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変な生徒
夜桜
翌朝。
職員室に入ると、昨日よりもリラックスしている自分に気づく。
まだ、慣れない事ばかりだけど。
少しずつ、慣れていくものだ。
私は机に荷物を置き、出席簿を開く。
窓際の最後列。
葛葉。
昨日、真っ赤な瞳でこちらを見た生徒。
昨日の言葉が、脳裏に浮かぶ。
「だって、葛葉ですから。」
あの先生の”当然”という態度。
もう、反応するのに疲れてしまったのだろう。
時計を見る。
ホームルームまであと5分。
私は荷物を持って教室へ向かった。
「おはようございます。」
扉を開けると、生徒たちが元気よく挨拶を返してくれる。
私は軽く雑談をしながら、教壇に立った。
教室を見渡す。
視線を向けるよりも先に、空席が目に入った。
窓際の最後列。
やっぱり、席は空いていた。
少しだけ苦笑する。
昨日の出席簿の時点で、もう予想はついていた。
でも、もしかしたらと思う自分もいた。
ホームルームの時間になり、出席を取り始める。
一人ずつ名前を呼ぶ。
「――葛葉くん」
返事はない。
私は出席簿に「遅刻」と記入する。
すると、
前の席の男子生徒がこちらに話しかけてくる。
「先生、別に気しなくていいですよ。」
「え?」
「葛葉、いつもそうなんで。」
「あー、大体午後には来てますよ。大体」
他の生徒も笑いながら言った。
悪意は感じない。
ただ、あまりにも自然だった。
私はあいまいに頷く
「そう、なんだね」
それ以上は何も言えなかった。
一体、いつからこうなったのだろう。
誰も驚かなくなって、
誰も注意しなくなって。
本人も、それを当たり前に受け入れて。
一時間目が終わり、休み時間に入った。
教室が賑やかになったころ。
ガラっと後ろの扉が開く。
教室の中の空気は、ほとんど変わらない。
「おはよう」
「今日は早いじゃん」
「一時間目で来るの珍し」
みんな、いつも通りに声をかける。
そこに立っていた葛葉はあくびをしながら、
私は席を立つ。
葛葉がこちらを見た。
赤い瞳と目が合う。
「おはようございます。葛葉くん」
葛葉は一瞬だけ目を丸くした。
「......は?」
予想外の反応だったのかもしれない。
私は続ける。
「今日は一時間目に間に合いませんでしたね」
葛葉は少し黙り込んだ後、不思議そうな顔でこちらを見る。
「......それだけ?」
そうつぶやく声が聞こえた。
「何か、ありますか?」
そう聞き返すと、葛葉は小さく眼を逸らした。
「別に」
そう言って、自分の席へ向かう。
私はその背中を見守りながら、次の授業の準備をする。
変な生徒。
それが、今の正直な感想だった。
でも、それ以上に気になる。
どうして、皆諦めたのだろう。
どうして本人まで、当たり前の様な顔をしているのだろう。
窓際の最後列。
席に着いた葛葉は、直ぐに机に突っ伏した。
私は授業の準備を再開する。
「......それだけ?」
その声は、小さかった。
けれど、なぜか強く耳に残った。