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#4 実力発揮
如月の言葉にその場の全員が息を飲む。
実践出来なければ即刻処分______________
なんとも厳しい状況だ。
(息成擬忠…初めての無呼吸以外での発動だけど…桜舞はそもそも発動してるのか…?)
自分の心配より他人の心配が勝ってしまう。
誰にも比べものにならないくらいお人好しなのだ。
「戦う相手はこの通り」
一回戦目
神楽 対 桜舞
二回戦目
吐空 対 真迎
三回戦目
星流菜 対 狛李
「いざと言うときは俺が止める。お前ら生徒は相手から逃げろ。力には対抗出来ねぇからな」
______________
トップバッター。
最初の重要な役割だ。
始めをしっかりしなければ今後の訓練等に響いてしまう可能性がある。
バンッ。
試合の始まりを告げる鉄砲の音。
神楽と桜舞は即座に戦闘体制に入り、息成擬忠を発動する。
「息成擬忠…『変化祓い(シュリンダー・デット)』!」
「神楽昔から巫女好きだよね。息成擬忠『舞い散る枝垂れの歌舞伎』」
神楽は髪を大麻に、桜舞は姿を変える。
互いに似た能力なのかもしれない。
先制を仕掛けたのは神楽だ。
持ち前の運動神経で桜舞に攻撃していく。
しかし、全て避けられてしまう。
昔から一緒の彼にとって彼女の先制は見切っていたことだった。
「…『夜桜の襲撃・海舞』」
そう唱えると桜舞の後ろから鋭い花びらが無数に飛んでくる。
舞をする様に扇子を持ちながら華麗に避けていき、視界を塞ぐ様に上手く息成擬忠を使う。
距離を取れば桜舞の勝ちだった。
「勝たせるかっ…『世界樹の祈り、今神に捧げよう』」
一気に間合いを詰める。
一瞬でも隙を作ればいい。
懐に入れば勝ち筋が光立つのだ、「世界樹の祈り、今神に捧げよう」は少しの希望でも賭ける神楽にはぴったりなものだった。
勝ち筋があるかどうかを判別する能力。
光ればあり、何もなければ見込みなし。
そしてその判別は_______
「勝てる見込みありッ、_______!」
「もう畳み掛けるよ、『兆華舞の秘勝利』!」
一瞬で間合いを詰める。
桜を全て散らせる様に俊敏に動き桜舞の首元に大麻を当てる。
降参と言わんばかりに両手をあげ、持っていた扇子が崩れ落ちる。
疲れ果てた様に神楽は倒れ込み、慌てて桜舞がそれを支える。
「えっ、ちょ…ここは不味いって、神楽…起きて…」
「む、無理…疲れが一気に…」
「えー、なんだよそこデキてんのかよ」
「出来てねぇよ…おい、起きろって」
「運んでぇ~泣」
如月が教えた息を殺す以外の息成擬忠の発動法、それは…
「疲労代償にしたらここまでやばくなるとは思わんじゃん…運動できてもこれはしんどい…」
そう、何かを代償に呼吸を許し発動させる事。
代償はなんでも良い。感情でも疲労でも。
神楽は疲労を代償に、桜舞は無意識を代償に発動させたのだ。
「1日目にしては上出来さ。瀬凪、菱網準備しろー。桟土間、柊準備運動。豊臣、春咲観戦席向かえ。派手に荒らしやがって…流杏、直せ」
「御意」
どこから現れたのか、すっと姿を表し手を上に上げる。
すると散らばっていた瓦礫などが宙に浮き元の場所へと戻る。
抉れたあとは綺麗に消え、来た時の状態に戻った。
「…はぁ、弱そうな奴の相手をしてる暇なんざ僕はないんだけど?おいクソ教師、いつになったら卒業だよ」
威圧的にそう問いかける吐空。彼の信念はまだ誰にもわからないが、人一倍強いのがよくわかる。出会って一日目で鬼斬滅委員会会長の元娘である神楽に息成擬忠を使ってくるほどだ。相当な恨みを伴っているとしか思えないくらいによく扱えている。
投げられた質問に対して累徒は悩んだ。そんな質問は菱網が初めてだったからだ。もうすぐ卒業だね、などは元生徒たちとよく言い合ってはいたが入学して初日に聞く人は今回が初。だからどう回答するのが正当なのか如月累徒も一ノ瀬流杏もわからなかった。下手を言えばキレるからだろう。
「……実力がついてからじゃない?別に今の状態が悪いってわけじゃないんだけど、やっぱ希望する場所によっては前線に出るわけでしょ?なら心配されないくらいの実力を先生たちに見せて証明ができたら卒業じゃないの?神楽は何も知らないけど」
「それだとくっそ時間掛かるだろ。僕は早く卒業してお前の父親を殺したいんだよ。理由ぐらいわかるだろ?」
「はい〃行った行った。ま、豊臣の言うことも一理あるけどな。自分の身を自分1人で守れるようになったらお前らは卒業さ」
チッ、と舌打ちをすればそそくさと出て行く。回答を濁された怒りか、話を遮られた怒りか。そこは誰にも分からないが、足取りは先ほどより威圧感が増し、それを正々堂々と間に受けた真迎は怯んでいた。
