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縋る
2026/01/01 縋る
「私ってかわいい?」
不安になって小声でそう訊く。友達は読んでいる雑誌から視線をあげ、呆れたような表情を浮かべながら頷く。もう何度も繰り返された会話。でも、不安は拭いきれない。彼女の言葉を信じられないわけじゃない。
ほんとうに、と訊き返そうとして、やめた。友達の時間を削ってばかりの、生産性のない、楽しいわけでもない会話を引きずるべきではないから。そんなことは理解しているけれど、私はまたコンパクトミラーを取り出して、開き、自分の顔を隅々まで確かめる。前髪がちょっと跳ねてるかもしれない。メイクがちょっと崩れてるかもしれない。やっぱり頬にあるほくろ、嫌だな。手で前髪を触りながらそんなことを延々と考えていると、友達は言った。「リョウ、私の言うこと信じてないんじゃん。」本気で怒ったわけでも。悲しんだわけでもなさそうな、むしろどうでもいいような口調だった。でも私は焦った。あまりにも図星だった。私はほとんど反射的に口を開いた。声は出なかった。言いたい言葉も、言うべきだと思う言葉も、驚くほど浮かんでこなかった。
友達は私の手元に視線を落とした。「勉強すれば? 受験生なんだし。」私の、開いただけで1ページも進んでいない問題集。使い込まれた跡もない。それがなんだか恥ずかしくて、気まずくて、コンパクトミラーをカバンにしまいながら頷いた。友達も私と同じ受験生のはずなのに、今日はなにも持ってきていないらしい。図書館のどこかから取ってきた雑誌を読んでいるだけ。家でたくさん勉強してるから、わざわざ図書館でしなくてもいいんだろうな。息抜きなのかもしれない。友達はいつも成績上位だから、多分そう。
冷たいシャーペンを握りしめて、問題を読むけれど、全然頭に入ってこなかった。だって、私いま不細工じゃないかなとか、考えてしまう。図書館みたいな人の多いところでは余計に不安になる。誰かに不細工だと思われてたら、そんな想像が延々と頭を回る。
いつのまにか、手が小刻みに震えていることに気がついた。私は静かに席をたった。友達が顔をあげ、私を見た。すっと顔を逸らしながら、お手洗い行ってくるねと早口で伝えた。俯いたまま歩き出した。私の長い髪の毛でこの顔が隠れていたらいいな。
本当にトイレに行きたいわけではなかった。ただ誰もいない、1人でいられるところに行きたいだけ。この図書館にはあまり来ないから、よくわからないまま適当に歩いたら、運良くトイレに辿り着けた。女子トイレの個室に駆け込んだ。きちんと鍵をかけ、そのままドアにもたれかかる。落ち着けるように胸に手をあてた。ドクドクと心臓が鳴っているのがわかった。
癖みたいにコンパクトミラーを探したけど、カバンは友達のところに置きっぱなしだ。ない、という一瞬の絶望のあと、吐き気が襲ってきた。
鏡がないんじゃ、整えられないんじゃ、外に出れない。個室を出ることもできない。そういう事実が、気持ち悪くて、吐きそうだった。吐けたらよかった。吐いて、全部流せたら、少なくとも今よりは。