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死亡ログイン ③ログアウト
老人は動かなかった。
「おじいさん!」
蓮は肩を揺さぶる。
反応はない。
だが死んでいるわけでもない。
呼吸はある。
脈もある。
ただ意識だけが完全に失われていた。
周囲の人々が集まり始める。
「大丈夫ですか?」
「救急車!」
騒ぎが大きくなる。
蓮はその場を離れられなかった。
スマホにはまだ通知が表示されている。
次はお前だ
たった五文字。
なのに異様な重さがあった。
十分後。
救急車が到着した。
老人は運ばれていく。
その瞬間。
蓮の能力が発動した。
老人のログが見える。
断片的な映像。
若い頃の姿。
研究施設。
白衣を着た人々。
巨大なモニター。
そして、
誰かの声。
『観測対象173番』
『ログ異常を確認』
『排除してください』
映像が途切れた。
「っ……!」
蓮は頭を押さえる。
今までで一番鮮明だった。
だが意味は分からない。
排除?
観測対象?
あの老人は何者だったのか。
その夜。
蓮はパソコンの前に座っていた。
検索欄に打ち込む。
ログイン確認
検索。
何も出ない。
観測者
検索。
何も出ない。
ログアウト実行
検索。
ゲームやシステム関連ばかり。
求める情報は見つからなかった。
「くそ……」
椅子にもたれかかる。
その時だった。
スマホが震えた。
通知ではない。
電話だ。
非通知。
蓮は迷った。
だが出る。
「もしもし」
数秒。
沈黙。
そして。
『会わない方がよかった』
少女の声だった。
あの白いパーカーの少女。
「お前か!」
『時間がない』
「何なんだよ、全部!」
『聞いて』
声は切迫していた。
震えている。
まるで何かに追われているみたいに。
『明日、学校へ行かないで』
「は?」
『絶対に』
「理由を言え!」
『一人消える』
蓮の背筋が凍った。
『もう始まってる』
直後。
通話は切れた。
翌朝。
蓮は悩んだ。
学校を休むか。
行くか。
結局、
行った。
「何も起きるわけないだろ」
自分に言い聞かせる。
だが不安は消えない。
一時間目。
異常なし。
二時間目。
異常なし。
三時間目。
異常なし。
「ほらな……」
少し安心した。
だが昼休み。
異変が起きた。
「なあ」
大輝が首を傾げる。
「木村って誰だっけ?」
「は?」
蓮は笑った。
冗談だと思った。
だが大輝の顔は本気だった。
「クラスにいたじゃん」
「そんな奴いたか?」
周囲を見る。
他の生徒も不思議そうな顔をしている。
「聞いたことないな」
「転校生か?」
「違うだろ」
蓮の心臓が強く脈打つ。
木村。
いた。
確かにいた。
窓側三列目。
髪の長い男子。
先週一緒に掃除もした。
間違いない。
なのに。
誰も覚えていない。
蓮は急いで教室後ろのロッカーへ向かった。
名簿を確認する。
木村の名前はない。
「なんで……」
スマホのクラス写真を開く。
文化祭の写真。
そこにも木村はいない。
いるはずの場所だけ不自然に空いている。
冷や汗が流れた。
放課後。
蓮は木村の席へ向かう。
そこには別の机が置かれていた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
その時。
能力が発動した。
視界が歪む。
映像。
教室。
昨日。
木村がスマホを見ている。
画面には黒い文字。
木村の顔が青ざめる。
『嘘だろ……』
そして。
画面が暗転した。
映像終了。
蓮は息を飲んだ。
「まさか……」
老人と同じだ。
木村も。
ログアウトされた。
そして、
存在ごと消された。
その瞬間。
教室の窓に何かが映った。
反射したガラスの向こう。
屋上のフェンス。
そこに。
黒い人影が立っていた。
顔は見えない。
だが。
そいつはこちらを見ていた。
確実に。
じっと。
まるで観察するように。
蓮のスマホが震える。
新しい通知。
恐る恐る開く。
被験者 No.217
監視レベル:2
蓮の呼吸が止まる。
下にはさらに続きがあった。
次のログアウト候補を選定中
その瞬間。
窓の外の黒い人影が、
ゆっくりと笑った。