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遮光カーテンの向こう側 3話
重厚な遮光カーテンが、外界の色彩を徹底的に剥奪していた。
白柳唯兎にとって、この部屋はもはや居住空間ではなかった。
それは自己防衛のために築き上げた「繭」であり、
外の世界という毒から身を守るための聖域であった。
窓から差し込むはずの陽光さえも厚い布地によって濾過され、
室内には常に一定の温度と、埃の舞う静寂だけが支配している。
唯兎はベッドの上に横たわり、天井の一点を見つめていた。
学校へ行かなくなったあの日から、彼の時間は止まった。
あるいは、
加速しながらも同じ場所を円環状に回り続けているような錯覚の中にあった。
彼は自分が生きていることを確認するために、ただ呼吸の音だけを聴き続ける。
しかし、その静寂は突如として破られた。
**――ピンポーン。**
電子音が鼓膜を突き刺す。
唯兎の身体が跳ねた。
心臓の鼓動が早鐘のように打ち鳴り、
喉の奥がひりつくような感覚に襲われる。
それは彼にとって、
外界からの侵入を告げる警報であり、
平穏な停滞を破壊する暴力的なノイズであった。
ピンポーン。
再び、インターホンが鳴る。
今度はより切実で、焦燥を含んだ響きだった。
彼は身を起こすことすらできず、
ただ布団の奥に潜り込むようにして耳を塞いだ。
だが、音は壁を通り抜け、彼の内面へと侵入してくる。
「……やめてくれ」
掠れた声が漏れた。
誰かがそこにいる。
自分を求めている者が、
この閉ざされた扉の向こう側に立っている。
その事実は彼にとって救いではなく、耐え難い苦痛であった。
なぜ来るのか。
なぜ自分を見つけようとするのか。
自分の孤独を汚しに来るのか。
ピンポーン。
今度は連続した連打だった。
それは懇願であり、
あるいは怒りであり、あるいは絶望の叫びでもあった。
唯兎は震える手でスマートフォンを手に取った。
画面には通知が溢れている。
しかし、彼はそれらを見ることすら拒絶する。
彼にとっての情報はすべて遮断されるべきものであり、
接続されることは死に等しいことだった。
カーテンの向こう側では、三人の影が彼の家の前に立っていた。
雪野燈は、潤んだ瞳でインターホンを押し続けていた。
彼女の胸中には、
唯兎への執着と、彼を見捨てられないという強烈な義務感が渦巻いている。
隣に立つ皇直弥は、苛立ちを隠そうともせず拳を握りしめていた。
彼は翠の視線を意識しながらも、
友人の異変に対する正義感からこの場に立っていた。
そして坂上翠は、複雑な表情でその光景を見つめていた。
彼女にとってここは、
直弥への想いと、唯兎への同情が交差する奇妙な境界線であった。
「……てよ、開けてよ....唯兎くん」
燈の声が外から届くことはない。
しかし、唯兎には聞こえる気がした。
扉の向こう側で彼女が泣いていること、
直弥が怒っていること、翠が困惑していることが。
彼は再び目を閉じた。
自分の部屋という牢獄の中で、外界からの「救済」を拒絶する。
彼にとっての正解は、この暗闇の中にしかないのだから。
インターホンの音は止むことなく鳴り響き続け、
静寂と喧騒がカーテンの一枚を隔てて激しく衝突していた。
外の世界では時間が残酷に流れ、
唯兎の不在を埋めるためのドラマが展開されている。
しかし彼は、その劇場の観客にも出演者にもならず、
ただ舞台裏の暗がりで消え入り続けることを選んだ。
断絶は深まり、孤独は結晶化していく。
カーテンの一枚一枚が、
彼と世界との間に絶対的な境界線を刻み続けていた。