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死亡ログイン ②残り72時間
だいぶホラー?
スマホを取り落としそうになった。
蓮は反射的に振り返る。
だが、誰もいない。
街灯が照らす狭い路地には、雨上がりの水たまりがあるだけだった。
「……見間違いだろ」
そう言った自分の声が震えている。
もう一度スマホを見る。
画面は正常だった。
ホーム画面が表示されている。
さっきの黒い画面も、後ろに立つもう一人の自分も存在しない。
「なんなんだよ……」
蓮は急いで家へ向かった。
途中、何度も後ろを振り返った。
誰かにつけられている気がしたからだ。
しかし誰もいない。
それなのに背中だけが冷たい。
まるで見えない何かがずっと自分を見ているようだった。
その夜。
蓮は眠れなかった。
三日後に世界が終わる。
残り七十二時間。
意味不明なメッセージ。
消えた少女。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
午前二時を回った頃。
蓮はベッドから起き上がった。
「もう一回確かめるか」
スマホを取り出す。
知らない差出人から届いたメッセージを開く。
そこには依然として、
残り72時間
と表示されていた。
送信元情報を確認する。
番号は存在しない。
メールアドレスでもない。
差出人の欄には妙な文字列だけが並んでいた。
ERROR.LOG_0001
「なんだよこれ」
蓮が画面をスクロールした瞬間だった。
突然、本文が変化した。
文字が増えていく。
誰かがリアルタイムで入力しているように。
蓮の全身が固まる。
表示された文章は一行だけだった。
後ろを見るな
その瞬間。
蓮は背後から気配を感じた。
部屋の空気が変わる。
誰かいる。
確かにいる。
ベッドの後ろ。
窓際。
暗闇の中に。
息を飲む。
振り返るべきか。
振り返るなという警告を無視すべきか。
心臓が暴れる。
鼓動が耳の中で鳴り響く。
十秒。
二十秒。
三十秒。
蓮はゆっくり振り返った。
しかし、
何もいなかった。
「はぁ……」
大きく息を吐く。
自分で自分を怖がらせているだけだ。
そう思った時、
机の上の鏡が目に入った。
蓮は凍り付いた。
鏡の中。
部屋の隅。
そこに誰か立っていた。
黒い人影。
顔が見えない。
人間の形をしている。
だが異常だった。
首だけが不自然に長い。
影はじっと蓮を見ていた。
「うわっ!」
蓮は反射的に振り返った。
誰もいない。
再び鏡を見る。
影も消えていた。
翌日。
学校へ向かう途中も蓮の頭から昨夜のことは離れなかった。
寝不足のまま教室へ入る。
「おはよう」
親友の大輝が声をかける。
「死にそうな顔してるぞ」
「そう見えるか?」
「見える」
大輝は笑った。
だがその瞬間。
能力が発動した。
映像が流れ込む。
放課後の教室。
大輝。
美咲。
そして、
泣いている美咲。
『なんで隠してたの』
『違う、俺は知らなくて』
『嘘つき』
映像が終わる。
「……え?」
「どうした?」
「いや」
蓮は戸惑った。
今見えたのは過去の記憶ではない。
未来だ。
まだ起きていない。
昨日の少女と同じだった。
その日の昼休み。
蓮は能力を試してみる。
クラスメイトを見つめる。
映像が流れる。
体育館。
放課後。
転倒事故。
保健室。
また別の生徒を見る。
映像が流れる。
自宅。
電話。
母親との会話。
どれも未来だ。
「未来ばっかり……」
蓮は青ざめた。
能力が変化している。
他人の記憶だけではない。
未来まで見え始めている。
放課後。
蓮は昨日の商店街へ向かった。
少女を探すためだ。
見つけなければならない。
名前も知らない。
だがあいつだけが何か知っている。
夕暮れ。
昨日と同じ場所。
少女はいなかった。
代わりに一人の老人がベンチに座っていた。
蓮は通り過ぎようとして、
足を止める。
能力が勝手に発動した。
老人のログが見える。
映像。
若い頃の老人。
結婚式。
家族。
子供。
そして。
最後に真っ暗な部屋。
モニター。
画面の中に映る文字。
被験者No.173観測中
その文字を見た瞬間。
老人のログが途切れた。
「観測中……?」
老人がこちらを見た。
目が合う。
次の瞬間。
老人の表情が変わった。
驚愕。
恐怖。
絶望。
「まさか……」
老人は震える声で言った。
「君に見えているのか」
蓮の背筋が凍る。
「何がですか」
老人は立ち上がった。
周囲を見回す。
誰かに聞かれていないか確認するように。
「逃げろ」
「え?」
「もう始まっている」
「何が」
老人の顔から血の気が引いている。
まるで何かを思い出したかのように。
「観測者が君を見つけた」
その瞬間。
老人のスマホが鳴った。
通知音。
老人が画面を見る。
顔色がさらに悪くなる。
蓮も画面を覗き込んだ。
そこに表示されていたのは、
ログアウト実行
という文字だった。
「待ってください!」
蓮が叫ぶ。
だが老人は何も答えない。
膝から崩れ落ちた。
意識を失ったように動かない。
「おじいさん!」
肩を揺さぶる。
反応がない。
周囲がざわつき始める。
その時だった。
蓮のスマホが震えた。
新しい通知。
差出人は同じ。
ERROR.LOG_0001。
本文には、
たった一行だけ。
次はお前だ
蓮は震える指で画面を見つめた。
そして気付かなかった。
商店街の向かい側。
二階の窓。
暗い室内から、
あの白いパーカーの少女がこちらを見ていたことを。
自分で書いてて怖い
22時34分
今日は寝ようかな