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    Fragrance
    
    
    
    コツ、コツ
 廊下を歩きながら窓の外を見ると、近くの枝にはうっすらと粉雪が降りかかっていた。
その時、ふっと鼻を掠めた香りがあった。
清々しい奥に甘さの見え隠れする香り。
(…この香り…)
 私ははっと後ろを振り返ったが、もうその人物は人混みに紛れていた。
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私は校庭に立っていた。桜が僅かに綻んでいる。
「香琳っ!」
名前を呼ばれて振り向く。
「苓」
 立っていたのは同級生で幼馴染の苓だった。スポーツ万能の下級生からの憧れの的。彼女の制服姿も、もう見納めだなあと思う。
「さっきのスピーチ、良かったよ!」
 爽やかに笑いながら彼女がいう。そう。私は先ほどの高校卒業式で卒業生代表挨拶を任されていた。
「そんなことないよ、セリフ飛びかけたし」
 両手を振って謙遜する。本当なら、この役は彼女の方がぴったりだった筈なのだ。遠くからもよく目立つ背丈に人を惹きつける容姿。冷たい印象を与える小柄な私とは大違いだ。
「満更でも無いくせにー」
 うりうりと肘でこづいてくる彼女にやめてよ、と笑いながらいう。
 彼女は、最近よく笑うようになった。優しい表情をするようになった。心休まる場所ができたのかもしれない。なんて、考える。
「此処ともお別れかぁ」
 彼女がふと、校舎を見上げながらつぶやいた。そうだね、と私も同意する。
(そして、君ともね)
 心の中で付け加えた。彼女はこの県内の大学に進学することは知っていた。そして私は上京する。次に会うのはいつだろうか。
 校舎を見上げる彼女の後毛がふわりと靡いた。まつ毛がぱちぱちと閉じられる。
 私の視線に気づいたのか、なに?と彼女がこちらを見た。
「なんでもないよ」
 心とは真逆の言葉が口をついて出てきた。
『好きなんだ』
 その言葉が口に出せたらどれほど良かっただろう。でも私には、その言葉を口に出す勇気はなくて。隣で彼女の瞳を、髪を、唇の動きを、声を、眼差しを、脳裏に焼き付けることで精一杯だった。
 その時、一陣の風が吹いた。それと同時に、苓の方から芳しい香りがした。
 清々しい奥に、甘いエッセンスが見え隠れするような香り。
 まるで彼女自身のようだった。
「…香り、なんかつけてる?」
 苓に問いかけると、彼女は目を少し広げさせた後、恥ずかしげに笑った。その表情にどきりとする。
「分かっちゃった?あのね、これ、“彼”がくれたの」
 彼。その言葉の意味がわからない歳ではもうなくなった。
「へえ、良かったね!似合ってるよ」
 その言葉が、どうにも薄っぺらく聞こえる。
 そうか、彼女はもう、自分の心休まる場所を見つけて、受け入れたんだ。
 彼女はもう自分の好きな人を見つけていて、彼も彼女を好きで。
 私が選ばれることはないのだと、目の前に突きつけられた気分だった。
 選ばれることなんてないと、分かっていた筈なのに。
(分かってたんだけどなぁ)
 胸の痛みを、卒業の寂しさで掻き消した。
 隣から香る良いはずの匂いが、私の体にまとわりつくようで鬱陶しかった。
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「苓…」
 この名前を口に出すのは何年ぶりだろう。
 僅かな残り香でさえも消え去った廊下の中、私は立ち尽くしていた。
 卒業式の、そして長い初恋が失恋で終わった日から、もう長い時が経っていた。生活も、環境も、何もかもが変わっていった。
 いつの間にか、季節も巡り、二度目の春が過ぎ、今、三度目の春が来ようとしている。
 でも、私は彼女を好きだ。それは、この移りゆく二年間の中でも変わっていなかった。
 あれが何の香りなのか、私はまだ知らない。
 きっと、さまざまな人が纏っているような香りなのだろう。全く違う人が纏っている香りかもしれない。
 けれど、そんな些細なきっかけをよすがに、思い出すことくらいは許してほしい、と思った。
    
        眠り姫です!
待って私が恋愛書いてる!すごい!私書けたんだ!(自分に失礼)
まあそんなこと言っても書いてるの片手の指分ぐらいなんですけどね笑
誤字脱字確認とかしてなくて、基本ノリで書いたやつです。暖かい目で…どうか…読んで…ください。ね!
どんどん作品増やしていきたいなあ…
東方玄魔録シリーズも続けたいし。
うーーーーん まあ良いや!(思考放棄)
では、ここら辺で。
最後まで見てくれたあなたに、心からのありがとうを!