みたいだね。怪我はない、アルト?」
「ないない。お前の完璧な前衛のおかげさ。ありがとな」
僕たちは拳を軽く突き合わせる。
いつも通りの防衛戦。
いつも通りの勝利。
隔離されたこの狭い都市の日常は、こうして僕たちの血と汗で守られている。
だが、ふと見上げた都市の中央――そこにそびえ立つ大時計塔の文字盤が、不自然に震えた。
ガチリ、と重い金属音が響く。
長針が、本来進むべき方向とは「逆」に、カチリと一目盛り戻った。
「……また戻ったな」
アルトが時計塔を見上げ、眉をひそめる。
「ああ。魔獣を倒すたびに、時計が逆行する。気味が悪いよね」
この都市の七不思議。誰もその理由を知らない。
ただの故障だと言う者もいれば、世界の終わりへのカウントダウンだと言う者もいる。
「ま、僕たちが気にしても始まらないよ。それより早く宿舎に戻って、飯にしよう」
「違いない。今日の食堂はシチューだったはずだ」
僕たちは笑い合い、武器を背負って歩き出す。
その時、防壁の向こうから、遅れて戻ってきた別の班の悲鳴が聞こえた。
「医療班! 早く、医療班を呼んでくれ! ルークが、ルークの脇腹が……!」
見ると、同僚の戦士であるルークが、仲間に担ぎ込まれてくるのが見えた。
彼の左脇腹は、魔獣の爪によって深く引き裂かれ、大量の血が溢れている。即死レベルの重傷だ。
「ルーク……!」
身体が勝手に動いていた。僕はルークの元へ駆け寄り、その傷口に両手を当てる。
「シオン、やめろ! お前の『肉体補正』は治療の異能じゃない!」
周りの制止の声が聞こえる。
そうだ。僕の異能の本当の姿は、隠している。
本当は『肉体補正』なんて綺麗なものじゃない。
――僕の身体に、おいで
強く念じると、僕の胸の奥から、冷たい『何か』が溢れ出した。
直後、ルークの傷口から血が止まり、肉が急速に盛り上がって再生していく。
それと引き換えに、僕の左脇腹に、全く同じ激痛と、深い裂傷が走り、血が噴き出した。
「がっ、は……っ!」
激痛に膝をつく。僕の異能は『傷の肩代わり』。
他人のダメージを、自分の肉体に強制的に転移させる呪いのような力だ。
「おい、シオン! 無茶しやがって!」
アルトが慌てて僕を支える。
だが、僕の傷もまた、僕自身の異常な再生力によって、数秒で塞がっていった。
「……大丈夫。ほら、もう治った」
僕は無理に笑顔を作って立ち上がる。
ルークは完全に意識を失っているが、傷は塞がった。
しかし、軍の規律は厳しい。前線での重傷者は、生存していても一度『中央医療室』へ隔離され、精密検査を受ける決まりになっている。
「一応、中央へ運ぶぞ!」
駆けつけた医療班によって、ルークは白い担架で運ばれていった。
「……シオン、お前本当に大丈夫か?」
アルトが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「うん、いつも通りだよ。かすり傷さ」
僕は嘘をついた。
傷は治った。でも、僕がルークの傷を自分の体に引き受けたその瞬間。
都市の全域を包んでいるはずの、あの聖なる大結界の光が――ほんの一瞬だけ、まるで怯えるように弱まり、明滅した気がした。
気のせいだろうか。
それとも、僕のこの身体が、何かに拒絶されているのだろうか。
「……帰ろう、アルト。お腹が空いたよ」
「ああ、そうだな」
アルトはいつも通りの優しい笑顔で、僕の肩を叩いた。
その手の温もりだけが、この不気味な都市の中で、唯一信じられる本物だった。
なんじゃこりゃ~。
うん。
一応シリーズで三十話完結予定です。
PG12ギリギリ攻めます。
はい。
では!