さっきまでそこで激戦が行われていたとは思えないくらいに綺麗に直された訓練場に、真迎と吐空が降り立つ。
正反対の性格の2人が対面し、真剣な表情を浮かべる。片方は苛立ちのような、呆れのようなそんな雰囲気なのに対し、もう1人は怯えのような、緊張のような雰囲気を纏っていた。
両者が見合い、累徒が合図を出した瞬間、吐空が先制し攻撃を始めた。
「ひゃぁ.ᐟ.ᐣ」と真迎が避けたあと、空気が切れるような鋭い斬撃が直ったばかりの壁に跡をつけた。止まる気配もなく、本当に命を狙っているような勢いで何度も斬撃が飛んできてはそれをひたすら避けるだけのただの鬼ごっこになりかけていた。
「…はぁ、つまんね。ビビりが来る場所じゃねぇからここ。そんなに怖いなら地上にでも出て勝手に殺されとけばいいだろ」
吐空が苛つきのあまり吐いたその一言で逃げ惑っていた真迎が足を止めた。
幼い顔立ちが一直線に吐空を見つめ、口元が微かに震えているのが見てとれる。何か言おうとしても喉に言葉が引っかかり思うように出ない、そんな表情でただ真っ直ぐ見ていた。反論もない、そう感じ終いかけようとした瞬間、真迎が口を開いた。
「僕、は確かにずっと怯えてるし、気は弱いけど…でも吐空くんに馬鹿にされるほど弱い覚悟でここに来てない.ᐟ.ᐟ僕だってやる時はやるんだよ。でもすぐ行動に移せないから、だからそんな自分を変えたくて、少しでも誰かのためになれるような人になりたいって気持ちで来てる.ᐟそれも知らない人に、馬鹿にする権利はないから.ᐟ」
その言葉が響いた時、真迎は裁判官が法廷で叩く木槌、「ガベル」を手に持ち、振り上げた。
何気ないたった一つの行動で緊張が走り、余裕ぶっていた吐空が目を見開き冷や汗を流す。——————これはやばいかもしれない。そう本能が悟り、話しかけていた。神楽の霊気や桜舞の妖気、吐空の怒気とはまた違う空間そのものが裁判所になったような感覚が全員の肌に纏わりつき、観戦して居る側さえも発言が許されないような空気に悪寒とも取れるものを覚える。
真迎がゆっくり深呼吸し、顔を上げる。さっきの怯えは消え、今吐空の目の前にいるのは覚悟を決めた勇敢な少年そのものだった。
「菱網吐空。貴方を名誉毀損、及び侮辱罪、脅迫罪で権利侵害と判決し有罪であることを今ここで下す」
カコン、と乾いた音が響く。一見何も起こらぬように見えるがよく見れば吐空の動きが少し鈍くなっているのが分かる。
「は….ᐣ何だよ、これ…んな感覚俺しらねぇぞ、お前何した、何でこんな動き連れぇんだよ.ᐟ.ᐣ」
「僕の能力だよ。『即席裁判執行』、実際にある罪に当てはめて有罪判決を下す。罪の多さ、重さで代償が変わる。吐空くんには今三つの罪があって、行動制限、範囲制限、威力制限が設けられてる」
「チッ…そんな性格してながらにチート能力かよ、性に合ってねぇな。重要なものを制限されりゃ何も手出しできないし…降参。これ以上やっても墓穴を掘るだけだ」
終わりは虚しくあっさりとしたものだった。真迎が能力を解き、歩き出そうとした瞬間前のめりに倒れそうになったのを吐空が支え込む。さっきまで敵対し、煽り暴言を吐いていた少年が自分に勝った相手を支えるとは少し奇妙な光景だった。
観戦席にいた狛李が「青春.ᐟ.ᐣ青春ですかぁ~.ᐟ.ᐣ」と目を輝かせて言い、「うーん…まぁ部分的に見ればそうかもね」と神楽が返した。桜舞は感心したようにじっと見つめ、累徒は大袈裟に胸を抑えその場に蹲り、星流菜は興味なさそうに戦いの準備を始めた。
「ごめんねぇ…緊張を糧にしたら…こうなっちゃって…僕迷惑かけすぎだよね、吐空くん…」
「……別に。俺に勝ってんだから迷惑だとかネガティブ言ってねぇで正々堂々と威張ってろよ。病んでる暇あんなら少しでもなりたい自分に近付け。自分磨きしてんだろ、今のままじゃ意味ねぇぞ」
「….ᐟそうだよ、ね。僕正々堂々とする.ᐟでも今ちょっと足がすくんで歩けないから観戦席まで連れて行って…」
「は.ᐣあ゛ー…運び方に文句言うなよ」
「へ、.ᐣ」
膝裏を抱え、真迎を軽々しく持ち上げた。世間で言うお姫様抱っこである。
抱え上げられた真迎は顔を真っ赤にし、キャパを越えたのか沈殿して行った。それとは反対に吐空は何食わぬ顔で抱えた重みを感じているのか怪しいくらいに涼しい顔をして観戦席に戻っていた。
観戦席に入ってきた2人の状況を見て星流菜を除く4人が目を丸くして見つめていた。神楽は餌を待つ魚のように口をパクパクさせ、累徒はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ、桜舞はその場に固まり、狛李は興奮気味に黄色い悲鳴をあげていた。
試し読み 公開は ここまで です .ᐟ.ᐟ
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